ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくとくろさきのかんけい(6)

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『お電話ありがとうございます、カスタマーサポート担当でございます。ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?』

 電話から流れる声に、一瞬「あ、すみません」と断りを入れてから、要件を頭で纏める。
 電話の先は、携帯電話キャリア、ユーという会社だ。ちなみに略しているわけではなく、会社名が「U株式会社」というらしく、某巨大掲示板では略して「U社」「勇者」などと言われている、3大キャリアと呼ばれる有名企業である。

「すみません、名義変更に必要なものを聞きたいんですけど」
 まぁ、名義変更するのに電話でできるはずはない。それができるのであれば、犯罪に使われる携帯が世の中に溢れていることになってしまう。
『名義変更、でございますね。念のため必要なものをお調べいたします。少々お待ちいただけますでしょうか?』
「あ、はい大丈夫です」
『恐れ入ります』
 言って、電話口から保留の音楽が流れ始めた。
 電話口の落ち着いた感じを考えるにベテランさんだろうか、と想像しながら、大抵どのコールセンターにかけても、保留の音楽が同じなのは何故だろう、などとつい待っている間に考えてしまうユウキだが、実はユウキもこの曲のタイトルなどを知っているわけではない。そして待つこと約1分。
『お待たせしました』
「あ、はい」
 思わず返事をすると、『名義変更でよろしいですか?』と尋ねられたので、「はい」と答える。
『ご用意いただくものをお伝えいたします、メモの用意はよろしいでしょうか?』
「大丈夫です」
 メモはスマホのメモをすでに起動している。
 電話口の声に従ってメモを取って行く。
 必要事項としては、本人確認のできる身分証明書。ユウキの場合は高校生なので、保険証と学生証でいいらしい。それを原本で店頭に持って行くこと。当然譲渡される側もそれが必須で、二人同時での来店が必要らしい。さらにはユウキは未成年なので、親権者も同時に来店が必要。
 あ、これ無理なやつだ。ユウキは苦笑しつつ、とりあえず無理なことがわかっただけでもよかったか、とポジティブに考えることにする。
 原本、という時点で、ユウキの手元にある学生証を用意することは無理だ。まぁ写真でいいかな、と思っていたユウキであるが、もちろん写真でいいはずがない。店頭でコピーされるのがふつうだろう。
 さらに、親が一緒に行かなければいけない時点で無理がある。
 最悪契約を切られる可能性もあるので、それは最も避けたいところだ。

「わかりました」
『ご来店お待ちしております。ほかにご用件はございませんか?』
「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

 電話口の声が自分の名前を告げた後、『失礼いたします』と言ったのを聞いてから、ユウキは終話ボタンを押した。
「ふぅ……それだと無理なんだよなぁ」
 ユウキは溜息を吐いた。
「だとすると、……なんとか向こうのお金を稼ぐか、お金が尽きたら諦めるしかないか」
 この世界のものに価値があるのなら、それを向こうの世界に流してしまえばいい、とも考えるが、それが果たしてどのくらいの価値になるのか、ユウキはそれを確かめることができない。
 まぁ騙されるのを覚悟で、月に1回、黒崎あたりに何かの金属――オーソドックスなところで金あたりか――を流して、金に換えてもらうという手はあるにはあるが、まずどうやってその受け渡しをするのか、という問題がある。そもそもやり取りができるのは今のところネット回線だけだ。
 一応インゴッドは作れるので、作って、仮に渡すことができたとして、あとはそれがちゃんと黒崎に頼んで売れるかどうかの問題もある。
 というか、もし渡すことができるとしたら、逆に何かをもらうことはできるのだろうか。



 とりあえず黒崎と連絡を取ると、黒崎はどうやらユウキを待っていたらしく、色々と報告があった。
 まず肝心の信用問題。

【黒崎】
19:35
 あの写真や動画に関しては、多分9割本物だろうってことで結果が出たぞ

【YU-KI】
19:36
 うん、だって本物だし。そこは心配してないけど
19:37
 黒崎さん的にはどうなの?

【黒崎】
19:37
 いやまぁ、アレだけのもの用意されて信用しないって大人気なさすぎるだろ
19:38
 まぁ信用していいと思ってるぞ
19:38
 で、結局頼み事ってのは何なんだ?

 さて、どう言ったものかと考えた後、ユウキは結局ありのままを話すことにした。
 今のままでは、携帯の契約の維持は有限であること。
 当然そうなれば、黒崎との連絡も取れなくなること。
 また、本来これらを相談すべき親に相談した場合、即刻携帯を解約される恐れまであること。

【黒崎】
19:55
 まぁ、なるほどな
19:55
 そういうことか

 黒崎はいくつかの話を聞いた後、納得したようだ。

【黒崎】
19:59
 とりあえず話はわかった。
19:59
 何か考えてみる

【YU-KI】
20:01
 うん、ありがとう

【黒崎】
20:02
 気にすんな、ところで
20:02
 こっちもひとつ頼んでみたいことがある

【YU-KI】
20:03
 ん
20:04
 どんなこと?

【黒崎】
20:06
 ニーナとか言ったっけか、あの尻尾の子
20:07
 髪の毛と獣の方の毛をな、もらえないかと思ってな


 もらえないか、と言われても、どうやって受け渡しをすればいいのだろう、とユウキは考える。
 基本的にやり取りはできないと思っていたユウキにとって、やり取りができるのであれば、それは願ってもいないことだ。
 それをできる方法が何かあるのだろうか。

【黒崎】
20:08
 前に、ツールの中に何かを落として、消したことがあっただろ

【YU-KI】
20:09
 うん

【黒崎】
20:09
 あれって、異世界にその物質が移動してた、とかそういうんじゃないのか?
20:10
 現に今だって、多分だが電波がそっちに行ってるわけだしな


 物質の、移動。
 言われてみれば、そうかもしれない、とユウキは思う。
 ツールの中で手を離すと消える現象。手を離す直前、落ちるという現象は見えているのだから、あとはその物質がどこに落ちたか、という問題に過ぎない。
 それが「ツールの中」に落ちた、ということなら、世界間での物質のやり取りは可能なはずだ。


【YU-KI】
20:11
 でも、それってどうやって確認するの?

【黒崎】
20:12
 俺がお前のいる場所にいて、お前が送ったのを確認すればいいんじゃないのか


 そういえばそうか、と思わず苦笑する。
 黒崎に来てもらうのは悪いとは思うが、それ以外に確認する方法がないのだし、そもそも黒崎からの提案だ。それくらいはやってくれるだろう。


【YU-KI】
20:15
 わかった。いつやるの?

【黒崎】
20:16
 今でsy……ってわけにはいかんし、まぁ次の休みになったらだなー


 思わずチャットに草を生やしつつ、ユウキは黒崎と色々な打ち合わせをしてチャットを終えた。
 決行日は4日後だそうだ。そういえば結局鍛冶屋には一度も行ってないなぁ、とユウキは苦笑しながら、4日後までに何かわかりやすいものを作るためにも、明日は鍛冶屋に行こうと決めたのであった。
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