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第3章
3-10・今度こそ
しおりを挟むああ。
行ってしまった。
宣言通りだ。彼らはリティアを取り戻した。
今は亡き国の最後の子。彼ら精霊の愛し子を。
よかった、と、そう思う。
よかった。
これでもうリティアは誰にも害されることはない。
彼らはきっとこれまで以上に、リティアを慈しみ守るだろう。
そもそもあそこから連れ出した、それこそが間違いだったのだ。
「は、はは」
ペクディオは笑った。今日は笑ってばかりだ。
そして振り返る。
「陛下……」
戸惑うばかりの重臣たちの顔。
今となってはもう、何も信じられない者たち。
「見ていただろう、お前たち。彼女は彼の地へと戻っていったよ。きっと彼らはもう二度と、彼女を外へは出さないだろう。私だってもう二度と、あの子を連れ出すつもりはない」
そんなペクディオの宣言に、幾人かがほっとした顔をする。
魔女は去った。
なんだかよくわからないが、もう脅威はこの国からなくなったのだと。
ならばきっとペクディオも戻るはず。
「陛下」
そんな希望を持ってペクディオを見た重臣たちは、しかしそこにあった穏やかな表情に、なんだかひどく恐ろしい予感を感じた。
なんだろう、この顔は。
脅威は去った。きっと洗脳は解けた。だからだろう。だが、先程の会話は。
彼の精霊だか魔女だかわからない少女へと、ペクディオが言っていたことは。
ペクディオはとても穏やかに微笑んでいて。そして。
「では、私も行くよ。あの子を追わなければ。きっと容易には合わせてももらえないだろう。だがいいんだ。いくらでも待つ、どんなことでもする。あの子をあそこから連れ出した、それが初めから間違いだったんだ。あの子を求めたのなら、連れ去るべきではなかった。私が行けばよかったんだ。あの場所へと。私が通えばよかった。もう迷わない、間違えない」
そう告げて、迷いなく歩き出す。向かう先は竜舎だ。ペクディオの駆る竜がいる。
「へ、陛下っ?!」
「何をおっしゃって……」
「陛下っ!」
こんなはずではなかった。
ペクディオの背を見ざるを得なかった文官は戸惑っていた。
あの娘へと告げた言葉は本心だ。
『お前に洗脳された陛下などこの国には要らぬ』
そうは告げても、まさか本当にペクディオが、この国からいなくなってしまうなんて。そんなこと望んでも思ってもいなかったのである。
だが。
「陛下っ!」
追いすがる誰の声にも、ペクディオは振り返らず。止めようとする誰の手にも捕まらず。
竜舎へとたどり着いたペクディオは竜を駆り、そのままいずこかへと飛び去って行ったのだった。
否、何処へかなどと知れている。向かう先はきっと、あの少女がいるだろう、精霊の島なのだ。
それっきり。
待てど暮らせどもう二度と。ペクディオは戻ってこなかった。
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