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21・嵐の中心のような少女。⑩

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 なるほど、と小さく頷く。
 そうであるならば全く簡単な話だ。
 この世界では時折、いわゆる前世の記憶を持って生まれる者や、突然、それらを思い出したりする者がいる。
 時に、覚醒者、などと呼ばれることもある彼らは、しばしば、この世界を小説や漫画、あるいはゲームなどの創作物の世界であると主張することがあった。
 曰く、前世で見聞きしたというのである。
 なぜ、そのようなことになるのかまでは、私には知る由もないのだが、そういった者がそれなりに存在していることだけは確かで。
 そして私はそうではなく。殿下やラーセもおそらく違うことだろう。
 とは言え、今後はわからないのだけれど。
 なにせ、前世の記憶を思い出す、だとか言う事象に法則性はなく、身分や立場、年齢なども関係なく、誰であっても突然見舞われる可能性のある突発性の避けようのない病気のようなもので。この世界ではそういうものだと受け入れられていた。
 そして彼ら、彼女らはしばしば記憶の混乱などの記憶障害を負うことがあった。
 なんでも、前世のことの方を強く覚えていたり認識したりしていて、これまでこの世界で生きてきたことを忘れてしまうのだそうだ。
 勿論、それらの多くは混乱しているだけなので、次第に思い出してくるらしいのだが。
 つまり、病気と言えば病気と言えるのだろう。
 きっと彼女はよくわかっていないのだ。
 いくらよく似て思えても、この世界がマンガやゲーム、小説などの創作物の世界ではないということを。

「同じような主張をする者がいたというのは、これまでも聞いているけれども……」

 実際、これまで在学中に前世の記憶を思い出した、というものは存在している。
 だけど、ここまで問題が起きたことなどない。
 戸惑う者などは何人かいて、その為の対応などは調べれば出てくるだろうと思われた。

「彼女がヒロインだと主張する、そのお話はいったいどういったものなのかしらね」

 ヒロインというからには、彼女自身が主人公なのだろう。
 執拗に殿下へと近づいて来ようとしているところを見るに、そのヒロインとやらの、例えば恋のお相手だとかが殿下なのだろうか。
 これまでにいわゆる覚醒者などについて習った際に知った、彼ら彼女らの話す内容の傾向からして、きっと大きく間違っていないことだろうと思われた。
 特にヒロインなどと自称して、学園で何か行動を起こす者の場合、王族や高位貴族を求める場合が多いとも聞いている。
 殿下は王太子であり、彼女とも同じ年。
 きっと、彼女の望む相手なのだろう。
 ……――実際はどうあれ、少なくとも彼女の中では。
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