ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくとくろさきのかんけい(2)

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 ユウキは、いくつかの条件を黒崎に求められた。
 ひとつはモンスターの写真の提示。できれば接写したものが何枚かあるといい、と言われ、間違いなく接写と呼べるものから、遠くのモンスターを写したものまで、全てを送った。
 続いて求められたのは、動画。
 考えてみれば、写真には撮ったが動画は回していない。
 動いているもののほうが写真よりも作りにくいのは確かなので、ユウキはこれから撮ると約束した。
 それから、これは可能ならの話だが、人間ではない種族の写真をと求められた。これはユウキ自身をまずは撮って送る、ということでひとまず納得してもらう。

 手始めとしてまずは写真。

【黒崎】
21:06
 何だこりゃ。色が付いた水にしか見えんやつ

【YU-KI】
21:08
 スライムかな。こっちではネーバって言うみたい

【黒崎】
21:08
 ネーバネーバってかやかましいわwwww

【黒崎】
21:09
 つーかこの骨みたいな鳥みたいなこれは?

【YU-KI】
21:09
 ボーンバードって言うみたい。骨以外は半透明らしいよ

【黒崎】
21:09
 骨にしか見えんな・・・羽のとこにある膜くらいしか見えんぞ

【黒崎】
21:11
 てか、熊いるのかよ、随分遠いの撮ったな

【YU-KI】
21:12
 あ、ミニベアーかな。30センチくらいしかないらしいよ、それ以上近付いて逃げられた

【黒崎】
21:12
 ちっさいなオイ

 色々な写真に突っ込みを入れられつつ、次々と写真を見せていく。
 最後に自撮りしたものを送ると、「何か前に見たときより若返ったな」と言われ、思わず苦笑した。

【黒崎】
21:16
 とりあえず、この写真また例の施設とかで見てもらうわ

【YU-KI】
21:17
 よろしくお願いします

【黒崎】
21:17
 あと、地図アプリとかだと今どの辺にいるんだ?

 言われ、そういえばここに着いてから開いてなかったなと思い出す。
 開いてみれば、実家から4つほど離れた市まで来ているらしいが、まだ県内だ。
 縦に無駄に広い県なので、まぁそんなもんかと考えながら、とりあえず黒崎に伝える。

【黒崎】
21:19
 そうか一応こっちの座標とはリンクしてる感じなのか

 少し間があってこの発言だったので、どういうことかと聞いてみれば、黒崎は黒崎で、マップの元の位置からユウキが言ったあたりまでの徒歩での時間を調べてみたところ、およそ1日と2時間と表示されたらしい。

【YU-KI】
21:29
 え、1日で着く距離なの?
21:29
 3日かかったんだけど……
21:30
 そっちの世界とズレがあるのかな

【黒崎】
 あのなぁ
21:33
 そりゃノンストップで疲れもせず歩き続けたらそのくらいて着くだろうよ
21:34
 けど徒歩だったら当然どこかで休憩入れるだろうし、歩くヤツの速度にもよるからな
21:35
 普通は絶対1日じゃ着かねぇよ


 黒崎が言うには、数時間ごとに休憩を入れながら、かつゆっくり歩いていると考えた場合、ユウキが言うように3日はかかるのだろう、というそういう目算のようだ。
 黒崎の言う通り、確かに歩く速度はゆっくりだったし、マリーが疲れて休憩のようになってしまった時間もある。あと日が落ちたらさすがに眠ったりもした。

【黒崎】
21:40
 まぁ何となくわかった。しばらくそのあたりにいるのか?

【YU-KI】
21:41
 特に何もなければそのつもり

【黒崎】
21:44
 何かあるなら早めに言ってくれ
21:46
 あと日本列島出るのはやめとけよ

【YU-KI】
21:48
 ?

【黒崎】
21:50
 電波通じなくなるだろ

【YU-KI】
21:51
 あ

 言われてようやく気付いた。
 確かにその可能性を考えていなかったので、下手をすればすでに電波が通じなくなってしまっていてもおかしくない状況だったのだ。

【黒崎】
21:52
 あ、じゃねぇよwwwwww

【YU-KI】
21:52
 ごめんうっかりしてたよ…

【黒崎】
21:54
 まぁ、基本そこから動かなきゃ問題ないだろ
21:54
 動くときは早めに教えろ、いいな

【YU-KI】
21:55
 うん

 言って、ようやくユウキはGenealogyチャットを閉じた。
 まずひとつ、前の世界とつながっているかどうかの確認は、黒崎のおかげで肯定されたと言えるだろう。
 まずはこれで、自分が異世界にいると証明するための算段は付いた。
 最悪ユウキの存在が知り合いにバレても、黒崎に頼んで説明してもらえばいい。……信じるかどうかは別として、少しは話を聞いてくれるだろう。

 さて、と時刻を見ると、すでに22時。
 こっちの世界では、ほとんどの人が寝ている時間だ。
 ただ、元の世界ではほとんど誰も寝ていないはずなので、ちょっとだけ寂しい気持ちもある。
 Genealogyチャットで話しかけたい衝動もあるが、今はまだやめておこう。

 とりあえずスマホのホーム画面から色々なアプリを見ていると、ついついプレイしたい気分に駆られるが、それでユウキ自身の存在がバレては何にもならない。
 せいぜい時間潰しに使えそうなのは、ネットを使わないリバーシとソリティアくらいか。
 リバーシは苦手なので、ソリティアをやって時間を潰すことにしよう。



 いつの間にか寝てしまっていたらしく、朝起きたら黒崎から「ちょっと施設行って来る」とだけ発言があった。
 そういえば、施設施設と言っているが何の施設なのか。
 前にユウキのツールについての話のときも色々使ったらしい施設なのだが、コラージュ写真とかを見破るのが専門、というような話をしていたような気がする。黒崎にも何の施設なのかはわかっていないらしいが、警察も使う施設らしいので、まぁ信用という意味では黒崎が信用しているのならいいだろう。

 さて、とユウキはベッドから降り、隣の部屋へ向かう。

 話したいことは3つある。
 1つは今日の予定。
 今日何をするかは頭の中で決めているものの、それが可能なのかどうなのかは全くわからないのだ。予定としては、鍛冶屋に行って技術を教わり、作れるものをひたすら作ってみたい。
「鍛冶屋ですか、大丈夫だと思いますよ」
 とニーナがあっさり言う。ギルドカードを提示すれば、よほどのことがない限りは大丈夫だろうとのことだ。
 あとは、奴隷の2人が何をするかの予定も聞いておきたい。
「私たちは、とりあえず宿で待機しておきます」
「必要に応じて出かけるかもしれませんが、ひとりは残ります」
 それならば問題ないだろうということで、この話は終わりだ。

 2つ目は明日以降の大まかな予定。
 これも、しばらくはスキル上げに費やしたいとは思っているが、そもそも今日の鍛冶屋の予定も、どこまで対応してもらえるかわからないのだ。
 あとこれも、奴隷2人の予定を聞いておきたいところだ。
 これも、今日の予定と同じく「大丈夫です」「同じく待機予定です」であっさり終わった。

 そして3つ目。
「できればでいいんだけどさ……」
 とても言い辛そうに呟くユウキ。
 健全な男子高校生としては、女子にこんなことを頼むのは大丈夫なのだろうか。
「……はっきり言ってください。死ねという命令以外ならばたいてい大丈夫です」
「馬鹿なこと言わないで」
 思わず強く言ってしまってから、少しだけもう一度躊躇い、ユウキは顔を少し赤くして、こほんとわざとらしく咳払いをした。

「セクハラじゃないからね、先に言うけど」
「……せくはら、とやらが何かわかりませんが、どうぞ」

 そういえば通じないのか、とユウキは苦笑する。
 もう一度ユウキは顔を赤くして、こほんと咳払いをしてから呟いた。

「二人とも、裸になってもらえないかな」
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