ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくのかんがえたあかうんと

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 目の前に、得体のしれない何かがあった。
 彼はそれらを知っていたが、同時に知らなかった。知らなかったが、それらを見ると同時に全てを理解し、全てを受け入れることさえできた。

 ここはどこだろう。

 彼の中に沸いた疑問は、すぐに回答が導き出された。
 神が支配する場所。その中心部。
 見えている、いや理解できたそれは、世界のありとあらゆる情報だ。

 なぜここにいるのだろう。

 続けて沸いた疑問にも、すぐに回答が導き出された。
 彼は死んだのだ。だから魂がここに召喚された。生まれつき得た能力のせいではなく、不慮の事故とも言える滅茶苦茶な偶然によって。その理由も理解はしたが、……正直彼には意味がわからなかった。いや、理解はしても、それがどうしてよりによって彼だったのか、というのを言葉で自分にわからせることができなかった。
 理解したのは、彼に隕石が衝突したという事実と、それが人間の能力によって行われたものだということだけだ。

 じゃあ、もう消えるだけなのか。

 さらに続けて沸いた疑問にも、すぐに回答が導き出された。
 答えは否。彼の死はあまりにも不自然で、あまりにも理不尽なものだった。
 たった16年弱の人生を、彼はあっさりと終えてしまったのだ。

 消えないのならば、ずっとここにいないといけないのか。

 回答。答えは否。
 すぐに彼は別の場所へ送られる。
 16年間彼とともにあった現実世界ではないが、ある意味現実だったもの。

 それはどこか。

 最後に彼が見たものと、回答とが交錯した。
 それと同時に理解に導かれる。

――New World Online、その世界へ。
 神が過去に作り出した、ゲームの世界へ。

 あれは神が作ったものだったのか。

 理解していても聞かずにはいられないその問いへの回答は、是。
 あの世界は、神が、数の桁さえ理解できないほどに創った数多なる世界のうちの1つ。
 彼がツールと呼んでいるそれは、本来人間の手にあるべきものではないものだが、生まれた時から彼の手にあったそれは、もはや彼が神の力を得ていると言ってしまっても過言ではないほどに馴染んでしまっており、回収は不可と断定するため、回収は可能だが回収はしない。

 不可なのか可能なのかはっきりしてほしいな。

 彼は思わず苦笑する。苦笑するだけの余裕ができたと喜ぶべきか、こんな状況でそんな余裕を持つべきなのかと己を恥じるべきなのかはわからないが。

 いつ、その世界へ旅立つことになるのか。

 回答。時間で言えば、――……時間くらいだが、それを伝える意味はない。
 何故なら、彼はまだキャラクターを作成すらしていないのだから。

 じゃあそのキャラクターを作成すれば、世界へ旅立つことができるのか。

 回答。是。キャラクターさえ作成してくれれば、すぐにでも世界へ旅立つことができる。彼は転生という形で世界へ旅立ち、「同じ年齢の同じ姿」、もしくは「同じ年齢の同じ姿まで間違いなく同じ成長を遂げる赤子」のどちらかを選んで旅立つことができる。時間の概念は超越し、彼の主観ではキャラクターを作り終えたその瞬間に、向こうの世界へ。ちなみに彼を死に導いた理不尽は、あちらの世界への転生をもって繋がりが切れる。

 わかった。作成を開始しよう。

 回答によって、作り方は即時に理解させられた。
 種族は選べない。ランダムで決まる。
 1000あるポイントを、アバター、武器、防具にそれぞれ割り振り、適当な言葉をそれぞれに与えるというものだ。
 アバターは1つだが、それぞれ武器防具は複数でもいいらしい。
 それぞれ200ポイントを上限にポイントの振り分けができる。
 また、経験で得たポイントを、アバターや今持っている装備、新たに得た装備に振り分けることもできる。

 ならば、と彼は選択した。

 まずアバターに200ポイント。
 素早さに200ポイント全部。

 身を守る防具は、皮の全身鎧。200ポイント。
 内訳は物理防御が100、魔法防御に100。

 それと皮のマント。200ポイント。
 内訳は、受動防御に50、能動防御に150。

 武器は細剣。200ポイント。
 物理攻撃に200ポイント。魔法攻撃に0ポイント。

 さらに武器に弓。200ポイント。
 物理攻撃に0ポイント、魔法攻撃に200ポイント。

 こんなところか、と思った途端、【よろしいですか?】という言葉とともに、【y/n】の選択肢が現れた。

 少しだけ躊躇し、彼はその回答を保留する。

 もう少し考えよう。

 まずアバターに対する200ポイント。
 筋力、素早さ、賢さ、生命の4種から選んだのだが、素早さ以外に魅力的なものはない、と思って素早さに迷わず200ポイント全部振ったが、問題はないだろうか。
――自己結論。ないね。これでよし。

 続いて防具。
 大別すると、プレート、皮鎧、ローブの3種。
 さらに小分けにすると、プレートには全身鎧、部分鎧、盾。皮鎧には全身鎧、部分鎧、盾、マント。ローブも皮鎧と同じ種別がある。
 部分鎧には、ヘルム、アーマー、ゲートル、フット、グローブ。全身鎧はこれらすべてをまとめたものという扱いになるようだ。これだけを見ればどう考えても全身鎧だと思うが、部分鎧の場合、防御力だけでなく、受動防御と能動防御も付与できるらしい。
 まぁ受動防御と能動防御というのがわからないので、とりあえず全身鎧でいいし、マントがあるのでその二つを確かめるには十分なはずだ。

 続いて武器。
 武器は種類が多すぎて覚え切れないが、とりあえず憧れの細剣と弓だ。
 扱えるようになるまでがネックだ、というのを彼は考慮に入れていない。
 それぞれを物理攻撃あるいは魔法攻撃の特化にした。

 問題はなさそうに見える。

 でもなぁ、だけど、とそれでも試行錯誤を繰り返しながら、彼はいくつか調整をし始めた。
 調整をした結果、結局最初の割り振りに戻ってしまったのは、愛嬌と言って差し支えないだろう。


 さて、世界を渡ろう、と彼は神に提案した。

 回答。――選択せよ。
 赤子で転生するか、そのままの姿で転生するか。

 違いは?と問いかける。

 回答。
 赤子であれば、「親」が一定期間保護してくれるだろう。だがその間、ある程度自由が効かないことになるはずだ。装備類は、望めばどこにあるのかが理解できるようになっている。
 そのままの姿での転生の場合、「親」の保護はない。その代わり全てが自由だ。装備類は最初から手にした状態での転生となる。
 文字や言葉の類は統一されており、赤子の場合は1から学ぶ必要があるが、概ね問題なく暮らせるであろうとのことだ。

 彼は少しだけ迷いを見せた。
 煩わしい赤子期間をスキップしてしまうべきか。スキップしない場合のメリットは、ゆっくりと世界を認識・観察・理解できること。デメリットは、少々面倒だということくらいか。
 スキップした場合のメリットは、すぐに冒険が開始できること。デメリットは逆に、世界の認識にズレがあったり、理解が足りなかったりすることが考えられるかもしれない。

――と思った瞬間、世界の認識が彼にもたらされた。
 同時に、異世界とは言ってもほとんど現世と変わらない価値観であることも理解した。

 これでデメリットは失われたはずだ。赤子期間はスキップすることに決める。

――人間として未熟な彼は気付けなかった。
 人間は、赤子の時から培われた人脈や経験、そういう大事なものもたくさんあるのだということに。そして、彼のそれらは、全て現実世界のそれであるのだということに。

 さぁ世界を始めよう。
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