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2・旅程と提案
2-18・会いたい、だから②(ミスティ視点)
しおりを挟むティアリィ。
なんとも言えない感情をミスティを支配する。何を、思えばいいのか。久しぶりに姿が見れた。ずっと焦がれていた存在。苦く、目を伏せるミスティを見兼ねたのだろう、あちゃーと気まずげな顔をしていたアーディがはぁと深く溜め息を吐いた。
「追いかけちゃダメですよ、父様」
そうしてわざわざ釘を刺される。剰え、
「そもそも、追おうにも場所わかんないでしょ」
なんて、当たり前のことまで伝えてきた。
ミスティはつい、恨みがましくアーディを見た。
「君が教えてくれたら済む話だけどね」
どうせアーディは知っているのだ。
「時期があるんだってずっと言ってるじゃないですか。現に今、逃げたのがその証拠です。母様はまだ父様に会う気になんてなっていません」
それはミスティにも痛いほどよくわかった。
手紙では愛を囁いてくれる。其処に嘘がないことだけは確かなはずなのに、ティアリィはまだ、ミスティに会う気持ちになれないでいるようなのだ。
だけどもう、数週間。随分と長い間、ティアリィに会えておらず、ミスティは彼に会いたくて会いたくて堪らなかった。
会って、近くで。あの愛しい存在に触れたい。なのにアーディはまだ駄目だと言う。
不満を隠そうともしない、らしくないミスティの姿に、アーディはまた一つ溜め息を落とす。
「どうせそろそろ向こうに着きますよ。そしたらすぐにポータルも設置するだろうし、それで場所の問題はなくなるでしょ。その先は流石に僕だって、父様を止められるだなんて思っていません。母様にも、それは初めから伝えています。だから、もうしばらくの辛抱なんです」
もうしばらく。確かに、予定通りならあと数日と言った所だった。
でも。
「会いたい……」
あんな風に人目でも見てしまうと、余計に気持ちが募った。
アーディが流石に気の毒そうな顔でミスティを見てくる。そんな顔をするのならぜひ、ティアリィに会わせて欲しかった。
そんなミスティの気持ちが伝わったのか、アーディが幾度目かもわからない溜め息と共に口を開く。
「とにかく、会うのはまだ駄目です。じゃないと母様、帰ってこなくなりますよ。でも」
「アーディ?」
アーディの言葉に含まれた意図に気付く。会うのは駄目。では、他なら?
「見るのは、いいんじゃないですか。母様に気付かれないようになら。もうバレたんだし、今更でしょ」
アーディの言葉は、沈み込んでいたミスティにとっては、まるで光明のように輝いている風に思えた。
ぱっと、途端、顔を明るくしたミスティに、アーディは苦り切った顔で続ける。
「母様、ずっと、ほとんど毎日帰ってきてますからね。ていうか、母様一人なら転移が使えるんだし、ずっと行きっぱなしなわけないでしょ。コルティもいるのに。今まで父様がそれに気付いてなかったことの方が、僕には驚きなんですよ。でも気付いたんならもう、見るぐらいいいんじゃないですか」
アーディの口調はまるで吐き捨てるがごとくで、内容も聞き捨てならないものばかり。だが、同時に今後は見るのはいいのではないかという。それがいかにティアリィが戻ってきている可能性に気付いてしまったミスティの暴走を抑えるための苦肉の策なのだとしても。これまで頑なで釣れないばかりだった息子のまぎれもない譲歩に、ミスティは心が浮き立つような気がしていた。
ああ、見るだけ。見るだけなら、勿論足りない。でも、これまではそれさえも叶わなかったことを思うと、これからはほとんど毎日、ティアリィの顔が見られる、今はもう、それだけで。
「ただし、本当にくれぐれも、見るだけですからね。触っちゃダメですよ。と、言うか、会うのもダメです、見るだけです。もうじき向こうに着いてしまうし、着いてしまえば、父様にももうバレたし、コルティを連れて行きっぱなしってのも出来るんですからね」
先程ああして逃げはしたが、今はまだそこまでは考えていないはずだとアーディは言った。
ティアリィが頻繁にこの王宮まで帰ってきているのは、あくまでも子供たちの為で、特にコルティは長期間ティアリィなしでなどいられないだろうからなのだそうだ。
さもありなん。確かにその通りだ。ミスティが、今まで気付かなかった方がおかしい。そもそも、あのティアリィが子供を蔑ろにするわけなどなかったのだ。
それもこれも皆、ミスティに気付かれないように、かつ、子供達にもできるだけ寂しい思いをさせないようにという配慮だったのだろう。寂しい思いをするだろう子供がコルティぐらいしかいないのはともかく。流石にコルティがずっといないとミスティだって気付く。そもそも長い旅程にコルティは連れて行けず、其処を考慮しての頻繁に転移で戻ってくるなどという行動だったのだろうとも思った。
確かにアーディの言うとおり、此処で誤るとミスティは今度こそ長くティアリィを、見ることさえ叶わなくなってしまう。少なくともティアリィ自身の中で何らかの気持ちの整理がつくまでは。
それはいったいいつになるのか。予想もつかないそんな長期間、これ以上のティアリィ不足などミスティには耐えられる気が全くせず、仕方なしに見るだけだと念を押すアーディの言葉にしっかりと頷いた。
アーディがそこでやっと、ほっと小さく息を吐く。
見るだけ。
それさえ叶わなかったこれまでを思うと、たったそれだけのことだって、今のミスティにはこの上ない僥倖に他ならないのだった。
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