デリートマン

わいんだーずさかもと

文字の大きさ
28 / 33

第28話【デリートマンの決断⑤】

しおりを挟む
事件から数日経った。

ニュースでは連日、ここ数日で明らかになった事件の詳細を伝えていた。

そして、加害者少年の供述は恐川のときと同じだった。

「殴ったり蹴ったりしたが、罰ゲーム」

「ふざけてやったいつもの遊び」

こういう言葉を聞くたびに消してやろうと思う。

しかし、おれはまだ行動できずにいた。つまり、まだ犯人達を消せずにいた。

なぜか…、それは、恐川を消しても少年が死ぬ運命を変えれなかったからだ。

これまで、何人かを消してきた。そして、その人がいない世界は、おおよそ自分の考えた世界になっていた。

当然今回も、主犯である恐川を消せば被害者少年は助かると信じていた。しかし、変えたかった現実は変わらなかった。

(今回の犯人を消して、被害者少年は助かるのか…あの子を助けられるのか…)

確信が持てなかった。その確信が持てない以上、躊躇ってしまう。

もちろん、犯人どもはクズだと思う。こんな奴ら、消えた方が世の中のためだと思う。

ただ、おれが救いたいのは被害者の少年だ。その少年を助けられないなら意味がない。

(もし、この少年が助からないのなら…今さらどうやったってこの少年が死ぬ運命を変えられないのなら…、こいつらを消す意味ってなんだ?)

そう考えてしまい、まだ消せずにいたのだ。

「そういえば、ようこが言ってたっけ」

ようこに言われたことをふと思い出して、呟いていた。

『確かにこの犯人は憎い。でも、もっと、この子だけじゃなくて、憎むべきは違うところにあるんじゃないかな?』

恐川のニュースを見て、おれがこいつさえいなければ事件が起こらないって言った後、確か、そんなことを言っていた。

(ようこなら、被害者を救えなかった理由がわかるかもしれないな)

そんなことを思ったが、もう今は聞くことはできない。

「おれは、田坂智の別人だもんな…」

スマートフォンを出してようこの写真を眺めた。

「ごめんな…あのとき、もっとちゃんと話し合っておけばよかったな…」

そう、ようこの写真に向かって呟いていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


それから数日後、おれはある決意を持って家に帰った。予想通り、デリートサイトが立ちあがっている。

いつものようにログイン状態になっていたのでメッセージを送ろうとしたが、向こうからメッセージがきた。

「お久しぶりです。田坂さま。待ちくたびれました」

「なんで?」

「いや、てっきり4人の犯人を順番に消していくと思っていたのですが、そうされなかった。やはり田坂さまの変化は私どももまだまだ把握できておりません」

「あんたらでも、そうなんか?」

「はい」

「今日は考えて出した結論があって、人を消す決意をした。まあ、あんたらはデータ取ってておれの考えてることがわかるから、言う必要はないかもしれんけど…」

「田坂さまの言葉で聞かせてください」

あれから、考えた。

今回の4人の犯人を消して、少年を救えるかもしれないが、救えないかもしれない。もし恐川を消したときのように被害者少年が変わらなければ、また違う加害者を出してしまうことになるかもしれない。

そうだとすると、おれは犯罪者にならない予定だった人間を犯罪者にしてしまっているということになるのではないか?

もし恐川がいれば、今回主犯になった少年は健全な少年だったんじゃないのか?

もちろん、それはわからない。わからないが、一つだけ言えることは恐川が主犯のとき、今回の主犯とされている少年の名前は加害者グループになかった。

つまり、恐川が主犯の時の犯行には一切関与していないのだ。その関与のなかった人間が、今回は主犯になっている。

それを考えたとき、恐くなった。おれは、もしかしてとんでもないことをしてしまったのではないか…と。
   
もう、そんなことはしたくない。だから、そうならずに確実に誰かを救える方法を考えた。

おれはやっぱり、人を消すことで誰かを救いたい。今までずっとそうしてきた。それだけは曲げたくなかった。

ただ、被害者少年を救う方法がわからない。誰を消せば被害者少年が死なずにすむかがわからないのだ。

だったらせめて、ニュースで連日涙を流している被害者の父親、そして、ショックで精神を病んでしまい入院してしまった被害者の母親。

この二人に、こんな思いをさせたくない。こんな仕打ちをこの両親が受ける必要などない。

「一つ、確認させてくれ。死んだ人間を消せるか?」

「既に亡くなっている人間ということですよね?問題ありません」

確実に言えること。それはこの両親に子供がいなければ、こんな思いをせずにすんだということ。

「今回の被害者少年を消す」

「ほんとによろしいんですか?この子に、なんの罪もありませんよ」

「いいんだ。もし死んでしまう運命で、おれにそれを変えることができないなら、両親を救う」

「それは、この子のご両親を救うことになるのでしょうか?」

「当たり前だろう。この両親はこの先一生、この悲しみを背負って生きていかないといけない。
それはもし被害者が死刑になったとしても変わらないだろう。その悲しみを取り除くんだ」

「そうでしょうか?このご両親にはこの子がいたからこその思い出もあるでしょう。もしかするとそれらを持って、このご両親は前向きに生きていけるかもしれない。
田坂さま、あなたはそういった可能性も、これまでの思い出と一緒にご両親から奪うのですか?」

「あんた、結構人間くさいところあるじゃないか。初めて人とやり取りしてる気がしたよ」

こいつがこんなことを言ってくるのは意外だった。

「それは、田坂さまと同じ人間ですから」

「同じってことはないと思うけど、もっと冷酷な奴と思ってたよ。あんたに言われて少し、考えさせられた」

「すみません。今日は喋りすぎました。我々は、我々が選んだデリートマンの選択に従って人を消し、データを集め、分析するだけ。それだけです。
今日の私の発言は、確実に上から怒られます」

「でも、たまには今日みたいに喋ってほしい。あんたと話するのは楽しそうやわ」

「いえ、これっきりです」

「はいはい、わかりました。で、やっぱりおれは、被害者少年を消す」

「わかりました」

「たしかにあんたの言う通りかもしれん。けど、何が正解なのかはわからない。だったら、おれは自分が信じた正義に従う」

「それでは、画像ファイルのアップロードをお願いします」

デリートサイトのアップロードボタンから、被害者少年の画像ファイルを選択し、アップロードした。

「ファイルアップロードありがとうございました。それでは、明日の0時に削除致します。次に田坂さまから消える思い出の選択をお願いします」

前回と同じく、現在からみて一番遠い過去の思い出を選択した。

またこれで自分が壊れていくのだろうが、もうそのことにそれほど抵抗はなくなっていた。

「選択ありがとうございます。田坂さま。これで手続きはすべて終了となります。他に何かございますか?」

「ないよ、ありがとう」

「承知しました。では、本日はこれにて失礼致します」

デリートサイトが閉じられた。

(あいつ、あんなこと言うんだな…)

言われたことを思い出した。

『このご両親にはこの子がいたからこその思い出もあるでしょう。もしかするとそれらを持って、このご両親は前向きに生きていけるかもしれない。
田坂さま、あなたはそういった可能性も、これまでの思い出と一緒にご両親から奪うのですか?』

(そうかもしれない。でも…)

ニュースで涙ながらに会見する父親の姿を思い浮かべた。

(そんな悲しい思いはしなくてすむんだ。そっちの方が…はじめから何もない方が…少なくても、父親の涙はなくなるはずだ!)

テレビを見ながら、自分の決断は正しいかったと、自分に言い続けた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


翌朝、朝7時に目覚めた。テレビをつけて、ニュース番組にチャンネルを合わせた。

リビングにあるテレビはグラスを投げつけて壊してしまったので、最近は寝室に置いてあるテレビで朝のニュースを見るのが日課だ。

ここ最近は自分が救えなかった少年のニュースで持ち切りだったので、自然とテレビを見ないようにしていたのだが、もうそんな心配はしなくていい。

寝室を出てリビングに行き、冷蔵庫を開けようとしたとき、背後からニュースキャスターの声が聞こえてきた。

「次のニュースです。3日前に発生しました殺人事件、昨夜、容疑者が逮捕されました。容疑者は未成年ということですが宮川さん、どう思われますか?」

「そうですね。こういった未成年犯罪というのは、非常に難しい側面が…」

(同じ…事件…?)

話を振られたコメンテーターが事件について話している。

未成年による殺人事件。頭が混乱しそうになったが、そんなはずはない。被害者少年は消したのだ、彼が殺害されるはずがない。

「まあ、容疑者が未成年ということでテレビなどでは実名や写真は伏せられますが、今はSNSなどネットで情報が拡散されますので、隠しきれない部分が…」

(違うよな…あいつらじゃ…ないよな)

スマートフォンを手に取り、祈るような気持ちでSNSを確認した。事件に関する情報はすぐに見つかった。そして、容疑者とされる4人を見たとき、スマートフォンを落としそうになった。

(お前ら…鬼畜か…)

SNSで特定されていたのは、前回と同じ4人で主犯も同じだった。

(いったい誰を…)

「こんなに可愛い子が、どうして…」

テレビから女性コメンテーターがすすり鳴く声が聞こえてきた。テレビを見る。画面には被害者である中学1年生の男の子が笑っている写真が映し出されていた。

(おれは…おれが…別の子を…殺したのも同じじゃないか…)

テレビに映されていた被害者少年の顔と名前は、前回殺害された被害者少年と異なっていた。

「なぜ、ウチの子が…、突然のことで今は気持を整理できません…返してもらえませんか?ねえ、ウチの子、返してもらえませんか!」

被害者の父親の会見がテレビで流れていた。

「このお父さんの会見、私、見てられないです」

女性コメンテーターが言うと、スタジオにいる何人かが涙を流した。

(おれは、人を守れたのか…不幸にしたのか…、教えてくれ、何が正解なんだ…もう…わからない)

何も考えられなくなっていた。

(お願いだ…もうデータ取りはいいだろう。教えてくれよ)

ベッドに腰掛ける、目の前の机にノートパソコン。

「教えてくれよ…」

ノートパソコンを立ち上げる。通常起動後、いつもの画面になった。

「おい」

声をかけるがデリートサイトは立ちあがってこない。

「おい!教えろ!!」

キーボードを激しく叩いた。

「もう…無理だよ…」

いつもの画面を見ていると、涙が流れてきた。キーボードに涙が落ちる。

「頼むよ…」

弱い声を口から絞り出した。

すると、その声に応えてくれるかのように、デリートサイトが静かに立ちあがってきた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

僕らの10パーセントは無限大

華子
青春
 10%の確率でしか未来を生きられない少女と  過去に辛い経験をしたことがある幼ななじみと  やたらとポジティブなホームレス 「あり得ない今を生きてるんだったら、あり得ない未来だってあるんじゃねえの?」 「そうやって、信じたいものを信じて生きる人生って、楽しいもんだよ」    もし、あたなら。  10パーセントの確率で訪れる幸せな未来と  90パーセントの確率で訪れる悲惨な未来。  そのどちらを信じますか。 ***  心臓に病を患う和子(わこ)は、医者からアメリカでの手術を勧められるが、成功率10パーセントというあまりにも酷な現実に打ちひしがれ、渡米する勇気が出ずにいる。しかしこのまま日本にいても、死を待つだけ。  追い詰められた和子は、誰に何をされても気に食わない日々が続くが、そんな時出逢ったやたらとポジティブなホームレスに、段々と影響を受けていく。  幼ななじみの裕一にも支えられながら、彼女が前を向くまでの物語。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...