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第二部 事の発端
第十六話 戦撃の舞い
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ケンジ達三人が到着してから早数日が経過した。
何もないかと思いきや、そんな暇になるようなことは全くなく、暇なときなど片時もない日々をその日も過ごすだろうとケンジは思っていた。だが、そんな彼の考えを打ち消すかのように白髪の隻眼をした女性、▽に呼び止められていた。
『・・・・・・・・で、なんだ▽?今もこうして暇してる間に「あのクソッたれ」が俺たちの、・・・・・・いや、お前らの仲間の「メカノイス」を殺してるかもしれないんだろ?』
「それはそうなんだがな、チーフ。」
『だったら、行かせろ。あのクソッたれの連中がいるってだけで俺は我慢ならねぇんだからな。それもあの時と同じように「要塞」の内側と外側に分断されてるとありゃ、早いところ始末しねぇと。』
静かに、だが、激しく燃え上がる想いをケンジは隠すことなく言った。そんなケンジの想いを分かっていながら、▽は頬を掻きながら答える。
「確かに、そうなんだ。だが、今はダメだ。いくらあんたがあのクソッたれどもを殲滅したいって思ってたとしてもな。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味だ、▽?』
彼女の言い方を不審に思った彼は思わず訊いてしまう。彼女は彼の疑問の声にニヤリと口元を歪ませる。
「なに、簡単なことさ。今は『メカノイス』の他に、『ヒューマン』の集団もいる。『メカノイス』だけなら、あんたの存在を隠せるんだが、『ヒューマン』もいるとなると話が別だ。・・・・・・・・分かってくれるか、チーフ?」
彼女の言葉にケンジは彼女がどの様に考えているのかを理解した。
今の▽は『メカノイス』達の指揮官に近い立ち位置にいる。指揮官の立場なら、ケンジ達がいたという事実はなかったことに出来るだろう。かつて、いたとされ姿を消した『プレイヤー』、いや、『スパルタン』はいなかったし見なかった、ということには出来る。
だが、『ヒューマン』が加わるとなれば話は別だ。あくまでも、▽が指揮権を行使できるのは『メカノイス』だけであり、今現在、『メカノイス』と『ヒューマン』は対立関係にある。その関係にある以上は『ケンジ110』という存在はいなかったということは出来ない。
とすれば、『ヒューマン』の勢力を無力化する位しか出来ないのだが、そもそもそういうつもりはケンジたちには全くない。なので、姿を見せるつもりはないし、彼女が言う見せるなということも分からなくはない。
・・・・・・・・・・・・・分からなくはないのだが。
『だがな、▽。あのクソッたれども・・・・・・いや、「バイオス」どもがいるとあれば手は多い方が良い・・・・・・・、そうだろう?』
「そうだな。それは確かに、あんたの言う通りだ。あのクソッたれどもには『メカノイス』も『ヒューマン』にも手に余る存在だ。なんせ、マスターを含めたあんたがた『スパルタン』でさえ数少ない犠牲が出たんだからな。」
ケンジの言葉に▽は渋々ながらも同意の言葉を絞り出す。
『バイオス』は、『人類種』と『精霊人種』、『機械人種』などの『プレイヤー』が選ぶことが出来る三種族とは全く違って、『プレイヤー』が選ぶことが出来ない敵対種族という設定になっている。その為、会話などの選択などは全くなく戦闘することしか行動に選ぶことが出来ないという厄介な存在だった。
まぁ、厄介というよりかなり分かりやすい関係ではあるのだが、これの厄介なところは対話というありもしない選択肢をあると思い込んでしまうことが厄介と言えた。戦うことに慣れていない平和ボケした日本人であれば、そういう第三の選択肢があるかもしれないと思ってしまうのも考えられなくもない。そこに隙を見出して、『プレイヤー』が、それを守ろうとした数少ない『スパルタン』が死んでいった姿をケンジは何人も見てきた。
だが、今はそうした平和ボケしたバカな連中は誰一人としてここにはいない。いないのであれば、そうした第三の選択肢を選ぶこともないわけで。
だったら、大丈夫か。
そうケンジは思うことにして▽に任せることにして今現在の装備の不足を補うために、彼女に言ったのだった。
『・・・・・・・・了解だ、▽。それじゃ、俺が出て楽しめる様になったら何時でも言ってくれ。』
「・・・・・・・・・・何する気だ、チーフ?」
彼の言葉を聞くとすぐに何かをする気なのかが分かったのだろう、彼女はケンジに訊いたのだった。
そんな彼女に振り向くと背を向けて背後にいるはずの彼女に向けて片手を上げた。
『この前、ちょいと消費が激しくて装備を消耗しちまってな。・・・・・・・・ちょいと借りるぞ。』
「はっ、あんたら『スパルタン』に貸せねぇ武器なんざねぇよ。持って行きたいだけ持っててくれ。こっちとしちゃ使わないのが多くて処分に困ってたとこなんだ。」
『・・・・・・・・・・ったく、よく言うぜ。・・・・・・・だが、ちゃんと言質は取ったぞ、▽。後で言ってねぇとか言うなよ?』
「あんたら、『スパルタン』に?・・・・・・・はははっ、言うかよ。言っても止まらねぇのを知ってるのに。」
『・・・・・・・・止まる時は止まるぞ?・・・・・・まぁ、その時は消えてるだろうがな。』
はははっ、とどこか投げやりな様子にも聞こえるその言葉を残しながら、ケンジはその場を後にした。彼女はそんなケンジの背があった廊下をぼんやりと眺めて・・・・・・・・。
「さて、と。向こうは向こうで仕込みとかするみたいだし、こっちはこっちでやろうかなっと。」
気合を入れる様に▽は自身の頬を叩くと、彼が向かって行った方向とは別の方向へと歩を進めたのだった。
▽との邂逅から早数分が経った時、ケンジの姿は数多くの武器が鎮座されている武器庫にあった。一つ一つ銃器を手に取っては『チャージングハンドル』のレバーを引いてはパッと手を放して初弾を装填しては大雑把な方向に武器を向けて発砲するといった謎の行動をとっていた。
適当に撃っているだけのようでいて弾は跡が付いた銃痕に当たるといった有り得ないことが起きていた。普通であれば、目標を定めぬ限り同じ場所に何発も当てることなど奇跡に等しく、それが起きることは有り得ないのだが、ある程度発砲すると、その行動に飽きたのか銃器を山の様に積んでいる場所に視線を送った。
『とりあえずはこれだけでいいか。一応、弾は撃てるのは分かったし、ここに置いてある銃器の整備は出来てるみたいだな。・・・・・・・・・・レオナたちもこれ位やってくれたりすると楽でいいんだがな。』
そうは言っても俺が趣味でやってることに関わらせるわけにはいかない、か。
なかなか難しいとこだぜ、全く、と言うと、ケンジはため息を吐いて持ち運びがしやすい様に作られている金属の箱、運搬道具に何丁か銃器を仕舞ったのだった。
ケンジがちょうど仕舞った時にタイミングよく背後から声が掛けられた。
「マスター・・・・・・・・、終わりましたか?」
女性の声でその様に話すのはケンジが知る限りは一人しかいない(と言ってもここにいる三人のうちケンジのことをそう呼ぶのは一人しか思い浮かばなかったが)。
そう思いながら、ケンジは後ろを振り返るとそこには彼の予想通りのフードを被って顔を隠している女性がそこにいた。
『よぉ、レオナ。・・・・・・・見たまんまだ。とりあえずは、なんとか揃ったぜ。と言ってもコンテナ付きのミサイルが一発もないのが心もとないがな・・・・・・・・。』
「そうは言いますが、マスター。この前のモンスターの氾濫が発生した際には使わなかったではないですか。それならば、大丈夫なのでは?」
『大丈夫だとは俺も思うぜ?・・・・・・・だけどなぁ。手持ちの銃だけでどれだけやれるか、そこが問題だ。今回は「ガトリング」は外してねぇからまだ火力面は大丈夫だ、心配要らねぇ。けど、今回はミサイル二発をもう使ってねぇときた。前回よりかは多少は身軽で動きやすいんだがどうも、な。』
心配そうに言う主と慕う人物から心配をできる限り取り払おうと思い、レオナは懸命に声を掛けようとする。
「だ、大丈夫ですよ、マスター。ここにはケイトもエルミアもいます。それに、▽も。・・・・・・・・・・どうにかなると思いますよ?」
『けどなぁ・・・・・・・・。「あのクソッたれ」の連中がまた出てくる可能性もねぇわけじゃねぇしなぁ。そうなると、やっぱり足りねぇよなぁ・・・・・・・。』
「ですが、マスター。・・・・・・・こうは言いたくはありませんが、今あるモノでどうにかしなくてはいけませんよ?戻るのも手ではありますが、今から戻るとしても・・・・・・・・間に合うかどうか。」
『そうだよな・・・・・・・・・・・・。』
そうだ。
レオナの言うこともケンジには分かる。
今から『ミサイルコンテナ』を取りに、『日常と戦撃の箱庭亭』に戻りに行ったとして果たして、▽達が持つかどうか、それは誰にも分からない。
いくら、『エクスメカノイス』とは言えども、かつて『最上位転生機械人種』であった『プレイヤー』達の中でも最も最強に近かった『スパルタン』が集まった『旅団』メンバーを入れた『メカノイス』総出でも全員が無事というわけではなく、数名が殺されたのだ。
であれば、出来れば装備はほぼ完ぺきだと自信が持てる位には揃えておきたいというのがケンジの心境であり、本音なのだが、そうしていたら、間に合わないというレオナの意見もケンジには理解できなくもなかった。
とすると、彼女の言う通り今ある武装でどうにかしなくてはならないということになるわけで。
『そうだよな、ここにあるモノでどうにかしなくちゃいけねぇ。』
「ja。であれば、どうにかなりそうですか、マスター?」
『ん?・・・・・・・まぁ、な。取り敢えず手持ちの余りモノの弾に合うのを選んだつもりだ。』
「そうなので?」
『おう。例えば・・・・・・・。』
疑問の声を出すレオナにも分かりやすい様にユニットの中に仕舞った一丁の銃器を取り出す。黒く光る銃身で洗練された外見をしており、目標を定めるための照準器があるであろう場所には黒い色で塗られたさほど太くなくそこそこ長いモノ、『スコープ』が取り付けられていた。
『この「バトルライフル」。こいつは連射で撃つことはできないが、それでも三連射ができる威力はそこそこある優れもんだ。・・・・・・・・まぁ、そんな優れもんにも欠点はあるんだがな・・・・・。』
「その問題とはなんです、マスター?」
そう訊いてくるレオナの疑問の言葉にケンジはコクリと頷いて答えた。
『さっきも言ったが、コイツは三連射は出来るんだが、連射が出来ねぇ。つまり・・・・・・・。』
「つまり?」
『弾幕が張れねぇんだ・・・・・・・・。』
「弾幕ですか・・・・・・。」
ため息交じりに応えるケンジの言葉にレオナは疑問符を浮かべながらもオウム返しの様に返す。
「マスター。その、弾幕とやらは貴方が持ってるそれではダメなのですか?」
分かりやすい様に左腕に取り付けられている盾を指差しながら彼女は訊いた。そこにはケンジ御愛用の『ガトリングランチャー』が付けられていた。
『ああ。まぁ、コイツでも張ろうと思えば張れなくもない。・・・・・・・・張れなくもないんだが、・・・・・・・・・・・・コイツの場合はあんまり撃ち過ぎると熱が籠もって弾が一発出せなくなって一気に使いにくくなるんだよ・・・・・・。まぁ、熱冷ませば使えるんだけどな?でも、いちいちオーバーヒートしては冷やすってのも・・・・・・・なぁ?って思うんだよ。そうすると、「ミサイルコンテナ」あった方が火力があってまだ落ち着くんだが。それがないとなぁ・・・・・・。』
「成る程。・・・・・・となりますと、マスターの言う通り難しいですね。」
『・・・・・・・だろ?弾の方はこの前使うのに補充した分と今使うのに補充した分で心配はねぇ。ないんだが、それでもなぁ・・・・・・・・。』
ま、もしもって時は、全部捨てて遊ぶからいいか、と考え方を変える様にケンジは言うと意識が変えろうとしたのか立ち上がった。
と立ち上がったその時だった。
事態が変化したのは。
倉庫の壁際に鎮座して壁をくり抜かれて外側に銃口を向けていた銃器群が一斉に咆哮した。
「きゃ!!!!」
『近接用の「チェーンガン」が動いた?すると・・・・・・・「クソッたれども」かっ!!!』
可愛げな声を出して驚くレオナとは打って変わって彼女の様子を気にしない様にしてケンジは事態を悟る。
外に出ているはずの▽が『全種族共通の敵』の群れを止めることが出来ずに近接用の『チェーンガン』が迎撃に起動したということはつまり・・・・・・・・。
『ヒューマン』の集団がいなかったか、消されたか、その二択になる。
『・・・・・・・・ったく、「ヒューマン」でも止めらねぇか。▽のバカでも止められねぇのは、まぁ、知ってたけどな。』
「・・・・・・・・・・であれば、どうしますか、マスターっ!?」
返ってくる返事は分かっているだろうにレオナはケンジに疑問をぶつける。何をしたいか、どうしたいのか、それを明白にする為にわざわざ訊いてくるのは従者としての本能かあるいは義務か。
どっちでもいいか、とケンジは内心苦笑しながら彼女に言った。
『決まってる。潰すぞ。』
「ja!!それが我が主たる貴方の望みならば!!!!従者たる私は共に行きましょう!!!!御許可を、マスター!!!」
許可を求める様に訊きながらも手を伸ばして来るレオナの手をケンジはしっかりと掴んだ。
『勿論だ!!!来い、レオナ!!!』
「ja、喜んで!!!!」
彼の言葉を聞くと、彼女は実に嬉しそうな返事を返しながらしっかりと握り返したのだった。
時はそれから僅かに遡る。
鎧に身を包んだ人の集団と対峙するように、人とは異なる武装をしている異形の集団ヒトデナシともいえるであろう集団が対峙していた。・・・・・・・・ヒトデナシとは言えども、あくまでも外見上だけの話であって中には人の集団が持つ刀や剣を持つ者もいた。と言っても、ほんのごく僅かな少数しか持っていなかった。多くのモノは黒く塗装され黒光りするフレームに包まれた銃器を持っていたが。
白髪で隻眼の女性に光を受けて金色に煌めく女性が近付いて、声を掛ける。
「で、どうしますか、▽?」
「あっ?・・・・・・ああ、エルミアか。どう出るって言われてもな・・・・・・。少なくても、こっちからは手は出さねぇよ。マスターにもチーフにも言われてるんだ。『手を出さなきゃいけないって時は必ず来る。だが、絶対にこっちからは手を出すな。相手の出方を窺って一発貰ったら容赦なく何倍にして返すんだ。』ってな。・・・・・・・だから、手は出さねぇよ。」
「でも、確かそれ相手方よりもこちらの火力が何倍もあった時のみの、限定条件でしたよね?」
「そうだよ。」
▽はエルミアが訂正するように言う言葉に渋々といった様子で同意した。
そう、そうなのだ。
この条件を解決するためには相手方よりもこちら側の火力が圧倒的に上回っている時のみの限定条件である。それと、付け加えるならば相手の初撃を耐え切るほどの耐久力と防御力があった時でもある。となると、火力と耐久力、防御力の三つが揃っていないといけなくなる。
同じ人類種とは言えども、『ヒューマン』と『メカノイス』の間には圧倒的な差が存在する。
攻撃可能距離と攻撃力、それらと、同じく耐久力と防御力だ。
どうあってもこれらを覆すことはできない。攻撃可能距離は近接距離で戦う剣しか持っていないのを見ればもう既に勝ったも同じであり、こちらは中~長距離を戦える銃器が主である。火力も向こうを遥かに超えているだろう。・・・・・・・・向こう側が勝つ要素があるとすれば、『メカノイス』には扱えない魔法などであろうが、それらをいとも簡単に扱える『エレメンタリオ』の姿は見受けられない。『ヒューマン』にも扱えなくもないのだが、『エレメンタリオ』が扱うモノよりも使い勝手が非常に悪い。
何故ならば、『エレメンタリオ』は詠唱を行わない無詠唱で魔法を使うことが出来るのだが、『ヒューマン』は一回一回使う度に詠唱が必要なのだ。つまりは、使用するのに時間が掛かるということであり、詠唱などそういったものなしでその魔法よりもはるかに早くて強い銃器を使う『メカノイス』には負ける要素はほぼないと言っても過言ではない。
・・・・・・・しかし、世の中そう簡単になるほどまでには世界は回っていないわけで。
身体の中に溜まっていた息を吐く様にため息を▽は吐く。
「まぁ、普通に考えれば『メカノイス側』が負ける要素はまずねぇ、と言ってもいいんだがな。だが、世の中にはもしとか万が一ってことがあるわけだ。・・・・・・・・・・しかも、そういうのはよくあると来やがる。はっ、笑えるぜ。」
「そうですね、▽。・・・・・・・・しかし、110の前では言わないでくださいね?」
「言うかよ・・・・・・・・・・・。マスター達が外に出れたのに、一人だけ出れてねぇってのに。」
まぁ、今は居てくれることに有り難く思えるけどな。
どこか自嘲気味に言う▽の横顔をエルミアは何を言わずにただ見つめる。
だが、それも一瞬だった。
対峙している両者とは違う第三者が両者が揃うその時を待っていたかのように現れたのだ。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
『ヒューマン』たちが出す雄叫びよりも遥かに獣が出すモノに近い雄叫びを聞いて、▽は強く舌打ちをしてエルミアと共にその声が聞こえた方向を見た。
すると、そこには群れと表現するしかないモンスターの群れとモンスターを指揮するようにこん棒の様な何かを片手に握って天高く掲げている『人類種』に近い外見でそうではないと断言させるモノたちがいるのが目に映った。
「『魔人種』っ!?こんなタイミングでっ!?」
「仕掛けてくるなら、今しかねぇだろうが!!!!構えろ、エルミア!!!」
両側の太ももに掛けられているホルダーから出ているトリガーに指を軽く引っ掛けて上に放る様に放り出すと、ケンジが使うモノよりも短い銃身である『ハンドガン』を両手に持つと、▽は構えた。
「チーフが出てくるまでの短い時間だ。それまでは、時間を稼ぐぞ!!!」
「それまでは、私たち二人で時間を稼ぎますか!!?」
「はっ!!!!それも悪かぁねぇな!!!」
そう話している内にも彼女ら二人が率いる『メカノイス』と『ヒューマン』の集団を横から食らい潰す様に『バイオス』が襲い掛かり、両者の姿が見えなくなるのにさほど時間は掛からなかった。
『完全武装要塞』を襲い掛かろうとした『魔人種』率いるモンスターの群れは、襲い掛かろうと向きを変えた時にはもう既に半数近くが消えていた。
なぜ、それほどの群れが消えたのか?
両者を食らい潰すほど圧倒的に多かったのにも関わらず・・・・・・・・・。
その答えは至ってシンプルなもので。
『要塞』の壁から出ている数多くの銃口、『チェーンガン』の掃射を受けたからだった。距離があれば『そんなもの』など大した威力は持たない。だが、距離が目と鼻の先、近距離ならば話は別だ。近距離で『チェーンガン』の弾幕に耐えきるモノなどこの世界には存在などしない。仮に存在したとしても、それが近付くことは出来ないだろう。
一秒、一秒、一つの銃口から弾丸が放たれはまた別の銃口から弾丸が放たれる。一つ、一つをカバーするように壁から出ている『チェーンガン』は銃身を休むことなく放たれる。
仮に休んでいたとしても、その休みを補う様にまた別の『チェーンガン』がカバーする。休むことなく横殴りに放たれる弾幕を耐えることなど誰が出来ようか。
否。
そんななことなど誰にも出来ない。
『こんな弾幕張られちゃ、いくら「バカで有名なプレイヤー」でも耐えられねぇな。んま、歩く気もそもそもねぇんだが。』
「ですが、マスター。貴方ならば可能なのでは?」
襲い掛かろうと向きを変えようとしたモンスターが『チェーンガン』の弾幕を受けて消えていく姿を見ながらケンジは独り言のようにそうぼやいた。その彼のぼやきにレオナが反応した。
『俺か?・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうだろうな。・・・・・・・・いくらレベル四桁あるって言っても走ることはおろか歩いてみたいとは思いたくはねぇし、そんな風にも思いたくねぇ。というかそんな遊びとかしたくねぇよ。』
「・・・・・・・・・・・しないので?」
『・・・・・・・・・・あのね、レオナ。お兄さん、いくら遊びたがり屋でも、そんなことしてでも遊びたいとは思わないよ?そういうの、キチガイとかそういうのだけだぜ?』
いくらなんでもな。
そう言いながらケンジは外の光景を見る。
『要塞』に向きを変えようと動きを止めたモンスターが圧倒的とまでに差があった量を減らしているのが目に映る。だが、いくら圧倒的な量をそこまで減らした『チェーンガン』とは言えども、有効射程距離外にいる群れまでも倒せるわけではなく、射程から離れたところでうろうろしている少なくなったモンスターの姿が目に留まる。それと時同じくして先程まで咆哮していた『チェーンガン』が徐々に勢いを消していく。
『いくら「雑魚潰し」とは言っても遠くの敵は狙えねぇってか。離れた距離を狙おうともそのには▽やエルミア達がいるから撃とうと思っても撃てませんってか。』
「どうしますか、マスター?」
皮肉げに呟かれたケンジの言葉にレオナは疑問を投げかけた。その疑問に、彼は笑う様に答えた。
決まっている、という様に。
『助けるぞ。こっから先はお楽しみの時間だってな。』
「・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、お先に。」
『あん?』
レオナではない女性の声が聞こえたと思ったらケンジの横を一つの突風が吹いた。彼がなんだ?と思った時にはもう既に戦場に一つの爆発が巻き起こった。
『あのバカ。主の俺を差し置いて突っ走っちゃって、まぁ。』
「そこが、ケイトのいいところであり、同時に悪いところでもあります。果たして、誰に似たんでしょうね、マスター?」
レオナは誰かは言わなかったが、彼女の言い方はもう既に誰を指しているのか明白だった。それを理解してか、ケンジはわざとらしく大きな咳をしてごまかした。
『ウォッホン!!・・・・・・・・・・はて、なんのことかな?・・・・・・・・・それはともかくとして、だ。』
気分を変える様に手に取った『バトルライフル』の『チャージングレバー』を目一杯引き延ばすと、パッと手を離した。すると、カチリとなにかが込められた音が聞こえた。
『先行しろ、レオナ。後ろは俺が援護する。』
「ja。分かりました、マスター。・・・・・・・・・それでは、後ろは任しますね?」
『分かってる。俺以外の野郎の眼にはお前の尻は見せねぇさ。』
見えもしないだろうがな。
聞こえない様に小さく出された彼の呟きは彼女の耳に入ることなく、レオナは一瞬だけ呆けた様にケンジの方を見ると、クスリと笑う様に口元を抑えた。
「ja。では、貴方以外の方に見せぬよう私の後ろを貴方に任せますね、マスター?」
『・・・・・・・・・おぅ。任されて!!』
そう言うと、駆け出していくレオナと打って変わってケンジは『バトルライフル』に取り付けられてある照準器を覗かずに、ケンジは銃口を群れへと向けると、トリガーを引き絞った。
タタタッ、タタタッ、タタタッ。
『挽き肉製造機』や『アサルトライフル』とは違って三発の弾丸が連続して放たれる。『チェーンガン』の射程で届かないのであれば、届くことなどないはずである。
だが、放たれた弾丸は当たったことを示す様にモンスターの頭に当たり続いて胴体に、という具合に数体のモンスターを屠った。
現実の世界では、こんなことなど起こるはずはないのだが、この世界はゲームの世界であって、現実ではない。
このようなありえないことがこうして起きているのは、ただ単にケンジがそれだけの奇跡を起こすだけの能力を、技術を持っているだけでしかない。
命中率補正を行うのは『目標捕捉』のスキルであり、そのスキルのランクは『S+』であった。その効果は『どの様な態勢であったとしても銃口の先にいる相手に第一射は必ず急所に命中し、会心の一撃となる』という効果だ。
そして、有効射程を伸ばすのには『捕捉射程延長』と呼ばれるスキルであり、こちらも無論のことランクは『S+』だ。効果は言わずもがな、『使用する銃器の有効射程距離を伸ばす』というものだ。
つまり、この二つのスキルを持っている限りは、どの様な銃であろうともどの距離でも第一射は必ず急所に命中すると言ったモノだ。ただし、それも銃口が向いている相手に限る話ではあるが。
ケンジの射撃に何体かのモンスターが反応したが、『チェーンガン』の威力を知っているからか、ケンジの方に向かってくるこはなく、再び元の位置に顔をモンスターたちは戻したことに彼は舌を打つ。
『ちっ。流石に楽はさせてくれねぇってか。・・・・・・・・・・お兄さん的には楽をしたいんだがねぇ。』
泣けるもんだ、とケンジは肩を竦めた。
そうしている内に、爆風がモンスターの群れの中で巻き起こる。
『ったく、ケイトのヤツ、はしゃいじゃってまぁ。・・・・・ま、アイツがいるおかげで少しは楽出来るんだがな。』
そう言いつつも、ケンジは前に出ようと前へ足を踏み出す。
いつもある二つの『ミサイルコンテナ』がないとは言えども、それで軽くなったとは決して言うことは出来ない。左腕に付けている盾と先端部に取り付けてある『男のロマン兵器』を外してようやく走るほどには軽くなるのだが、ケンジにとってはそれらを外すことはとっておきとして取っておこうという考えがあったために、そうしようとは決して思わなかったのだ。
そうしている内に弾倉の中の弾丸をすべて吐き出したのか、空になったことを知らせる音がケンジの耳に届いた。
『いくら全連射じゃねぇ三連射だからって、後先考えずに撃ってたらそりゃすぐになくなるわな。』
しゃあねぇか、と苦言を言うように独り言をケンジは呟いて・・・・・・。
『弾切れだ、再装填頼む!』
と言いながら、トリガーの上にある排莢スイッチを右親指で押して、『バトルライフル』を払う様に横に薙いだ。横薙ぎにされたライフルは放り出されることはなかったが、弾がなくなった弾倉だけが、排出されただけに終わった。
そうしている内にマントの下から這い出る様にして、弾がたんまり目一杯に入った弾倉を掴んだ無骨のデザインが為されたロボットアームが出てくる。そのロボットアームが掴んでる弾倉に向けて『バトルライフル』のマガジン入れに突き込むように差し入れ、無事に刺されたことを示すカチリと言う音を聞くや否や、『チャージングレバー』と呼ばれるレバーを目一杯引いてある程度伸ばすと、パッと離すと、今度は初弾が装填されたことを示すカチャ、という音が聞こえた。
装填されたことを確認するよりも、ケンジは足は出す速度を速め、次に引き金を引いた時にはもう既に群れの中にあった。
その姿もすぐに消えてしまったが。
「だぁぁぁぁぁぁ、クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!撃っても撃っても減りやしねぇぇぇぇ!!!!!!減ってのかよ、クソッたれどもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あああああああ!!!とほぼやけくそ気味になりながらも▽は両手に握った『ハンドガン』の引き金から決して指を離すことなく撃ち続けていた。もう何体撃って、何回弾倉を変えたのか分からない位に彼女は興奮しながらただ撃っていた。
だが、撃ち続けていることはできなかった。
カチッカチッと弾が無くなったことを知らせる音が彼女の耳に入ると、▽は腰後ろに手を回した。そして、両手を前へ出すとその手には弾が込められた弾倉があり・・・・・・。
次の瞬間、何の躊躇いもなく彼女は両手に持った弾倉をあろうことか、宙に向かって天高くに放り投げた。ヒュンヒュンヒュン、と遮るモノが何もない宙を舞うそれらを他所に、彼女は両手に握られている黒い塗装が為されている『ハンドガン』の引き金上のある排莢スイッチを押して、その場で軽く舞った。
何も知らぬ第三者が見れば何をしているのか全く分からない行動だが、突如として回転を止めた彼女の手には空になった弾倉はもう既に『ハンドガン』から排出されており、あるべきところには何もなくただの空いた空間だけだった。
回転を止めた▽は何を思ったのか、今度はくるくると左右の手に持った銃を縦に回し始める。そんな彼女を隙だらけと感じたのかモンスターの一体が突っ込んでくる。だが、▽の顔には恐怖など全くない。そこにあるのは単なる笑みだ。
「▽っ!!!」
そんな彼女を呼び止める声が聞こえるのと同時に突っ込んできたモンスターの頭に一本ナイフが突き刺さり、モンスターは走る勢いを殺すことなく前のめりに倒れる。倒れてもすぐに止めることはなく、ズザザ!!!と身体を地面に擦りながら、モンスターの身体は彼女に向かってくる。だが、そこにはもう身体を操るだけの力はもう既になく。
▽は自身に当たる前に足で頭を踏み抑える。踏み抑えたその時に合わせる様にして、宙を舞っていた弾倉が落ちてきて・・・・・・・・・、カチリと『ハンドガン』の弾倉入れに入ったのだった。
初弾を装填するために『遊底』と呼ばれる部分を後ろに引いて手を離すと今度はカチッという音が聞こえた。
撃つ準備が終わった▽はナイフを放った人物に礼を言うために背後を振り返った。
「助かったぜ、レオナ。ちょうど、弾が切れちまってな。」
ハハハ、と笑う彼女に対し、レオナは口を開いて言った。
「▽。それでしたら、マスターと同じく『あの凶悪な六連装の重い武器』を持ってみては如何かと思いますが。あれは見た目はあれですが、装填する必要はないから楽でいい、と仰っていましたよ?」
「バカ言うなよ、レオナ。あんなクソ重たい武器持とうとする頭おかしい奴は、チーフやマスターみたいな連中だけで十分だ。」
そもそもの話。
「あんなクソ重いわ、すぐに熱が籠もって使えなくなる武器なんざ、使い物にもならねぇしな。・・・・・・・・・そんなのいつも使ってるチーフには頭が上がらねぇし、そんな主をマスターに持つお前にも頭は上がらねぇけどな。」
「ja。それはそれは。お誉めに預かり恐悦至極。出来れば、その様な感謝の言葉は貴方の口からではなくマスターの口から聞きたいですが。」
「嫌味か?・・・・・・・おい、レオナ。それ、嫌味で言ってるんだよな?お?喧嘩か?喧嘩売ってるのか?」
「貴女に売ってどうするのですか。」
「まぁ、お前から買ったとしてもいつの間にか後ろを取られてお陀仏になるからな。・・・・・・・・・・で、レオナ?」
話をしつつも二人に向かってくるモンスターを▽とレオナの二人は銃とナイフで捌いていた。
「お前なんでここにいんの?チーフは?」
今更になって訊いてくる▽に対し、何考えてんだコイツ、と内心で思いながらレオナは答える。
「ケイトがマスターを置いて先に突っ込んだので、私も来た次第です。」
「ケイトが?」
「えぇ。・・・・・その証拠にほら。」
そう言った彼女は何のことか分からないという▽にも見えやすい様にある方向を指差した。ちょうど指差したタイミングに合わせたかのように爆発が巻き起こった。
「あ~・・・・・・・・・・、あれか。なんか妙にうるせえし、『ヒューマン』にはまだアレだけの爆発起こせねぇはずだけど、なんでかなって思ったら、やっぱりあの爆破女か。・・・・・・・味方にいると安心できるんだがな。敵にした時が怖くて想像できねぇぜ。」
「敵にするのも味方にするのも簡単ですよ?」
「お前が言うな。」
まぁ、とにかくだ。
「チーフを含めた三人が来たとありゃ、こいつらもすぐに消せるだろ。」
「ja。ですが、油断大敵、ですよ?」
「ハッ、知るかよ!!」
レオナに対して、▽は少し小ばかにしたようにそう言うと、レオナをその場に置いて自分だけ前に出た。固まって行動していれば、踊る様に銃を使っている▽にとってはレオナは邪魔でしかないと思ったからだろう、レオナはそう勝手に思うことにした。
単独で群れに当たっているケイトは心配する必要はそもそもない。なぜならば、心配したところで五体満足に帰ってくるからだ。
であれば、とレオナは考える。
この場は▽の独断戦場。今、心配するべきはここにいるもう一人の、エルミアだけだ。
そうレオナは考えると、エルミアを探すためにその場を後にしたのだった。
「くっ、しつこいですねっ!!!」
腰後ろに付いている(浮かんでいるといった方が良いかもしれないが)武装ユニットを手元に寄せながらエルミアは攻撃を行う。
三つの砲口から放たれるのは実弾ではない黄色く長い光だ。
その光に当てられて二体のモンスターの身体が焼け倒れるのだが、ただ掠っただけの一体は当てられた怒りからかエルミアから視線を外すことなく彼女に向かって突っ込んでくる。
「ちぃぃぃぃぃぃ!!!」
向かってくるモンスターが足を止めずに向かってくることに舌を打つと、武装ユニットを後ろに向けて投げる様に手を離し、それとは別に空を浮かんでいた他の武装ユニットを手に取ると、エルミアは躊躇することなく引き金に手を掛けて・・・・・・引いた。
そのユニットからは先程よりも太く濃い色をした熱を帯びた光線、熱線が出た。熱線はその姿形を変えることなくただ突き進んでいく。熱線の熱さに焼かれたからか、発射されるまで生い茂っていた緑は焼け焦げた土を残すだけとなった。
それ故に。
「グアァァァァァァァァ・・・・・・・。」
熱線に当てられたモンスターが悲鳴を上げようと口を開いたが、悲鳴が出る前にモンスターの身体が溶かされたからか、最後の悲鳴を言う前にモンスターは身体を失って倒れた。
「流石に量が多いですね・・・・・・・・▽は大丈夫でしょうか?」
戦闘が始まる前に距離を取った白髪の隻眼をした女性の安否をエルミアは気遣うようにしてそう呟くが、その様に独り言を呟く彼女から少し離れたところから爆音が聞こえた。
今現在、爆発を起こせるだけの火力を持つ武器はエルミアの手元にも、両手に小規模な威力しかない『ハンドガン』を持つ▽にも爆発を起こせるだけの火力の武器はない。さらに言えば、モンスターたちと交戦する前に見た『ヒューマン』たちの武器にも爆発を起こせるだけのモノはなかった。
とすれば、答えは一つ。
「・・・・・・・ふふっ。少しは待っていてくれてもいいというのに。なかなかどうして。」
そう呟いたエルミアの耳に聞き慣れた音、『タタタッ、タタタッ、タタタッ。』と規則正しい音が後ろの方で聞こえ、そちらを見る様に振り返った。
『無事か、エルミア!?・・・・・・・・▽はっ!?一緒じゃないのか!?』
どこか慌てた様子のケンジにエルミアは疑問する。どうして、そんなに慌てるのか、と。
「nein。いいえ、110。彼女とは別行動です。」
『あんのバカっ。一人の方が行動しやすいのは分かるが、いくらなんでも・・・・・・・・・っ。』
エルミアと会話しながら彼は左と右の両腕を大きく広げて左右のモンスターに向けて身体をゆっくりと回し掃射した。重い音を轟かせながら回転し弾丸を弾き出す『ガトリング』と規則正しい音を出しながら弾き出す『バトルライフル』。
その二つから聞かれる音は決して綺麗とは言い難い不規則な音であったが、それでも一つの曲を奏でている様にエルミアには感じられた。
そう。
それはまるで曲を奏でながら踊っている様にエルミアの瞳には見えた。
だが、それも長くは続くわけもなく。
数秒経つと、彼は舌打ちをすると、空の弾倉を変えるために『バトルライフル』を持った右腕を大きく外側に向けて払った。払われてカツン、と音を立てて弾を無くした弾倉が落ちる音が聞こえるが、ケンジは落ちた弾倉には一切気にしない様子で大声を出した。
『くそっ。弾が切れた!!再装填頼む!!!』
そう言うが早いか、マントの下から弾倉をしっかりと握った無骨でそれほど装甲もなく貧弱そうに見えるロボットアームが出てくる。それが出てくるのに合わせて、ライフルの弾倉が入る場所に突き入れる様に置いた。きちんとセットされたのか、サッとロボットアームから間隔を開ける様に上に上げて、『チャージングレバー』を勢い良く引いて、パッと離した。
そうしている間も、左腕の『ガトリング』は動きを止めることなく弾丸を弾き続けていたが、ちょうどケンジが再装填を終えた時に熱が籠もったのか弾丸を出すことなくただ空回りする。
その事に腹を立てることなく(内心では立てているだろうが)、彼はエルミアの方に顔を向けると、訊く様に口を開いた。
『ってことは、▽とは別行動してて、どこ行ったかは知らないんだな!?』
「ja。お力添えできずに、申し訳ありません、110。」
『いや、いい。気にするな。』
彼の疑問に応えることが出来ない無力さを感じながらエルミアはそう答えた。しかし、疑問を投げかけた当の本人は気にするな、とただ一言だけを呟く様に言い、二人から距離が離れた場所で聞こえる銃音に耳を向ける様にエルミアから顔を背けた。
『とすると、だ。・・・・・・・・・あんのバカ、少し無理してるんじゃねぇだろうな・・・・・・?ちと助けてやるか・・・・・・?』
だったら、と意を決した様に言う彼は続けるように言った。
『ここは頼めるか、エルミア!?』
「ja。出来ますが・・・・・・・・貴方はどうするので、110?」
『▽を助けてくる。ケイトが遊んでくれてるおかげで数は減らしてるからな。全部倒すのにそんなに時間は掛からんだろう。』
それじゃ、任せた。
エルミアの返事を聞くまでもなく、ケンジは▽がいるであろう方向へと足を向けるとそのまま行ったのであった。
レオナと別れて数分後。
もう何体倒したのか、数えるのが嫌になっていた▽であったが、ちょうどその時を狙ってか一体のモンスターが突っ込んできた。
「・・・・・・・・・・っ!!!!」
させるかっ!!!と接近を阻もうと手に持った『ハンドガン』の引き金を絞る▽であったが、弾は出されることなくただカチリと残弾が無くなった音を知らせるのみだった。
「・・・・・・・・・っ!!!クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
残弾が無くなったことに気付けなかった自身に対して向けた怒りをモンスターの横っ面に蹴りを入れることで発散させた。だが、それが不味かった。
弾が無くなるまで誰からの妨害もなく踊り続けていた彼女が踊りをやめた。その事実に彼女から距離を開ける様にしていたモンスターたちは一斉に彼女に身体を向けて走ってきてしまう。彼女は舌打ちを再び撃つと、まだあるであろう弾倉を探るために腰後ろにあるバックパックに手を差し込んだ。
だが・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・んだとぉ!!!弾倉がねぇだとぉ!?っ!!!クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そこにあるはずの感触がないことに▽は恐怖した。
弾がなく、目の前には自身よりも大きいモンスターの群れ。
どう考えても、目の前にいる群れから逃れる手は今の彼女にはない。とすれば、ただモンスターの群れに食われて、ただ死ぬのみという事実。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここまでか。」
ただ、計算を怠った。最期の最期で残弾の計算が出来ていなかったとはなんという皮肉か。
これが彼女のマスターがいれば、後でどんな目に遭うのかは全く分からない。
だが、彼女の主はここにはいない。であれば、自身の最期を誰にも知られることなく終わることは出来るだろう。
・・・・・・・・・・・どうせ生きていても出会うことが出来ないのであればいっそ・・・・・・・。
一体のモンスターが角を構え、▽の身体を上空に突きあげた。
『・・・・・・・っ!?▽っ!?』
彼女が上空に打ち上げられた姿を見たのだろう、自身の主ではないが彼女には聞き慣れた声が聞こえた。
彼の名前は何だっただろうか・・・・・・・・・。
彼の名前をつい最近呼んだ気もするしそうでない気もする。だが、分かっていることもある。
彼は彼女の主ではないということと、彼はまだ生きることを諦めてはいないということ、その二つだ。
「・・・・・・・・がっ!!!!」
空高く打ち上げられた▽だったが、打ち上げられたままでいるはずもなく、放物線を描くと、地面に身体を強く打ちつけた。叩き付けられるようにされた身体の中にある空気が強く外に出される様に▽は強く咳き込んだ。
強制的に出された空気の分を自身の身体に取り込むように彼女は深く息を吸おうとする。だが、ここは戦場であり、彼女にはそのようなことに時間を割くことは許されてはいない。その事を知らしめるかのように何体かのモンスターが群れを作って▽を打ち上げようと駆けようと身体を向けてくる。
逃げるべきなのだろう。
身体を起こしてその攻撃を避けるべきなのだろう。
しかし、▽の身体は全くと言っていいほど動くことはなかった。
いや。
動こうとはしなかった。
どうせ生きていてもただ時間が過ぎるだけであの頃みたく何か楽しいと思うこともない。生きていても、ただ時間が過ぎていくだけだ。
あの頃いた『スパルタンと呼んでいた自身の主たち』を知る者も数を減らしていった。今、こうして生きているのも転生によって長すぎると言っていいほどの寿命があるだけであって、別に死のうと思えばいつでも死ぬるのだ。
そうだ。
自身の主も言っていたではないか。
『「スパルタン」は死なない。ただ消えるだけだ。』と。
とすれば、会いに行くためにただ消えることもいいのではないだろうか。
途端に生きるために、抵抗する意欲が削がれた様に動かなかった▽の下に白い装甲を身に纏った大男が駆け付けた。
『いつまで寝てるつもりだ、▽!!!寝てる時間はもう終わりだ!!!!!とっとと身体を起こせ!!!』
怒鳴りつける様に言いながらも彼は地面に倒れたままの▽を庇う様に前に立つと、『左腕に持っている銃器』を二人に向かってくる群れに向けてそれを唸らせた。
地獄の底から這い出てきたように低く重い音を唸らせて六つの銃身を回しながら一体、また一体と屠っていく。その姿は地獄からやって来た死神かそれに近いなにかを彷彿とさせるものだった。
彼が背に付けているマントが風に靡く様に舞う様子からそう思ったのかしれなかったが、今の▽には全く判断が付かなかった。
「・・・・・・・・・・・なぁ・・・・・・・・・・・、あんた。」
いつも呼ぶはずの愛称では呼ばずに呼んだことに彼は不信感を抱いた様子で背後を振り返った。
『どうした、▽?』
「なんで、あんたは戦うんだ?・・・・・・・・・・・あんたが戦う意味なんざない戦いだろうに。・・・・・・・なぁ、なんでだ?」
彼の疑問に彼女は疑問で返した。
その疑問にどう答えた方が良いべきか悩むように彼は頬を掻くと、答えた。
『意味、意味か。・・・・・・・・どうだろうな。意味があるかもしれないし、ないかもしれん。んなもん、考えながら戦おうともしなかったしな。』
ただ、と言葉を続けた。
『頭に来る化け物がいたら、ぶっ飛ばすだろ?勝てねぇかもしれねぇとか考えるよりも早くにぶっ飛ばそうとするだろ?自分よりも遥かに強くてデカい存在なら尚更だ。』
ま、要するにそういうことだ。
そう彼は言うと▽の身体を起こす様に彼女に手を差し伸べた。
『立てるか、▽?ケイトのヤツが暴れまくってくれたおかげで、もうほとんどモンスターの殲滅は終わったもんだが・・・・・・それでも、まだ活きが良いのがいやがる。そこで寝ててもいいが、寝るんだったら、ここじゃなくて「要塞」のとこで寝てろ。』
彼はそう言った。彼の言葉を聞きながら手を掴んで彼女は身体を起こした。
「・・・・・・・・あんたはどうするんだ?」
『俺か?俺は・・・・・・・・ケイトのヤツがほとんど平らげちまったから暴れ足りねーんだよな。とは言っても肝心の武器の弾は全部使っちまったし。いっつも持ち歩いてる「コンテナ」もねぇときやがる。これ以上はもう無理とか無茶の領域ってのも分かってる。・・・・・・・・・・・分かってるんだが、暴れ足りねぇ。もう少し、遊んだら戻る。』
そう言った彼の言葉に、この人は相変わらずだなぁ、と▽は呆れた様子で返事を返した。
「ja。了解だぜ、チーフ。・・・・・・・・・無理はすんなよ?」
『はっ、誰がだっての。それに、だ。お前だって知ってるんだろう、▽?「スパルタン」は・・・・・・。』
「死なない・・・・・・・、ってか?」
『ああ、そうだ。「メカノイスを選んで無理や無茶を押し通すプレイヤー」は死なない。死んだとしても、ただ消えるだけ、だってな。だから、大丈夫だ。』
ケンジはそう笑う様に言いながら、彼女の頭を乱暴に撫でた。そんな乱暴に頭を撫でられているのも関わらず、彼女は、▽は嫌がるそぶりも見せずに彼と同じく笑っていた。
それは昔を懐かしむ様にも、また今を楽しむかのようにも見えた。
二人がそんなことをしている間にも遠くの方では爆音が聞こえる。
『とっとと。こんなことをしてる場合じゃねぇ。早く行かねぇと全部平らげられちまう。そういうわけだ、▽。もう少し、遊んでくるっ。』
「分かった、分かった。無理はするなよ、チーフっ。」
『無茶はするけどなっ!!!』
ハハハッ、と笑って駆け出していくケンジの背を▽は止めることなくただ見送ったのだった。
『ったく、遠くの方まで行き過ぎだろ。もう少し手前の方で暴れろっての。向かってく身にもなれっての。』
クソッたれが、と呟きながら走るケンジの目の前では未だにケイトが処理をしているのか、爆発が起こっていた。この様子では後数分も経たないうちに、モンスターの掃除は終わることだろう。ケンジとしてはやはり暴れ足りないものでどこかでこの鬱憤を晴らしたいモノだったが、装備も何もかもが不足している現状、文句を言っても始まることでもない。
そう思うと、ケンジは走る足の速度を徐々に遅くしていくと、とぼとぼと歩き出すしたのだった。
『あのバカ、何が楽しいのか、暴れまわっちまって、まぁ。お兄さんとしては嬉しいんだけど、もう少し俺のこと考えてもう少し残してくれてもいいと思うんだよ。・・・・・・・お前もそう思うだろ、なぁ?』
ただの独り言を呟く様にしていたケンジだったが、近くにいる誰かに訊く様に疑問をぶつけた。
答えが返ってこないことに疑問符を浮かべケンジはそちらを見る様に顔の向きを変えた。
すると、そこには。
「たす、たすけ・・・・・・・・。」
「ガツ、ガツ、ガツ。助け、呼んでも、無駄。ここには、誰も来ない。大人しく、しろ。」
「そ、そん・・・・・・・・。」
獣の様に#横たわる何かに覆い被さる様にする何かがそこにはいた。
だが、その獣は何かを食べるのに夢中なのか、すぐ傍にいるケンジのことなど気にした様子もなかった。
やがて、食べ終わったのかゲフゥとげっぷと出し顔を上げ後ろを振り返す様に顔を向けて、・・・・・・・・・・・・・ケンジと目が合った。
「なっ!?お前、『メカノイス』かっ!?」
『そういうお前は、「魔人種」のクソッたれだな?』
驚いたという様に驚く『バイオス』に対し、ケンジはクソはやっぱりどこまで行ってもクソだなぁ、と思いながら右手の親指にワイヤーが掛かっているリングを掛けた。
「だと、すればっ。どう、するっ!?」
『こうする。』
もう既に興味が失せたのか、そちらから視線を外しながら、右腕を向けるとリングを掛けた右親指を押し込んだ。
その直後。
タァーン。
一つの乾いた銃声が周囲に鳴り響くと、何かに覆い被さっていた『バイオス』の額に一つの穴が空いた。
やがてその獣は力を失ったのか力が無くなった様子でただ後ろに倒れていき・・・・・・・・・完全に倒れる前に姿が消えた。
『仇は取ったぜ。・・・・・・・・・名前も知らない誰かさん。』
そう言いながら、ケンジは地面に落ちて散乱している装備を拾う様に近付いていく。
そこには破損が激しい鎧と兜、半ば折れていた西洋剣があった。
それだけを見た様子でこの誰かは恐らく『要塞』を堕としに来たであろう『ヒューマン』の騎士なのだろうとケンジは察することが出来た。
そこから導き出される答えは・・・・・・・・・。
『「バイオス」が「ヒューマン」と「メカノイス」の両者を潰すためにモンスターの群れでこの場を乱そうと暴れた・・・・・・・・?何のために・・・・・・・・?両者を潰しても、まだ「人間種」がいなくなるわけじゃねぇ。「精霊人種」だっているんだ。それなのに、何故だ?』
答えは出ていても更なる疑問が脳裏に浮かんでくる。そして、出てこない答えを求める様にケンジがただ茫然とした様子で遠くを見たその時に、それが目に映った。
ケイトの様に『ヒューマン』がする装備よりも遥かに軽装な外見をしている騎士風の男。
どこか悔し気に口元を歪める男。
そして、男はなにかを呼ぶように口を動かすと、その姿が消えた。
何も道具を使ったようにはケンジには見えなかったので、『ヒューマン』ではなく『エレメンタリオ』だと推測が出来る。『ヒューマン』であれば、何かしらの魔道具を使わなければあんなに早く魔法を扱うことなど不可能だからだ。
とすれば、答えはただ一つ。
『「精霊人種」が「魔人種」と手を組んだ・・・・・・・・?』
どういうことだ、とケンジはただ疑問に思っていた。
その遠くでは未だに爆音が聞こえており、後方では▽が『ヒューマン』の騎士たちに対し、降伏するようにと勧告をする声が聞こえた。
その時、ケンジの脳裏ではなにかとんでもないことが起きているという考えが渦巻いていた
何もないかと思いきや、そんな暇になるようなことは全くなく、暇なときなど片時もない日々をその日も過ごすだろうとケンジは思っていた。だが、そんな彼の考えを打ち消すかのように白髪の隻眼をした女性、▽に呼び止められていた。
『・・・・・・・・で、なんだ▽?今もこうして暇してる間に「あのクソッたれ」が俺たちの、・・・・・・いや、お前らの仲間の「メカノイス」を殺してるかもしれないんだろ?』
「それはそうなんだがな、チーフ。」
『だったら、行かせろ。あのクソッたれの連中がいるってだけで俺は我慢ならねぇんだからな。それもあの時と同じように「要塞」の内側と外側に分断されてるとありゃ、早いところ始末しねぇと。』
静かに、だが、激しく燃え上がる想いをケンジは隠すことなく言った。そんなケンジの想いを分かっていながら、▽は頬を掻きながら答える。
「確かに、そうなんだ。だが、今はダメだ。いくらあんたがあのクソッたれどもを殲滅したいって思ってたとしてもな。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・どういう意味だ、▽?』
彼女の言い方を不審に思った彼は思わず訊いてしまう。彼女は彼の疑問の声にニヤリと口元を歪ませる。
「なに、簡単なことさ。今は『メカノイス』の他に、『ヒューマン』の集団もいる。『メカノイス』だけなら、あんたの存在を隠せるんだが、『ヒューマン』もいるとなると話が別だ。・・・・・・・・分かってくれるか、チーフ?」
彼女の言葉にケンジは彼女がどの様に考えているのかを理解した。
今の▽は『メカノイス』達の指揮官に近い立ち位置にいる。指揮官の立場なら、ケンジ達がいたという事実はなかったことに出来るだろう。かつて、いたとされ姿を消した『プレイヤー』、いや、『スパルタン』はいなかったし見なかった、ということには出来る。
だが、『ヒューマン』が加わるとなれば話は別だ。あくまでも、▽が指揮権を行使できるのは『メカノイス』だけであり、今現在、『メカノイス』と『ヒューマン』は対立関係にある。その関係にある以上は『ケンジ110』という存在はいなかったということは出来ない。
とすれば、『ヒューマン』の勢力を無力化する位しか出来ないのだが、そもそもそういうつもりはケンジたちには全くない。なので、姿を見せるつもりはないし、彼女が言う見せるなということも分からなくはない。
・・・・・・・・・・・・・分からなくはないのだが。
『だがな、▽。あのクソッたれども・・・・・・いや、「バイオス」どもがいるとあれば手は多い方が良い・・・・・・・、そうだろう?』
「そうだな。それは確かに、あんたの言う通りだ。あのクソッたれどもには『メカノイス』も『ヒューマン』にも手に余る存在だ。なんせ、マスターを含めたあんたがた『スパルタン』でさえ数少ない犠牲が出たんだからな。」
ケンジの言葉に▽は渋々ながらも同意の言葉を絞り出す。
『バイオス』は、『人類種』と『精霊人種』、『機械人種』などの『プレイヤー』が選ぶことが出来る三種族とは全く違って、『プレイヤー』が選ぶことが出来ない敵対種族という設定になっている。その為、会話などの選択などは全くなく戦闘することしか行動に選ぶことが出来ないという厄介な存在だった。
まぁ、厄介というよりかなり分かりやすい関係ではあるのだが、これの厄介なところは対話というありもしない選択肢をあると思い込んでしまうことが厄介と言えた。戦うことに慣れていない平和ボケした日本人であれば、そういう第三の選択肢があるかもしれないと思ってしまうのも考えられなくもない。そこに隙を見出して、『プレイヤー』が、それを守ろうとした数少ない『スパルタン』が死んでいった姿をケンジは何人も見てきた。
だが、今はそうした平和ボケしたバカな連中は誰一人としてここにはいない。いないのであれば、そうした第三の選択肢を選ぶこともないわけで。
だったら、大丈夫か。
そうケンジは思うことにして▽に任せることにして今現在の装備の不足を補うために、彼女に言ったのだった。
『・・・・・・・・了解だ、▽。それじゃ、俺が出て楽しめる様になったら何時でも言ってくれ。』
「・・・・・・・・・・何する気だ、チーフ?」
彼の言葉を聞くとすぐに何かをする気なのかが分かったのだろう、彼女はケンジに訊いたのだった。
そんな彼女に振り向くと背を向けて背後にいるはずの彼女に向けて片手を上げた。
『この前、ちょいと消費が激しくて装備を消耗しちまってな。・・・・・・・・ちょいと借りるぞ。』
「はっ、あんたら『スパルタン』に貸せねぇ武器なんざねぇよ。持って行きたいだけ持っててくれ。こっちとしちゃ使わないのが多くて処分に困ってたとこなんだ。」
『・・・・・・・・・・ったく、よく言うぜ。・・・・・・・だが、ちゃんと言質は取ったぞ、▽。後で言ってねぇとか言うなよ?』
「あんたら、『スパルタン』に?・・・・・・・はははっ、言うかよ。言っても止まらねぇのを知ってるのに。」
『・・・・・・・・止まる時は止まるぞ?・・・・・・まぁ、その時は消えてるだろうがな。』
はははっ、とどこか投げやりな様子にも聞こえるその言葉を残しながら、ケンジはその場を後にした。彼女はそんなケンジの背があった廊下をぼんやりと眺めて・・・・・・・・。
「さて、と。向こうは向こうで仕込みとかするみたいだし、こっちはこっちでやろうかなっと。」
気合を入れる様に▽は自身の頬を叩くと、彼が向かって行った方向とは別の方向へと歩を進めたのだった。
▽との邂逅から早数分が経った時、ケンジの姿は数多くの武器が鎮座されている武器庫にあった。一つ一つ銃器を手に取っては『チャージングハンドル』のレバーを引いてはパッと手を放して初弾を装填しては大雑把な方向に武器を向けて発砲するといった謎の行動をとっていた。
適当に撃っているだけのようでいて弾は跡が付いた銃痕に当たるといった有り得ないことが起きていた。普通であれば、目標を定めぬ限り同じ場所に何発も当てることなど奇跡に等しく、それが起きることは有り得ないのだが、ある程度発砲すると、その行動に飽きたのか銃器を山の様に積んでいる場所に視線を送った。
『とりあえずはこれだけでいいか。一応、弾は撃てるのは分かったし、ここに置いてある銃器の整備は出来てるみたいだな。・・・・・・・・・・レオナたちもこれ位やってくれたりすると楽でいいんだがな。』
そうは言っても俺が趣味でやってることに関わらせるわけにはいかない、か。
なかなか難しいとこだぜ、全く、と言うと、ケンジはため息を吐いて持ち運びがしやすい様に作られている金属の箱、運搬道具に何丁か銃器を仕舞ったのだった。
ケンジがちょうど仕舞った時にタイミングよく背後から声が掛けられた。
「マスター・・・・・・・・、終わりましたか?」
女性の声でその様に話すのはケンジが知る限りは一人しかいない(と言ってもここにいる三人のうちケンジのことをそう呼ぶのは一人しか思い浮かばなかったが)。
そう思いながら、ケンジは後ろを振り返るとそこには彼の予想通りのフードを被って顔を隠している女性がそこにいた。
『よぉ、レオナ。・・・・・・・見たまんまだ。とりあえずは、なんとか揃ったぜ。と言ってもコンテナ付きのミサイルが一発もないのが心もとないがな・・・・・・・・。』
「そうは言いますが、マスター。この前のモンスターの氾濫が発生した際には使わなかったではないですか。それならば、大丈夫なのでは?」
『大丈夫だとは俺も思うぜ?・・・・・・・だけどなぁ。手持ちの銃だけでどれだけやれるか、そこが問題だ。今回は「ガトリング」は外してねぇからまだ火力面は大丈夫だ、心配要らねぇ。けど、今回はミサイル二発をもう使ってねぇときた。前回よりかは多少は身軽で動きやすいんだがどうも、な。』
心配そうに言う主と慕う人物から心配をできる限り取り払おうと思い、レオナは懸命に声を掛けようとする。
「だ、大丈夫ですよ、マスター。ここにはケイトもエルミアもいます。それに、▽も。・・・・・・・・・・どうにかなると思いますよ?」
『けどなぁ・・・・・・・・。「あのクソッたれ」の連中がまた出てくる可能性もねぇわけじゃねぇしなぁ。そうなると、やっぱり足りねぇよなぁ・・・・・・・。』
「ですが、マスター。・・・・・・・こうは言いたくはありませんが、今あるモノでどうにかしなくてはいけませんよ?戻るのも手ではありますが、今から戻るとしても・・・・・・・・間に合うかどうか。」
『そうだよな・・・・・・・・・・・・。』
そうだ。
レオナの言うこともケンジには分かる。
今から『ミサイルコンテナ』を取りに、『日常と戦撃の箱庭亭』に戻りに行ったとして果たして、▽達が持つかどうか、それは誰にも分からない。
いくら、『エクスメカノイス』とは言えども、かつて『最上位転生機械人種』であった『プレイヤー』達の中でも最も最強に近かった『スパルタン』が集まった『旅団』メンバーを入れた『メカノイス』総出でも全員が無事というわけではなく、数名が殺されたのだ。
であれば、出来れば装備はほぼ完ぺきだと自信が持てる位には揃えておきたいというのがケンジの心境であり、本音なのだが、そうしていたら、間に合わないというレオナの意見もケンジには理解できなくもなかった。
とすると、彼女の言う通り今ある武装でどうにかしなくてはならないということになるわけで。
『そうだよな、ここにあるモノでどうにかしなくちゃいけねぇ。』
「ja。であれば、どうにかなりそうですか、マスター?」
『ん?・・・・・・・まぁ、な。取り敢えず手持ちの余りモノの弾に合うのを選んだつもりだ。』
「そうなので?」
『おう。例えば・・・・・・・。』
疑問の声を出すレオナにも分かりやすい様にユニットの中に仕舞った一丁の銃器を取り出す。黒く光る銃身で洗練された外見をしており、目標を定めるための照準器があるであろう場所には黒い色で塗られたさほど太くなくそこそこ長いモノ、『スコープ』が取り付けられていた。
『この「バトルライフル」。こいつは連射で撃つことはできないが、それでも三連射ができる威力はそこそこある優れもんだ。・・・・・・・・まぁ、そんな優れもんにも欠点はあるんだがな・・・・・。』
「その問題とはなんです、マスター?」
そう訊いてくるレオナの疑問の言葉にケンジはコクリと頷いて答えた。
『さっきも言ったが、コイツは三連射は出来るんだが、連射が出来ねぇ。つまり・・・・・・・。』
「つまり?」
『弾幕が張れねぇんだ・・・・・・・・。』
「弾幕ですか・・・・・・。」
ため息交じりに応えるケンジの言葉にレオナは疑問符を浮かべながらもオウム返しの様に返す。
「マスター。その、弾幕とやらは貴方が持ってるそれではダメなのですか?」
分かりやすい様に左腕に取り付けられている盾を指差しながら彼女は訊いた。そこにはケンジ御愛用の『ガトリングランチャー』が付けられていた。
『ああ。まぁ、コイツでも張ろうと思えば張れなくもない。・・・・・・・・張れなくもないんだが、・・・・・・・・・・・・コイツの場合はあんまり撃ち過ぎると熱が籠もって弾が一発出せなくなって一気に使いにくくなるんだよ・・・・・・。まぁ、熱冷ませば使えるんだけどな?でも、いちいちオーバーヒートしては冷やすってのも・・・・・・・なぁ?って思うんだよ。そうすると、「ミサイルコンテナ」あった方が火力があってまだ落ち着くんだが。それがないとなぁ・・・・・・。』
「成る程。・・・・・・となりますと、マスターの言う通り難しいですね。」
『・・・・・・・だろ?弾の方はこの前使うのに補充した分と今使うのに補充した分で心配はねぇ。ないんだが、それでもなぁ・・・・・・・・。』
ま、もしもって時は、全部捨てて遊ぶからいいか、と考え方を変える様にケンジは言うと意識が変えろうとしたのか立ち上がった。
と立ち上がったその時だった。
事態が変化したのは。
倉庫の壁際に鎮座して壁をくり抜かれて外側に銃口を向けていた銃器群が一斉に咆哮した。
「きゃ!!!!」
『近接用の「チェーンガン」が動いた?すると・・・・・・・「クソッたれども」かっ!!!』
可愛げな声を出して驚くレオナとは打って変わって彼女の様子を気にしない様にしてケンジは事態を悟る。
外に出ているはずの▽が『全種族共通の敵』の群れを止めることが出来ずに近接用の『チェーンガン』が迎撃に起動したということはつまり・・・・・・・・。
『ヒューマン』の集団がいなかったか、消されたか、その二択になる。
『・・・・・・・・ったく、「ヒューマン」でも止めらねぇか。▽のバカでも止められねぇのは、まぁ、知ってたけどな。』
「・・・・・・・・・・であれば、どうしますか、マスターっ!?」
返ってくる返事は分かっているだろうにレオナはケンジに疑問をぶつける。何をしたいか、どうしたいのか、それを明白にする為にわざわざ訊いてくるのは従者としての本能かあるいは義務か。
どっちでもいいか、とケンジは内心苦笑しながら彼女に言った。
『決まってる。潰すぞ。』
「ja!!それが我が主たる貴方の望みならば!!!!従者たる私は共に行きましょう!!!!御許可を、マスター!!!」
許可を求める様に訊きながらも手を伸ばして来るレオナの手をケンジはしっかりと掴んだ。
『勿論だ!!!来い、レオナ!!!』
「ja、喜んで!!!!」
彼の言葉を聞くと、彼女は実に嬉しそうな返事を返しながらしっかりと握り返したのだった。
時はそれから僅かに遡る。
鎧に身を包んだ人の集団と対峙するように、人とは異なる武装をしている異形の集団ヒトデナシともいえるであろう集団が対峙していた。・・・・・・・・ヒトデナシとは言えども、あくまでも外見上だけの話であって中には人の集団が持つ刀や剣を持つ者もいた。と言っても、ほんのごく僅かな少数しか持っていなかった。多くのモノは黒く塗装され黒光りするフレームに包まれた銃器を持っていたが。
白髪で隻眼の女性に光を受けて金色に煌めく女性が近付いて、声を掛ける。
「で、どうしますか、▽?」
「あっ?・・・・・・ああ、エルミアか。どう出るって言われてもな・・・・・・。少なくても、こっちからは手は出さねぇよ。マスターにもチーフにも言われてるんだ。『手を出さなきゃいけないって時は必ず来る。だが、絶対にこっちからは手を出すな。相手の出方を窺って一発貰ったら容赦なく何倍にして返すんだ。』ってな。・・・・・・・だから、手は出さねぇよ。」
「でも、確かそれ相手方よりもこちらの火力が何倍もあった時のみの、限定条件でしたよね?」
「そうだよ。」
▽はエルミアが訂正するように言う言葉に渋々といった様子で同意した。
そう、そうなのだ。
この条件を解決するためには相手方よりもこちら側の火力が圧倒的に上回っている時のみの限定条件である。それと、付け加えるならば相手の初撃を耐え切るほどの耐久力と防御力があった時でもある。となると、火力と耐久力、防御力の三つが揃っていないといけなくなる。
同じ人類種とは言えども、『ヒューマン』と『メカノイス』の間には圧倒的な差が存在する。
攻撃可能距離と攻撃力、それらと、同じく耐久力と防御力だ。
どうあってもこれらを覆すことはできない。攻撃可能距離は近接距離で戦う剣しか持っていないのを見ればもう既に勝ったも同じであり、こちらは中~長距離を戦える銃器が主である。火力も向こうを遥かに超えているだろう。・・・・・・・・向こう側が勝つ要素があるとすれば、『メカノイス』には扱えない魔法などであろうが、それらをいとも簡単に扱える『エレメンタリオ』の姿は見受けられない。『ヒューマン』にも扱えなくもないのだが、『エレメンタリオ』が扱うモノよりも使い勝手が非常に悪い。
何故ならば、『エレメンタリオ』は詠唱を行わない無詠唱で魔法を使うことが出来るのだが、『ヒューマン』は一回一回使う度に詠唱が必要なのだ。つまりは、使用するのに時間が掛かるということであり、詠唱などそういったものなしでその魔法よりもはるかに早くて強い銃器を使う『メカノイス』には負ける要素はほぼないと言っても過言ではない。
・・・・・・・しかし、世の中そう簡単になるほどまでには世界は回っていないわけで。
身体の中に溜まっていた息を吐く様にため息を▽は吐く。
「まぁ、普通に考えれば『メカノイス側』が負ける要素はまずねぇ、と言ってもいいんだがな。だが、世の中にはもしとか万が一ってことがあるわけだ。・・・・・・・・・・しかも、そういうのはよくあると来やがる。はっ、笑えるぜ。」
「そうですね、▽。・・・・・・・・しかし、110の前では言わないでくださいね?」
「言うかよ・・・・・・・・・・・。マスター達が外に出れたのに、一人だけ出れてねぇってのに。」
まぁ、今は居てくれることに有り難く思えるけどな。
どこか自嘲気味に言う▽の横顔をエルミアは何を言わずにただ見つめる。
だが、それも一瞬だった。
対峙している両者とは違う第三者が両者が揃うその時を待っていたかのように現れたのだ。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
『ヒューマン』たちが出す雄叫びよりも遥かに獣が出すモノに近い雄叫びを聞いて、▽は強く舌打ちをしてエルミアと共にその声が聞こえた方向を見た。
すると、そこには群れと表現するしかないモンスターの群れとモンスターを指揮するようにこん棒の様な何かを片手に握って天高く掲げている『人類種』に近い外見でそうではないと断言させるモノたちがいるのが目に映った。
「『魔人種』っ!?こんなタイミングでっ!?」
「仕掛けてくるなら、今しかねぇだろうが!!!!構えろ、エルミア!!!」
両側の太ももに掛けられているホルダーから出ているトリガーに指を軽く引っ掛けて上に放る様に放り出すと、ケンジが使うモノよりも短い銃身である『ハンドガン』を両手に持つと、▽は構えた。
「チーフが出てくるまでの短い時間だ。それまでは、時間を稼ぐぞ!!!」
「それまでは、私たち二人で時間を稼ぎますか!!?」
「はっ!!!!それも悪かぁねぇな!!!」
そう話している内にも彼女ら二人が率いる『メカノイス』と『ヒューマン』の集団を横から食らい潰す様に『バイオス』が襲い掛かり、両者の姿が見えなくなるのにさほど時間は掛からなかった。
『完全武装要塞』を襲い掛かろうとした『魔人種』率いるモンスターの群れは、襲い掛かろうと向きを変えた時にはもう既に半数近くが消えていた。
なぜ、それほどの群れが消えたのか?
両者を食らい潰すほど圧倒的に多かったのにも関わらず・・・・・・・・・。
その答えは至ってシンプルなもので。
『要塞』の壁から出ている数多くの銃口、『チェーンガン』の掃射を受けたからだった。距離があれば『そんなもの』など大した威力は持たない。だが、距離が目と鼻の先、近距離ならば話は別だ。近距離で『チェーンガン』の弾幕に耐えきるモノなどこの世界には存在などしない。仮に存在したとしても、それが近付くことは出来ないだろう。
一秒、一秒、一つの銃口から弾丸が放たれはまた別の銃口から弾丸が放たれる。一つ、一つをカバーするように壁から出ている『チェーンガン』は銃身を休むことなく放たれる。
仮に休んでいたとしても、その休みを補う様にまた別の『チェーンガン』がカバーする。休むことなく横殴りに放たれる弾幕を耐えることなど誰が出来ようか。
否。
そんななことなど誰にも出来ない。
『こんな弾幕張られちゃ、いくら「バカで有名なプレイヤー」でも耐えられねぇな。んま、歩く気もそもそもねぇんだが。』
「ですが、マスター。貴方ならば可能なのでは?」
襲い掛かろうと向きを変えようとしたモンスターが『チェーンガン』の弾幕を受けて消えていく姿を見ながらケンジは独り言のようにそうぼやいた。その彼のぼやきにレオナが反応した。
『俺か?・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうだろうな。・・・・・・・・いくらレベル四桁あるって言っても走ることはおろか歩いてみたいとは思いたくはねぇし、そんな風にも思いたくねぇ。というかそんな遊びとかしたくねぇよ。』
「・・・・・・・・・・・しないので?」
『・・・・・・・・・・あのね、レオナ。お兄さん、いくら遊びたがり屋でも、そんなことしてでも遊びたいとは思わないよ?そういうの、キチガイとかそういうのだけだぜ?』
いくらなんでもな。
そう言いながらケンジは外の光景を見る。
『要塞』に向きを変えようと動きを止めたモンスターが圧倒的とまでに差があった量を減らしているのが目に映る。だが、いくら圧倒的な量をそこまで減らした『チェーンガン』とは言えども、有効射程距離外にいる群れまでも倒せるわけではなく、射程から離れたところでうろうろしている少なくなったモンスターの姿が目に留まる。それと時同じくして先程まで咆哮していた『チェーンガン』が徐々に勢いを消していく。
『いくら「雑魚潰し」とは言っても遠くの敵は狙えねぇってか。離れた距離を狙おうともそのには▽やエルミア達がいるから撃とうと思っても撃てませんってか。』
「どうしますか、マスター?」
皮肉げに呟かれたケンジの言葉にレオナは疑問を投げかけた。その疑問に、彼は笑う様に答えた。
決まっている、という様に。
『助けるぞ。こっから先はお楽しみの時間だってな。』
「・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・それじゃ、お先に。」
『あん?』
レオナではない女性の声が聞こえたと思ったらケンジの横を一つの突風が吹いた。彼がなんだ?と思った時にはもう既に戦場に一つの爆発が巻き起こった。
『あのバカ。主の俺を差し置いて突っ走っちゃって、まぁ。』
「そこが、ケイトのいいところであり、同時に悪いところでもあります。果たして、誰に似たんでしょうね、マスター?」
レオナは誰かは言わなかったが、彼女の言い方はもう既に誰を指しているのか明白だった。それを理解してか、ケンジはわざとらしく大きな咳をしてごまかした。
『ウォッホン!!・・・・・・・・・・はて、なんのことかな?・・・・・・・・・それはともかくとして、だ。』
気分を変える様に手に取った『バトルライフル』の『チャージングレバー』を目一杯引き延ばすと、パッと手を離した。すると、カチリとなにかが込められた音が聞こえた。
『先行しろ、レオナ。後ろは俺が援護する。』
「ja。分かりました、マスター。・・・・・・・・・それでは、後ろは任しますね?」
『分かってる。俺以外の野郎の眼にはお前の尻は見せねぇさ。』
見えもしないだろうがな。
聞こえない様に小さく出された彼の呟きは彼女の耳に入ることなく、レオナは一瞬だけ呆けた様にケンジの方を見ると、クスリと笑う様に口元を抑えた。
「ja。では、貴方以外の方に見せぬよう私の後ろを貴方に任せますね、マスター?」
『・・・・・・・・・おぅ。任されて!!』
そう言うと、駆け出していくレオナと打って変わってケンジは『バトルライフル』に取り付けられてある照準器を覗かずに、ケンジは銃口を群れへと向けると、トリガーを引き絞った。
タタタッ、タタタッ、タタタッ。
『挽き肉製造機』や『アサルトライフル』とは違って三発の弾丸が連続して放たれる。『チェーンガン』の射程で届かないのであれば、届くことなどないはずである。
だが、放たれた弾丸は当たったことを示す様にモンスターの頭に当たり続いて胴体に、という具合に数体のモンスターを屠った。
現実の世界では、こんなことなど起こるはずはないのだが、この世界はゲームの世界であって、現実ではない。
このようなありえないことがこうして起きているのは、ただ単にケンジがそれだけの奇跡を起こすだけの能力を、技術を持っているだけでしかない。
命中率補正を行うのは『目標捕捉』のスキルであり、そのスキルのランクは『S+』であった。その効果は『どの様な態勢であったとしても銃口の先にいる相手に第一射は必ず急所に命中し、会心の一撃となる』という効果だ。
そして、有効射程を伸ばすのには『捕捉射程延長』と呼ばれるスキルであり、こちらも無論のことランクは『S+』だ。効果は言わずもがな、『使用する銃器の有効射程距離を伸ばす』というものだ。
つまり、この二つのスキルを持っている限りは、どの様な銃であろうともどの距離でも第一射は必ず急所に命中すると言ったモノだ。ただし、それも銃口が向いている相手に限る話ではあるが。
ケンジの射撃に何体かのモンスターが反応したが、『チェーンガン』の威力を知っているからか、ケンジの方に向かってくるこはなく、再び元の位置に顔をモンスターたちは戻したことに彼は舌を打つ。
『ちっ。流石に楽はさせてくれねぇってか。・・・・・・・・・・お兄さん的には楽をしたいんだがねぇ。』
泣けるもんだ、とケンジは肩を竦めた。
そうしている内に、爆風がモンスターの群れの中で巻き起こる。
『ったく、ケイトのヤツ、はしゃいじゃってまぁ。・・・・・ま、アイツがいるおかげで少しは楽出来るんだがな。』
そう言いつつも、ケンジは前に出ようと前へ足を踏み出す。
いつもある二つの『ミサイルコンテナ』がないとは言えども、それで軽くなったとは決して言うことは出来ない。左腕に付けている盾と先端部に取り付けてある『男のロマン兵器』を外してようやく走るほどには軽くなるのだが、ケンジにとってはそれらを外すことはとっておきとして取っておこうという考えがあったために、そうしようとは決して思わなかったのだ。
そうしている内に弾倉の中の弾丸をすべて吐き出したのか、空になったことを知らせる音がケンジの耳に届いた。
『いくら全連射じゃねぇ三連射だからって、後先考えずに撃ってたらそりゃすぐになくなるわな。』
しゃあねぇか、と苦言を言うように独り言をケンジは呟いて・・・・・・。
『弾切れだ、再装填頼む!』
と言いながら、トリガーの上にある排莢スイッチを右親指で押して、『バトルライフル』を払う様に横に薙いだ。横薙ぎにされたライフルは放り出されることはなかったが、弾がなくなった弾倉だけが、排出されただけに終わった。
そうしている内にマントの下から這い出る様にして、弾がたんまり目一杯に入った弾倉を掴んだ無骨のデザインが為されたロボットアームが出てくる。そのロボットアームが掴んでる弾倉に向けて『バトルライフル』のマガジン入れに突き込むように差し入れ、無事に刺されたことを示すカチリと言う音を聞くや否や、『チャージングレバー』と呼ばれるレバーを目一杯引いてある程度伸ばすと、パッと離すと、今度は初弾が装填されたことを示すカチャ、という音が聞こえた。
装填されたことを確認するよりも、ケンジは足は出す速度を速め、次に引き金を引いた時にはもう既に群れの中にあった。
その姿もすぐに消えてしまったが。
「だぁぁぁぁぁぁ、クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!撃っても撃っても減りやしねぇぇぇぇ!!!!!!減ってのかよ、クソッたれどもがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
あああああああ!!!とほぼやけくそ気味になりながらも▽は両手に握った『ハンドガン』の引き金から決して指を離すことなく撃ち続けていた。もう何体撃って、何回弾倉を変えたのか分からない位に彼女は興奮しながらただ撃っていた。
だが、撃ち続けていることはできなかった。
カチッカチッと弾が無くなったことを知らせる音が彼女の耳に入ると、▽は腰後ろに手を回した。そして、両手を前へ出すとその手には弾が込められた弾倉があり・・・・・・。
次の瞬間、何の躊躇いもなく彼女は両手に持った弾倉をあろうことか、宙に向かって天高くに放り投げた。ヒュンヒュンヒュン、と遮るモノが何もない宙を舞うそれらを他所に、彼女は両手に握られている黒い塗装が為されている『ハンドガン』の引き金上のある排莢スイッチを押して、その場で軽く舞った。
何も知らぬ第三者が見れば何をしているのか全く分からない行動だが、突如として回転を止めた彼女の手には空になった弾倉はもう既に『ハンドガン』から排出されており、あるべきところには何もなくただの空いた空間だけだった。
回転を止めた▽は何を思ったのか、今度はくるくると左右の手に持った銃を縦に回し始める。そんな彼女を隙だらけと感じたのかモンスターの一体が突っ込んでくる。だが、▽の顔には恐怖など全くない。そこにあるのは単なる笑みだ。
「▽っ!!!」
そんな彼女を呼び止める声が聞こえるのと同時に突っ込んできたモンスターの頭に一本ナイフが突き刺さり、モンスターは走る勢いを殺すことなく前のめりに倒れる。倒れてもすぐに止めることはなく、ズザザ!!!と身体を地面に擦りながら、モンスターの身体は彼女に向かってくる。だが、そこにはもう身体を操るだけの力はもう既になく。
▽は自身に当たる前に足で頭を踏み抑える。踏み抑えたその時に合わせる様にして、宙を舞っていた弾倉が落ちてきて・・・・・・・・・、カチリと『ハンドガン』の弾倉入れに入ったのだった。
初弾を装填するために『遊底』と呼ばれる部分を後ろに引いて手を離すと今度はカチッという音が聞こえた。
撃つ準備が終わった▽はナイフを放った人物に礼を言うために背後を振り返った。
「助かったぜ、レオナ。ちょうど、弾が切れちまってな。」
ハハハ、と笑う彼女に対し、レオナは口を開いて言った。
「▽。それでしたら、マスターと同じく『あの凶悪な六連装の重い武器』を持ってみては如何かと思いますが。あれは見た目はあれですが、装填する必要はないから楽でいい、と仰っていましたよ?」
「バカ言うなよ、レオナ。あんなクソ重たい武器持とうとする頭おかしい奴は、チーフやマスターみたいな連中だけで十分だ。」
そもそもの話。
「あんなクソ重いわ、すぐに熱が籠もって使えなくなる武器なんざ、使い物にもならねぇしな。・・・・・・・・・そんなのいつも使ってるチーフには頭が上がらねぇし、そんな主をマスターに持つお前にも頭は上がらねぇけどな。」
「ja。それはそれは。お誉めに預かり恐悦至極。出来れば、その様な感謝の言葉は貴方の口からではなくマスターの口から聞きたいですが。」
「嫌味か?・・・・・・・おい、レオナ。それ、嫌味で言ってるんだよな?お?喧嘩か?喧嘩売ってるのか?」
「貴女に売ってどうするのですか。」
「まぁ、お前から買ったとしてもいつの間にか後ろを取られてお陀仏になるからな。・・・・・・・・・・で、レオナ?」
話をしつつも二人に向かってくるモンスターを▽とレオナの二人は銃とナイフで捌いていた。
「お前なんでここにいんの?チーフは?」
今更になって訊いてくる▽に対し、何考えてんだコイツ、と内心で思いながらレオナは答える。
「ケイトがマスターを置いて先に突っ込んだので、私も来た次第です。」
「ケイトが?」
「えぇ。・・・・・その証拠にほら。」
そう言った彼女は何のことか分からないという▽にも見えやすい様にある方向を指差した。ちょうど指差したタイミングに合わせたかのように爆発が巻き起こった。
「あ~・・・・・・・・・・、あれか。なんか妙にうるせえし、『ヒューマン』にはまだアレだけの爆発起こせねぇはずだけど、なんでかなって思ったら、やっぱりあの爆破女か。・・・・・・・味方にいると安心できるんだがな。敵にした時が怖くて想像できねぇぜ。」
「敵にするのも味方にするのも簡単ですよ?」
「お前が言うな。」
まぁ、とにかくだ。
「チーフを含めた三人が来たとありゃ、こいつらもすぐに消せるだろ。」
「ja。ですが、油断大敵、ですよ?」
「ハッ、知るかよ!!」
レオナに対して、▽は少し小ばかにしたようにそう言うと、レオナをその場に置いて自分だけ前に出た。固まって行動していれば、踊る様に銃を使っている▽にとってはレオナは邪魔でしかないと思ったからだろう、レオナはそう勝手に思うことにした。
単独で群れに当たっているケイトは心配する必要はそもそもない。なぜならば、心配したところで五体満足に帰ってくるからだ。
であれば、とレオナは考える。
この場は▽の独断戦場。今、心配するべきはここにいるもう一人の、エルミアだけだ。
そうレオナは考えると、エルミアを探すためにその場を後にしたのだった。
「くっ、しつこいですねっ!!!」
腰後ろに付いている(浮かんでいるといった方が良いかもしれないが)武装ユニットを手元に寄せながらエルミアは攻撃を行う。
三つの砲口から放たれるのは実弾ではない黄色く長い光だ。
その光に当てられて二体のモンスターの身体が焼け倒れるのだが、ただ掠っただけの一体は当てられた怒りからかエルミアから視線を外すことなく彼女に向かって突っ込んでくる。
「ちぃぃぃぃぃぃ!!!」
向かってくるモンスターが足を止めずに向かってくることに舌を打つと、武装ユニットを後ろに向けて投げる様に手を離し、それとは別に空を浮かんでいた他の武装ユニットを手に取ると、エルミアは躊躇することなく引き金に手を掛けて・・・・・・引いた。
そのユニットからは先程よりも太く濃い色をした熱を帯びた光線、熱線が出た。熱線はその姿形を変えることなくただ突き進んでいく。熱線の熱さに焼かれたからか、発射されるまで生い茂っていた緑は焼け焦げた土を残すだけとなった。
それ故に。
「グアァァァァァァァァ・・・・・・・。」
熱線に当てられたモンスターが悲鳴を上げようと口を開いたが、悲鳴が出る前にモンスターの身体が溶かされたからか、最後の悲鳴を言う前にモンスターは身体を失って倒れた。
「流石に量が多いですね・・・・・・・・▽は大丈夫でしょうか?」
戦闘が始まる前に距離を取った白髪の隻眼をした女性の安否をエルミアは気遣うようにしてそう呟くが、その様に独り言を呟く彼女から少し離れたところから爆音が聞こえた。
今現在、爆発を起こせるだけの火力を持つ武器はエルミアの手元にも、両手に小規模な威力しかない『ハンドガン』を持つ▽にも爆発を起こせるだけの火力の武器はない。さらに言えば、モンスターたちと交戦する前に見た『ヒューマン』たちの武器にも爆発を起こせるだけのモノはなかった。
とすれば、答えは一つ。
「・・・・・・・ふふっ。少しは待っていてくれてもいいというのに。なかなかどうして。」
そう呟いたエルミアの耳に聞き慣れた音、『タタタッ、タタタッ、タタタッ。』と規則正しい音が後ろの方で聞こえ、そちらを見る様に振り返った。
『無事か、エルミア!?・・・・・・・・▽はっ!?一緒じゃないのか!?』
どこか慌てた様子のケンジにエルミアは疑問する。どうして、そんなに慌てるのか、と。
「nein。いいえ、110。彼女とは別行動です。」
『あんのバカっ。一人の方が行動しやすいのは分かるが、いくらなんでも・・・・・・・・・っ。』
エルミアと会話しながら彼は左と右の両腕を大きく広げて左右のモンスターに向けて身体をゆっくりと回し掃射した。重い音を轟かせながら回転し弾丸を弾き出す『ガトリング』と規則正しい音を出しながら弾き出す『バトルライフル』。
その二つから聞かれる音は決して綺麗とは言い難い不規則な音であったが、それでも一つの曲を奏でている様にエルミアには感じられた。
そう。
それはまるで曲を奏でながら踊っている様にエルミアの瞳には見えた。
だが、それも長くは続くわけもなく。
数秒経つと、彼は舌打ちをすると、空の弾倉を変えるために『バトルライフル』を持った右腕を大きく外側に向けて払った。払われてカツン、と音を立てて弾を無くした弾倉が落ちる音が聞こえるが、ケンジは落ちた弾倉には一切気にしない様子で大声を出した。
『くそっ。弾が切れた!!再装填頼む!!!』
そう言うが早いか、マントの下から弾倉をしっかりと握った無骨でそれほど装甲もなく貧弱そうに見えるロボットアームが出てくる。それが出てくるのに合わせて、ライフルの弾倉が入る場所に突き入れる様に置いた。きちんとセットされたのか、サッとロボットアームから間隔を開ける様に上に上げて、『チャージングレバー』を勢い良く引いて、パッと離した。
そうしている間も、左腕の『ガトリング』は動きを止めることなく弾丸を弾き続けていたが、ちょうどケンジが再装填を終えた時に熱が籠もったのか弾丸を出すことなくただ空回りする。
その事に腹を立てることなく(内心では立てているだろうが)、彼はエルミアの方に顔を向けると、訊く様に口を開いた。
『ってことは、▽とは別行動してて、どこ行ったかは知らないんだな!?』
「ja。お力添えできずに、申し訳ありません、110。」
『いや、いい。気にするな。』
彼の疑問に応えることが出来ない無力さを感じながらエルミアはそう答えた。しかし、疑問を投げかけた当の本人は気にするな、とただ一言だけを呟く様に言い、二人から距離が離れた場所で聞こえる銃音に耳を向ける様にエルミアから顔を背けた。
『とすると、だ。・・・・・・・・・あんのバカ、少し無理してるんじゃねぇだろうな・・・・・・?ちと助けてやるか・・・・・・?』
だったら、と意を決した様に言う彼は続けるように言った。
『ここは頼めるか、エルミア!?』
「ja。出来ますが・・・・・・・・貴方はどうするので、110?」
『▽を助けてくる。ケイトが遊んでくれてるおかげで数は減らしてるからな。全部倒すのにそんなに時間は掛からんだろう。』
それじゃ、任せた。
エルミアの返事を聞くまでもなく、ケンジは▽がいるであろう方向へと足を向けるとそのまま行ったのであった。
レオナと別れて数分後。
もう何体倒したのか、数えるのが嫌になっていた▽であったが、ちょうどその時を狙ってか一体のモンスターが突っ込んできた。
「・・・・・・・・・・っ!!!!」
させるかっ!!!と接近を阻もうと手に持った『ハンドガン』の引き金を絞る▽であったが、弾は出されることなくただカチリと残弾が無くなった音を知らせるのみだった。
「・・・・・・・・・っ!!!クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
残弾が無くなったことに気付けなかった自身に対して向けた怒りをモンスターの横っ面に蹴りを入れることで発散させた。だが、それが不味かった。
弾が無くなるまで誰からの妨害もなく踊り続けていた彼女が踊りをやめた。その事実に彼女から距離を開ける様にしていたモンスターたちは一斉に彼女に身体を向けて走ってきてしまう。彼女は舌打ちを再び撃つと、まだあるであろう弾倉を探るために腰後ろにあるバックパックに手を差し込んだ。
だが・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・んだとぉ!!!弾倉がねぇだとぉ!?っ!!!クソがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そこにあるはずの感触がないことに▽は恐怖した。
弾がなく、目の前には自身よりも大きいモンスターの群れ。
どう考えても、目の前にいる群れから逃れる手は今の彼女にはない。とすれば、ただモンスターの群れに食われて、ただ死ぬのみという事実。
「・・・・・・・・・・・・・・・ここまでか。」
ただ、計算を怠った。最期の最期で残弾の計算が出来ていなかったとはなんという皮肉か。
これが彼女のマスターがいれば、後でどんな目に遭うのかは全く分からない。
だが、彼女の主はここにはいない。であれば、自身の最期を誰にも知られることなく終わることは出来るだろう。
・・・・・・・・・・・どうせ生きていても出会うことが出来ないのであればいっそ・・・・・・・。
一体のモンスターが角を構え、▽の身体を上空に突きあげた。
『・・・・・・・っ!?▽っ!?』
彼女が上空に打ち上げられた姿を見たのだろう、自身の主ではないが彼女には聞き慣れた声が聞こえた。
彼の名前は何だっただろうか・・・・・・・・・。
彼の名前をつい最近呼んだ気もするしそうでない気もする。だが、分かっていることもある。
彼は彼女の主ではないということと、彼はまだ生きることを諦めてはいないということ、その二つだ。
「・・・・・・・・がっ!!!!」
空高く打ち上げられた▽だったが、打ち上げられたままでいるはずもなく、放物線を描くと、地面に身体を強く打ちつけた。叩き付けられるようにされた身体の中にある空気が強く外に出される様に▽は強く咳き込んだ。
強制的に出された空気の分を自身の身体に取り込むように彼女は深く息を吸おうとする。だが、ここは戦場であり、彼女にはそのようなことに時間を割くことは許されてはいない。その事を知らしめるかのように何体かのモンスターが群れを作って▽を打ち上げようと駆けようと身体を向けてくる。
逃げるべきなのだろう。
身体を起こしてその攻撃を避けるべきなのだろう。
しかし、▽の身体は全くと言っていいほど動くことはなかった。
いや。
動こうとはしなかった。
どうせ生きていてもただ時間が過ぎるだけであの頃みたく何か楽しいと思うこともない。生きていても、ただ時間が過ぎていくだけだ。
あの頃いた『スパルタンと呼んでいた自身の主たち』を知る者も数を減らしていった。今、こうして生きているのも転生によって長すぎると言っていいほどの寿命があるだけであって、別に死のうと思えばいつでも死ぬるのだ。
そうだ。
自身の主も言っていたではないか。
『「スパルタン」は死なない。ただ消えるだけだ。』と。
とすれば、会いに行くためにただ消えることもいいのではないだろうか。
途端に生きるために、抵抗する意欲が削がれた様に動かなかった▽の下に白い装甲を身に纏った大男が駆け付けた。
『いつまで寝てるつもりだ、▽!!!寝てる時間はもう終わりだ!!!!!とっとと身体を起こせ!!!』
怒鳴りつける様に言いながらも彼は地面に倒れたままの▽を庇う様に前に立つと、『左腕に持っている銃器』を二人に向かってくる群れに向けてそれを唸らせた。
地獄の底から這い出てきたように低く重い音を唸らせて六つの銃身を回しながら一体、また一体と屠っていく。その姿は地獄からやって来た死神かそれに近いなにかを彷彿とさせるものだった。
彼が背に付けているマントが風に靡く様に舞う様子からそう思ったのかしれなかったが、今の▽には全く判断が付かなかった。
「・・・・・・・・・・・なぁ・・・・・・・・・・・、あんた。」
いつも呼ぶはずの愛称では呼ばずに呼んだことに彼は不信感を抱いた様子で背後を振り返った。
『どうした、▽?』
「なんで、あんたは戦うんだ?・・・・・・・・・・・あんたが戦う意味なんざない戦いだろうに。・・・・・・・なぁ、なんでだ?」
彼の疑問に彼女は疑問で返した。
その疑問にどう答えた方が良いべきか悩むように彼は頬を掻くと、答えた。
『意味、意味か。・・・・・・・・どうだろうな。意味があるかもしれないし、ないかもしれん。んなもん、考えながら戦おうともしなかったしな。』
ただ、と言葉を続けた。
『頭に来る化け物がいたら、ぶっ飛ばすだろ?勝てねぇかもしれねぇとか考えるよりも早くにぶっ飛ばそうとするだろ?自分よりも遥かに強くてデカい存在なら尚更だ。』
ま、要するにそういうことだ。
そう彼は言うと▽の身体を起こす様に彼女に手を差し伸べた。
『立てるか、▽?ケイトのヤツが暴れまくってくれたおかげで、もうほとんどモンスターの殲滅は終わったもんだが・・・・・・それでも、まだ活きが良いのがいやがる。そこで寝ててもいいが、寝るんだったら、ここじゃなくて「要塞」のとこで寝てろ。』
彼はそう言った。彼の言葉を聞きながら手を掴んで彼女は身体を起こした。
「・・・・・・・・あんたはどうするんだ?」
『俺か?俺は・・・・・・・・ケイトのヤツがほとんど平らげちまったから暴れ足りねーんだよな。とは言っても肝心の武器の弾は全部使っちまったし。いっつも持ち歩いてる「コンテナ」もねぇときやがる。これ以上はもう無理とか無茶の領域ってのも分かってる。・・・・・・・・・・・分かってるんだが、暴れ足りねぇ。もう少し、遊んだら戻る。』
そう言った彼の言葉に、この人は相変わらずだなぁ、と▽は呆れた様子で返事を返した。
「ja。了解だぜ、チーフ。・・・・・・・・・無理はすんなよ?」
『はっ、誰がだっての。それに、だ。お前だって知ってるんだろう、▽?「スパルタン」は・・・・・・。』
「死なない・・・・・・・、ってか?」
『ああ、そうだ。「メカノイスを選んで無理や無茶を押し通すプレイヤー」は死なない。死んだとしても、ただ消えるだけ、だってな。だから、大丈夫だ。』
ケンジはそう笑う様に言いながら、彼女の頭を乱暴に撫でた。そんな乱暴に頭を撫でられているのも関わらず、彼女は、▽は嫌がるそぶりも見せずに彼と同じく笑っていた。
それは昔を懐かしむ様にも、また今を楽しむかのようにも見えた。
二人がそんなことをしている間にも遠くの方では爆音が聞こえる。
『とっとと。こんなことをしてる場合じゃねぇ。早く行かねぇと全部平らげられちまう。そういうわけだ、▽。もう少し、遊んでくるっ。』
「分かった、分かった。無理はするなよ、チーフっ。」
『無茶はするけどなっ!!!』
ハハハッ、と笑って駆け出していくケンジの背を▽は止めることなくただ見送ったのだった。
『ったく、遠くの方まで行き過ぎだろ。もう少し手前の方で暴れろっての。向かってく身にもなれっての。』
クソッたれが、と呟きながら走るケンジの目の前では未だにケイトが処理をしているのか、爆発が起こっていた。この様子では後数分も経たないうちに、モンスターの掃除は終わることだろう。ケンジとしてはやはり暴れ足りないものでどこかでこの鬱憤を晴らしたいモノだったが、装備も何もかもが不足している現状、文句を言っても始まることでもない。
そう思うと、ケンジは走る足の速度を徐々に遅くしていくと、とぼとぼと歩き出すしたのだった。
『あのバカ、何が楽しいのか、暴れまわっちまって、まぁ。お兄さんとしては嬉しいんだけど、もう少し俺のこと考えてもう少し残してくれてもいいと思うんだよ。・・・・・・・お前もそう思うだろ、なぁ?』
ただの独り言を呟く様にしていたケンジだったが、近くにいる誰かに訊く様に疑問をぶつけた。
答えが返ってこないことに疑問符を浮かべケンジはそちらを見る様に顔の向きを変えた。
すると、そこには。
「たす、たすけ・・・・・・・・。」
「ガツ、ガツ、ガツ。助け、呼んでも、無駄。ここには、誰も来ない。大人しく、しろ。」
「そ、そん・・・・・・・・。」
獣の様に#横たわる何かに覆い被さる様にする何かがそこにはいた。
だが、その獣は何かを食べるのに夢中なのか、すぐ傍にいるケンジのことなど気にした様子もなかった。
やがて、食べ終わったのかゲフゥとげっぷと出し顔を上げ後ろを振り返す様に顔を向けて、・・・・・・・・・・・・・ケンジと目が合った。
「なっ!?お前、『メカノイス』かっ!?」
『そういうお前は、「魔人種」のクソッたれだな?』
驚いたという様に驚く『バイオス』に対し、ケンジはクソはやっぱりどこまで行ってもクソだなぁ、と思いながら右手の親指にワイヤーが掛かっているリングを掛けた。
「だと、すればっ。どう、するっ!?」
『こうする。』
もう既に興味が失せたのか、そちらから視線を外しながら、右腕を向けるとリングを掛けた右親指を押し込んだ。
その直後。
タァーン。
一つの乾いた銃声が周囲に鳴り響くと、何かに覆い被さっていた『バイオス』の額に一つの穴が空いた。
やがてその獣は力を失ったのか力が無くなった様子でただ後ろに倒れていき・・・・・・・・・完全に倒れる前に姿が消えた。
『仇は取ったぜ。・・・・・・・・・名前も知らない誰かさん。』
そう言いながら、ケンジは地面に落ちて散乱している装備を拾う様に近付いていく。
そこには破損が激しい鎧と兜、半ば折れていた西洋剣があった。
それだけを見た様子でこの誰かは恐らく『要塞』を堕としに来たであろう『ヒューマン』の騎士なのだろうとケンジは察することが出来た。
そこから導き出される答えは・・・・・・・・・。
『「バイオス」が「ヒューマン」と「メカノイス」の両者を潰すためにモンスターの群れでこの場を乱そうと暴れた・・・・・・・・?何のために・・・・・・・・?両者を潰しても、まだ「人間種」がいなくなるわけじゃねぇ。「精霊人種」だっているんだ。それなのに、何故だ?』
答えは出ていても更なる疑問が脳裏に浮かんでくる。そして、出てこない答えを求める様にケンジがただ茫然とした様子で遠くを見たその時に、それが目に映った。
ケイトの様に『ヒューマン』がする装備よりも遥かに軽装な外見をしている騎士風の男。
どこか悔し気に口元を歪める男。
そして、男はなにかを呼ぶように口を動かすと、その姿が消えた。
何も道具を使ったようにはケンジには見えなかったので、『ヒューマン』ではなく『エレメンタリオ』だと推測が出来る。『ヒューマン』であれば、何かしらの魔道具を使わなければあんなに早く魔法を扱うことなど不可能だからだ。
とすれば、答えはただ一つ。
『「精霊人種」が「魔人種」と手を組んだ・・・・・・・・?』
どういうことだ、とケンジはただ疑問に思っていた。
その遠くでは未だに爆音が聞こえており、後方では▽が『ヒューマン』の騎士たちに対し、降伏するようにと勧告をする声が聞こえた。
その時、ケンジの脳裏ではなにかとんでもないことが起きているという考えが渦巻いていた
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