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8 視察
しおりを挟む昨日から、一体何が起こっているというのだろうか
朝、皇帝陛下であるイーサンの部屋へスケジュール確認に伺ったエラは、今
その皇帝と2人で市場へ来ていた
しかも、お互い平民の格好をして。
「やはり君はどんな服装でも美しいな」
「っ…恐れ入ります…」
陛下は、とても浮いていますね…
とは言えなかったエラ
この国では珍しいシルバーブロンドの髪を輝かせ、
肌ツヤの良い高身長美青年が平民の装いをしていれば
嫌でも目立ってしまう。
「では、行こうかエラ」
右手を差し出すイーサン
「…?陛下…?」
「手を繋ぎたいのだが」
「へぁ?」
突然の申し出に間抜けな声が出てしまったエラ
「嫌だろうか…?」
子犬のようにエラを覗き込むイーサン
その目に弱いエラはグッと堪え…
「…失礼致します」
左手を重ねる
満足そうなイーサンと、
恥ずかしさや嬉しさ、思いっきり頭を撫でたい庇護欲を静かに爆発させているエラは
町の市場へ向かった。
「思ったより、随分と栄えているな」
「そうですね」
町は活気に溢れ、民は楽しそうに働いていた。
「今日は南の国からの果物が入ったよー!買ってってー!」
「おうそこの綺麗なマダム!これ似合うと思うよ~おひとつどうだい!」
「きゃはは!まってよー!」
貧富の差がない国は大陸でも片手で足りるほどしかない
こんなに人々が笑顔で過ごせているのは、横にいるこの人が尽力したおかげだろう。
「さて、エラ。何か欲しいものはないか?」
「はい?」
「せっかく来たんだから、何か記念に買ってやりたいんだ」
「視察、では…」
イーサンを見上げるエラ
先程のいたずらっ子のような笑顔をエラに向けるイーサン
「ひっかかったな」
「?」
「視察ももちろんだが、今日の1番の目的は
君とのデートだ」
「デー…っ!??」
どうりで一向に手を離してくれないわけだ…
「君を振り向かせると言っただろう?」
エラに顔を近づけるイーサン
「っ」
「だから、今日は楽しもう」
専属騎士として護ると誓い、鍛錬を積んできた
屈強な盗賊達も1人で制圧した
この国で私よりも強いのは団長くらいしかいないと自負しているが、
私はこの人に敵わない気がしてきた。
「随分歩いたなぁ」
「陛下、お疲れですか?でしたら…」
座れる場所を探し、近くのベンチに行こうとするエラの手をグッと握るイーサン
「陛下…?」
「まだ、一緒にいてくれ」
「へ…あ、帰ろうとした訳では…」
「え?」
「あちらのベンチで、休もうと思って…」
「っ!!あ、あぁ…ありがとう、行こうか」
耳まで真っ赤にし、恥ずかしさで俯きながら顔を片手で隠そうとするイーサン
またもグッと堪えるエラ
「陛下は…魔性ですね」
聞こえないほど小さな声で己を制する。
街灯が色付き始めた町を見つめ、ベンチに腰かける2人
ゆったりとした時を過ごしていたが、
突然イーサンが口を開く。
「明日、公爵令嬢が城にやって来る」
「え…」
「どうしても1度会ってくれと。
父の昔馴染みである公爵からの申し出で、断れなかった」
数え切れないほどの縁談が届いているイーサンにとっては
どうと言うことも無い面会なのだろう。
「…そんなに眉間に皺を寄せては、可愛い顔が台無しだぞ」
エラを覗き込む
無意識に眉間に皺を寄せ、拳にも力が入っていたエラ
「ふっ…その反応は、嫉妬してくれていると捉えても良いだろうか?」
「っ…お好きに捉えてください」
エラの可愛気のない照れ隠しを愛おしそうに見つめる
穏やかな時間が過ぎ、日が暮れる前に城へ戻った
2人のデートは幕を閉じた。
エラは1人、嫌な予感に胸を抑え、
イーサンの月明かりに照らされる横顔を目に焼き付けていた…
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