ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくとくろさきのかんけい(1)

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 彼の名は黒崎くろさき まもる。黒崎家長男にして、すでに一家の稼ぎ頭だ。
 というのも、母は健在だが父はすでに他界しており、一家の生活は守、妹の佑香、そして妻の理子の3人の収入で成り立っていた。
 母親は家事すべてを担当し、守と理子の間に子供が産まれた後はその子供の面倒も見てくれていたので、守と理子はそれに報いるべく、働くことで母親を支え、持ちつ持たれつの良い関係だと言えるはずだ。

 守には趣味があった。

 インターネットでチャットやゲームをするのが、昔から好きだった。
 佑香や理子もネットはするが、守ほど――毎晩パソコンの前で眠ってしまうほど――にはハマっていない。二人で毎朝顔を見合わせて笑いながら起こすのが日課になってしまっているほどだ。まぁ夜中の4時までチャットに夢中になっていれば当然のことであるが、夢中になって時間を忘れてしまうのがそもそも大人として分別がないと言える、と本人も自覚はあるようだ。
 インターネットのゲームが好きで、ソーシャルゲームと呼ばれるゲームが中でも好きな類だ。
 まぁ、好きなだけで強くないのだが、そこでチャットをするのはとても楽しくもあり、また会話の中でわからないことがあったら調べるので、自分自身の勉強にもなる。遊んでいるように見えて、守は意外と勤勉なのだ。

 そのソーシャルゲームのひとつで、守はユウキと出会った。

 テレビに出たことがある、しかもあの番組だと知り、守はその回の録画をネットから探し出した。
 タイトルに【神回】とまで書かれている、不思議な回だったようだが、それを観て守はユウキに興味を持った。いやそれ以前から友人としての興味はあったのだが、さらに深く興味を持ったというべきか。
 ユウキから様々なことを聞いた。
 正直な話、ユウキの言う「ツール」というものは偽物、やらせの類だと思っていた。
 だが、ユウキの話を聞き、ユウキの友達が撮った検証動画を見て、その作成日や改竄の形跡がないこと、さらに見た限りで何一つ否定する要素が見つからないことから、「マジなのか」と信じかけ、さらに検証するために、知り合いので動画を検証してくれる施設を探して動画を持ち込み、一切の編集がないことを知って愕然とし、別の知り合いのでマジシャンに動画を見てもらった。
 マジシャンは細かく検証した。
 動画では、周りに建物ひとつない広場のど真ん中で、ほかに何も持っていないことを示したうえで、何もないところからボルトを何度か落下させていることを改めて指摘する。
 基本的にマジックとは、種も仕掛けもないといいつつ、本当は種や仕掛けがあるものだ。当たり前のことではあるが、それが基本だ。

 それを踏まえたうえで、ボルトが消えている位置。
 動画で何度かやっているが、とマジシャンが再生を一時停止しつつ確認すると、ボルトの消える位置は全く同じように見えて少し高さや横の位置が違う。さらに、消える際に服を反対側の片手をその「ツール」の前で動かしているシーンもある。
 動画を撮ったスマホが優秀なため、手の動きもきちんと撮れているのだが、その手の動きに不自然が一切ないことも考慮したうえで、「マジックならばプロになれる」とまで言われてようやく、これは本当のことなのではないかと信じるに至る。
 マジシャンも含めて質疑応答を重ね、2か月以上もかけて動画を撮らせ、送らせた。
 マジシャンはすべてを「マジックならば素晴らしい」と称賛し、同じような結果になるマジックをやって見せたりもしたのだが、その悉くを反証動画によって否定され、最終的には白旗を上げた。

「マジックならば種がわからない。これは本当に現実か」

 マジシャンは守にそう告げた。
 短いやり取りではあったが、マジシャンもユウキと守のやっているソシャゲをプレイしだし、様々な話をしたものだ。
 正直な話、それが本当だろうが偽物だろうが、守にはどうでも良かったのだ。
 ただ楽しく話せて、もし偽物で守が看破できたなら、テレビでも解決できなかった問題を看破したと自慢できるし、できなくても話題にはなると考えたに過ぎない。
 要は暇つぶしだ。

 どうでもいいといえばどうでもいい。
 ユウキが友達であることに変わりはないのだから。


 数日ほど、ユウキと連絡が取れなくなった。
 最初はユウキからの連絡が途絶え、未読のまま反応がない日があった。
 何かあったのかと思ったが、基本的にはネット仲間だ。リアルの方が大事な守にとって、正直な話些事であった。まぁ所詮一日、そのうち反応があるだろうという楽観もあったのも事実だが。
 それに合わせるように、本職である仕事が忙しくなった。
 もはやユウキから連絡がないことを気にしている暇も余裕もなく、仕事に没頭し、妹や妻にも心配をさせてしまったが、まぁ、とりあえずは仕事を完遂できたので良かったといえるだろう。

 そうして、ネットもせずに珍しくベッドで横になった。

 次の日起きてスマホを見ると、Genealogyチャットに赤い丸と数字があった。何件かのメッセージがあるということだ。
 見てみれば、ようやくのユウキからの返信だ。

「待たせやがってこの野郎」

 思わずニヤリと顔に笑みを浮かべ、いつものように軽口から入ることにする。
 仲の良い――と守は思っている――ユウキのことだ、普通に話してくれるはずだと期待したが、ユウキは何か言いたそうに、「最後の頼みの綱」だと守を評価した。
 おお、何だ何だと興味が沸くが、とりあえず話を聞くことにする。
 どのみち話を聞かないことには判断などできないし、ユウキが守を怒らせようとこの話をするわけではないのなら、とりあえずそれを前提に聞くしかない。

【YU-KI】
20:09
 僕、どうやら今異世界にいるっぽいんだよね。割とガチで

 思わず目を点にする。
 妹が「どしたのお兄ちゃん」と声をかけてきたところを見ると、それほどおかしな顔をしていたのか、それとも思わず声でも出してしまったのか。どちらにしても守には自覚がない。
 頭は大丈夫なのか、と本気で心配になった。異世界て。今時転生ものなんか流行らんぞ、などと思う程度には、守はライトノベルに理解があったが、それはそれとして現実そんなことは考えられないだろう、と正直に言えば思ってしまう。

 詳しく話を聞けば、この前ニュースで見た隕石が落下して死亡した男子高校生、それがユウキだという。確かに名前はユウキだった気がするが、ユウキなんて名前はどこにでもあるので気にしてすらいなかった。
 それでもいくらか話を聞くうちに、そういえばユウキにこんな感覚を覚えるのは久しぶりだなと思う。
 様々なモンスターと戦ったらしい。そのほとんどを写真にも撮ったらしい。
 そこまで言って来るということは、本当のことなのか、それとも絶対にバレないという自信でもあるのだろうか。

 面白い、と思いつつ守は付き合うことにした。

【黒崎】
20:43
 それを何で俺に話したんだ

【YU-KI】
20:44
 僕のGenealogy、実は黒さんの他はリアル知り合いばっかりなんだよね

 ユウキは即座に答えた。
 予め答えを用意していたのか、それとも本心からの答えだから早かったのか。
 いいだろう。いくつかの証拠は提示してもらうが、俺に頼みがあるというのなら、ある程度は付き合ってやろう、と考えながら、守の口元はもう一度、笑みの形に吊り上がった。
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