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第1章
1-74・限外。よって誹る③
しおりを挟むそんな風に、少なくとも俺にとっては満ち足りた日々の中、愛しいあの子が二つになった頃、俺はごく自然に次を望んでいた。
だって、一人っきりじゃ寂しいじゃないか。兄弟はいた方がいいでしょう?
俺だって彼だって一人っ子ではなかったし。
「ねぇ、いい?」
いつだって夜毎に注がれる彼の魔力で、たっぷりと満ちている自分のお腹を擦って、そっとそう確かめたら、意図を察した彼は破顔して。
「もちろん。次はティーシャに似た子がいいなぁ」
なんて言いながらゆったりと俺を抱きしめてくれたので、
「まだ気が早いよ」
と、俺は彼の腕の中でくすくすと小さく笑みを漏らした。
そうやって抱え込んだ魔力で子供を成した。
愛しいあの子と同じよう、大切に育てていく予定だった。
彼と、二人で、大切に。
だけど。
幸せが、壊れるのなんて一瞬だ。
ずっと続いていくのだと信じて疑うことなどなかった幸福は、ある日突然に崩れ去った。
「誰?」
こちらに向けられた目は、まるで知らない誰かを見るかのようだった。
不快気に顰められる顔。
彼に、そんな目で見られことなんてない。
途端に怖くなる。不安になる。
どうしたの?
取りすがって、でも、
「ルーシーっ!」
名を呼んでも、彼は一向に応えてくれなくて
「ルーシーって誰だよ。お前は何なんだ」
そんなことまで言われて。
「あ、あの、俺、は、貴方の、妻、で……」
そう告げた俺の声は震えていた。
どうして。
わからない。
なぜ俺は彼にこんな目で見られているのだろう。
滲む視界を止められない。
ますます不快気に歪められる彼の顔。
何かあったわけではなかった。
何もなかった。
いつもと同じように情熱的に夜を過ごし、蕩けたまま眠りについた。
朝も、何も変わらなかったはず。
彼がついさっきのよう、こちらへと不審げな眼差しを向けてくるまでは。
「お前が? 俺の?」
あり得ない。
眼差しだけでそう告げて、ますますしかめられる顔。
その上、ついには。
「あり得ないだろう」
言葉でまで否定される。
俺にはそれ以上堪えられなかった。しかも、更に、彼の視線がすっと下がって、その先にあったのは……――。
俺は堪えきれなかった。
「ぁ、ぁああっ、誰かっ……誰か来てっ! ルーシーがっ!! ルーシーがっ!」
混乱のまま取り乱す俺の声に、すぐに人が集まってくる。
俺は瞬く間に彼と引き離され、そして……――それっきり。
愕然とした俺に追い打ちをかけるかのように、気付いた時にはもうすでに、大切に育てていたはずの子に成りはじめていた魔力は、俺のお腹の中からとっくに霧散して、もう再度子供として育て続けることなんて出来ない状態となっていた。
目が覚める。
一人きり。
もう、朝も遅い時間だからなのだろう。ルスフォルは俺を起こさず、今朝は執務に向かったらしい。
「ぁっ、は、はは……あはは……はは。はははははっ……」
今しがたまで見ていた夢を思い出して、俺は笑った。
笑うことしかできなかった。
ああ、なんて愚かなんだろうか。
いつまでもあんな夢ばかり見て。過去を忘れられない俺。
滑稽でおかしくて。同時に、目尻から流れ落ちた涙を、俺は止める術を持たなかった。
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