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142・初めての夜会⑳
男自身だって、少なくとも貴族として恥ずかしくない程度には魔力を擁しているように見えるのに。探査能力は壊滅的に低いのかもしれない。あるいは視野が狭すぎて思い込みが激しすぎるのか。
全部かな。
どうすればいいのかと迷ってちらとラルを見上げると、ラルの顔に浮かんでいるのは、相変わらず恐ろしい笑顔。
ゾクっと背筋が震え、あまり話しかけたくないなと思った。でも。
「ラル……」
控えめに名を呼ぶ。
こちらに敵意むき出して吐き捨てられた男の言葉になど、もちろん、当たり前に反応を返したりなどしない。
否、先程驚きに目を瞬いてはしまったのだが、それはそれ。言葉を返すなどあり得なかった。
だからこそどうすればいいだろうかと相談の意味をこめて名を呼んだのである。
ラルは俺の視線と呼び掛けに、今度は情けなさそうに、大変に申し訳なさそうに顔をしかめた。
「ああ、フィリス、不快な思いをさせてしまいましたね。どうやらこの会場には、目も耳も不自由な無資格者が紛れ込んでいたようです」
そうして俺に気づかわしげな声をかけてきて、どうやらこれ以上、この目の前で憤ったままの男とは、会話を交わすことさえやめることにしたようだった。
「いや、それは、いいんだけど……」
別に不快にもなってはいない。ただ、どうすればいいかなぁと思ってはいる。やはりここはラルに倣って無視だろうか。むしろそれ以外にはないような気もした。
「よくありませんよ。とりあえずこうして参加はしたのですから、義務は果たしたと言えるでしょう。これ以上貴方をこのようなゴミの目の前に晒しておくわけにもいきません。来たばかりで残念ですが、今日はこのままお暇した方が良さそうですね」
ラルが本当に気遣わしげにそう告げて、男に構わず踵を返そうとする。
「おい! なんだその態度はっ、待ちたまえっ! おいっ!」
本当にそのまま会場を出てしまいそうなラルの様子に、男が怒りも露わに呼び止めてきた。
だが、当然ラルはそんな男の声になど妨げられることもなく。
「陛下にご挨拶も出来ませんでしたが、会場におかしなものが紛れ込んでいたが故なのですから、きっと陛下にもご理解頂けるでしょう。ましてやあなたは今、大切な身なのですから、無理はいけませんしね。さぁ」
俺はにっこりとやはり怖いままのラルの笑顔に、逆らわずに大人しく、本当にそのまま、会場を後にすることになったのだった。
何しに来たんだろ? これ。
そう疑問に思わずにはいられない、アンセニースで過ごすようになって初めての夜会での出来事だった。
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