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第弐話
2-6・時間
しおりを挟むキョウさんが俺の部屋にいる。
なんだかそれだけでも不思議な感じがした。
俺はキョウさんの向かい側に座って自分の分の紅茶を飲んだ。砂糖もミルクも入れていない。出がらしゆえか安っぽくはあったが、とりあえず紅茶の味はしていた。それ以上など正直な話、興味もない。
喫茶店に勤めているのになんだが、それとこれとは別の問題なので。
「さっきレンゲさぁー、出かけようとしてたでしょ?」
一口、紅茶で唇を湿らせてから、キョウさんがおもむろに口を開いた。
言い当てられてどうしてだろうか、と疑問に思う。それがそのまま顔に出ていたのだろう、俺を見てキョウさんが笑った。
「なんでわかったのかって思ってる? わかるよ、そりゃ。だってばっちり出かける準備してたじゃん。いや、帰ってきてまだそのまんまだったって可能性もあるか。あれ? じゃあ出かけようとしてなかった?」
自分で言っておいて、何故、疑問を持つのだろうか。
「いや、出かけようとしてましたけど」
だが確かに、キョウさんを出迎えた俺の格好だけが根拠なのだったら、その二択だと、どちらか判別がつかないということには頷ける。
「あは、やっぱりー? よかった! いや、よくないわ。ダメだよ、レンゲ。こんな時間に外に出ようとしたら」
「こんな時間?」
さっき時計を見た時には夕方の六時だった。それほど遅くはない。
改めて時計を見る。
時計の針は、午後十時半を指そうとしていた。
「え?」
ゆっくりと一度、目を閉じて、再度、ゆっくりと時計を見た。
どれだけ見つめても、時計は午後十時半を指している。
思わず振り返った窓の外は、すでにとっぷりと日も暮れて、どこからどう見ても真っ暗だった。
「なん……で……」
喉が干上がったようにかすれた声が出た。
わけがわからない。
俺はいつも通り、夕方、つまり17時になる前に喫茶店を出て、スーパーにすら寄らずにまっすぐ帰ってきて、家の近くまで来た時、キョウさんに声をかけられて、珍しいな、と思った。
否、こんなことは初めてだった。
でもそれだけ。
家について冷蔵庫を確かめて、時計を見たらまだ18時、つまり6時だったからやっぱりスーパーに行こうと思って、それで。
それで玄関まで出たところでちょうどキョウさんが訪ねてきたのだ。
これもやっぱりはじめてだった。
そして今である。
キョウさんを部屋に通して、紅茶を入れただけだ。
そんなに時間など経っているはずがない。
なのに時計は22時半で。
「どうかした? レンゲ」
俺があまりにおかしな様子だったからだろうか。キョウさんが心配そうに声をかけてきた。
その声に我に返った俺は、ばっとキョウさんへと振り返り、勢い込んで口を開く。
「き、キョウさん! 今、何時ですか?!」
「何時って……今、自分でも時計見てたじゃん。夜の十時半だよ。だから私は、もう遅いし出掛けるのはやめておいた方がいいって、そう、」
「ですよね……」
俺はキョウさんの言葉を最後まで聞かず呟いて、信じられない気持ちで俯いた。
いったい何がどうなっているのか。
時計を確認して、18時だった時にもあれ? と思ったのに、こんなの、それどころじゃない。
「レンゲ?」
キョウさんから心配そうに声をかけられても、俺はしばらくの間、何の返事も出来なかった。
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