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1・きっかけと要因
1-15・青天の霹靂(ミスティ視点)
しおりを挟むミスティは、ティアリィがピオラをひどく心配していたことを知っていた。
だから無事出立したことを報告しなければと思ったのだ。
ぐずったコルティに付いていて、見送りに立ち会えなかったのだから余計にと。
まずはコルティの元へ急いだ。だがそこにいたのは泣き疲れて眠ってしまったらしいコルティの寝顔と、彼女に付いていたらしい女官のみ。ティアリィの姿はなく、ならばと次は彼の執務室へ向かった。
魔術師塔に足を延ばしている可能性もあったが、今の時間なら執務室だろうとそう判断して。
時折、投げかけられる、すれ違う侍従や文官のもの言いたげな視線にも気づかぬままに。
辿り着いた執務室は閑散としていた。
ティアリィの姿はない。
それどころか、まるで主が長く不在になるのを示唆するがごとく物が減っていて、全てがきちんと整頓されている。
元々ティアリィは散らかす癖など持っていないので、いつもきれいに整えられてはいるのだが、今の様子はそれでは説明がつかないほどには何もなかった。
書類の一枚も、執務机に乗っていないのだ。
ぞっと、嫌な予感が背筋を這い上がっていく。
「ティア、リィ……?」
震える声で彼の名を呼んでみる。当たり前だが、応える声はなかった。
どれだけ部屋を見回しても、侍女や侍従の一人として存在していなかった。
得も言われぬ焦りが、ミスティを支配していく。せ、せめて何か……と、自分が何を求めているのかもわからぬまま、執務机に足を向けた。引き出しはおそらく施錠されていて開けられないだろう。だけど。
と、近づいてみてはじめて、書類の一枚もないと思っていた机の上に、しかし書類というには小さすぎる紙片がぴらり、乗っていることに気付いた。
ティアリィが好んで使っている凝った意匠の文鎮の下に差し挟まれている。一見する程度では気付かない程に小さい。二つ折りになったそれに、ミスティは導かれるようにして手を伸ばした。
知らず震え始めた指で紙を取り、かさ、中を開く。
果たして、そこにあったのは見慣れた流麗な筆跡。癖の少ない手本のようなティアリィの文字だ。書かれていたのは。
『ミスティへ
今のままではあまりにひどいので、少し落ち着く為にも俺たちは少し距離を置いた方がいいと決めました。
ちょうど、ピオラも心配だったし、ちょっとあの子について国を出ることにします。
護衛は増やしたので心配しないで。
絶対に追ってこないでくださいね!
俺がいない分の公務も、頑張って!
あ……愛して、います……
あなたのティアリィより』
そんな、短い文面で。
ミスティの手がわなわなと震えを大きくする。
「ティ、ティアリィ?!」
次いでミスティの喉から迸ったのは、初めて出すような叫び声だった。
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