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第弐話
2-11・安堵
しおりを挟む初めて見るその扉は、階段からこの部屋に入ってくる時にくぐるそれと全く同じものだった。
シンプルな木目調の扉である。
ぐると周りを見回した。
此処に来る度に目にしている、事務机と応接セット。それぞれがどれもありきたりな特徴のないもの。この部屋の壁は白い漆喰塗りで、下の喫茶店部分とは印象が違う。
飾り気は何もなく、色味は扉ぐらい。
だからそこだけ木目調の扉はひどく目立っていて、なぜ今まで気付かなかったのが不思議でならない。
しかも扉のある位置は、事務机の更に奥なのだ。そちらを向くだけで嫌でも目に入る。
だけど。
俺はドアベルにさえ、気付かなかったのだ。そういうこともある
のだろう。
「あは。見えたみたいだね」
よかった!
言いながらキョウさんが扉へ向かった。
扉横にあったスイッチで、バチンと照明をつけたらしく、開ける端から光が漏れる。
「ほら、見て、レンゲ!」
指し示された室内は狭かった。入って右側、横向きに置かれたベッドが、部屋の7割を占めている。でも。
正面に小さな炊事スペースと、小さめの冷蔵庫。
冷蔵庫の上にはレンジがあり、左手に扉が二つ。
キョウさんが先に立って扉を開けると片方がトイレで片方はシャワーブースだった。
炊事スペースの向かい側、ベッドの手前にやはり小さくはあれど洗濯機まであり、住むために必要なものが全て詰まっていた。
ベッドの向こうには窓まである。
狭いということにだけ目を瞑れば、暮らすのになんら問題のない部屋だ。
「キョウさん、ここっ、」
「どう? 暮らせるでしょ?」
彼女の方へ向き直れば、キョウさんが得意げに胸を張っていた。
「はい! 問題ありません」
少なくとも、元のアパートにあのまま居続けるよりずっといい。
今まで扉そのものさえ見えなかった部屋ではあれど、下は職場である喫茶店。
キョウさんが安全だと言い切るのだ、これ以上の立地はない。
「んじゃ、今日はもう寝支度して寝ちゃいな。もう遅いよ」
示された壁には時計がかかっていて、針はそろそろ23時半を指そうとしていた。
アパートからここまでと、ここへ着いてからお茶を飲んでいたことを思えば、特に不自然でもない時間の経過だ。
それに俺はほっとする。
「はい、そうします」
素直に頷く俺に、キョウさんは満足そうに頷いて。
「じゃ、また明日ね。あ、下は戸締りしとくから、もう降りて来なくていいからね」
そう言いおいて階段を降りていった。
そう言えば今日は夕食を摂っていないけれど、今これからなんて到底そんな気分にはならず、キョウさんが言うように、シャワーだけ浴びて寝てしまうことにする。
不思議とお腹も空いていなかった。
ベッドに入るとどうしてか嗅ぎ慣れた匂いに包まれて、俺は安らかに、夢の世界へと旅経っていった。
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