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141・初めての夜会⑲
しおりを挟むまず俺が思ったことなど、本当にこの人は何を言っているのだろうか。と、疑問に思った、それに尽きる。
誤魔化しようもなければひと目でわかる、どう考えても膨大な魔力を持っている象徴のような俺の髪と目の色を、偽っていると言っただろうか。
何処にも偽っている場合特有の不自然さのようなものなどないと思うのだけれども。
髪の色や目の色を偽ることは、出来るか出来ないかで言えばできなくはなかった。だがそれらの色素の淡さが魔力の多さとほぼ比例する特性上、違和感なく装えるのは精々が自分の持つ色を濃くする場合ぐらいで、逆に髪の色を薄くするなどの場合は、ひと目でわかるぐらいに違和感を覚える物だった。
どういえばいいのか。違う、と視覚から訴えかけられるような心地となるのである。それは色味を変えた場合も同じ。それでもより濃い色へならまだ違和感は少なくて済んだ。
つまり、貴族が平民を装うなどは可能だが、その逆は難しいということだ。
勿論、俺の髪も目も生まれつきのもの。装ったことなどお忍びで街へ繰り出した数回程度の経験のみ。俺が今、髪や目の色を偽っていないことなど、一目でわかることだろう。
にもかかわらず、この男は偽者だと断言した。
ラルの言うとおり、本当に目も悪いらしい。
ラルの笑顔がますます恐ろしいものになっている。
俺はどうしたものかとしばし悩んだ。
先程の女性、あるいはこの男のこれまでの話しぶりや、先日、この王宮に来た際の様子も踏まえて、俺についての事実無根な噂話が、このアンセニース大王国の社交界で広まっているのは間違いようもない事実。広めたのはほぼ確実にコリデュアの王妃だろう。
だからこそ信頼に足るとでも思われたのか、それとも王妃の言葉の真偽も併せて、ただの面白そうな話題の一つでしかないのか。
おそらくは多くの者にとって後者のはずだ。
それならそれで、特に問題とはならない。彼らもどうせ暇つぶし程度にしかとらえないのだから、噂に踊らされ過ぎるということもないだろう。
問題は前者。つまりそもそもこの噂の真偽さえ見極められない、あるいは見極めるつもりもない者達がこそ陛下曰くの不要な無能だという話。
この男は先ほどから随分と俺の存在を罵ってくれているのだが、本当に目がおかしいだろうとしか思えない。
俺は今、何も自分を偽ったりしていないのだから、こうして対峙してわからないはずなんてないというのに。
現に先程の女性は一目見て自らのこれまでの見方を撤回した。
反してこの男にそんな様子は微塵もない。剰えこれほどまでみっともなく騒ぎ立てるだなんて。
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