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09・変化①
しおりを挟むはぁと、僕は深く、知らず溜め息を吐いていた。
僕が名目上だけでも王妃となって、ひと月と少し。
そう、まだ二ヶ月も経っていないのだ。
お披露目を兼ねた婚姻式は、これから後更に二ヶ月ほどは先の予定だった。だけど。
「そう悲観なさるほどのことでもないと思いますが。むしろ私達としては、日中お時間を取られることが減ってむしろ良かったのではないかとすら思いますよ」
特に何の感慨も見せず、いっそ冷たくと言っていいほどの様子で言い放ったのはデオだった。
僕の補佐をしてくれている文官の一人だ。
いつも僕の執務室で人払いをしない限り、仕事に従事してくれているのは、ヨーヌとの二人で、今もこの場にいるヨーヌも、同じ意見だとばかりに小さく頷いている。
「そうですよ、今までの方がおかしかったんですから。いくら新婚とは言え……」
それどころかしんなりと眉を寄せた様子からは、僕への気遣いが感じられて、なんだか申し訳なくも思えてしまった。
「そう、かなぁ……」
それでも僕は気にせずにはいられない。
何の話なのかというとつまり、あれほど頻繁であった、リア様の訪いが減っているという話なのだった。
とは言え、勿論、夜毎寝所は共にしているし、それ自体に変化はない。
そうではなくて変わったのは日中の話。
数日前まではずっと、それこそ時間にかかわらず、リア様の訪れがあったのである。
そこで行われていたのは決まって、昼日中から致すには到底似つかわしくない行為で。
爛れている、と僕自身、思ってはいた。
思ってはいたけれど、でも、求められたなら求められただけ、受け入れなければならないと聞いていたし、リア様にも何か理由がおありになるのだろうと思っていて、それになにより。
(嫌なわけでは、なかったから……)
リア様と体を交わすことは、それは大変気恥ずかしかったし、疲労を感じなかったと言えば嘘になる。
だけど決して嫌ではなかった。
いっそ求められていることそのものに喜びさえ感じていた。
ただ、その度に部屋を出ざるを得なかったデオやヨーヌは、当然のよう、何も感じていなかったわけではなかったということなのだろう。
数日前、ちょうど僕が王妃となってから一月ほど経った頃からぱたりと、日中訪れることのなくなったリア様を気にして、僕が吐いた溜め息を咎めるように、あるいは慰めるように先程のようなことを言ってきたのだから。
実際の所、ご事情が変わられたのだとしたら、それは決して悪いことではないと思う。でももし、万が一。
「僕が、何か粗相でもしていたとしたら……」
しんなりと眉尻を下げる僕に、二人はぱたと顔を見合わせて。そうして今度は二人の方が溜め息を一つ。
「お二人の……その、閨のことについてなどは、我々はわかりませんけど……」
「もし、妃殿下に理由があるのだとしたら、もっと早くに距離が開くことになっていたのではございませんか? そもそも、お食事などは変わらず共に摂られておられるようですし、夜に遠ざけられたりしているわけでもないのでしょう?」
「少なくとも我々のわかる範囲で、妃殿下が粗相をなさっておられるなど想像も出来ませんが」
不可解だと言わんばかりに、口々に言い募る。
そこまで言われては僕も頑なにぐずぐずとしているわけにもいかない。
「だったら、いいんだけど……」
僕としては何もかも、理由が全くわからなかった。
そもそも、リア様ご自身、本意ではなさそうでいらしたのはわかっているのだ。
ならばやはりご事情が変わられただけなのだろうと思い直す。
「それにもとより、あの頻度で陛下においでになられては全く仕事になりませんからね。これで少しは妃殿下に、お仕事をお伝えできるというものです」
そこまで言い捨てるようなデオに、僕は苦笑を返すより他なかった。
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