結婚10年目で今更旦那に惚れたので国出したら何故か他国の王太子に求婚された件。~星の夢2~

愛早さくら

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1・きっかけと要因

1-3・6年前の話。捕まえて、(ミスティ視点)

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 昼間に見る塔の中は、夜とは全然違っている。
 いつも映し出されている異界の夜空などはなく、其処には滑らかに仕上げられた白い漆喰の壁があるばかりだった。
 仕掛けられている魔術の関係上窓もなく、空気の漏れる隙間ぐらいなら存在しているはずなのだが、それさえ一見してわからない。ただただ白に囲まれただけの空間。
 光源も見当たらないのに何故か部屋全体が仄白ほのじろく光を放っている。多分、これも魔術なのだろう。漆喰そのものに何かしかけているのかもしれないが、詳しくはティアリィも、またミスティもわからなかった。
 逃げ場のないこんな場所に駆け込んだティアリィを追って部屋に入ったミスティは、振り返らないティアリィを後ろから抱きしめる。
 慣れた体温。結婚してから。否、その一年前から幾度も触れた細い肢体。恋しくて恋しくて触れずにはいられなかった最愛だ。ティアリィに触れられるようになった後では、その前の十四年を、どうやって耐えていたのかわからないほど。
 そんな相手が逃げたのだ。追うだろう、当たり前にとミスティは思う。

「ティアリィ」

 真っ赤に染まった耳朶を食んだ。どうしてか。ミスティにとって彼は、匂いも肌も全部が甘い。ティアリィは身を縮めている。だが、その体は強張っているわけではなく、ミスティを拒絶しているようには見えなかった。むしろ逆に。
 ティアリィが、唇を噛みしめて、堪えきれない様子で振り返る。透き通った水色の瞳は潤んで、柔く、水の膜を張っている。今にも零れ落ちそうな清い雫。ミスティはそれにどうしても舌を伸ばしたい衝動に駆られて、逆らわずにそうした。
 ぺろり。ティアリィのこぼすものなら涙さえ甘く感じる。ティアリィが情けなく顔を歪めた。

「ミス、ティ……殿下……」

 最近では、というか、婚姻式の日からめっきり聞かなくなっていた敬称が、久方ぶりに彼の唇から零れ落ちる。消え入りそうな小ささで、儚く。

「? 今更、またそう呼ぶの? ティーア」

 ティアリィを、更に略した愛称をミスティが会えて口に乗せると、ティアリィはもごもごと口を動かして、居た堪れないとばかりに顔を伏せる。
 銀の睫毛が濃く、頬に影を落とした。
 赤く染まった頬とのコントラストが、なんだか妙に色っぽく、ミスティの下肢が熱に昂る。迸りそうな欲が、口からさえ漏れ出そうだった。
 ミスティは信じられない思いでティアリィを見ている。
 ミスティはティアリィが好きだ。心底惚れているし、愛している。5歳で初めて会ってから、ずっと。そこから14年。耐えに耐えて、好意を、彼に漏らさず耐えて、ついには5年前。触れることが許される状況となると同時に手折った。最後まで全部、彼の体の奥の奥にまで触りつくした。堪えきれない欲が促す衝動のまま、彼を愛して、体を穿って。ミスティ自身の欲を突き立てた。深く、ティアリィの腹の中、体の奥の奥まで。迸るまま熱を注いで、魔力も注いで。そうして一つに溶けあう充福感は、ミスティに得も言えぬ幸福感をももたらし、だが、ミスティを拒絶せず、受けれたはずのティアリィからは同じ熱は返っては来なくて。どうしようもない飢餓も同時にミスティに植え付けたのだった。
 それはほんのつい最近。ミスティが出国するまで、確かに続いていたことで。なのに。

「ティア、リィ……?」

 どうしたことだろうか。今、ミスティを見る、ティアリィの眼差しに宿る熱は何?
 逃げて、逃げて、こんなところまで駆けて。今も、目を逸らしている俯いた赤い顔。そこから漂う色気と雰囲気が。どうしてか今はミスティを求めていた。
 今まで幾度も、慣れるほど触れた細い肢体が、今、まったく別の物に感じられた。ようやく、自分の元に落ちてきた。ようやく、今、彼は進んで自分のものになってくれている。そんな感慨がもたらす多幸感。
 体が熱い。
 ああ、ティアリィ。
 ミスティは彼を抱きしめる腕に力を籠めた。昂った下肢を押し付けると、気付いたティアリィが腕の中、びくと怯えたように体を震わせる。

「ぁっ……、う……ぅう……」

 だが、何も言葉が出ないようで、恥ずかしそうに控えめにミスティにしがみついた。
 臥せられた顔、耳まで赤く染めたその様子がどうしようもなく可愛い。
 それは、まったく、このかわいい生き物をいったいどうしてくれようかと、ミスティを途方に暮れさせるほどだった。

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