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第三部 いざ天上世界へ、上昇開始
第十八話 天より舞い降りし雷神
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ケンジたち三人は老騎士の案内で城内にある大広間に来ていたのだが。
『・・・・・・・・・・・・・・・こんなに人がいるなんて聞いてないぞ。』
「ja。そうですね・・・・・・・。この規模を集めるとは私も予想外です・・・・・・。ケイト。貴女は知ってましたか?貴女は何度か来たことがあるのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・nein。・・・・・・・・・・来たことはあるよ?・・・・・・・・・・・けど、こんなにはいなかったかな?」
ケンジはケイトの言葉に疑問に疑問を返すとかどういう意味だよそれ、と聞きたくなる気持ちを抑えながらそれが終わるのを待っていた。
その大広間にはこれでもかという位の数多くの装飾の類が壁一面にずらりと並べられており、鎧を着た騎士たちも広いとは言えども目一杯に敷き詰めてみたと言っても過言ではない程ぎゅうぎゅうになるほど多くの騎士がいた。
これだけの規模を集めたとしても、これで『ヒューマン』全てではなく、ほんの一部なのだからケンジとしては頭が痛くなる話であった。
出来れば一斉に自身を見るのはよしてくれ、と。
ただでさえ、人とのコミュニケーションを取ることが苦手の『コミュニケーション障害』という治ることのない病を患っているケンジにとっては余計に億劫に感じてしまう。
これで多少は気を紛らわすモノがあれば話は別なのだが・・・・・・・・・残念ながら、そうは問屋が卸さなかった。
嫌だなぁ、とケンジが思っていると、彼の右後ろにいるレオナが突いてきた。
彼女にしては珍しいな、なにか話すことでもあるのだろうか、と少しそちらの方へと向きをずらす。
『・・・・・・・・・・・・・・・どうした、レオナ?』
彼がそんな風に訊いてきたことが可笑しかったのか、彼女はクスリと微笑むように笑うとこう答えた。
「nein。いいえ、マスター。大したことではないのです。大したことではないのですが・・・・・。」
そう。
「少し・・・・・・・・・、ほんの少し、緊張しておられる様子でしたので。」
『・・・・・・・・・・・・・・・そうか?』
「ja。と言っても、分かる人には分かると言った程度なのであまり思うことではないかと存じますが。」
もし。
「もし、ですよ、マスター?もし、貴方が気分を害されたと仰るのであれば私とケイトの二人でこじ開けますが・・・・・・・・。」
如何でしょう?と訊いてくる彼女にケンジは首を振った。
『・・・・・・・・・・・・・・・いや、それはしなくていい。』
「・・・・・・・・・本当に?」
『・・・・・・・・・・・・・・・ああ、本当だとも。・・・・・・・・・・・・大丈夫だ。』
気にするな、と言うケンジに彼女は心配した様子で見つめるが・・・・・・・・、彼女は何かに納得したのかコクリと頷くと言ったのだった。
「ja。分かりました。・・・・・・・・・ですが、あまり無理と無茶は禁物ですよ、マスター?」
『・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だから。』
「ja。・・・・・・・・それが聞けたのなら私からは特にございません。」
言い終わるや否や、レオナの気配が遠ざかっていくのをケンジは感じて身体の向きを元の正面へと戻す。すると、今度は左後ろにいるはずのケイトが突いてきた。
「・・・・・・・・・・・・大丈夫、チーフ?」
ケイト、お前もか、と思いながらもケンジは答える。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。・・・・・・・・・・・・・・問題ない。』
「・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・それは何より。」
何処かだよ、と彼女にツッコミを入れる前に彼女は言葉を続ける様に言った。
「・・・・・・・・・・・・いい男だよ、チーフ。」
今の会話でどこがどうなってそうなるのか、ケンジには分からなかったがそう言われたのであれば、何か返事をしなければいけないと感じ・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃ、どうも。』
と言うだけに終わったのだった。
そんなこんなをしてる三人を他所に式は進んでいるようで、ケンジが気付いた時にはいつの間にかレオナが壇上にいるのが目に留まった。
「レオナ殿。此度の戦で、貴君は我らが『騎士団』の数少ない同胞を救ってくれた。ここに、感謝の意を表し『銀剣』を授けたい。」
「・・・・・・・・・・・・承ります、将軍。」
鞘に納められた剣をレオナは老騎士から受け取る。その動きは儀式を思わせる動きであり、神聖なモノを思い浮かばせるものだった。そうケンジが感じていると、ふと今のケンジの装備がどんなものかを思い出し・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やべぇ。』
しまった、と後悔の念に駆られてしまうケンジだった。だが、銃器ではなく刀剣の類を装備するのは是が非でも断固として断る思いであった。どれ位かと言われれば。「そんなもの、早く捨てて刀剣を装備しろ」などと言われれば、問答無用で道理を突き破る思いだったと言えばいいだろうか。
どう表現すればいいかは分からないが、刀剣の類はケンジにとっては何としても装備したくなかったのだ。
そして、ケンジの装備は銃器に身を固めている完全武装には程遠い装備である。
・・・・・・・・・・・そう言われれば、普通の人間ならば、「それはおかしい」とツッコミを入れる人間はいるだろうが、悲しいかな、ここにそんなことを言ってくれるような人間などはいなかった。
「ケイト殿。貴君も此度の戦、『バイオス』が率いて来た群れを打ち滅ぼしてくれたと聞く。貴君の働きに、ケイト殿と同じく『銀剣』を授ける。」
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・貰っておく。」
いつの間にか、壇上に登っていたケイトもレオナと同じく鞘に入れられた剣を貰っていた様子にケンジは驚き、絶望していた。
次は俺の番か、と。
レオナやケイトの様子からしてその『銀剣』というモノは名誉あるモノなのだろう、と推測することはできる。
だが。
だが、しかし、である。
いかに名誉ある賞に値するモノだと言われ様ともケンジにとってはただのゴミ、不要の長物である。まだ、弾丸や砲門等であれば喜びは出来るが、たかが一回しか持たない使えない武器など必要でなく、不要であると言える。
そんな使いどころに困るただのゴミを渡されてもケンジとしては置き場に困る。
参ったな、とケンジが困っていると、ケンジの名は呼ばれることなく式は進んでいき・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・これ、俺がいる意味って・・・・・・・・・・・・・・なくね?』
呼ばれることなく式は無事に幕を下ろし、閉幕となった。
その事を証明するかのように今まで固まってるかのように立っていた騎士たちの数が徐々に減っていく。そして、残っているのがケンジだけになると、そこにレオナとケイトの二人が近付いてきた。
「・・・・・・・・・ふぅ。久々とは言ってもあれだけの人がいますと存在が薄くとも少しは緊張しますね。」
「・・・・・・・・・・・・・疲れた。・・・・・・・・・・・帰ろ、チーフ?」
緊張をほぐす様に言う二人の言葉にケンジは思考を止めたままだったので何も言い返すことはできなった。やがて、何かがおかしいと分かったのかケンジの様子を窺う様にする二人が動きを取った頃になってケンジは再起動を果たした。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・・・・・・レオナにケイトじゃねぇか。・・・・・・・・・・・・・・お前ら二人しかいないのか?・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、他の連中は?』
「あのですね、マスター。大変申し上げにくいのですが・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・チーフ。・・・・・・・・・・・・それならもう、終わったよ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ言うんじゃねぇよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・まだ俺何も。』
貰ってねぇよ、と言う前にレオナはケンジの手を握って来た。
「いいんです、いいんですよ、マスター。貴方はここにおられました。それだけでもよろしいのです。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったら、なんで俺こんなとこ来たの?・・・・・・えっ?来る必要なかったじゃねぇか。・・・・・・・・・・・この前、使い物にできなくなった分もどうにかしなきゃならねぇってのに。』
どうすんだよ、おい、と愚痴を言う彼をどうした方が良いかレオナとケイトの二人は互いの顔を見合った。まぁ、見合ったところで答えなど出てくるはずもない。
老騎士が『スパルタン』という遊び人たちが顔も知らない人物には名前を明かさずに彼らのあだ名、いや、通り名と言うべきか、その略称と番号だけを教えるというよく分からない風習など分かるはずもなく。そして、名を教えてもらえてられなかった挙句に彼のことをどう呼べば良かったなどということに悩んで結局のところ、呼ぶことはなかったということなど彼らには分からなかった。
・・・・・・・・・まぁ、死んだとされる伝説の存在とされ消えていった存在である彼、『スパルタン』がこうした式典に参加することで第三者にお前のことは見ているぞ、と事件の黒幕に裏で警告する意図で呼ばれたなどということは呼ばれた理由を全く知らないケンジにとっては訳も分からなかったのだが。
そうしたこともあってケンジはただ一人、心の中で、最近の『ヒューマン』ってのは人の都合も考えねぇわがままな連中なのか、少しはレオナを見習ってだなっ!!!と静かに怒っていたのだが、何も知らされていなかったであろうレオナとケイトに怒りをぶつけるのは筋違いか、と思って、抱いた怒りを抑えるケンジであった。
そんなことをしていると・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・おや、珍しい。今朝は晴れていたのに曇ってきましたよ、マスター?いきなり天気が崩れるなど珍しいこともあるモノです。」
外の様子を見ていたのか広間から外を覗く窓越しに外の様子を窺っていたであろう、そう言ったレオナの言葉にケンジは疑問する。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あん?天気が崩れるなんざよくあることだろうが。珍しいってことはよくあることなんだから。』
「ですが、マスター。この様に何の前触れもなく天気が急に崩れることなどありませんでしたよ?あるとしても・・・・・そう、ケイトが上から降りて来た時くらいでしょうか。」
『えっ。おい、ケイト。お前、「天上世界」にいた時あるのか?あそこ、何もなかったのに。』
レオナの言葉を聞いて、ケンジは驚きながらもケイトにそう訊いた。
ログアウトするために何かないか、ケンジ達七人の『旅団』と呼ばれていた集団が考えられ得る限りの可能性を行った挙句に全く何もなくなったという数少ないケンジたちにとっての実験場であったためにケンジがそう言うことは少しおかしいのだが。
正確にはなかったのではなく、無くしてやったという回答が正しいのだがそれを指摘する者も知る者もここには誰もいなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・確かに、あそこには何もないね。」
・・・・・・・・・・・・・まぁ。
「・・・・・・・・・・・・・・何かあるとしても。・・・・・・・・・・・・・ぼぅとしてることしか出来ないけど。」
・・・・・・・・・・・・・だからね?
「・・・・・・・・・・・・・・私は降りて来たんだけどね?」
『何もねぇってことはないだろ。「旅団の連中」が遊び尽くして何も無くなっちまったのは、まぁ、すまねぇとは思うけどよ。でも、上がる時に使った輸送コンテナはいくつかあるはずだぞ?たしか何回か上に打ち上げたっきり回収してねぇと思ったが。』
「・・・・・・・あ~、そう言えば、そんなことありましたねぇ。『旅団』の方々でとりあえず上に打ち上げて届くかどうか、やってみようぜというそんな理由で大型の輸送ユニットと射出ユニットを寝る間も惜しんで四日と少しで組み上げてみせたのは驚きましたが。」
『ああ。やったことねぇ軌道計算と行きと帰りの燃料どうするかで話し合うだけで三日使ったけどな。まぁ、行くだけの片道切符にはなるが、上がるだけならクソ頑丈なコンテナ作って撃鉄叩けばいいんじゃね?って結論になって結局、一日頑張って拳銃方式になったアレか。・・・・・・・・・・懐かしいな。』
レオナの言葉を聞いてどこか懐かしむケンジの二人であった。
そんな風にどこか昔を懐かしむ二人を他所に外では一つの雷鳴が轟いた。
「雷ですか。となると、雨が降りますね。」
『降るな。・・・・・・・けど、そんなには長く降らないと思うぞ?降ったとしても一、二時間位だろ。』
「そうですか?」
『まぁ、大雨になっても問題ねぇだろ。別に濡れても気にならんだろうし。・・・・・・・・なぁ?』
「そう言われると、確かに気にはしませんね。」
『だろ?だったら、大丈夫だ。』
それより。
『雷が一発鳴ってきただけで終わるなんてこたぁねぇだろうが・・・・・・・・。』
そう言って次の落雷を警戒するように言うケンジを他所に、彼の言葉が引っ掛かったのかケイトは一人考える様に呟く。
「・・・・・・・・・・・・・・・落雷。・・・・・・・・・・・・・・一発だけ。・・・・・・・・・・・・・上から?・・・・・・・・・・・まさか。」
何かが分かったのか、俯く様に頭を下に向けていた彼女は突然閃いた様にガバッと顔を上げると、ケンジとレオナの二人を置いていくようにして大広間の出口に向かって走り出してしまう。
『おい、ケイト。どうしたいきなり・・・・・・・・・・って、なに急に走り出してんだ、アイツ?』
「さ、さぁ?私にも分かりかねます。・・・・・・・・ですが、マスター。」
『そうだな、レオナ。アイツ一人だけにさせたら何するか分かったもんじゃねぇ。俺らも追うぞ。』
「ja。従います、マスター。」
ケンジの言葉に素直に頷くレオナに、嬉しいねぇ、と言葉には出さずに彼は言葉に出さずに彼女に感謝すると、二人はケイトが出て行った出口へと足を向け走り出していくのだった。
『リシュエント帝国』と呼ばれている砦から少し離れた平原。
そこに一人の女性がいた。
肩まで伸ばされた青い髪をして長槍を片手に持っていた。軽くはあるが、それでも身を守るにしては頑丈だと思える軽装備だった。周囲を確認するように周囲を見渡しているその目は鋭くなっており獣を思わせるモノだった。
「・・・・・・・・・あれ?誰も来ない?おかしいな、今のだったら遠くでも分かりそうだけど。」
どうしたんだろ?と女性は分からないという様に頭を傾げる。
その女性に向かって一つの閃光が走った。・・・・・・・・だが、女性に当たるか否かという際どいタイミングでまるで見計らったかのように寸でのところで女性は横に跳んだ。そのため、閃光は女性に当たることなくそのまま真っ直ぐに明後日の方へと走って行った。
「うん。狙うにしてはなかなか、だね。」
だけど。
「当てるにしてはまだまだ、かな?」
明後日の方へと走って行った閃光を女性は横目で流し見る。だが、そうしている彼女に向かって緑の風が吹いた。
当たる間際に女性は長槍で緑色の髪をした女性の拳を長槍で防いだ。
「で、これはどういうことか、教えてもらえるかな、ケイト?私、今着いたばかりなんだけど。」
女性の言葉に対し、緑の髪をした女性、ケイトは無言だった。その反応に女性は静かに、だが、わざとらしくため息を吐いた。
「あのさ、ケイト。警告もなしにいきなり殴ってくるってどうなのさ。私じゃなかったら普通は話すことも出来ないと思うんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・でも、話せる。・・・・・・・・・・・なら、問題ない。」
「いやいや、だからそれは私だから出来ることであって普通は出来ないからね?」
それでさ。
「良かったら、その拳を降ろしてくれると嬉しいんだけど・・・・・・・どうかな?」
「・・・・・・・・・・・・・降ろさなくても話せると思うんだけど?」
「いやいや、話そうとしてるのに拳を向けられたままじゃ話せないと思うんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・なら、仕方ない。」
「なにそれ。ねぇ、仕方ないって何?仕方ないってどういう意味なの?ねぇ?」
女性の疑問には答えずにケイトはやれやれといった具合で両手を上げる。どちらかと言えば、その対応をするのは、ケイトではない様な気がするのだが・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・で?・・・・・・・・・・・・・・上にいるはずの暇を持て余してる撃雷槍。・・・・・・・・・・・・・なんで貴女が降りて来たの?」
「・・・・・・・・あのさ、ケイト。確かに、上には何もない、何もないよ?でも、暇を持て余してるって、その言い方はどうなの?私だってたまには降りてきてるのにさ。」
彼女のその言葉を聞くや否やケイトは訝しげに見るような目で女性を見た。
「・・・・・・・・・・・・・たまに?」
「えっ。う、うん、たまに降りてきてるよ?」
「・・・・・・・・・・・・・ふぅ~ん。」
「何その顔。変なモノを見るような目で見るの、やめてくれないかな?お願いだからさぁ、ねぇ。やめてよ。そんな目で私を見るの、やめてよ。私、何も悪いことしてないよ?何もしてないのになんでそんな目で見てくるのかな?ねぇ、なんで?」
女性の質問にケイトは何も答えず、女性の顔をじっと見ていた。上に居るはずの彼女が降りて来た。なぜ彼女は降りて来たのか。
なんでだろうか、とケイトは一人で考えるが、答えは出ることなくすぐに諦めた。彼女にとっては思考することは最も苦手にすることであり、そもそも考えることは彼女の仕事ではない。彼女の仕事は潰せと言われれば問答無用で潰すことである。思考することは別の人間の仕事だ。
どうしたものか、と悩む様子の女性とケイトの二人だったが、こちらへ向かってくる重い足音を耳で捉えると、二人はそちらへ目を向ける。
先頭には白いフードで頭部を隠している誰か、その後ろにはマントを背に掛けた重武装をした白き鋼の二人の姿が見えた。
「あれ?・・・・・・・・私変なモノでも見てるかな?ねぇ、ケイト。あのなんか白くてデカいのって・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・チーフだけど?」
「へぇ、チーフかぁ。そうだよね、あんな白くて背がデカい『メカノイス』って言ったらチーフ位しか・・・・・・・・・・・えっ?」
頷きながら返事をする女性であったが、すぐに違和感に気が付いたのだろう、疑問を抱いた声をケイトに向けるが、その疑問にケイトは反応しなかった。
そうしている間に二人がいる場所にその二人は近付いてきて・・・・・・・・・。
「やっと追いつきましたよ、ケイト。私はともかくマスターを走らせるとは貴女、なかなか。」
『ぜぇ・・・・・・・・・、ぜぇ・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・やめろレオナ。』
「ですが、マスター。ケイトにも責任というモノが・・・・・・・っ。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だとしてもだ、レオナ。』
「チーフ?」
それまで話に参加しなかった女性がケンジに身体を向けて訊いてくる。その質問を聞いた直後にレオナがケンジの盾になるかのように二人の間に身体を割り込ませようとするが。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だ、レオナ。』
彼女の行動をやんわりとケンジは断り、女性の顔を見る様に身体を上に上げて顔をそちらに向けた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺をそう呼ぶってことは、俺の名前を知ってるってことだよな?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おたく、どこのどちらかお訊ねしても?』
「そうですよ、人の名を確かめるのであればまずそちらが名乗るべき・・・・・・・・・・・・・・えっ。」
人に対する礼儀がなってないとレオナはその女性に説こうとしていたが、その言葉の途中で何かに気が付いたのか驚いた声を上げ、確認を取る様に彼女に訊いた。
「ウルナ?・・・・・・・・・まさか、ウルナですか?」
レオナの疑問に対し、女性は頷いて答えた。
「ja。そうだよ。久しぶり、二人とも。」
ウルナはそう言いながら和らげに二人に対して微笑んだ。
『・・・・・・・・・ウルナ?・・・・・・・・・・・ウルナだって?・・・・・・・・・あの雷落としの?』
ケンジはそう言いながらウルナの顔を見て、彼女に質問をぶつけた。が、彼女は困った様子で何も言わずただ頬を掻いていた。
「ははは。うん、そう。それで合ってると思うよ、チーフ。」
「・・・・・・・・・・・・・厳密に言うと最近は撃雷槍って呼ばれてる。」
「ちょ、ケイト。チーフ、聞いてないよね!?今のケイトの言葉聞こえてないよね!?」
慌てた様子でありながらもそうウルナはケンジに訊いてくる。だが、この世界でのウルナを知らないケンジは確かめる様にレオナの方を見たのだった。
『なぁ、レオナ。ちょっといいかな?』
「ja。なんでしょうか、マスター?」
『・・・・・・・・なんか俺の知ってるウルナとなんか違うんだけど。ほんとにウルナか?』
「ja。マスターの気持ちは分かります。分かりますが。」
いいですか。
「彼女はウルナであり、その事は決して覆ることのない事実です。」
『でもなぁ・・・・・・。俺の記憶の中のウルナってこんなに話すようなヤツじゃなかったと思うんだが。』
「ですが、彼女は間違えようもなくウルナその人ですよ?貴方方が組んでいた『旅団』に彼女のマスターもいました。」
『それは知ってる。知ってはいるし、アイツの持ってる槍、アレ作ったの俺だから見れば分かる。・・・・・・分かるんだけどなぁ。』
記憶の中にある彼女と今目の前にいる彼女との齟齬があるな、とケンジは静かに唸った。それと同時にここはやはりゲームの世界ではない別の世界なんだなぁ、と同時に思うのだった。
『・・・・・・・・・・・・・・・こんなに人がいるなんて聞いてないぞ。』
「ja。そうですね・・・・・・・。この規模を集めるとは私も予想外です・・・・・・。ケイト。貴女は知ってましたか?貴女は何度か来たことがあるのでしょう?」
「・・・・・・・・・・・nein。・・・・・・・・・・来たことはあるよ?・・・・・・・・・・・けど、こんなにはいなかったかな?」
ケンジはケイトの言葉に疑問に疑問を返すとかどういう意味だよそれ、と聞きたくなる気持ちを抑えながらそれが終わるのを待っていた。
その大広間にはこれでもかという位の数多くの装飾の類が壁一面にずらりと並べられており、鎧を着た騎士たちも広いとは言えども目一杯に敷き詰めてみたと言っても過言ではない程ぎゅうぎゅうになるほど多くの騎士がいた。
これだけの規模を集めたとしても、これで『ヒューマン』全てではなく、ほんの一部なのだからケンジとしては頭が痛くなる話であった。
出来れば一斉に自身を見るのはよしてくれ、と。
ただでさえ、人とのコミュニケーションを取ることが苦手の『コミュニケーション障害』という治ることのない病を患っているケンジにとっては余計に億劫に感じてしまう。
これで多少は気を紛らわすモノがあれば話は別なのだが・・・・・・・・・残念ながら、そうは問屋が卸さなかった。
嫌だなぁ、とケンジが思っていると、彼の右後ろにいるレオナが突いてきた。
彼女にしては珍しいな、なにか話すことでもあるのだろうか、と少しそちらの方へと向きをずらす。
『・・・・・・・・・・・・・・・どうした、レオナ?』
彼がそんな風に訊いてきたことが可笑しかったのか、彼女はクスリと微笑むように笑うとこう答えた。
「nein。いいえ、マスター。大したことではないのです。大したことではないのですが・・・・・。」
そう。
「少し・・・・・・・・・、ほんの少し、緊張しておられる様子でしたので。」
『・・・・・・・・・・・・・・・そうか?』
「ja。と言っても、分かる人には分かると言った程度なのであまり思うことではないかと存じますが。」
もし。
「もし、ですよ、マスター?もし、貴方が気分を害されたと仰るのであれば私とケイトの二人でこじ開けますが・・・・・・・・。」
如何でしょう?と訊いてくる彼女にケンジは首を振った。
『・・・・・・・・・・・・・・・いや、それはしなくていい。』
「・・・・・・・・・本当に?」
『・・・・・・・・・・・・・・・ああ、本当だとも。・・・・・・・・・・・・大丈夫だ。』
気にするな、と言うケンジに彼女は心配した様子で見つめるが・・・・・・・・、彼女は何かに納得したのかコクリと頷くと言ったのだった。
「ja。分かりました。・・・・・・・・・ですが、あまり無理と無茶は禁物ですよ、マスター?」
『・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だから。』
「ja。・・・・・・・・それが聞けたのなら私からは特にございません。」
言い終わるや否や、レオナの気配が遠ざかっていくのをケンジは感じて身体の向きを元の正面へと戻す。すると、今度は左後ろにいるはずのケイトが突いてきた。
「・・・・・・・・・・・・大丈夫、チーフ?」
ケイト、お前もか、と思いながらもケンジは答える。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。・・・・・・・・・・・・・・問題ない。』
「・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・それは何より。」
何処かだよ、と彼女にツッコミを入れる前に彼女は言葉を続ける様に言った。
「・・・・・・・・・・・・いい男だよ、チーフ。」
今の会話でどこがどうなってそうなるのか、ケンジには分からなかったがそう言われたのであれば、何か返事をしなければいけないと感じ・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そりゃ、どうも。』
と言うだけに終わったのだった。
そんなこんなをしてる三人を他所に式は進んでいるようで、ケンジが気付いた時にはいつの間にかレオナが壇上にいるのが目に留まった。
「レオナ殿。此度の戦で、貴君は我らが『騎士団』の数少ない同胞を救ってくれた。ここに、感謝の意を表し『銀剣』を授けたい。」
「・・・・・・・・・・・・承ります、将軍。」
鞘に納められた剣をレオナは老騎士から受け取る。その動きは儀式を思わせる動きであり、神聖なモノを思い浮かばせるものだった。そうケンジが感じていると、ふと今のケンジの装備がどんなものかを思い出し・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やべぇ。』
しまった、と後悔の念に駆られてしまうケンジだった。だが、銃器ではなく刀剣の類を装備するのは是が非でも断固として断る思いであった。どれ位かと言われれば。「そんなもの、早く捨てて刀剣を装備しろ」などと言われれば、問答無用で道理を突き破る思いだったと言えばいいだろうか。
どう表現すればいいかは分からないが、刀剣の類はケンジにとっては何としても装備したくなかったのだ。
そして、ケンジの装備は銃器に身を固めている完全武装には程遠い装備である。
・・・・・・・・・・・そう言われれば、普通の人間ならば、「それはおかしい」とツッコミを入れる人間はいるだろうが、悲しいかな、ここにそんなことを言ってくれるような人間などはいなかった。
「ケイト殿。貴君も此度の戦、『バイオス』が率いて来た群れを打ち滅ぼしてくれたと聞く。貴君の働きに、ケイト殿と同じく『銀剣』を授ける。」
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・貰っておく。」
いつの間にか、壇上に登っていたケイトもレオナと同じく鞘に入れられた剣を貰っていた様子にケンジは驚き、絶望していた。
次は俺の番か、と。
レオナやケイトの様子からしてその『銀剣』というモノは名誉あるモノなのだろう、と推測することはできる。
だが。
だが、しかし、である。
いかに名誉ある賞に値するモノだと言われ様ともケンジにとってはただのゴミ、不要の長物である。まだ、弾丸や砲門等であれば喜びは出来るが、たかが一回しか持たない使えない武器など必要でなく、不要であると言える。
そんな使いどころに困るただのゴミを渡されてもケンジとしては置き場に困る。
参ったな、とケンジが困っていると、ケンジの名は呼ばれることなく式は進んでいき・・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・これ、俺がいる意味って・・・・・・・・・・・・・・なくね?』
呼ばれることなく式は無事に幕を下ろし、閉幕となった。
その事を証明するかのように今まで固まってるかのように立っていた騎士たちの数が徐々に減っていく。そして、残っているのがケンジだけになると、そこにレオナとケイトの二人が近付いてきた。
「・・・・・・・・・ふぅ。久々とは言ってもあれだけの人がいますと存在が薄くとも少しは緊張しますね。」
「・・・・・・・・・・・・・疲れた。・・・・・・・・・・・帰ろ、チーフ?」
緊張をほぐす様に言う二人の言葉にケンジは思考を止めたままだったので何も言い返すことはできなった。やがて、何かがおかしいと分かったのかケンジの様子を窺う様にする二人が動きを取った頃になってケンジは再起動を果たした。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・・・・・・レオナにケイトじゃねぇか。・・・・・・・・・・・・・・お前ら二人しかいないのか?・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、他の連中は?』
「あのですね、マスター。大変申し上げにくいのですが・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・チーフ。・・・・・・・・・・・・それならもう、終わったよ?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バカ言うんじゃねぇよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・まだ俺何も。』
貰ってねぇよ、と言う前にレオナはケンジの手を握って来た。
「いいんです、いいんですよ、マスター。貴方はここにおられました。それだけでもよろしいのです。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったら、なんで俺こんなとこ来たの?・・・・・・えっ?来る必要なかったじゃねぇか。・・・・・・・・・・・この前、使い物にできなくなった分もどうにかしなきゃならねぇってのに。』
どうすんだよ、おい、と愚痴を言う彼をどうした方が良いかレオナとケイトの二人は互いの顔を見合った。まぁ、見合ったところで答えなど出てくるはずもない。
老騎士が『スパルタン』という遊び人たちが顔も知らない人物には名前を明かさずに彼らのあだ名、いや、通り名と言うべきか、その略称と番号だけを教えるというよく分からない風習など分かるはずもなく。そして、名を教えてもらえてられなかった挙句に彼のことをどう呼べば良かったなどということに悩んで結局のところ、呼ぶことはなかったということなど彼らには分からなかった。
・・・・・・・・・まぁ、死んだとされる伝説の存在とされ消えていった存在である彼、『スパルタン』がこうした式典に参加することで第三者にお前のことは見ているぞ、と事件の黒幕に裏で警告する意図で呼ばれたなどということは呼ばれた理由を全く知らないケンジにとっては訳も分からなかったのだが。
そうしたこともあってケンジはただ一人、心の中で、最近の『ヒューマン』ってのは人の都合も考えねぇわがままな連中なのか、少しはレオナを見習ってだなっ!!!と静かに怒っていたのだが、何も知らされていなかったであろうレオナとケイトに怒りをぶつけるのは筋違いか、と思って、抱いた怒りを抑えるケンジであった。
そんなことをしていると・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・おや、珍しい。今朝は晴れていたのに曇ってきましたよ、マスター?いきなり天気が崩れるなど珍しいこともあるモノです。」
外の様子を見ていたのか広間から外を覗く窓越しに外の様子を窺っていたであろう、そう言ったレオナの言葉にケンジは疑問する。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・あん?天気が崩れるなんざよくあることだろうが。珍しいってことはよくあることなんだから。』
「ですが、マスター。この様に何の前触れもなく天気が急に崩れることなどありませんでしたよ?あるとしても・・・・・そう、ケイトが上から降りて来た時くらいでしょうか。」
『えっ。おい、ケイト。お前、「天上世界」にいた時あるのか?あそこ、何もなかったのに。』
レオナの言葉を聞いて、ケンジは驚きながらもケイトにそう訊いた。
ログアウトするために何かないか、ケンジ達七人の『旅団』と呼ばれていた集団が考えられ得る限りの可能性を行った挙句に全く何もなくなったという数少ないケンジたちにとっての実験場であったためにケンジがそう言うことは少しおかしいのだが。
正確にはなかったのではなく、無くしてやったという回答が正しいのだがそれを指摘する者も知る者もここには誰もいなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・確かに、あそこには何もないね。」
・・・・・・・・・・・・・まぁ。
「・・・・・・・・・・・・・・何かあるとしても。・・・・・・・・・・・・・ぼぅとしてることしか出来ないけど。」
・・・・・・・・・・・・・だからね?
「・・・・・・・・・・・・・・私は降りて来たんだけどね?」
『何もねぇってことはないだろ。「旅団の連中」が遊び尽くして何も無くなっちまったのは、まぁ、すまねぇとは思うけどよ。でも、上がる時に使った輸送コンテナはいくつかあるはずだぞ?たしか何回か上に打ち上げたっきり回収してねぇと思ったが。』
「・・・・・・・あ~、そう言えば、そんなことありましたねぇ。『旅団』の方々でとりあえず上に打ち上げて届くかどうか、やってみようぜというそんな理由で大型の輸送ユニットと射出ユニットを寝る間も惜しんで四日と少しで組み上げてみせたのは驚きましたが。」
『ああ。やったことねぇ軌道計算と行きと帰りの燃料どうするかで話し合うだけで三日使ったけどな。まぁ、行くだけの片道切符にはなるが、上がるだけならクソ頑丈なコンテナ作って撃鉄叩けばいいんじゃね?って結論になって結局、一日頑張って拳銃方式になったアレか。・・・・・・・・・・懐かしいな。』
レオナの言葉を聞いてどこか懐かしむケンジの二人であった。
そんな風にどこか昔を懐かしむ二人を他所に外では一つの雷鳴が轟いた。
「雷ですか。となると、雨が降りますね。」
『降るな。・・・・・・・けど、そんなには長く降らないと思うぞ?降ったとしても一、二時間位だろ。』
「そうですか?」
『まぁ、大雨になっても問題ねぇだろ。別に濡れても気にならんだろうし。・・・・・・・・なぁ?』
「そう言われると、確かに気にはしませんね。」
『だろ?だったら、大丈夫だ。』
それより。
『雷が一発鳴ってきただけで終わるなんてこたぁねぇだろうが・・・・・・・・。』
そう言って次の落雷を警戒するように言うケンジを他所に、彼の言葉が引っ掛かったのかケイトは一人考える様に呟く。
「・・・・・・・・・・・・・・・落雷。・・・・・・・・・・・・・・一発だけ。・・・・・・・・・・・・・上から?・・・・・・・・・・・まさか。」
何かが分かったのか、俯く様に頭を下に向けていた彼女は突然閃いた様にガバッと顔を上げると、ケンジとレオナの二人を置いていくようにして大広間の出口に向かって走り出してしまう。
『おい、ケイト。どうしたいきなり・・・・・・・・・・って、なに急に走り出してんだ、アイツ?』
「さ、さぁ?私にも分かりかねます。・・・・・・・・ですが、マスター。」
『そうだな、レオナ。アイツ一人だけにさせたら何するか分かったもんじゃねぇ。俺らも追うぞ。』
「ja。従います、マスター。」
ケンジの言葉に素直に頷くレオナに、嬉しいねぇ、と言葉には出さずに彼は言葉に出さずに彼女に感謝すると、二人はケイトが出て行った出口へと足を向け走り出していくのだった。
『リシュエント帝国』と呼ばれている砦から少し離れた平原。
そこに一人の女性がいた。
肩まで伸ばされた青い髪をして長槍を片手に持っていた。軽くはあるが、それでも身を守るにしては頑丈だと思える軽装備だった。周囲を確認するように周囲を見渡しているその目は鋭くなっており獣を思わせるモノだった。
「・・・・・・・・・あれ?誰も来ない?おかしいな、今のだったら遠くでも分かりそうだけど。」
どうしたんだろ?と女性は分からないという様に頭を傾げる。
その女性に向かって一つの閃光が走った。・・・・・・・・だが、女性に当たるか否かという際どいタイミングでまるで見計らったかのように寸でのところで女性は横に跳んだ。そのため、閃光は女性に当たることなくそのまま真っ直ぐに明後日の方へと走って行った。
「うん。狙うにしてはなかなか、だね。」
だけど。
「当てるにしてはまだまだ、かな?」
明後日の方へと走って行った閃光を女性は横目で流し見る。だが、そうしている彼女に向かって緑の風が吹いた。
当たる間際に女性は長槍で緑色の髪をした女性の拳を長槍で防いだ。
「で、これはどういうことか、教えてもらえるかな、ケイト?私、今着いたばかりなんだけど。」
女性の言葉に対し、緑の髪をした女性、ケイトは無言だった。その反応に女性は静かに、だが、わざとらしくため息を吐いた。
「あのさ、ケイト。警告もなしにいきなり殴ってくるってどうなのさ。私じゃなかったら普通は話すことも出来ないと思うんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・でも、話せる。・・・・・・・・・・・なら、問題ない。」
「いやいや、だからそれは私だから出来ることであって普通は出来ないからね?」
それでさ。
「良かったら、その拳を降ろしてくれると嬉しいんだけど・・・・・・・どうかな?」
「・・・・・・・・・・・・・降ろさなくても話せると思うんだけど?」
「いやいや、話そうとしてるのに拳を向けられたままじゃ話せないと思うんだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・ja。・・・・・・・・・・・・・・なら、仕方ない。」
「なにそれ。ねぇ、仕方ないって何?仕方ないってどういう意味なの?ねぇ?」
女性の疑問には答えずにケイトはやれやれといった具合で両手を上げる。どちらかと言えば、その対応をするのは、ケイトではない様な気がするのだが・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・で?・・・・・・・・・・・・・・上にいるはずの暇を持て余してる撃雷槍。・・・・・・・・・・・・・なんで貴女が降りて来たの?」
「・・・・・・・・あのさ、ケイト。確かに、上には何もない、何もないよ?でも、暇を持て余してるって、その言い方はどうなの?私だってたまには降りてきてるのにさ。」
彼女のその言葉を聞くや否やケイトは訝しげに見るような目で女性を見た。
「・・・・・・・・・・・・・たまに?」
「えっ。う、うん、たまに降りてきてるよ?」
「・・・・・・・・・・・・・ふぅ~ん。」
「何その顔。変なモノを見るような目で見るの、やめてくれないかな?お願いだからさぁ、ねぇ。やめてよ。そんな目で私を見るの、やめてよ。私、何も悪いことしてないよ?何もしてないのになんでそんな目で見てくるのかな?ねぇ、なんで?」
女性の質問にケイトは何も答えず、女性の顔をじっと見ていた。上に居るはずの彼女が降りて来た。なぜ彼女は降りて来たのか。
なんでだろうか、とケイトは一人で考えるが、答えは出ることなくすぐに諦めた。彼女にとっては思考することは最も苦手にすることであり、そもそも考えることは彼女の仕事ではない。彼女の仕事は潰せと言われれば問答無用で潰すことである。思考することは別の人間の仕事だ。
どうしたものか、と悩む様子の女性とケイトの二人だったが、こちらへ向かってくる重い足音を耳で捉えると、二人はそちらへ目を向ける。
先頭には白いフードで頭部を隠している誰か、その後ろにはマントを背に掛けた重武装をした白き鋼の二人の姿が見えた。
「あれ?・・・・・・・・私変なモノでも見てるかな?ねぇ、ケイト。あのなんか白くてデカいのって・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・チーフだけど?」
「へぇ、チーフかぁ。そうだよね、あんな白くて背がデカい『メカノイス』って言ったらチーフ位しか・・・・・・・・・・・えっ?」
頷きながら返事をする女性であったが、すぐに違和感に気が付いたのだろう、疑問を抱いた声をケイトに向けるが、その疑問にケイトは反応しなかった。
そうしている間に二人がいる場所にその二人は近付いてきて・・・・・・・・・。
「やっと追いつきましたよ、ケイト。私はともかくマスターを走らせるとは貴女、なかなか。」
『ぜぇ・・・・・・・・・、ぜぇ・・・・・・。・・・・・・・・・・・・・やめろレオナ。』
「ですが、マスター。ケイトにも責任というモノが・・・・・・・っ。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だとしてもだ、レオナ。』
「チーフ?」
それまで話に参加しなかった女性がケンジに身体を向けて訊いてくる。その質問を聞いた直後にレオナがケンジの盾になるかのように二人の間に身体を割り込ませようとするが。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫だ、レオナ。』
彼女の行動をやんわりとケンジは断り、女性の顔を見る様に身体を上に上げて顔をそちらに向けた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺をそう呼ぶってことは、俺の名前を知ってるってことだよな?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おたく、どこのどちらかお訊ねしても?』
「そうですよ、人の名を確かめるのであればまずそちらが名乗るべき・・・・・・・・・・・・・・えっ。」
人に対する礼儀がなってないとレオナはその女性に説こうとしていたが、その言葉の途中で何かに気が付いたのか驚いた声を上げ、確認を取る様に彼女に訊いた。
「ウルナ?・・・・・・・・・まさか、ウルナですか?」
レオナの疑問に対し、女性は頷いて答えた。
「ja。そうだよ。久しぶり、二人とも。」
ウルナはそう言いながら和らげに二人に対して微笑んだ。
『・・・・・・・・・ウルナ?・・・・・・・・・・・ウルナだって?・・・・・・・・・あの雷落としの?』
ケンジはそう言いながらウルナの顔を見て、彼女に質問をぶつけた。が、彼女は困った様子で何も言わずただ頬を掻いていた。
「ははは。うん、そう。それで合ってると思うよ、チーフ。」
「・・・・・・・・・・・・・厳密に言うと最近は撃雷槍って呼ばれてる。」
「ちょ、ケイト。チーフ、聞いてないよね!?今のケイトの言葉聞こえてないよね!?」
慌てた様子でありながらもそうウルナはケンジに訊いてくる。だが、この世界でのウルナを知らないケンジは確かめる様にレオナの方を見たのだった。
『なぁ、レオナ。ちょっといいかな?』
「ja。なんでしょうか、マスター?」
『・・・・・・・・なんか俺の知ってるウルナとなんか違うんだけど。ほんとにウルナか?』
「ja。マスターの気持ちは分かります。分かりますが。」
いいですか。
「彼女はウルナであり、その事は決して覆ることのない事実です。」
『でもなぁ・・・・・・。俺の記憶の中のウルナってこんなに話すようなヤツじゃなかったと思うんだが。』
「ですが、彼女は間違えようもなくウルナその人ですよ?貴方方が組んでいた『旅団』に彼女のマスターもいました。」
『それは知ってる。知ってはいるし、アイツの持ってる槍、アレ作ったの俺だから見れば分かる。・・・・・・分かるんだけどなぁ。』
記憶の中にある彼女と今目の前にいる彼女との齟齬があるな、とケンジは静かに唸った。それと同時にここはやはりゲームの世界ではない別の世界なんだなぁ、と同時に思うのだった。
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