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しおりを挟む「すみません、この子の親になって下さい」
突然、背後からそんな声をかけられたのは、俺が特に意味もなく、街をぶらついていた時だった。
そもそも背後に誰かが居るのは声をかけられる前からわかっていた。
何故なら馴染みのない魔力の気配を感じていたからだ。
だが、元よりここは街中。
いくらその魔力が平民より多く貴族だろうとは思っても、そんな人間、いくらでも近くを歩いている。
だからこちらへと近づいてくる気配など全く何も気にも止めていなくて。
ただ、真後ろからそんな風に声をかけられたら、咄嗟に、まさか自分に向かってだとは思わずとも、気になって振り返るというものだろう。
なにせ背後の気配がおそらくは子供だろう、もう一つの気配を抱えていることもわかってはいたし、多分その子供の手かどこかと思われる一部が俺に触れていたし。あまりに近い、そうも思ったのである。
「え?」
振り返る。
振り返った先、思っていたより近くに全く初めて見る男の顔があって仰け反った。
しかし、先程の言葉はまさか俺に向けてだったのだろうか。
声の主らしき人影は、この目の前の男以外にいない。
男は、ちょっとばかり人より小柄な俺からすると、どうも見上げるほど大きいようだった。
熊か何かのような逞しさだ。
その立派な体格を小さく丸め、腕に、生まれておそらくは2か月か3ヶ月ほどだと思われる赤ん坊を抱え、腰を折って俺をのぞき込んできていたのである。
驚いた。
そりゃあもう、物凄く驚いた。
驚いて男の顔をまじまじと見る。
堀が深い、だけならこの国では取り立てて珍しくもない顔の特徴となるが、太く逞しい眉に、筋のはっきりした勇ましい首。鼻は高く唇が分厚い。
人によっては暑苦しいというかもしれないほど男臭い容貌。
だが、間違いなくイケメンというやつだ。
なんと言っても、他のパーツも全て大きいので相対的にバランスが取れているものの、目はおそらく大きいと思うし、睫毛も長く、顔の造作、目鼻の配置そのものは整っているのではないか、そう感じる。
鮮やかな緑の髪は、魔力の多さをうかがわせた。
間違いなく貴族。瞳の色ははっきりとした琥珀色だ。
この色味の鮮やかさもまた、魔力の多い証。
どきりとした。
別に魔力に惹かれたわけではない。
有体に言うとそう、見た目が物凄く好みだったのである。
かっこいい。
見惚れるようにそう思って、だから俺は……――。
「ですから、この子の親に。なって頂けませんか」
そんな男が、今一度、改めて口を開いて繰り返したそんな言葉に、気付けばコクリ、頷いていたのだった。
「は、い……俺でよければ……」
そんな風、この男、声までかっこいいな、そう思いながら。
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