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しおりを挟む母は、いわゆる旧家だとか名家だとか言われるような家の出で、幼い頃から茶道を嗜んでいたのだと言う。
今では取れる最高位の免状を取得し、何人かの生徒を受け持って、稽古を付けている。
俺自身も幼少期から習っていて、いくつかの免状は頂いていた。
それもあり、和装そのものには馴染みがあると言っていいだろう。けれど浴衣となると少しばかり違っていて、着付けがわからないというわけでもないのだが、着慣れているとまでは行かなかった。
おかげで出がけに母に少しばかり手直しされてしまったのだがそれはともかく。
夏祭りの日、あまり前のように迎えに来た和凪に、この日初めて袖を通した、新しい浴衣姿を披露する。
深い、青みの強い紺地に、裾の方には桔梗の花があしらわれた、ともすれば少しばかり女性的にも見える柄の浴衣だった。
母曰く、
「貴方、髪色も目も明るい色をしてるから、暗めの色じゃないと締まらないのよねぇ」
とのこと、浴衣とは逆に、薄色の角帯は、無難に貝ノ口に結んである。
和凪は、流石に浴衣などは来ておらず、涼しげな薄手の、生成りのシャツを羽織っている。濃いベージュのズボンの丈が、しっかりくるぶし付近まで辺りが彼らしい。暑いだろうに、ハーフ丈などのものは履かないようだった。
そんな和凪は、浴衣姿の俺を見て、一瞬目を見開いて驚いて、次いで、やんわりと目を細めた。
「よく似合ってる」
純粋な称賛の言葉に、何故だか耳の辺りが熱い。
「き、気合入り過ぎ、とか思ってるんだろ」
滑り出た言葉は照れ隠しだったのだけれど、
「なんで? 夏祭りだし、いいんじゃないか? それより、俺も浴衣、着て来ればよかったな」
なんて、不思議そうに首を傾げ、そう続けられると、気にしている自分が馬鹿馬鹿しくなってくる。
「浴衣、持ってるのか?」
着て来ればよかった、と言うことは、と、訊ねると、返ってきた答えは、
「ああ。母さんがそう言うの好きで、毎年仕立てるんだ。でも着ない年の方が多い」
と、言うような物で、もったいないけど機会がないとの言葉に、そんなものなのかと曖昧に頷いた。
今日も着てこようか少し迷ったのだと言う。
「利悠がそう言うの着るんだったら、来年は俺も着ようかな」
呟く和凪になんとなく、そうか、来年も一緒に行くつもりなのか、とじわと思った。
和凪が当たり前に、一年後もつるんでいるつもりでいるらしいことがうかがえ、ざわと高鳴った胸はいったい何だったのだろうか。
自分でも自分の感情を捕らえきれないまま、それでも不快ではないことだけが確かだった。
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