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15・今更だけど
しおりを挟むそもそもの話。
根本的なことになるのだが、私はあくまでもここ、アズエイス王国の王太子である、ルーミス殿下の婚約者であり、隣国であるオシュニル王国の王太子で、ただの留学生でしかなりキューミオ殿下に、わけのわからない言いがかりに近い糾弾をされるような立場にはなかった。
と、言うよりも、これまで習ってきた貴族教育や王族教育から照らし合わせても、キューミオ殿下の態度がこそ、どう控えめに捕らえても非常識である。
ただ、それでもオシュニル王国の王族であり、国賓とも言える立場にいらっしゃるのは間違いないことなので、こちらから無作法なことも出来ないと、何も言わずにいるだけで。
何より、多くの場合、私のそばにはルーミス殿下がいて、ルーミス殿下が不快をあらわにしているというのも大きかった。
そして、私の態度やそういったものに対する、好悪についての意見であるということも。
また、学校内でのことであることも踏まえ、私もわざわざ逐一両親やあるいは将来の舅、姑となる国王陛下や王妃殿下に報告したりもしていないのだけれども、キューミオ殿下の言動は、そういった立場などを照らし合わせると、国に対して抗議したって、おかしくないことばかりなのである。
否、もしかしたら私の知らないところで、すでにそういった話が伝わっているかもしれないほど。なにせ、
(ルーミス殿下は幾度となく不快だと、はっきり口に出しておられたものね……)
いかに必要最低限のことしか誰かに話したりなどしないルーミス殿下と言えど、それらを両親に報告していないとも思えず、なら、オシュニル王国側はいったいどういうつもりなのかと、私はそのうちに、そんな心配までするようになっていた。
可愛げがないだとかなんだとか。
理解しずらい糾弾を、気にしていないと言えば嘘になる。
だがその反面、大事にするようなことでもないと私は思っていた。
人の好みなどそれぞれだ。
どうやら私はキューミオ殿下に、なんだかひどく嫌われているようだけれども、それがいったい何だというのだろう。
(私がどんな人間なのか、だとか……)
そんなことは、本来ならキューミオ殿下には関係のない話なのだ。
もちろん、隣国の王族、特に次期国王たる王太子と、我が国の王太子の婚約者、つまり将来的には王妃の立場に着く関係というのは、全く関わり合いにならずに済むようなものではなく、友好的であればあるほどいいだろう立場であるのは確かではあった。
あくまでも外交だとか、そういった意味で、である。
だが、それにしても。
学生生活が過ぎれば過ぎるほど、あまりに謂れのないことばかり言われ続ける物だから、私はだんだんと疲れ始めてきている部分があった。
「ラーファ嬢! 貴方は本当に……なぜいつまでもそのような態度なのだっ! もう少しとるべき態度というものがあるだろうっ!」
こんな風にまた、理解しづらいことを言われても。
加えて、隣に侍っている女生徒が、こちらに向けて何故か勝ち誇ったような眼差しをしてきているのもよくわからない。
私はいつも通り返答に窮し、ただいつも通りの微笑みを崩さずにいるだけで精一杯で、そして。
「いい加減にしろっ! 不愉快だと言っているだろうっ!」
と、怒りをあらわにしたルーミス殿下がどこかへ行ってしまうのもいつも通り。
「おい、ちょっと待てよ! お前の婚約者だろう?! いいのかっ?!」
なんて、付きまとうかのよう、キューミオ殿下がその後を追っていくのも。
私はやはりいつも通り、ただ彼らを変わらないままの微笑みで見送るばかり。
「……とは言え、もうじき学生生活も終わりますしね……」
ついうっかり、そんな風に呟いた言葉は、殿下方には届かなかったようだった。
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