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第四部 『スパルタン』は死なない
第二十五話 『バカ』は空からやって来る
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「これはひどい・・・・・・・・・・。」
「ああ。まだ生きてるとは思えないな・・・・・・・・・。」
埋め込まれる形で仰向けで倒れている人物に対し何名かが口にする言葉を耳にして白く短い髪をしている隻眼の女性は、内心で舌打ちをしながら後ろを振り向いた。
「そこまでだ。あんまり文句ばかりを言ったところでどうにかなるもんじゃねぇだろ?」
「で、ですが。」
文句を言おうとした一人に対し、彼女はハッと強く鼻で笑った。
「バカと高い空から落ちてきて無事なわけがねぇ。形が残ってるだけでも上等なのに、命まで無事なわけがねぇってか?」
「い、いえ。そうは申していません。」
女性の言葉を訊かれた男性は否定するが、言外ではその通りだと言っている。
その事について、難しいもんだ、と女性は思った。
「あのな。お前らは知らないかもしれねぇがな?」
いいか?と女性は言葉を続ける。
「この人は『スパルタン』だ。それに『スパルタン』ってのは、死なないし、死ぬわけがねぇ。・・・・・・・・・空から落ちただの、そういうもんで死ぬわけがねぇだろうが。バカか?」
女性の言葉に対し、男性が反論しようとしたところで動くことのなかった死体に変化が起こる。
天に向かって伸ばしていた手を下したのだ。
その変化で、周りにいた全員が息を呑んだが、女性は何も思わなかった様子で近くへ寄っていく。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ。・・・・・・・・・・・・頼むぜ。』
「あいよ、チーフ。」
近くに寄って来たことが分かったのか、今まで何も話さなかった死体がそう言うと、手を伸ばして来る。女性は伸ばされた手を問答無用と言った具合で掴むと、彼を立ち上がらせるように力を込めて引き寄せ、立ち上がらせた。
「ったく、無茶し過ぎだぜ、チーフ。あんまし無茶ばっかしてっとほんとに死んじまうぞ。分かってるのか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。』
女性の言葉に対して渋々といった具合に彼は頷く様に呟いた。
そんな彼を不審に思ったのか、女性は目を細めて訊いた。
「んで、チーフ。レオナとケイトはどうした?」
レオナとケイト。
その二人は彼にとって大切な二人であり、忘れることが出来ない二人だった。
勿論、まだ一人、忘れることが出来ない人物がいるのだが。
ただ、彼女が話していない人物について話すのはどうなのだろう?
そんなことを思いながら、彼は口を開いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・向こうに残った。』
「成る程な。今頃は二人でランデブーってか。くぅ~、妬けちまうな、チーフ。」
冗談か皮肉か分からなかったので、彼は思ったことをそのまま言った。
『・・・・・・・・・・・・・・・▽。・・・・・・・・・・・あんまり皮肉とか言ってくれるなよ。』
「おっ?そうか?そうかそうか、悪いな、チーフ。こっちの方は『バイオス』どもと戦ってばっかでちと鬱憤が溜まっててな。」
ハッハッハ、と笑いながら彼の背を▽と呼ばれた女性は叩いていた。
しかし、それ自体には大した威力はないのか彼は全く気にしていない様子だった。
「っと。悪い悪い。いつまでも、こんなとこに居たら連中に捕捉されちまう。チーフ。悪いが、ちと移動するぜ。」
『・・・・・・・・・・・・・・了解だ。』
・・・・・・コイツもコイツで難儀なもんだ。
白い装甲に覆われた男性、『ケンジ110』は言葉には出すにそう思ったのだった。
そこでふと気付く。
周りにいる連中の手には刀剣類が握られており。
『人類種』が多いことに。
『・・・・・・・・・・・・・・・おい、▽。』
何故、『人類種』が多いのか、それを訊こうとした彼の言葉を遮る様に。
一人の騎士風の男が彼女に進言した。
「デルタ殿。ここに留まり過ぎると・・・・・・・。」
「あっ?・・・・・・・・あぁ、そうだな。」
その言葉で何を理解したのか。
それを伝えはせずに▽は彼を見て口を開いた。
「悪いな、チーフ。ここじゃちと悪いんで移動するぜ。・・・・・・・・いいか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・「あのクソ腹が立つ魔人種ども」か?』
笑った。
「ああ、そうだ。あんたがそう思ってるクソ野郎どもが寄って来るんだ。」
そうだとも、と言葉を続ける。
「・・・・・・・・・ヒーローのかぐわしい香りっての嗅いでな。」
皮肉交じりに言った彼女の言葉を聞いて、ケンジは頷いた。
・・・・・・・・まぁ、それ以外にもあるだろうがな。
ただ、今現在の情勢は何となくは理解は出来るので、ケンジは口にはしなかった。
『人類種』の騎士っぽい服装をしている連中が『機械人種』である▽に従うことがケンジには不思議に思えたからだ。
なにかからくりがある、と。
ただ言えることがある。
それだけを聞くためにここに留まることは理由にはならない。
『バイオス』の連中は鼻が優れている。
ケンジが降下してきたことももう既に知れていることだろう。
だからこそ、彼はもう一度だけ深くため息を吐く。
・・・・・・・面倒くせぇな。
左手にトリガーを握り、
右手に『アサルトライフル』を握って。
彼女を見た。
彼からの視線を受け取ると、彼女は口元を歪めた。
「準備はできたってか。・・・・・・あいよ、チーフ。」
よし。戻るぞ、てめぇら!!
威勢よく発せられた言葉に騎士風の男たちは渋々といった具合に移動を始めた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・。もうこれで何度目だ?」
「さて・・・・・・な。そんなこと・・・・・・・いちいち分からんさ。」
「ああ・・・・・・・その通りだ。・・・・・・・いちいち数える暇はない。・・・・・・・見ろ。」
後ろで話してる三人の視線の先には、何事も話さずにいる男がいる。
先程から起きてる戦闘で多くの騎士たちが傷を負った。
話してはいるが、この三人も無事とは言い難い。
だが、目の前の男はただ黙々と目の前に現れた『バイオス』を処理していた。
たまに話すことはあれども、それは『エンプティ』だの、『リロード』だの、『カバー』だの、と三人には理解できない言葉だった。
その彼の言葉が理解できてるのはここにいる者ではただ一人だろう。
「よぉ、チーフ。無事かい?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・歩ける程度には、な。』
「ハッハッハッ、そりゃ、重量重量。良かった、良かった。」
デルタと名乗るこの白髪をした隻眼の女性、ただ一人。
今も何をどう取れば、そう取れるのか三人には全く理解は出来なかった。
まぁ、「無事か」と訊かれて「歩ける程度には」と答えられれば、そう言えるのかもしれない。
しれないが、笑おうとまでにはならないだろう。
そもそも名前も知らない人物にそこまで信頼を寄せることすらも出来ないだろう。
彼女は彼のことを「チーフ」と呼ぶが、それが名前だとは考えにくい。
しかし、名前ではないとは確信が得られないのもまた事実。
だとすれば、訊けばいいのだが。
そうも出来ないのもまた事実だった。
こちらは『人類種』で。
彼は『機械人種』だ。
つい先日まで敵かもしれない、とお互いを疑っていた相手に声を掛けられるのか。
否。
恐らくはそうは上手くいかないだろう。
そんなことを思っていると。
『・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「あっ?どうした、チーフ?」
彼女を呼ぶように発した彼の言葉に反応しようとし、
彼が向く方を見ると、舌を打ち。
「ちぃ、またか!!!・・・・・・・・エンゲージ!!!武器を構えろ、お前ら!!!」
眼前に向けて強く視線を向ける。
両手には自分には慣れ親しんだ武器がある。
傍らには自身が尊敬する人物がいる。
『スパルタン』。
それは、かつて、最強と言われた『プレイヤー』たちのことであり。
その『プレイヤー』の中でも死にたがり等なんだのと言われ続けた者たちのことである。
だが。
・・・・・・・有り難いよなぁ。
自身の主たる者がいない現状では『スパルタン』程頼りになれるものはいない。
▽は胸中で感謝の言葉を言い、
・・・・・・・そう言ったらいけねぇけどな。
そう思った自身を叱った。
そうだ。
ここではない場所へと帰るために、彼らは戦っていたのだ。
その過程で多くの者たちが倒れようとも、
ただ帰る。
それだけの理由で戦い続けたのだ。
帰るため、と言う理由で。
つまり、それは現状では『スパルタン』である彼にはもう戦う理由はないということになり。
・・・・・・・あんまり頼るわけにはいかねぇよなぁ。
ここに居るだけである者に頼るとは情けないよなぁ、と彼女は思いながら、引き金を引いた。
もう何度目か。
数えるのが面倒だな、と思いながら引き金を引いていると、
眼前の敵に銃口を向けていた彼が何かが気になったのか。
後ろを見る様に顔を向けて。
『・・・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「あっ!?なんだ、チーフ!?」
何事か訊く彼女に対し、ケンジは一言だけ、
『・・・・・・・・・・・・・・・・フォローしてくる。』
そう言うと。
後ろへと身体を翻し、後ろの方へと向かって行った。
「お、おいっ!!!まだ、前に残って・・・・・・・っ!!!!」
残っていると言い終わる前に彼の姿は見えなくなってしまった。
なんでいきなり、後ろに・・・・・・・?
そう▽は疑問する。
しかし、疑問したところで答えなど分かっている事であり、
疑問に思う必要などはなかった。
後ろで聞こえる懐かしく思う重い銃声を耳にしたからだ。
分かっていた。
彼はよく分からないことを話すことは多々ある。
だが、何一つ無駄になったことはなかった。
今もそうだ。
後ろで銃声が聞こえるということは、
それはつまり。
後方からも近付いてくるということであり。
今、▽達は挟撃に晒されているということでもあった。
・・・・・・・・・・・頼りになるねぇ。
眼前の敵に手一杯の彼女に変わって後ろを援護する。
▽達よりも戦い慣れている彼だからこそ、分かることであり、
彼よりか戦い慣れてはいない▽には分からないことだった。
それが戦場の空気を感じ取れる『スパルタン』という人種の異常性を感じていた。
・・・・・・・・・・・まぁ、それでも、だ。
空になった弾倉を弾き出し、
新たな弾倉を装填しようとして、
彼女の手は宙を掴んだ。
「・・・・・・・・・・・あっ?」
あるはずの場所にないという事実に、彼女は疑問の声を出す。
しかし、そこにないのはもう既に確定していることであり、
覆ることはない。
前方から炎弾が飛来する。
「・・・・・ちぃぃぃぃぃぃ!!!クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次々と飛来する炎弾を避けながら罵声を口にし、
「チーフ!!!!悪い、弾が無くなった!!!弾くれ!!!」
後ろで弾幕を張っている彼に聞こえる様に大声を出す。
因みに、近くに居た三人の騎士風の外見をした男たちは。
必死に盾で炎弾を防いでいた。
・・・・・・・・・・たまには、避けるとかやれよ!!
馬鹿の一つ覚えで立ってるだけとか、何やってんだよ!!!
文句を言いたい気持ちに駆られる。
けどまぁ、攻撃方法が刀剣しかなかったらそうなるか。
いやだけど、せめてサブにボウガンとか飛び道具の一つくらいは準備しようぜ。
それも出来てなかったら、こいつらバカ以下だな。
・・・・・・・・・・いや、バカ以下のクソは『バイオス』だから違うか。
だけど、こいつらバカだよな。
そんなことを思いながら避けていると、
『・・・・・・・・・・・・・・・・▽っ!!』
自身を呼ぶ声共に小型のコンテナが投げ込まれる。
・・・・・・・・・・・頼むから投げる前に呼んでくれ!!
投げ込まれたコンテナを、勢いを殺すことのないように掴み、
前へと身体を動かし、
動く瞳で確認した。
コンテナの中身は弾倉がありったけ入っていた。
上段に、10。
下段に、10。
上下合わせ、20の弾倉があった。
「チーフ、助かった!!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・礼を言うのはっ、』
感謝の気持ちを伝える▽に対し、彼は声を押し殺す様に、
『・・・・・・・・・・・・・・・・後にしろっ!!!』
そう叫んだ。
彼の言葉に▽は口元を歪め、
・・・・・・・・・・・・有り難いねぇ。
弾倉を二つ取り出すと、天高く放り投げた。
虚空を飛んでいくそれらを見ながら、▽はコンテナから残っていた弾倉全てを抜き去って、
空となったコンテナを放り投げた。
放物線を描いて落ちてくる二つの弾倉。
▽は抜き去った残りを先程までそうしていた様に腰部に取り付けて、
落ちてくる弾倉を銃の腹に突き刺す。
愛銃と弾倉が噛み合った音が耳に聞こえると、
獣が獲物に向ける様に口元を歪める。
「ハッハッ!!!!」
笑う。
弾が無ければどうしようもない。
だが、今はそうではない。
戦う手段があれば、
それだけでいいのだ。
だからこそ、彼女は笑う。
狩られる存在から、
狩る存在へと変われたのだから。
だからこそ、言うのだ。
「てめぇら、さっきはよくもやってくれたなぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ!!!」
手が出せないことを良いことに攻撃してきたのだ。
ならば。
「倍して返してやるぜぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
そうだ。
「てめぇら、クソッたれにはそれだけでいいよなぁぁぁぁぁ・・・・っ!!!?」
眼前の敵に向かって、彼女は笑う。
笑いながら、両手の二丁が咆哮する。
その咆哮は、戦えることに対しての喜びか。
それとも狩りが出来ることに対しての喜びか。
鬼神の如き乱舞で両手の得物と、
高鳴り笑う彼女を前に。
後ろで盾を構える三人の騎士は戦慄していた。
同時に思うことがある。
・・・・・・・・・・・・・もし。
もし、彼女を含む『機械人種』を敵としていたら。
彼女に狩られていたのは自分たち、『人類種』なのではないか、と。
いや、彼女だけではない。
彼女の他の『機械人種』にも狩られていたのではないか、と。
『・・・・・・・・・・・・・・・・テンション上がってるな、アイツ。』
もう少し下げたらいいのにな、と頭を掻きながら呟く白い男がいつの間にか三人の傍に居た。
いつの間に・・・・・・・・・・っ!!?
三人がそう疑問する。
そして、気が付く。
後ろで聞こえていた銃声が鳴り止んでいたことに。
後ろを歩くけが人たちが男に感謝の声を出していたことに。
彼女よりも遅く戦っていたにも関わらず、
彼女よりも早く終わらせた。
そのことに三人は驚愕すると共に戦慄した。
『機械人種』を敵としていたら、どうなっていたか。
突き付けられた事実に何も話せなくなる。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
何も話さない男に三人は恐怖した。
無言で佇む絶対強者に。
そう思われるとはつい知らず。
ケンジはどうしたもんだかなぁ、と悩んでいた。
・・・・・・・・・・・気まずいなぁ。
『コミュニケーション障害』というものがある。
対人関係を必要とされる場面で、何も出来なくなる。
そうだ。
それは正しく今のケンジの状態を言っている。
何かを話そうとする三人。
それに対し、何を話すべきか。
そんな簡単なことで悩む自分がいる。
出来れば、仲介役を頼みたいのだが。
両手に握る銃を咆哮させながら、
その文字通りに踊る女性がいる。
何をそこまでテンション高くやれるのか、ケンジには分からない。
・・・・・・・・・・・・・・それとも。
一つの可能性を考える。
・・・・・・・・まさか、こいつ、トリガーハッピーなのか・・・・・・・・っ!!?
トリガーハッピー。
古来より銃を乱射することによって快感を得るというモノが存在する。
そんなものがあり得るわけがないとは断言は出来なかった。
そういうケンジも快感を得る時が多々あるからだ。
故に、馬鹿にすることも文句を言うことも出来ないのだが。
そうなると、それはそれで面倒だな、と思う自分がいた。
もう既に攻撃は止んでいる。
止んでいるにも関わらず、彼女は狂喜乱舞の如く戦場を舞っている。
気が付いているとは思いたいが、
それでも弾を撃ち込んでいる状態を見るに分かっているとは、思えなかった。
そして、そんな状態の彼女を止める勇気はケンジにはない。
ケンジの隣にいる三人も同じようだった。
とすると、選択肢は限られてくるわけで。
『・・・・・・・・・・・ったく、仕方ないな。』
右手に握る銃口を上に向け。
何もない上空に向けて発砲した。
直後、
「後ろかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
顔に笑みを浮かべ、戦いに酔いしれている彼女は。
振り向くと同時にケンジに向かって発砲した。
放たれた弾丸はケンジの頭蓋を撃ち抜くことなく、
すぐ傍を走って行った。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
出来れば、やってもらたくはなかった反応が返ってきたことに、
ケンジはため息を一つ吐く。
『・・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「・・・・・・・・って、チーフじゃねぇか!!!・・・・・んだよ、声掛けてくれりゃよかったのに。敵かと思って撃っちまったじゃねーか。当たったらどうするんだよ。」
・・・・・・・・・・・知るかよ。
彼女の言葉にケンジは心の中で文句を言った。
『・・・・・・・・・・・・・・・それで?』
「・・・・・・・あっ?」
どうするのかと訊いたつもりだったのだが、彼女には分からなかったらしい。
出来れば、一回の質問で分かってくれるといいんだが。
今、ここにはいない自身の従者と相棒の存在に感謝しながら、もう一度だけ、訊いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・それで?』
「あ、ああ。・・・・・・・・まだ距離があるからな。」
もう一度同じ言葉を繰り返したことで彼女は質問の意味を理解したらしい。
その言葉に対してケンジは理解した。
今ケンジたちがいる場所は『完全武装要塞』近くの森林であり、
射程に入るまで、まだ距離がある。
要塞自体が標的であれば、それに捕捉されない様に大回りで行く必要があるが、
ケンジにとっては関係がなかった。
強引に突き進んでもいいし、
向こうからの接触を待つのもいい。
ただ一つ。
言えることがあるとすれば。
・・・・・・・・・・・・・・・面倒くせぇ。
そうだ。
どちらにしても、ケンジにとっては面倒であることには変わりなかった。
それを簡略化するためには、どうするべきか。
それを考えて・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・あっ。』
何かを思い出したような声をケンジは出した。
・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば、最初からやっていれば解決していたよな、これ。
まぁ、やるにしても接触しなければ確認は取れないから。
・・・・・・・・・・・・・・・気にしたら負けだな、うん。
そう思うことにして無線機を手に取って、ボタンを押した。
『こちら、スパルタン110。本部、応答されたし、応答どうぞ。』
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
先程まで言葉を出すのに時間が掛かっていたのに普通に話し始めたケンジに、
三人は驚いた様子の声を出した。
それはそうだろう。
会話をするのはデルタなどと呼ばれる女性一人だけで、
その会話も途切れ途切れ交わされたものだった。
にも関わらず、
今はどうか。
目の前にはいない誰かに話す様に自分たちが知らない何かに向かって流暢に話している。
これに驚かない者などいようか。
否。
いるはずがない。
・・・・・・・・・・・・・・気まずいなぁ。
いきなり、普通に話し始めたことに驚いたからであろうか。
隣にいる三人の自身を見てくる眼が痛い。
気まずいことこの上ないと言えるだろう。
そして、この後のことを考えると・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・・・面倒くせぇ。
面倒だと思い始めたその時、無線機から声が返ってくる。
『こちら、エルミア。・・・・・・・・・無事ですか、110っ。』
『こちら、110。ああ、無事だぜ?』
言葉を一瞬切って、▽の方を見てから、
『▽に一発、脳天向けて撃たれたけどな。・・・・・・応答どうぞ。』
「ちょ、おまっ!!!!!報告するとか、そりゃねーだろうが、チーフ!!!」
・・・・・・・・知るかよ。
無線機を取ろうとする彼女の手から身体を逸らし、回避する。
・・・・・・・・それにな。
避ける前に彼女の頭を掴む。
『・・・・・・・・・・・・・・・一発は一発だろうが。』
向こうに押してやる。
力はさほど加わってはいないはずだが、彼女は上体を大きく後ろに反らし、
気合を入れて立ち続け、
踏ん張りを利かせて直った。
「・・・・・・・・っぶねぇな!!!!・・・・・・なにしやがる、チーフ!!!!倒れちまうだろうが!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・知るかよ。
二度と立ち上がれない様に撃ってきやがったのはお前だろうが。
そう言えた義理かよ。
音が入る。
『こちら、エルミア。・・・・・・ja。ですが、無事でなによりです。貴方の帰還を歓迎します、110。』
ですが、と声が続く。
『▽。貴女はしばらくは帰還しなくてもいいです。というより、殲滅を頼みます。』
「・・・・・・はぁ!?なんでだよ!!!補充しねぇと弾がねぇってのに!!!」
無線機を取ろうとする彼女の頭を掴む。
腕の長さでは有利であったことにこっそりと安堵しつつ言葉を返す。
『こちら、110。・・・・・・・・ウルナは?あいつがいれば、百人力とは言わず、千人力だろうが。▽がいなくてもどうにかなると思うけどな。応答どうぞ。』
彼からの通信を耳にしながら外を見る。
『完全武装要塞』。
かつて。
そう、かつて『スパルタン』と名乗り、戦っていた者たちがいた。
その者たちが作った絶対に崩れることのない鉄壁の要塞。
その鉄壁の要塞は何を秘める様に沈黙していた。
内部ではそこらから怒号が交り、重なり合い。
外ではその文字通り、一つの稲妻が地を駆けていた。
駆ける度に群れを減らしてはいるのが目に映る。
だが、それもすぐに埋もれてしまう。
・・・・・・地獄だ。
それもいつ終わるのか、誰もが予想できない終わることのない地獄。
そう言っても過言ではなかった。
だが、
『こちら、110。・・・・・・どうした、エルミア?』
無線機からの声でエルミアはハッと我に返った。
そうだ。
そうだとも。
頼りにはしたくはないが、
頼りになる『絶対強者』がここにいる。
そう思ってしまう自分に情けないな、と思う。
だが、敵う存在が彼しかいない現状では頼らざるを得ない。
そう思うことにして、言葉を返した。
「こちら、エルミア。・・・・・・・・・マスター。一つ、頼んでもよろしいでしょうか?」
『・・・・・・・・・・・・・・どうした?』
普段呼ぶことない呼び方で彼を呼んだ。
そう呼ぶのは、ただ一人。
そう呼べるのも、ただ一人。
そう呼んでしまったことに彼女に頭を下げつつ、続けた。
「貴方のお力を、私たちにお貸しくれませんか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
間が空いた。
自身が頼ったことに彼はどう思うだろうか。
怒るだろうか。
それとも、笑うだろうか。
それはエルミアには分からない。
不安を感じる。
そう思い始めた時、言葉が聞こえる。
『・・・・・・・・・・・・・・・なんだよ、そんなことか。なにか重要なことかと思ったぜ。・・・・・・それでも、まぁ、重要なことだろうが。』
「で、では!!!」
間が開き、
『決まってるだろ?』
『貸してやる。』
反撃の狼煙が静かに、
だが激しく上がった。
「ああ。まだ生きてるとは思えないな・・・・・・・・・。」
埋め込まれる形で仰向けで倒れている人物に対し何名かが口にする言葉を耳にして白く短い髪をしている隻眼の女性は、内心で舌打ちをしながら後ろを振り向いた。
「そこまでだ。あんまり文句ばかりを言ったところでどうにかなるもんじゃねぇだろ?」
「で、ですが。」
文句を言おうとした一人に対し、彼女はハッと強く鼻で笑った。
「バカと高い空から落ちてきて無事なわけがねぇ。形が残ってるだけでも上等なのに、命まで無事なわけがねぇってか?」
「い、いえ。そうは申していません。」
女性の言葉を訊かれた男性は否定するが、言外ではその通りだと言っている。
その事について、難しいもんだ、と女性は思った。
「あのな。お前らは知らないかもしれねぇがな?」
いいか?と女性は言葉を続ける。
「この人は『スパルタン』だ。それに『スパルタン』ってのは、死なないし、死ぬわけがねぇ。・・・・・・・・・空から落ちただの、そういうもんで死ぬわけがねぇだろうが。バカか?」
女性の言葉に対し、男性が反論しようとしたところで動くことのなかった死体に変化が起こる。
天に向かって伸ばしていた手を下したのだ。
その変化で、周りにいた全員が息を呑んだが、女性は何も思わなかった様子で近くへ寄っていく。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ。・・・・・・・・・・・・頼むぜ。』
「あいよ、チーフ。」
近くに寄って来たことが分かったのか、今まで何も話さなかった死体がそう言うと、手を伸ばして来る。女性は伸ばされた手を問答無用と言った具合で掴むと、彼を立ち上がらせるように力を込めて引き寄せ、立ち上がらせた。
「ったく、無茶し過ぎだぜ、チーフ。あんまし無茶ばっかしてっとほんとに死んじまうぞ。分かってるのか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ。』
女性の言葉に対して渋々といった具合に彼は頷く様に呟いた。
そんな彼を不審に思ったのか、女性は目を細めて訊いた。
「んで、チーフ。レオナとケイトはどうした?」
レオナとケイト。
その二人は彼にとって大切な二人であり、忘れることが出来ない二人だった。
勿論、まだ一人、忘れることが出来ない人物がいるのだが。
ただ、彼女が話していない人物について話すのはどうなのだろう?
そんなことを思いながら、彼は口を開いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・向こうに残った。』
「成る程な。今頃は二人でランデブーってか。くぅ~、妬けちまうな、チーフ。」
冗談か皮肉か分からなかったので、彼は思ったことをそのまま言った。
『・・・・・・・・・・・・・・・▽。・・・・・・・・・・・あんまり皮肉とか言ってくれるなよ。』
「おっ?そうか?そうかそうか、悪いな、チーフ。こっちの方は『バイオス』どもと戦ってばっかでちと鬱憤が溜まっててな。」
ハッハッハ、と笑いながら彼の背を▽と呼ばれた女性は叩いていた。
しかし、それ自体には大した威力はないのか彼は全く気にしていない様子だった。
「っと。悪い悪い。いつまでも、こんなとこに居たら連中に捕捉されちまう。チーフ。悪いが、ちと移動するぜ。」
『・・・・・・・・・・・・・・了解だ。』
・・・・・・コイツもコイツで難儀なもんだ。
白い装甲に覆われた男性、『ケンジ110』は言葉には出すにそう思ったのだった。
そこでふと気付く。
周りにいる連中の手には刀剣類が握られており。
『人類種』が多いことに。
『・・・・・・・・・・・・・・・おい、▽。』
何故、『人類種』が多いのか、それを訊こうとした彼の言葉を遮る様に。
一人の騎士風の男が彼女に進言した。
「デルタ殿。ここに留まり過ぎると・・・・・・・。」
「あっ?・・・・・・・・あぁ、そうだな。」
その言葉で何を理解したのか。
それを伝えはせずに▽は彼を見て口を開いた。
「悪いな、チーフ。ここじゃちと悪いんで移動するぜ。・・・・・・・・いいか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・「あのクソ腹が立つ魔人種ども」か?』
笑った。
「ああ、そうだ。あんたがそう思ってるクソ野郎どもが寄って来るんだ。」
そうだとも、と言葉を続ける。
「・・・・・・・・・ヒーローのかぐわしい香りっての嗅いでな。」
皮肉交じりに言った彼女の言葉を聞いて、ケンジは頷いた。
・・・・・・・・まぁ、それ以外にもあるだろうがな。
ただ、今現在の情勢は何となくは理解は出来るので、ケンジは口にはしなかった。
『人類種』の騎士っぽい服装をしている連中が『機械人種』である▽に従うことがケンジには不思議に思えたからだ。
なにかからくりがある、と。
ただ言えることがある。
それだけを聞くためにここに留まることは理由にはならない。
『バイオス』の連中は鼻が優れている。
ケンジが降下してきたことももう既に知れていることだろう。
だからこそ、彼はもう一度だけ深くため息を吐く。
・・・・・・・面倒くせぇな。
左手にトリガーを握り、
右手に『アサルトライフル』を握って。
彼女を見た。
彼からの視線を受け取ると、彼女は口元を歪めた。
「準備はできたってか。・・・・・・あいよ、チーフ。」
よし。戻るぞ、てめぇら!!
威勢よく発せられた言葉に騎士風の男たちは渋々といった具合に移動を始めた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・。もうこれで何度目だ?」
「さて・・・・・・な。そんなこと・・・・・・・いちいち分からんさ。」
「ああ・・・・・・・その通りだ。・・・・・・・いちいち数える暇はない。・・・・・・・見ろ。」
後ろで話してる三人の視線の先には、何事も話さずにいる男がいる。
先程から起きてる戦闘で多くの騎士たちが傷を負った。
話してはいるが、この三人も無事とは言い難い。
だが、目の前の男はただ黙々と目の前に現れた『バイオス』を処理していた。
たまに話すことはあれども、それは『エンプティ』だの、『リロード』だの、『カバー』だの、と三人には理解できない言葉だった。
その彼の言葉が理解できてるのはここにいる者ではただ一人だろう。
「よぉ、チーフ。無事かい?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・歩ける程度には、な。』
「ハッハッハッ、そりゃ、重量重量。良かった、良かった。」
デルタと名乗るこの白髪をした隻眼の女性、ただ一人。
今も何をどう取れば、そう取れるのか三人には全く理解は出来なかった。
まぁ、「無事か」と訊かれて「歩ける程度には」と答えられれば、そう言えるのかもしれない。
しれないが、笑おうとまでにはならないだろう。
そもそも名前も知らない人物にそこまで信頼を寄せることすらも出来ないだろう。
彼女は彼のことを「チーフ」と呼ぶが、それが名前だとは考えにくい。
しかし、名前ではないとは確信が得られないのもまた事実。
だとすれば、訊けばいいのだが。
そうも出来ないのもまた事実だった。
こちらは『人類種』で。
彼は『機械人種』だ。
つい先日まで敵かもしれない、とお互いを疑っていた相手に声を掛けられるのか。
否。
恐らくはそうは上手くいかないだろう。
そんなことを思っていると。
『・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「あっ?どうした、チーフ?」
彼女を呼ぶように発した彼の言葉に反応しようとし、
彼が向く方を見ると、舌を打ち。
「ちぃ、またか!!!・・・・・・・・エンゲージ!!!武器を構えろ、お前ら!!!」
眼前に向けて強く視線を向ける。
両手には自分には慣れ親しんだ武器がある。
傍らには自身が尊敬する人物がいる。
『スパルタン』。
それは、かつて、最強と言われた『プレイヤー』たちのことであり。
その『プレイヤー』の中でも死にたがり等なんだのと言われ続けた者たちのことである。
だが。
・・・・・・・有り難いよなぁ。
自身の主たる者がいない現状では『スパルタン』程頼りになれるものはいない。
▽は胸中で感謝の言葉を言い、
・・・・・・・そう言ったらいけねぇけどな。
そう思った自身を叱った。
そうだ。
ここではない場所へと帰るために、彼らは戦っていたのだ。
その過程で多くの者たちが倒れようとも、
ただ帰る。
それだけの理由で戦い続けたのだ。
帰るため、と言う理由で。
つまり、それは現状では『スパルタン』である彼にはもう戦う理由はないということになり。
・・・・・・・あんまり頼るわけにはいかねぇよなぁ。
ここに居るだけである者に頼るとは情けないよなぁ、と彼女は思いながら、引き金を引いた。
もう何度目か。
数えるのが面倒だな、と思いながら引き金を引いていると、
眼前の敵に銃口を向けていた彼が何かが気になったのか。
後ろを見る様に顔を向けて。
『・・・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「あっ!?なんだ、チーフ!?」
何事か訊く彼女に対し、ケンジは一言だけ、
『・・・・・・・・・・・・・・・・フォローしてくる。』
そう言うと。
後ろへと身体を翻し、後ろの方へと向かって行った。
「お、おいっ!!!まだ、前に残って・・・・・・・っ!!!!」
残っていると言い終わる前に彼の姿は見えなくなってしまった。
なんでいきなり、後ろに・・・・・・・?
そう▽は疑問する。
しかし、疑問したところで答えなど分かっている事であり、
疑問に思う必要などはなかった。
後ろで聞こえる懐かしく思う重い銃声を耳にしたからだ。
分かっていた。
彼はよく分からないことを話すことは多々ある。
だが、何一つ無駄になったことはなかった。
今もそうだ。
後ろで銃声が聞こえるということは、
それはつまり。
後方からも近付いてくるということであり。
今、▽達は挟撃に晒されているということでもあった。
・・・・・・・・・・・頼りになるねぇ。
眼前の敵に手一杯の彼女に変わって後ろを援護する。
▽達よりも戦い慣れている彼だからこそ、分かることであり、
彼よりか戦い慣れてはいない▽には分からないことだった。
それが戦場の空気を感じ取れる『スパルタン』という人種の異常性を感じていた。
・・・・・・・・・・・まぁ、それでも、だ。
空になった弾倉を弾き出し、
新たな弾倉を装填しようとして、
彼女の手は宙を掴んだ。
「・・・・・・・・・・・あっ?」
あるはずの場所にないという事実に、彼女は疑問の声を出す。
しかし、そこにないのはもう既に確定していることであり、
覆ることはない。
前方から炎弾が飛来する。
「・・・・・ちぃぃぃぃぃぃ!!!クソッたれがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
次々と飛来する炎弾を避けながら罵声を口にし、
「チーフ!!!!悪い、弾が無くなった!!!弾くれ!!!」
後ろで弾幕を張っている彼に聞こえる様に大声を出す。
因みに、近くに居た三人の騎士風の外見をした男たちは。
必死に盾で炎弾を防いでいた。
・・・・・・・・・・たまには、避けるとかやれよ!!
馬鹿の一つ覚えで立ってるだけとか、何やってんだよ!!!
文句を言いたい気持ちに駆られる。
けどまぁ、攻撃方法が刀剣しかなかったらそうなるか。
いやだけど、せめてサブにボウガンとか飛び道具の一つくらいは準備しようぜ。
それも出来てなかったら、こいつらバカ以下だな。
・・・・・・・・・・いや、バカ以下のクソは『バイオス』だから違うか。
だけど、こいつらバカだよな。
そんなことを思いながら避けていると、
『・・・・・・・・・・・・・・・・▽っ!!』
自身を呼ぶ声共に小型のコンテナが投げ込まれる。
・・・・・・・・・・・頼むから投げる前に呼んでくれ!!
投げ込まれたコンテナを、勢いを殺すことのないように掴み、
前へと身体を動かし、
動く瞳で確認した。
コンテナの中身は弾倉がありったけ入っていた。
上段に、10。
下段に、10。
上下合わせ、20の弾倉があった。
「チーフ、助かった!!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・礼を言うのはっ、』
感謝の気持ちを伝える▽に対し、彼は声を押し殺す様に、
『・・・・・・・・・・・・・・・・後にしろっ!!!』
そう叫んだ。
彼の言葉に▽は口元を歪め、
・・・・・・・・・・・・有り難いねぇ。
弾倉を二つ取り出すと、天高く放り投げた。
虚空を飛んでいくそれらを見ながら、▽はコンテナから残っていた弾倉全てを抜き去って、
空となったコンテナを放り投げた。
放物線を描いて落ちてくる二つの弾倉。
▽は抜き去った残りを先程までそうしていた様に腰部に取り付けて、
落ちてくる弾倉を銃の腹に突き刺す。
愛銃と弾倉が噛み合った音が耳に聞こえると、
獣が獲物に向ける様に口元を歪める。
「ハッハッ!!!!」
笑う。
弾が無ければどうしようもない。
だが、今はそうではない。
戦う手段があれば、
それだけでいいのだ。
だからこそ、彼女は笑う。
狩られる存在から、
狩る存在へと変われたのだから。
だからこそ、言うのだ。
「てめぇら、さっきはよくもやってくれたなぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・っ!!!」
手が出せないことを良いことに攻撃してきたのだ。
ならば。
「倍して返してやるぜぇぇぇぇぇぇ・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!!」
そうだ。
「てめぇら、クソッたれにはそれだけでいいよなぁぁぁぁぁ・・・・っ!!!?」
眼前の敵に向かって、彼女は笑う。
笑いながら、両手の二丁が咆哮する。
その咆哮は、戦えることに対しての喜びか。
それとも狩りが出来ることに対しての喜びか。
鬼神の如き乱舞で両手の得物と、
高鳴り笑う彼女を前に。
後ろで盾を構える三人の騎士は戦慄していた。
同時に思うことがある。
・・・・・・・・・・・・・もし。
もし、彼女を含む『機械人種』を敵としていたら。
彼女に狩られていたのは自分たち、『人類種』なのではないか、と。
いや、彼女だけではない。
彼女の他の『機械人種』にも狩られていたのではないか、と。
『・・・・・・・・・・・・・・・・テンション上がってるな、アイツ。』
もう少し下げたらいいのにな、と頭を掻きながら呟く白い男がいつの間にか三人の傍に居た。
いつの間に・・・・・・・・・・っ!!?
三人がそう疑問する。
そして、気が付く。
後ろで聞こえていた銃声が鳴り止んでいたことに。
後ろを歩くけが人たちが男に感謝の声を出していたことに。
彼女よりも遅く戦っていたにも関わらず、
彼女よりも早く終わらせた。
そのことに三人は驚愕すると共に戦慄した。
『機械人種』を敵としていたら、どうなっていたか。
突き付けられた事実に何も話せなくなる。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
何も話さない男に三人は恐怖した。
無言で佇む絶対強者に。
そう思われるとはつい知らず。
ケンジはどうしたもんだかなぁ、と悩んでいた。
・・・・・・・・・・・気まずいなぁ。
『コミュニケーション障害』というものがある。
対人関係を必要とされる場面で、何も出来なくなる。
そうだ。
それは正しく今のケンジの状態を言っている。
何かを話そうとする三人。
それに対し、何を話すべきか。
そんな簡単なことで悩む自分がいる。
出来れば、仲介役を頼みたいのだが。
両手に握る銃を咆哮させながら、
その文字通りに踊る女性がいる。
何をそこまでテンション高くやれるのか、ケンジには分からない。
・・・・・・・・・・・・・・それとも。
一つの可能性を考える。
・・・・・・・・まさか、こいつ、トリガーハッピーなのか・・・・・・・・っ!!?
トリガーハッピー。
古来より銃を乱射することによって快感を得るというモノが存在する。
そんなものがあり得るわけがないとは断言は出来なかった。
そういうケンジも快感を得る時が多々あるからだ。
故に、馬鹿にすることも文句を言うことも出来ないのだが。
そうなると、それはそれで面倒だな、と思う自分がいた。
もう既に攻撃は止んでいる。
止んでいるにも関わらず、彼女は狂喜乱舞の如く戦場を舞っている。
気が付いているとは思いたいが、
それでも弾を撃ち込んでいる状態を見るに分かっているとは、思えなかった。
そして、そんな状態の彼女を止める勇気はケンジにはない。
ケンジの隣にいる三人も同じようだった。
とすると、選択肢は限られてくるわけで。
『・・・・・・・・・・・ったく、仕方ないな。』
右手に握る銃口を上に向け。
何もない上空に向けて発砲した。
直後、
「後ろかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
顔に笑みを浮かべ、戦いに酔いしれている彼女は。
振り向くと同時にケンジに向かって発砲した。
放たれた弾丸はケンジの頭蓋を撃ち抜くことなく、
すぐ傍を走って行った。
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
出来れば、やってもらたくはなかった反応が返ってきたことに、
ケンジはため息を一つ吐く。
『・・・・・・・・・・・・・・・▽。』
「・・・・・・・・って、チーフじゃねぇか!!!・・・・・んだよ、声掛けてくれりゃよかったのに。敵かと思って撃っちまったじゃねーか。当たったらどうするんだよ。」
・・・・・・・・・・・知るかよ。
彼女の言葉にケンジは心の中で文句を言った。
『・・・・・・・・・・・・・・・それで?』
「・・・・・・・あっ?」
どうするのかと訊いたつもりだったのだが、彼女には分からなかったらしい。
出来れば、一回の質問で分かってくれるといいんだが。
今、ここにはいない自身の従者と相棒の存在に感謝しながら、もう一度だけ、訊いた。
『・・・・・・・・・・・・・・・それで?』
「あ、ああ。・・・・・・・・まだ距離があるからな。」
もう一度同じ言葉を繰り返したことで彼女は質問の意味を理解したらしい。
その言葉に対してケンジは理解した。
今ケンジたちがいる場所は『完全武装要塞』近くの森林であり、
射程に入るまで、まだ距離がある。
要塞自体が標的であれば、それに捕捉されない様に大回りで行く必要があるが、
ケンジにとっては関係がなかった。
強引に突き進んでもいいし、
向こうからの接触を待つのもいい。
ただ一つ。
言えることがあるとすれば。
・・・・・・・・・・・・・・・面倒くせぇ。
そうだ。
どちらにしても、ケンジにとっては面倒であることには変わりなかった。
それを簡略化するためには、どうするべきか。
それを考えて・・・・・・・・・。
『・・・・・・・・・・・・・・・あっ。』
何かを思い出したような声をケンジは出した。
・・・・・・・・・・・・・・・そう言えば、最初からやっていれば解決していたよな、これ。
まぁ、やるにしても接触しなければ確認は取れないから。
・・・・・・・・・・・・・・・気にしたら負けだな、うん。
そう思うことにして無線機を手に取って、ボタンを押した。
『こちら、スパルタン110。本部、応答されたし、応答どうぞ。』
「えっ?」
「えっ?」
「えっ?」
先程まで言葉を出すのに時間が掛かっていたのに普通に話し始めたケンジに、
三人は驚いた様子の声を出した。
それはそうだろう。
会話をするのはデルタなどと呼ばれる女性一人だけで、
その会話も途切れ途切れ交わされたものだった。
にも関わらず、
今はどうか。
目の前にはいない誰かに話す様に自分たちが知らない何かに向かって流暢に話している。
これに驚かない者などいようか。
否。
いるはずがない。
・・・・・・・・・・・・・・気まずいなぁ。
いきなり、普通に話し始めたことに驚いたからであろうか。
隣にいる三人の自身を見てくる眼が痛い。
気まずいことこの上ないと言えるだろう。
そして、この後のことを考えると・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・・・面倒くせぇ。
面倒だと思い始めたその時、無線機から声が返ってくる。
『こちら、エルミア。・・・・・・・・・無事ですか、110っ。』
『こちら、110。ああ、無事だぜ?』
言葉を一瞬切って、▽の方を見てから、
『▽に一発、脳天向けて撃たれたけどな。・・・・・・応答どうぞ。』
「ちょ、おまっ!!!!!報告するとか、そりゃねーだろうが、チーフ!!!」
・・・・・・・・知るかよ。
無線機を取ろうとする彼女の手から身体を逸らし、回避する。
・・・・・・・・それにな。
避ける前に彼女の頭を掴む。
『・・・・・・・・・・・・・・・一発は一発だろうが。』
向こうに押してやる。
力はさほど加わってはいないはずだが、彼女は上体を大きく後ろに反らし、
気合を入れて立ち続け、
踏ん張りを利かせて直った。
「・・・・・・・・っぶねぇな!!!!・・・・・・なにしやがる、チーフ!!!!倒れちまうだろうが!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・知るかよ。
二度と立ち上がれない様に撃ってきやがったのはお前だろうが。
そう言えた義理かよ。
音が入る。
『こちら、エルミア。・・・・・・ja。ですが、無事でなによりです。貴方の帰還を歓迎します、110。』
ですが、と声が続く。
『▽。貴女はしばらくは帰還しなくてもいいです。というより、殲滅を頼みます。』
「・・・・・・はぁ!?なんでだよ!!!補充しねぇと弾がねぇってのに!!!」
無線機を取ろうとする彼女の頭を掴む。
腕の長さでは有利であったことにこっそりと安堵しつつ言葉を返す。
『こちら、110。・・・・・・・・ウルナは?あいつがいれば、百人力とは言わず、千人力だろうが。▽がいなくてもどうにかなると思うけどな。応答どうぞ。』
彼からの通信を耳にしながら外を見る。
『完全武装要塞』。
かつて。
そう、かつて『スパルタン』と名乗り、戦っていた者たちがいた。
その者たちが作った絶対に崩れることのない鉄壁の要塞。
その鉄壁の要塞は何を秘める様に沈黙していた。
内部ではそこらから怒号が交り、重なり合い。
外ではその文字通り、一つの稲妻が地を駆けていた。
駆ける度に群れを減らしてはいるのが目に映る。
だが、それもすぐに埋もれてしまう。
・・・・・・地獄だ。
それもいつ終わるのか、誰もが予想できない終わることのない地獄。
そう言っても過言ではなかった。
だが、
『こちら、110。・・・・・・どうした、エルミア?』
無線機からの声でエルミアはハッと我に返った。
そうだ。
そうだとも。
頼りにはしたくはないが、
頼りになる『絶対強者』がここにいる。
そう思ってしまう自分に情けないな、と思う。
だが、敵う存在が彼しかいない現状では頼らざるを得ない。
そう思うことにして、言葉を返した。
「こちら、エルミア。・・・・・・・・・マスター。一つ、頼んでもよろしいでしょうか?」
『・・・・・・・・・・・・・・どうした?』
普段呼ぶことない呼び方で彼を呼んだ。
そう呼ぶのは、ただ一人。
そう呼べるのも、ただ一人。
そう呼んでしまったことに彼女に頭を下げつつ、続けた。
「貴方のお力を、私たちにお貸しくれませんか?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・。』
間が空いた。
自身が頼ったことに彼はどう思うだろうか。
怒るだろうか。
それとも、笑うだろうか。
それはエルミアには分からない。
不安を感じる。
そう思い始めた時、言葉が聞こえる。
『・・・・・・・・・・・・・・・なんだよ、そんなことか。なにか重要なことかと思ったぜ。・・・・・・それでも、まぁ、重要なことだろうが。』
「で、では!!!」
間が開き、
『決まってるだろ?』
『貸してやる。』
反撃の狼煙が静かに、
だが激しく上がった。
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