パイルバンカー~我、悪を穿つ鉄杭なり~

絶対に斬れない刃

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第三部 いざ天上世界へ、上昇開始

第十七話 天上の陰り、地上の祭典

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天上世界アースガルズ』。
多くの魔物が数多くいたそこには今は数少なくなった『精霊人種エレメンタリオ』達が住まうまさに天の楽園、天国と言っていい場所だった。
人類種ヒューマン』や『機械人種メカノイス』等が支配する『地上世界ミズガルズ』等と比べ、文化レベルは低い。・・・・・・・・・・・低いと言っても、住み移ろうと考えた『プレイヤー』が誰もいなかったために文化レベルは低いのであり、では十二分だと言っても過言ではないだろう。
とは言っても、あまり食事など摂る必要がない『エレメンタリオ』にとってはそのレベルでも十分なのだが。
そのため、モノを作るために雑貨店を建てる必要もなければ、何かしらの本などを作ったりすることもない。の世界と比べてもないので、欲求を晴らすこともない。と言っても何もせずにただ茫然と空を見ること位しかない。
そんな退がこの『天上世界』だった。
「・・・・・・・・・それでも達がいた頃の方が良かった・・・・・かな?」
に背を預けながら、肩まで蒼い髪を伸ばした女性はどこか懐かしむように天を見上げて呟いた。
「う~ん・・・・・・・・・・、って言ってたケイトと一緒に良かったかな?」
でもなぁ。
、どうせレオナ辺りに雑用任されるのが目に見えてるし・・・・・・・・。う~ん。・・・・・・・・私、はあんまり得意じゃないんだよね・・・・・・。」
はぁ。
とか達と暴れてたあそんでた頃が懐かしいや・・・・・・・・。今頃どうしてるんだろう、。・・・・・・・・・・でも元気にやってるのかな?」
そう言っても何にも始まらないか。
よし、と気合を入れる様に預けていた金属の塊から背を離し・・・・・・・・・。
「何っ!?『バイオス』の群団、その六割をだとっ!?バカか、貴様っ!!」
「・・・・・・・・・・・・・ん?何かな?」
突然、何処かで誰かを怒鳴りつける怒号が聞こえ、彼女は立ち上がった身体を姿勢を屈ませて周囲を窺った。
すると、『エレメンタリオ』にしては、(とは言っても彼女から言わせてもらえば全くなっていない粗末としか形容できないモノだったが)装備を整えている『エレメンタリオ』の男性六人の姿が目に留まった。一人の対面に一人、その周囲を四人で囲む形でいた。
「・・・・・・・・・・・これは、ね・・・・・・。」
囲んでいる四人の発するモノからを彼女は感じたが、その場に介入しようとはせずに何が起きているのかを観察することにした。
「お、お待ちくださいっ。は『ヒューマン』と『メカノイス』、。ですが、予想外のことが起こってしまったのです!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・ほぅ?とな?」
「えぇ!!!貴方もご存じのはず!!!、『』と呼ばれた者がいたことを!!!そう呼ばれた存在があそこにはいたのです!!!」
「・・・・・・・・・・・・・『』・・・・・・・・・だって?」
いたとされる伝説の存在を示すの呼び名を彼女は聞いた。詳細を聞きたかった彼女であったが、彼に対峙するように立つ男は続きを促そうはしなかった。
「『』のことは知っている。・・・・・・・・・だが、には・・・・・・・・。。」
それに。
「お前が何と言おうと、『地上世界ミズガルズ』を『バイオス』どもに譲ることはのだ。決まっている以上はこの責任を誰かが負わねばならん。・・・・・・・・そうだろう?」
「で、ですがっ!!!」
「安心しろ。お前はただ抵抗せずに。そうだろう?」
連れて行け、と男性の周りに立つ四人に指示を出す男。
男の指示を受け、必死に謝罪の言葉を掛ける男性を四人の男たちは連れて行く。
彼女は一瞬、男性を救うべきかどうするべきかを考える。この場に緑の轟爆風ケイトがいれば、周囲をただ吹き飛ばいいので、何も問題はない。だが、ここにはケイトはいない。
彼女の傍にいるのは己の得物である槍がただ一つあるだけだ。
そうして悩んでいる間にも男性の声が徐々に離れていく事実に彼女はもはや悩んでいる時間はない、と考え出ようとし、身体を起こす。
だが、彼女は駆け出すことが出来なかった。
彼女の足を縫い留める様に男の鋭い視線が自身を射抜いたためだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ。」
彼女は何か言葉にすることも動かすことも出来なかった。
男はその事で、彼女から興味を失ったのか顔の向きを変えると、どこかへと歩き出してしまう。
「・・・・・・・・・・、はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・・・・、何、・・・・・?」
』と呼ばれる『メカノイス』七人が結成した『旅団』、その『旅団』と呼ばれる集団にいた己の主にことを内心の中で自慢に思っていた彼女であったが、その自慢はいとも簡単に崩れてしまったことに彼女は衝撃を受けた。
自分には何もない、何も力などなかったのだと。
だが。

だが、

「・・・・・・・・、誰かに・・・・・・・、誰かに知らせないとっ。」

それを悟れぬ彼女ではなかった。自身で何も出来なくとも、自身ではない誰かに伝えることはできる。
そう思った彼女は、その場を後にしたのだった。



『リシュエント帝国』。
そう呼ばれた国の中央部に鎮座する城がある。
その城内にある控室の一つには、白い装甲に覆われたと短く切り揃えられた緑の髪を揺らす女性。それと顔を隠す様にフードを深く被っている人物。
奇妙という他にない組み合わせをした三人がそこにはいた。
『なぁ、レオナ。一ついいかな?』
「ja。何でしょうか、?」
装甲に覆われた、『ケンジ110』は素直に疑問を持ったことを己に付き従うフードを深く被った人物、レオナに疑問をぶつける様に訊いたのだった。
『あのさ、なんで俺、にいるの?』
「・・・・・・。こうは言いたくはないのですが・・・・・・・・・いえ、に来る前にも話しましたが・・・・・・・・。」
いいですか?
「先日の戦闘で『ヒューマン』と『メカノイス』、この両者がぶつかり合ったのは貴方マスターもご存じのことですよね?」
『・・・・・・・・・・俺もいたからな。』
彼女の質問には、何を当たり前なこと言ってるんだ、と言うような口調で言うが、そう言われた彼女はそんなの態度に何も言わずにコクリと頷くと、言葉を続けた。
「ja。実際にはモンスターを率いた『バイオス』が両者を潰そうとけそうと、大軍を率いて来たわけですが。」
まぁ、それでも。
「『メカノイス』側を支援するために駆け付けたの手によってその思惑は阻止されましたけど。」
『・・・・・・・・暴れるあそぶにしてはけどな。あともう少しだけ、数と強さがあれば、な。』
「・・・・・・・・・・・・・・・それは言っちゃだめだよ、。」
『俺よりもお前がそれ言うか、普通?』
短く切り揃えられた緑色の髪をした女性、ケイトが静かにケンジに指摘した。その言葉に対し、は、彼女にツッコミを入れるが、素知らぬふりかそっぽを向いた。その行動に、ケンジは静かに、こいつ・・・・・・!!と内心の中で怒りを露わにしていた・・・・・・・・が、今はケイトに構っている場合ではないか、と思うと、レオナの方へ視線を戻したのだった。
「ま、まぁ、ケイトがよりものは、ひとまず置いておくとしてですね。」
『いや、置いたらダメだろ。』
レオナの言葉にケンジはツッコミを入れるが、いちいち反応していたら話が進まないと思ったのだろう、彼女にしては(あまり珍しくはなかったが)、無視して言葉を続けた。
「私たち三人の参入によって、『バイオス』たちの思惑は外れたわけですが。・・・・・・何と言いますか、その戦いに参加していた『ヒューマン』が私たちのことをに報告したらしくてですね・・・・・・・・。」
『助けてくれたなら、、ってことで式を開くってか。』
「ja。・・・・・・・・まぁ、貴方マスターが仰ることも分かりますけどね。」
困ったという様に苦笑いをする(顔が見えないため分からないがきっとそうだろう)レオナに、ケンジは難儀なもんだ、とどこか他人事のように思いながら窓に映る外の景色をぼんやりと見ていた。
そうなのだ。
つい先日の戦闘。は『メカノイス』と『ヒューマン』を互いに戦い合わせようつぶしあいをさせようとした『バイオス』が仕組んだものだった。その手引きをしていたのが共にいるはずの『エレメンタリオ』だと言うのだから質が悪い。
両者を戦い合わせて数が減ったところで『バイオス』が一暴れをして、『エレメンタリオ』が『地上世界ミズガルズ』を支配する、という計画だったらしい(らしいと言うのは事の本末を知るであろう人物からレオナがからであって詳しいことは分からなかったが)。
その計画自体は実に巧みに組まれており、何十年も前から仕組まれていたとのことだった。レオナ曰くは、『ヒューマン』と『メカノイス』が互いに遠ざける様になり始めたのもちょうどその頃であり、対立関係ではなかった『エレメンタリオ』は互いの仲を取り持つ様になっていたとのこと。と言っても、遠ざかっていたので詳しくは分からないとの事だったので詳しくは聞けなかったが。
では、レオナよりもよく会っていた(らしい)ケイトならば知っているのではないかと思ったのだが、これはそんなに簡単なことではなく、ケイトもではない、『天上世界アースガルド』にいたらしく、のは比較的最近のことだった。
まぁ、知ろうとしたところで『楽しく遊んでたプレイヤースパルタン』と呼ばれた連中に関わっていた人物が話しかけようとしたところで逃げられるのは考えなくとも分かることであり、そもそもの話、には残念ながら器用とは決して言い難いケイトが探りを入れることは出来なかっただろう。
そう思い、ケンジは静かにため息を吐いた。
欲を言うつもりはない。ないのだが、せめて、自身よりも人との付き合いが良ければそうした陰謀めいたことも分かったはずだと思うのだが・・・・・・・・・過去のことに対し文句を言っても始まらない、と思うことにした。
そうして綿密に計画され、今回の騒動、『ヒューマン』対『メカノイス』という構図が出来上がったのだがここで問題が起こる。
そう。
、戦うと言うよりも遊ぶようにして楽しんでいた処刑人と恐れられていた『』(無論ケンジのことだが)と呼ばれた存在が上でその戦いに参入してきたのだ。
』と言う存在がいるとなれば、伝説として語り継がれた『静かなる白銀の暗殺者』(レオナのこと)と『明緑の轟爆風』(ケイトのことだ)の二人が介入してこないはずがない。・・・・・・・・まぁ、それだけで済むわけもない。
現に『』と呼ばれた『プレイヤー』達の内、それはそれは七人、『旅団』と恐れられた『』達に付き従う『サポートキャラクター』の大半は最上位種であるエクストラExクラスへの転生を終えている。その為に、声を掛けようと思えば集まることだろうが、今は『旅団』もなく、集まる機会もない。
であれば、何処に誰がいるのか全く分からないというわけだ。・・・・・・探そうと思えば見つかるだろうが。
そんなこんなで両者を潰そうという思惑は誰も勝ちえない第三者ケンジらさんにんの参入によって砕かれたわけだ。
今では、仲が悪かった『ヒューマン』と『メカノイス』の両者の関係は以前よりも改善されたと言っていいだろう。その代わり、『エレメンタリオ』との仲は悪くなったかと言えばそうではなく。
ケイトという最強の矛である彼女曰くには、計画していたのは『天上世界アースガルド』にいる暇を持て余した連中であり、『地上世界ミズガルズ』に降りている『エレメンタリオ』ではないから安心して、という言葉に『ヒューマン』と『メカノイス』の両者は(と言っても『ヒューマン』が主だったが)当初彼女の言葉を信じられてはいなかった様子だったが、彼女がモンスターと『バイオス』の大半をこと、彼女が『ヒューマン』が多くいるこの『リシュエント帝国』の為に働いてきた功績のおかげで人々の疑心はすぐに晴れた。・・・・・・・・・・とは言えども、彼女を怒らせたら、と大半の人間は思っていたのかもしれなかったが。
そこに恩義を感じたのか、感謝の意を伝えたいと言われてに呼ばれたのがつい先日の出来事で、二人の主であるケンジも連れてこられた(彼女たちの安全装置セーフティという意味合いが強いだろうが)のが、数時間前のことだった。
『・・・・・・・・・・ったく。にいちいち俺が出る必要あるか?この前の戦闘で消耗した分の武器なりの整備だって残ってるんだぞ。ケイトのグローブだって壊れてるし。』
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・そこに関しては謝る。・・・・・・・・・・ごめんね、。」
『お前が壊すことは珍しくも何でもねぇから怒ってねぇよ、ケイト。ただ壊すこと得意中の得意なお前が今の今まで壊さなかったってことに驚いてるってだけだ。』
「・・・・・・・・・・・・・へへ。・・・・・・・・・・褒められちゃった。」
『褒めてねぇよ。』
ケンジはなりに皮肉を込めて言ったつもりだったのだが、ケイトにはそれは伝わらなかったらしく彼女にしては珍しく嬉しそうに微笑を浮かべていた。
それで、とケンジは一旦言葉を区切る。
『俺が居るのはなんでだ?』
「それはですね、。」
レオナが説明しようとした時、そのタイミングを見計らってか勢いよく扉が開かれた。
「何を隠そう!!!!この私、セシル・リシュエントが頼んだからだ!!!!」
開かれた扉にいたのは騎士には程遠いが王という印としては目立つ格好をした女性がいた。・・・・・・・・・女性と言っても少女と呼んだ方が良いかもしれないが。
ちらりと少女の腰に挿してある装飾がやけに目立つ鞘をケンジは見た。

言葉を発することなく胸中でケンジは呟いたが、がどのような気持ちでいるのかを察したレオナは頭に手を置くと、話題を変える様に言葉を続けた。
「・・・・・・・・ということです、。」
で。
。まだの支度が整ったという連絡は受けてはおりませんが。如何様か、御聞きしても?」
少し怒気を含んだ言い方でレオナは、雰囲気位察しろよ、察すること位できるだろ?できないのか?おぉ?と言葉の裏で言っていたのだが、無視したのかは分からないが、彼女の言葉には返答はせずに、ケンジの外見を見る様に周りを回り始めた。
「ほう、ほう。ほう?』がどの様なモノかと気になって来たのだが。まさか、とはな。」
彼女がそう言った途端に、控室の温度が上がった・・・・・・・・・とケンジは思った。上がったとは言っても身体が金属で覆われているために分からないのだが。
ゆらりと身体を揺らす様にレオナは立つ。・・・・・・・実際には彼女の身体は全くと言っていいほど揺れてはいなかったのだが、ケンジにはそう見えた。
「ほぅ?・・・・・・・・、貴女は今、の装備を見て、、と申されましたか・・・・・・・・?」
「うん?あぁ、レオナ殿か。あぁ、言ったと・・・・・・・・ヒッ!」
言ったとも、と彼女は言うことも出来ずに悲鳴を上げた。
ゆらりと身体を揺らしながら、暗いフードの奥から碧い瞳が睨みつけてくる。その様に見られ、恐怖を感じない者は何処に居ようか。
否。
その答えは否である。
その様に睨まれて恐怖を覚えぬ人物は何処にも存在しない。現にレオナの正面に立つこの少女こそがその証明であった。
「一応、ではありますが、言わせてもらいますよ、。貴女が言われたの武装で我が主たるは『魔人種バイオス』が率いてきたモンスターの群れを打倒したのです。貴女方、『ヒューマン』よりも強い『バイオス』を、です。」
「なっ、なん・・・・・・・・だと・・・・・・・・!?今のは本当か、将軍!?」
レオナの言葉が信じられないという様に彼女は付き従う様に来たであろう騎士らしく甲冑を身に纏った姿の老騎士に問いを投げかけた。
否定してほしかったであろう、彼女の願いとは裏腹に老騎士は少女の言葉に首を横に振った。
「いいえ、。誠に遺憾ではありますが、レオナ殿が申されたことは事実。そのお方が我々、『ヒューマン』をお守りしてくださったのです。」
「そんな・・・・・・・・・。」
老騎士の言葉に項垂れる少女。
その少女とは全く違ってにこやかに笑顔を見せると、老騎士はケンジに握手を求める様に片手を差し出しながら近付いてきた。
。私、この『リシュエント帝国』の『騎士団長』をしております、カイ・ミハヤと申します。」
『・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、こりゃどうも。』
ぺこりと頭を下げながらケンジは差し出された老騎士の手を握った。すると、当然のことながら老騎士も握り返して来るのだが・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・ふむ?」
何かに疑問を感じたのか何かを考える様な呟きが耳に届くのだが、ケンジとしては、早く離してくれねぇかなこの人、と苛立ちに近いモノを感じていた。すると、そんなに助け舟を出すかの様に今まで動かなかったケイトがケンジの背後に回って静かに耳打ちをするような声で言った。
「・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・・・自己紹介。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?・・・・・・・・・・・・・・・なんで?』
静かに言ってくるケイトにケンジも同じような静かな声で訊き返した。その会話も静かなモノとは言えども、ケンジの手を握っている老騎士には筒抜けであろうが・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・将軍は、を知らない。・・・・・・・・・・・も将軍を知らない。・・・・・・・・・・だからこその自己紹介。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しない限りはずっと握ったままだってか。』
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・が騎士の流儀。」
やられたら返す、それがのやり方だ、とケイトの指摘を受け、ケンジは改めて覚悟した。郷に入れば、郷に従え、とは言うが人との交流はケンジにとっては難題だ。出来れば、レオナかケイトに代わりを任せたいところであったが、代理を任すことは出来ないだろう。ケンジは嫌だなぁ、とそう思いながら口を開いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スパルタンシエラ。』
「うん?」
名前ではなく、の略称であるという言葉を聞いて老騎士は疑問する声を出す。だが、ケンジは言い直すことはせずに
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スパルタンシエラ110だ。』
「ふむ、110と言うのですか。・・・・・・・・・・・では、殿とお呼びしても構いませんかな?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・問題ない。』
分かりました、と老騎士は再びにこやかに笑うとケンジの手を離したのだった。その老騎士の動きにレオナとケイトの二人はホッと静かに胸を撫でおろした。もし、老騎士がケンジを己の名を語れぬ不届き者めぃ!!!成敗してくれようぞ!!!などと剣を抜き、ケンジを斬りつけたのであれば、城ごと打ち壊しているところであったからだ。
そうなっていたかもしれないことを老騎士は知っていたかは二人には分からなかったことではあったが。
「して、殿。我々、『帝国騎士団』としては『バイオス』達が立てた計画を見事打ち破って下さったこと、我々を助けて下さったこと。この二つに対し、感謝の意を表したいのですが・・・・・・・・。」
如何ですかな?
老騎士は笑顔のまま、ケンジにそう訊いてくる。
礼をしたいという人間の提案を蹴ろうとする者はいないだろうと思って出された言葉であることは老騎士が笑みを絶やさずにケンジを見ていることから分かることではあるが・・・・・・・・。
ケンジとしてはそんな提案など、と言えるモノだった。
現状、『バイオス』は『エレメンタリオ』と手を組んでいる。そして、『エレメンタリオ』は『地上世界ミズガルズ』にはほとんどいない。いるとしても、ごく僅かだ。
とすれば、『天上世界アースガルド』に本隊と呼べるほどの多くがいると言っても過言ではないはずだ。
そして、『』がいない地上世界ミズガルズ』にその本隊が進行をしてきた際にを迎え撃つことはほぼできないと言っても過言ではない。
ケンジとしては、装備のほとんどがない現状より、出来れば手数を揃えた完全の状態で迎え撃ちたいと思っていた。
いくらケンジのレベルが四桁であったとしても激戦になることは避けられないだろうと予測していたからだった。
』と尊敬と畏怖を含めそう呼ばれた『プレイヤー』、その『プレイヤー』の中でもと恐れられ『旅団』と呼んでいた七人の集団。その七人であったとしても『バイオス』との戦闘で誰もわけではない。何人かは死んだきえたのだ。レベルが四桁あり、と恐れられた者たちでさえ、だ。
なので、ケンジとしてはとっとと『日常と戦撃の箱庭亭わがや』に戻って装備を確認したかったのだが。
そう思い、ちらりとレオナとケイトの二人の顔を見た。
二人は何も言わずにただケンジの顔を静かに見返すのみ。
・・・・・・・・・・・・・・俺にを任す・・・・・・・ってか。
難儀なもんだ。
そう思いながら、ケンジは老騎士に返事をした。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かった。』
の敬語もないそのままの言葉を聞くと、老騎士は更に笑みを深めた。
「おお!!!そうですか!!!!では、すぐに!!!ええ、すぐに執り行いましょう!!!大丈夫です!!式の支度はもうできております故!!!」
ささ、どうぞこちらへ!!!!
とケンジたち三人を案内するように部屋を出て行く。

「・・・・・・・・・・えっ。おい、将軍。私は、私はどうすればいいのだ・・・・・・・?」

ただ一人、自身よりも立場が上のはずのセシルをその場に残して。
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