2 / 63
00-1・幼き邂逅
しおりを挟むあれは幾つの時のことだっただろうか。
幼年学校に入るより前の時。
5つか6つかぐらいの頃だったように思う。
その日は幾人もの子供が王城に呼ばれていた。
僕よりずっと小さい子から、10を超えているように見える子まで。
まさか貴族の子供全てというわけでもなく、男の子だとか女の子だとかの性別も関係がなく。身分も、さまざまであったように思う。
僕のように子爵家の者だとか、アレリディア嬢のように侯爵家のご令嬢だとか。
否、アレリディア嬢はいなかったはずだ。
あの場にいたのは、そう、確か……確か。
当然のことながら、ティネ殿下はいらっしゃった。
そして……――陛下も。
僕は元々決して闊達な子供でなどない。
大人しいと言えば良いのか、人見知りでもあったと思う。
その実、ただ単に、事なかれ主義なだけだ。
何かを懸命に主張するような気力がなかった。
同時に、どうしても譲れないと思うような何かもなく。
それは今も変わらない。
要するにその場にいた子供たちに、僕は臆してしまったのである。
近づきたくないな、とまで思って、それで。
王城は流石に、庭などまで大変に美しい。
今とまた違った様子だったように思うが、とにかく、はじめて見る綺麗な草花に、子供たちがたくさんいる場所にいたくなかった僕は、誘われるように一人、歩き出してしまったのである。
瑞々しい緑と、鮮やかな色とりどりの花と。
それらに見惚れながら、自分がいったいどこへ向かっているのかもわからず歩いて、歩いて、歩いて、そして――……迷ってしまったのは当然のことだっただろう。
気が付くと僕は広い庭の一角、背の低い庭木の影に、座り込んでしまっていた。
その時の心情までは、よく覚えていないけど、多分、流石に心細くなってしまったのではないかと思う。
覚えているのは、泣いていた僕自身。そんな僕にかけられた優しい声。
「おい、どうしたぁ、1人か?」
導かれるように、顔を上げた僕の目の前にいたのは、にかっと笑う、明るい表情の、僕より10は年上だろうか、青年になりかけといった年頃の一人の少年だった。
まるでぱぁっと世界が光り輝くよう。
そんな風に感じたのをよく覚えている。
「ああ、お前……――の候補か。なるほど、今日だったな。迷ったのか? ほら、来いよ」
何事か小さく頷いて、言いながら伸ばされた手を、僕は縋るように受け入れた。
「っ、――、……殿下っ、いけません、そのような……」
「ははは。構うものか。こんなに小さいんだぞ? 何があるって言うんだ。それに、もしかしたらこの子が……――、……」
「ですが、それはまだ……、――」
「いい、いい、気にするな。兄上には俺から言っておく。それでいいだろ」
従者なのか護衛なのか。もしかしたらお目付け役とか、そんなものだったのかもしれない。
そういった役割に見える人と、少年は何か話していたけれど、何を言っていたのか、僕にはよくわからなかった。
ただ、僕に分かったのは力強い腕と眩しい笑顔。
時折僕の方にも話しかけてくれる少年が眩しくて眩しくて。
ドキドキと、どうしてだか高鳴った胸と、ずっとこうして、抱き上げていて欲しい、そう思ったことをよく覚えている。
紫色の宝石みたいな瞳が、キラキラと輝いていて。僕はうっとりと見惚れてしまった。
もっともっと近くで眺め続けていたい。
そんな風にまで思ったものだから、子供たちの集まっている場所まで連れて来られ、腕から降ろされた時には、せっかく止まった涙が、また零れ落ちてしまいそうにさえなったのだけれど。
その後、どうしたのだったか。
その集まりのかかりか何かだったのだろう、従者だか侍女だかに促され、他の子供たちの輪へと戻されて。ひどく心細い思いで、その日を過ごしたのだった気がする。
紫の瞳の、眩しい少年が、後に急逝した国王陛下の弟君で、王太子殿下の成人まで、中継ぎの国王となられると知ったのは、陛下ご自身が即位なさった時。
すでに僕が王太子殿下の婚約者へと、疾うに決まった後のことだった。
88
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません
月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない?
☆表紙絵
AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる