78 / 82
補足その他ちょっとだけ続きとか
x-5・愛の言珠⑤
しおりを挟む俺の質問に、アンリセア嬢は涙に濡れた紺色の瞳をぱちり、驚いたように瞬かせた。
「え、ロディス様の好きな所、ですか?」
いきなり何を、と言わんばかりの様子に俺は頷く。
こんな話を彼女に聞くのはきっと良くはない、それはわかるのだけれど、だからと言って他に聞けそうな人も思い浮かばなくて。
ロディスは別にモテないわけじゃない。
なにせ見た目がいい。
男らしく、かっこいい、そう言い切っていいだろう。
魔力量だって、次期伯爵と考えれば十分なぐらいには多く、魔術士団では隊長職までになっている。
少しばかり無表情で無口ではあるけれど、全く話さないわけでもないし、正確だって悪くはない。
勿論、人それぞれ好みはあるだろうけれど、人によっては理想的な男性だと見えることだろう。
現に学生時代から今まで、ひっそりとロディスに見惚れていると思わしき女性や、たまに男性までも数えきれないぐらいに見かけてきた。
だからモテないわけじゃないはずなのだ。
しかしその反面、明確にロディスに好意を抱いている知り合いを、俺は彼女以外に知らなかった。
まさかただ見惚れていたというだけの見ず知らずの者に話しかけるわけにもいかず、なら、こんなことを聞ける相手など、彼女いないにいないのだ。
ロディスの部下になる第二部隊の隊員は、当たり前だが、慕ってはいてもそれだけ、それ以上の感情を抱いていそうな隊員など全くいるように思えないし、俺の部下となる第三部隊の隊員に至っては、むしろロディスを嫌っているものまでいる有様で。
本当に彼女以外にいなかったのである。
「えぇっと、そのぉ……」
彼女は泣き止んではいたが、頬を真っ赤に染めて、物凄く言いづらそうに言い淀んでいた。
こんな様子も可愛いなぁ、思いながら、俺はただひたすら彼女の言葉を待つ。
そのまましばらく、一歩も引かない、と言わんばかりの真剣な俺の様子に、ついには諦めたのだろう彼女は、ようやく躊躇いがちに口を開いた。
「……ロディス様は、私を意識していらっしゃいません」
まず初めにそう告げて、アンリセア嬢は少しだけ寂しそうに小さく微笑んだ。
「リティ様はご存じかと思いますが、私はその、なんていうか……小さい頃から、涙腺がとても弱くて。そんなつもりはないんですけど、すぐに泣いてしまって」
感情の制御が難しいのだと彼女は言う。
俺が認識している通りの彼女の性質とでも言えばいいのか、ただの今までの事実だった。
「泣くと皆さん、いろいろと気を回して下さるんです。とてもありがたいんですけど、私、それが心苦しくて。なら泣かなければいいとお思いになるかもしれませんけど、自分ではどうにもできなくて。これでもいろいろと試してみたりはしたんですよ? でも、どうにもならなかった」
彼女曰く彼女なりに、自分のすぐに感情が高ぶってしまう性質をどうにかしようとはしてきたらしい。だが、実を結ぶことはなく。
「ロディス様の、一番初めに好きになったのはあの見目です。なにせ一目惚れですから。小さい時に一目見て、私はロディス様を好きになりました。リティ様にもご無理を言いましたよね、近づかないで、なんて」
ふふ。
私はそのようなことを言えるような立場ではないのに。
そう続けた彼女は微笑みながら、だけど何かを懐かしむような、あるいは痛みに耐えるかのような顔をしていた。
これではまた、泣きだしてしまうのではないか、一瞬思ったが、そんなことはなく、彼女は話を続けていく。
俺はただ、精々が時折相槌を打つぐらいで、口を挟まず、ただ彼女の話の続きを待った。
48
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟第10回BL小説大賞(2022年)奨励賞。2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞での応援ありがとうございました!
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
ハヤブサ将軍は身代わりオメガを真摯に愛す
兎騎かなで
BL
言葉足らずな強面アルファ×不憫属性のオメガ……子爵家のニコルは将来子爵を継ぐ予定でいた。だが性別検査でオメガと判明。
優秀なアルファの妹に当主の座を追われ、異形将軍である鳥人の元へ嫁がされることに。
恐れながら領に着くと、将軍は花嫁が別人と知った上で「ここにいてくれ」と言い出し……?
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる