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11・関係
しおりを挟む俺はそんな男を鼻で笑う。
「はっ。お前の言う責任は、俺に無理やり魔力を注ぐことなのか? それのどこが責任なんだ。しかも、その責任とやらと権限は、全く関係のない話だろ」
バカも休み休み言え。
言い放つ俺の声が自然尖った。
サーラは俺の言葉に何も言わない。ただ黙って、俺とロディスのやり取りを窺っている。
今、俺は余計なことまで口にしてしまった気がするが、同時に構うものかと何処かやけになったような気持ちにもなっていた。
あるいはサーラに、知っておいて欲しかったのかもしれない。
俺とロディスが今現在、実際にどのような仲であるのかを。別に彼女としては上司同士の赤裸々な私生活など、全く知りたくはなかっただろうけれど。
サーラはロディスの方へと視線を向けていなかった。おそらく敢えてそうしているのだろう。
「関係なくなんかない。子供が出来たんだぞ? お前は私の所へ嫁いでくるんだ。仕事も出来るだけ早く辞めてもらう」
あまりな言い草に、頭にかっと血が上った。
「勝手なことばっかり言うな! お前の元へ嫁ぐ? 仕事を辞める? いったい何処からそんな話になったっ! お前と俺で、なんでそんな話が出てくるんだよっ!」
わけがわからない。激昂する俺にロディスは不機嫌そうな顔を隠しもしない。
「あまり興奮するな、子供に触る」
子供。その二文字だけで、この激情をいったいどう収めればいいのかわからなかった。その上、
「リティ。可憐な顔が台無しだぞ」
「可憐って言うなっ!!」
俺が何より嫌っている表現で、俺の容姿について述べたのだ。
「いけませんっ、隊長っ!」
そのまま、ロディスに向けて攻撃魔法を仕掛けそうになった俺を、辛うじてサーラの声が止めた。
すっと少しだけ冷静になる。
ああ、そうだ、そうだった、ここは俺の執務室だ。こんな所でロディスに攻撃なんてして、部屋がめちゃくちゃになっては困る。
必要な書類などもあるのだ、もしそれらに被害が出れば、復元には時間がかかることだろう。勿論、魔術で出来なくはないのだけれど、まだ俺が目を通していない書類だったりしたならば、少しばかり手間がかかることはわかっていた。
だが、それではますます怒りなど収まるわけがない。
「出ていけ」
俺はせめてとロディスを睨みつけた。
当然、もちろん、ロディスの言うことなど、何一つとして聞くつもりなんてない。
今日仕事を休むことも、嫁ぐだとかなんだとかについても、仕事を辞めることについてもだ。
「リティ……」
そこで初めてロディスから、どこか動揺したような気配が感じられた。
いったい何に動揺しているのか。
俺の怒りの大きさなのか。
「お前が、此処へ来たのは……仕事の話をしに来た、というわけでは、ないんだろう? だったら、早く戻って、お前はお前の仕事をするといい。いつも通り、俺になど構わずに」
「だが、それではお前が、」
「お前には関係がない」
「リティっ、」
「お前とっ!」
出来るだけ冷静にと努めて言葉を吐き出した。何か話しかけてこようとするロディスの声を、一つ一つ遮っていく。
お前と。
「お前と、俺は。そんな中じゃないだろう? 今まで、ろくに関係なんてなかったじゃないか」
なにせ顔を合わせればほとんど必ずと言っていいほどいい争いに発展するのだ。
お互いに避け合っていると言ってもよかった。
少なくとも俺はそう思っていた。
「リティ……」
馬鹿の一つ覚えみたいに、俺の名前ばかり呼ぶロディスの声が、珍しく弱ったように力を失っていた。
はは、ざまぁみろ。
今、俺はわけもわからず、ひどく凶暴な気持ちになっている。
今すぐに、この男を。どうにかして無茶苦茶にしてやりたい気分だった。だけどすぐに、どうでもいいか、思い直す。
どうでもいい。この男のことなんて、どうでも。
だって俺とこの男の間には、どんな関係だってありはしないのだ。
少なくとも、嫁ぐとか何とかいう言葉が出てくるような関係でなど決してない。
「俺はお前の所になんて、絶対に嫁がない」
それだけはと言い切った。仕事も勿論やめないけど。
「だが、それは、」
「しばらくその面、俺の前に見せるな。早く出ていけっ!」
怒り狂った俺に、それでも食い下がろうとしたロディスは、流石に見兼ねたサーラによって早々に部屋を追い出されたのだった。
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