アヴェル

ちー坊

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はじまり

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この国、ディース王国では、子供たちが将来なりたいと夢見ている職業がある。
その職業を皆はアヴェルと呼んでいる。
アヴェルとは、世界各国にあるギルドと呼ばれる機関に所属し、そこに届くさまざまな依頼を危険を顧みずこなしていく者達のことである。
ディースでは、15歳からその身分になることを許されている。
アヴェル採用試験は、国を上げての大イベントだ。今日はその開催を祝うかのように空は晴れて澄み渡り、風も穏やかで、心地のいい天気だ。
そんな中、憧れの職業、アヴェルになるためにこの地にやってきた少年が1人...。

「っしゃーーーー!絶対合格すんぞっ!!!」
そう人混みの中で大声で叫ぶものがいた。
周りの人々は驚き、思わずそちらを振り返る。
周りの目も気にせずに叫んだあと、思いっきり伸びをした。
俺はナナト。
ついこの前15歳になったばかり。
やっとこの試験を受けられる歳になった。
アヴェルになるために今日まで特訓したから合格できるはず!
と思っていたけど、会場は大勢の人で賑わっていて、これだけ盛り上がっていると普段あまり緊張することのない俺でもさすがに緊張してしまう。
この試験会場は王国の首都である、コスモスという都市にある。
試験が行われるのは、その中心にあるマドラスという大闘技場だ。このマドラスは、古くから存在し、時には人々の憩いの場となり、時には今日のような大イベントの会場に使われていた。闘技場は円形で、入口を入ってすぐに大広間があり、あとはトイレや選手の控え室などがある。

「頑張ってよね!!じゃないと特訓に付き合った意味なくなるんだから!!」
というのは俺の姉、と幼なじみのエルとシャルナだ。
姉のエルは金髪のロングで、綺麗な青い目が特徴だ。弟の俺が言うのも変な気がするけど、結構美人だと思う。シャルナは白髪のショートで、こちらも顔は可愛いほうだと思う。姉のエルはもうすでにアヴェルになっていた。だから色々教えてもらえるとと思ったのだ。でも、シャルナはアヴェルになる気もないのに特訓すると言ったらついてきていた。
「わかってるよ!任せとけって!!っつかシャルナは特訓見てただけじゃねーかよ。」とシャルナに反論するが、
「でも特訓に付き合ってたのは本当でしょ?」腰に手を当てながらシャルナが答える。正論を言われてしまったため、思わずうなってしまった。
「ぬぅぅ~」
「はいはい、そこまでにして。ナナトはもう会場入りする時間だよ。早く行ってきな!!」とエルに言い合いを仲裁され、会場に入ることにした。
とても広いマドラスの前の広場は、多くの人によって埋め尽くされていた。
そのせいで思うように進めない。集合時刻まで残り5分ほどしかない。
残り1分というところで間に合ったその大広間には、多くの試験を受けにきた人たちがいた。
バタバタと入ってきた俺を一斉に振り返って見た出場者たちは、全員自信に溢れた顔をしていた。
そこで、試験の説明者がでできた。
「これから試験の内容を説明する。よく聞いておくように。」
と言いながら紙を全員に配り始めた。
「今回の参加者は271名。この中から30名をアヴェルとして選ぶ。試験は全部で3日。初めに筆記試験。2日目に個人の能力を試す実技試験。3日目は実際に今いる者達で戦ってもらう。1日目から成績の悪かったものの順に不合格とし、通知を送る。なお、このあとすぐに筆記試験が始まる。そこの柱に受験する部屋が書かれているので各自そこに行くように。以上で試験の説明を終わりとする。質問のあるものはいるか。」
気になって周りをみまわしたけど、特に手を挙げている人はいなかった。
「いないな。それでは、健闘を祈る。解散!」説明者の合図でみんなが散り始めた。
俺が試験を受ける部屋は....
7番の部屋だ。
部屋は全部で10個あるらしい。
左からトイレを挟むようにして1番の部屋があるから、俺は右から行った方が早い。
部屋につき、席を確認する。俺は通路側の1番前の席だ。
部屋では机が約30個ほど置かれていた。
周りを見回していると、
「ねぇ、きみ。」
という声が聞こえたので、声のする方を向くと、気の弱そうな俺と同い年ぐらいのやつがいた。
「ん?どうした?」
「君今いくつ?」
と、質問されたので答える。
「俺は15だ。お前は?」
すると、「ほんとに!?よかったー。同い年の子がいて。ぼくも15なんだ。同い年同士仲良くしようね!」
見かけによらず、かなりはなすやつだなとおもいながらも、よろしくな。と答えた。
「まだ名前言ってなかったね。僕はロッド。よろしくね!君は?」「俺はナナトだ。」そうして話しているうちに試験監督が入ってきた。
「試験監督のタミラだ。この試験に受かった者の教官も務める。」
教官というのは、全員怖くて、スパルタなのかとおもっていたけど、このタミラ教官は少なくともそんな感じはしなかった。むしろ、俺のイメージとは真逆で、クールで頭の良さそうな人だ。
「まず、テストを受ける前に希望するジョブを書いてもらう。紙を回すから、そこに書くこと。」
そういわれ、紙が回される。
紙は何も書いていない白紙のものだった。
そこにペンで、「剣士」と書いた。
ジョブとは、アヴェルの中の職業のことで、それぞれの人が自分の得意分野を生かした職業になる。
ジョブによって使う武器も異なってくる。
例えば、剣士は主に剣を、魔導師は杖を、スナイパーは銃を、アーチャーは弓をといった感じだ。
ジョブは全部で4つある。
俺は、エルが剣士だからということもあるけど、でもジョブの王道で、かっこいい剣士になりたかった。もちろんそれだけではなれない。幸い俺は動きの素早さには自信がある。剣士なら、この素早さを生かせると思ったのだ。
「書き終わったな。それでは回収する。後ろの者が前に送るようにして一番前の者は私に渡すように。裏返しにしながら渡してくれ。」
そうして間もなく、すべてを回収終えた。
「それでは、解答用紙兼問題用紙紙を配る。制限時間は1時間。くれぐれも他の者の解答を見ないように。ばれてしまえば、この試験を受ける権利を2年間剥奪される。」
そうして、全員に問題が渡った。
「それでは...開始!」
教官の合図で試験が始まった。

「ねぇ、エル~。ナナト大丈夫かな?」
その頃エルとシャルナは屋台で何かを買ってはひたすら食べていた。
「うーん。大丈夫だと思うよ。ナナト、ちゃんと勉強もしてたし。今は受かることを祈ってよう。」
「うん!そうだね。
ていうかさ、思ったんだけど、今日人少なくない?
あ、このアイス食べたい!!」
エルが試験を受けた時、ナナトとシャルナも一緒についてきていた。その時はこの広い広場に隙間のないと言ってもいいほど多くの人が集まってきていた。
「あぁ、あれは3日目だったからじゃないかな?ほら、あの日はさ、受験者同士で戦ってたじゃない?だからだと思うよ。はい。どうぞ。」
アイスを受け取り、ありがとうと言ってから一口。
「おいしい!!!ほんとおいしいよ!」
よかったねと言ってエルが笑う。「たしかに!だからかー。でも1日目ってこんなに人少ないんだね。まぁ普段よりは多いけど。っていうかさ、何?この人たちは。」
と言いながら後ろを振り返ると、男の人たちがわんさか集まっていた。
「んー。私たちのファン?」
と言いながらエルが苦笑いする。
「ちょっとエル。そんなこと言ってないでどうにかしようよ。」
「大丈夫。私がなんとかするから。」
何をするのだろうと見ていると、
「あのぉ~、こんなにたくさんの人に見られてると、恥ずかしいので、また今度少人数できてくれませんかぁ~?」
と、上目遣いでいつもとは違う照れたような顔をしながらエルが言うと、ほとんどの男たちは散っていった。
「うわぁ、なんか...うん。すごいな。」
シャルナにはよほど衝撃的な光景だったらしい。もともと、エルはシャルナの姉同然の関係だ。それに、いつもは女性らいしところもあるが、どちらかといえばサバサバした性格なので、無理がないと言えば嘘になる。
「ごめんな、お姉ちゃん。俺たちは騙されないぜ?」
そう言いながら4人の男がエルの方に手を回す。それから人気のないところへエルを連れて行ってしまった。
「おっと、君もね?」
助けを求めに行こうとしたが、腕を掴まれてしまった。
「やだ!はなして!」
必死に抵抗するが、やはり男に力では勝ることができなかった。
「お姉ちゃんたち、今日は夜まで俺たちに付き合ってくれないか?」
「やだね。」
エルが断る。その目から、シャルナを守ろうとしていることがわかった。 
「ハハハ。そこまで即答するかね。しょうがないね。力で行くよ。」
と、その途端に男たち全員がシャルナたちを囲うように移動した。
と思うと、途端に飛びかかってきたのだ。
しかし、エルはそれに一切動じずに、シャルナを守りながら攻撃を避けていた。
そして男たちの注意がエルに注いだ隙を見計らい、シャルナを近くの茂みに隠した。
しかし、男たちは攻撃するのに必死で気づいていない。
そしてシャルナを茂みに隠した途端、今度はエルが攻撃に回った。男たちはエルに押され、防戦一方だ。
「なんなんだこの女!!」
シャルナは、男たちがそういうのにも納得した。シャルナのジョブは剣士だが、剣士を選んだ理由が、動きが素早く、体力がある体という理由は聞いたことはあった。しかし、この状況を見てもう一つ理由があったことを知った。エルはそこらへんの格闘家よりもずっといい体術を身につけていたのだ。
そんなことを考えているうちに、男たちはエルの前でうずくまっていた。
「シャルナ!警備員呼んできて!!」
「うん。」
そう言い、警備員を呼んできて、男たちは、警察に引き渡され、逮捕となった。
「エル。ありがとう。私、怖くて何もできなかった。」
「いいんだよ。シャルナは無事だっただろう?」
そう言いながら、シャルナの頭を撫でる。
「うん。」
「さて、と。ナナトはそろそろ終わったかな。」

「やめ!
それでは解答を回収する。」
また紙が後ろから回ってくる。そして、教官に全ての解答用紙が渡り、1日目の筆記試験が終わった。
「いやーー
やっと終わった!!疲れたなー。」
「終わったね!ナナトはどうだった?」
伸びをしながらロッドが質問してくる。
「あぁ、まぁまぁできたよ。ロッドは?」
「僕?僕はできたよ!うまくいけば満点かも!!」
満面の笑みでそう答える。
「まじかよ!!すげーじゃん!」
「へへ。僕、運動はできる方じゃないけど、頭使うのは得意だからさ。筆記試験で点数取っておこうと思って。頑張って勉強したんだよ。」
片付けをしながらそう話し、片付けが終わって寮に行くことにした。
「あ、ごめん。先行ってて、寮の場所も確認してないし、姉ちゃんに会ってこなきゃだからさ。寮が書いてある紙、どこにあるかわかる?」
「そっか。わかったよ。寮の配属の紙は試験の教室が書いてあった隣の紙だよ。」
「りょうかい!じゃあ後でな!」
手を振りながらそう言い、ロッドと別れた。
寮は全部で5棟あり、その中で一つの棟に11の部屋があるようだ。
俺は、2つ目の棟の7部屋目だ。
寮を確認し、外に出る。
外はもう夕方と夜の間ぐらいで、空は暗くなっていた。
すると、エルとシャルナが待ってくれていた。
「どうだった?ナナト。」
「あぁ、しっかりできたよ!」
「なら良かった。勉強してたもんね。これから寮に行くの?」
とエルが言うシャルナは何か言いたげだけど何も言わない。
「当たり前だろ?任せとけよ!
そうだよ。っつかシャルナはなんかあったのか?」
「あ、あのね、」そう言いかけたシャルナをエルが止めた。
「ううん。お疲れ様!本当にちゃんとできたんでしょうね?」
「ばかだな。俺が出来たって言った時は本当にできたときなんだよ。」
「そう。なら良かった。」
と言ってシャルナが微笑む。
「ほら、ナナト。寮に行きな!母さんと父さんには言っとくから!!」
「おう!じゃあ行ってくるわ!」
ナナトが見えなくなったのを確認してからエルが口を開いた。
「シャルナ。さっきのことはまだナナトに言っちゃダメだよ?」
「でも...」
うつむいていた顔を上げる。
「ナナトの試験に影響を出したくないんだ。頼むよ。」
「うん。わかった。」
「ありがとう。」

寮につき、部屋のドアをノックする。
「お、やっと最後の1人のお出ましか?」
という声が中から聞こえる。
ドアを開ける。
「ナナトと言います。よろしくお願いします!」
というと、よろしくなと帰ってくる言葉の中に、ナナトと自分を呼ぶ声に反応し、顔を上げると、そこにはロッドがいた。
「ロッド!同じ部屋だったのか!嬉しいよ!!」
「僕もだよ!!良かった。同じ部屋で。」
と2人で話していると、
「おいおい、俺たちも仲間に入れてくれよ。」
という声が聞こえ、後ろを向くと、他の同じ部屋の人たちがいた。
「俺は、レッド。こいつがタナトで、こっちはカロナだ。よろしくな。」
よろしく。と続けてタナトとカロナが挨拶する。
レッドは、赤髪で背が高く、リーダー気質のような感じがする。
タナトは、茶髪で背は俺と同じくらいだ。
カロナは、青い髪で背は低い。
「こっちこそよろしくな。俺はナナト。こっちはロッドだ。歳は?俺らは15だよ。」
「そうなのか。俺らも全員15だ。みんなが同じ年齢で良かったな。」
と笑顔で答える。
「じゃあとりあえず、自己紹介終わったし、とりあえず自由時間でいいかな。」
「そうだな。じゃあまた後で。」
ここは夕飯は自分たちで自主的にとる形らしい。
俺とロッドは夕飯を食べ、シャワーを浴びて、疲れた体を癒そうと眠りについた。



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