ヴァーチャル・ラブ ~いつもあなたを好きでした。~

楠瀬 飛鳥

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本編

二人だけの場所、二人だけの世界

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今日は、会社に行く前に自分自身の病院へ行った。
病院を出て、会社へ向かう電車の中でふと思った。
今日は、土曜日だ、どうりで車内の様子が違う。家族連れやカップルが多いことに気付く。学校帰りの学生も沢山乗っている。ほのぼのとした光景だ。

そして、ある男女に目が止まった。何か真剣な話をしている訳でもない、かといって笑い話で盛り上がっている訳でもない。ただ、二人は、お互いを見て笑みを浮かべ小声で囁き合っている。きっと、出会って間もない二人なのだろう。そう思った。そう思った瞬間に、唯のことを思い浮かべている自分がいた。

唯と知り合って、2ヶ月が経った。長いようで短い2ヶ月だった。今でも毎日メール交換をしている。今までの
僕であれば、考えられないことだ。

『唯は今頃、仕事をしているのだろうか?それとも休暇でゆったりと過ごしているのだろうか?』
この二人のように僕と唯がもし、逢ったとしたら、顔を見合わせて笑みを浮かべるのであろうか?

そんなことを考えている内に、唯のことで頭がいっぱいになった。唯に逢ってみたい。唯の表情をこの目で確かめたい。

そう思うだけで胸がいっぱいになった。

思い続けると手すりを掴んでいた手に急に体重がのしかかってくる。
苦しくなった胸を庇うように身体が歪むのだ。そんな状態のまま僕は、乗り換えの駅に到着した。このまま事務所へいく気分でないことは確かであった。

―――――事務所に入ると一気に仕事が舞い込んでくる。仕事以外のことを考える隙間もないくらいだ。畳み込むように溢れ出す仕事に一息付いたのは、もう夜の7:30。急に昼間、考えていた唯のことを思い出した。

一度、考えはじめると唯が次から次へと溢れ出してきそうだ。もう、支えられないと思った。
飽和状態を遥かに超えて、一人になった事務所いっぱいにその空気が漂っている。

唯にメールを打とう。

今の気持ちを伝えるために。予告のメールを打った。
勿論、何も知らない唯から『?』の返事が返ってくる。

『もう我慢できない!』
とうとう僕は、ずっと躊躇し続けてきたメールを心のままに一気に書き上げた。

“真面目な話。”
こんなタイトルしか浮かばない。

“確かなことは言えないんだけど、来週の月曜日の夜、仕事が終わってから大阪へ行こうかと考えています。もちろんホテルも予約して、、。来週平日の仕事次第だけど、努力して時間を作ろうと思う。時間は、自分で作るものだし、、、。そこで、唯に聞きたいんだ?本当に僕に逢う気ってある?それと、来週の月・火曜日に僕と逢う時間って作れる?この機会を逃したら、5月になると思うし、母の体調が安定している良いタイミングなんだよ。勝手なことを言っているのは解ってる。嫌われるのを覚悟で投げ掛けています。絶対に無理な返事は、しないで欲しい。永遠を望むなら、このままでいた方がいいのかもしれないし、、、。ただ、月日が経てば経つほど、僕自身の動ける選択が狭くなるような気がしているし、今の僕と唯の気持ちを大切にしたいとも思っています。唯が時期早尚と判断するのであれば、ちゃんと伝えて下さい。その返事を聞いたからといって、唯への気持ちに変化が起こる訳ではないし、、、。僕も一応大人だし、、、。”

自分自身への賭けでもあった。

YESであっても、NOであっても。すぐに『来週』が『再来週』の間違いであったことに気付き、訂正するも唯からの返事は返って来ない。メールを見ていない訳ではないような実感はしていた。

それよりも唯は、このメールを見て悩んでいるのだ。

返答にではなく、理由に、、、、、。そんな気がした。やっと、返事がくる。

『私の答えはNOです』

予想通りの返答だった。がしかし、NOなのに嫌な気は全然しなかった。それよりも理由が知りたかった。メールをスクロールしていく手が焦りで上手く運ばない。

“私、言わなかったけど、ずーと 悩んでたことが、二つあるの。一つは、転勤の話。もし転勤がなくなったら、どうなるんだろうって! 今は、こんな状況だから、我慢できてると
思うんだけど、 もし転勤がなくなったら、もっと遠距離恋愛になったら、我慢できるんだろうかって、、、。どうでもいい相手なら、、。来週は、私、仕事だから、逢えても夜中から朝まで、そんなのいや!それなら、逢わないほうが我慢できる。これは、私のわがままなんだよ!やっぱり私、少ない時間じゃ、寂しいよ!電話であれだけ話しても、切りたくない
のに逢ったりしたら、我慢できない!
あと一つは、逢うのが恐い、、、。前の大阪の子のことが頭にあるの、、、。だから、逢ってがっかりされて、しかも短い時間で実際の私のこともわからないだろうし、、、、。だから、このまま逢わないほうがいいのかも って考えたりもしたりね。こんなにしたのも修なんだよ!修!修にとって、私の存在が支障をきたすようなら、私は…だから、、、。”

絶句した。『こんなにも僕のことを考えていてくれる。』
早く、唯に今の気持ちを伝えたい、そう思った時には、もう指が動いていた。

“唯の気持ちは、理解しました。僕も逢うの怖いんだよ。でもいつかは、必ず逢うんだぞ!それと『唯の存在が僕の支障になる訳ないだろ!』ばかやろー!そんなことをまた書いたら、二度とメールしないからな!(^^)こんな想いで、人を好きになったのは初めてだ!唯の言葉を借りるなら、『こんな僕にしたのは、唯のせいだからな!』唯が愛しい、好きだよ。いつまでも、今のままの唯でいろよ。遠距離になったとしても、僕はずっと唯を想っている。この世でやっと逢えた唯だもん!他には、いない唯だから、、、。もっと遠い遠距離を想像させてごめんな!苦しませた唯を想ったら、目頭が熱くなってきた。本当にごめんな、、、。今は、これ以上書けない。また、後でメールするよ。”

涙ながらにメールしたのも初めてだった。

唯を寂しさの谷に落としてしまったような気持ちでいっぱいだ。
小さな身体を屈めて、震えるような想いで唯がメールを書いてきているようで、、、。
僕は、なんてことをしてしまったんだろう。こんなにも僕のことを想い悩んでいる。
そんな大切な奴を、、、。唯が自信を持ってくれるまで、逢う話は、二度としないと決意した。相手を苦しめることがこんなにも自分にも跳ね返ってくるとは、、、。兎のように震えている唯を今すぐにでも、抱き上げてこの腕に抱き締めたい。溢れるほどの高鳴りが全身を稲妻のように走った。唯、唯、唯、、、。いくら呼んでも届くはずのない名前を何度も呼んでみた。

いつでも、寂しい時には、手をとれる場所に僕はいるんだよ。そんな僕の気持ちが届いたのか、唯からまたメールが届く。

“胸が熱くなりました。修のやさしさ改めて感じています。こんな泣き虫にしたのも修なんだ、、、。修、好きなんだよ。どうしようもなく!”

また、胸が苦しくなるようなメールだった。唯、、、。こうやって、素直な気持ちをぶつけ合って二人は絆を深めていくのだろうかと想った。

街中をよそ行き顔で歩く恋人達もそうなんだろうか?
二人しか知らない世界があるのだとしたら、こういう心の絆を深めていく世界なのだろうとも想った。友達とは、決してあり得ない、求め合う恋人達だけが経験する世界、、、。
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