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4・初めての国内視察
4-30・見つめ直すこと⑪
しおりを挟む旅の初めに少し話した時には、名前で呼んでいたのに。そう言えばその時は敬語でもなかっただろうか。
そんなことまで思い出す。
ならば今、改めて口調を正しているのは、この度の中でアルフェスもまた、何か思う所があったのかもしれなかった。
あるいは今、ティアリィに現状を思い出させるためだけにそうしたのだろうか。
判断つきかねてだけどティアリィは少し笑った。
「アルフェスに……そう呼ばれるのは、なんだか違和感があるね」
陛下。
それは呼ばれ慣れた敬称であるはずなのに。
ティアリィは同時にいまだ、その敬称が象徴するミスティの伴侶であるという立場そのものを受け入れ切れていないところがあるのかもしれない自分を自覚せずにはいられなかった。
今更。
そんなこと、今更な話なのに。
どうしてなのだろうか。
どうして。
アルフェスからあえて目を逸らす。
青い海。
白い陽射し。
だけど暑いというほどではない。
この辺りは海に面していながら、夏もあまり気温が上がらない地域で。だからこそこの季節は過ごしやすいばかりだった。
胸いっぱいに満ちる潮の香り。
「何があったのかは……アルフェスは聞いているのかな?」
アルフェスはいったいどこまでの事情を把握しているのだろうか。
そう問いかけてはじめて、そんなことさえ確認していなかった自分に気付く。
ルーファはある程度を理解しているように思えたから、アルフェスのことまで気にかけてさえいなかった。
自分の薄情っぷりがいっそ滑稽だ。
否、これは幼なじみゆえの甘えなのだろうか。
「……ミスチアーテ陛下と、少しすれ違っておられるということぐらいは」
知っているのはそれぐらいで、詳しい事情までは把握していないとアルフェスがそう告げる。
ティアリィは頷いた。
「うん。そう。簡単に言えばその通りでね。ちょっと、辛くなってしまって。見かねたアーディが、いったん距離を取った方がいいと」
だから物理的に離れられるよう、これまでしたことがなかった国内視察などを行うこととなった。
まだたった10歳の子供に、気苦労ばかりかけている。
アルフェスは難しい顔をして、言葉を探しているようだった。
だけど結局上手い言葉など見つからなかったのか、ついには躊躇いがちに口を開く。
「何が……辛かったのか、お聞きしても?」
アルフェスにはおそらく自分が、ある意味では話し相手として求められているのだろう自覚があったのだと思われた。
だからおずおずとでもそう聞いた。
ティアリィはそんなアルフェスからの問いかけに笑みを深くして。
「なん、だろう……もしかしたらそれを、確認したかったのかもしれない」
そんな風に呟いた。
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