デリートマン

わいんだーずさかもと

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第28話【デリートマンの決断⑤】

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事件から数日経った。

ニュースでは連日、ここ数日で明らかになった事件の詳細を伝えていた。

そして、加害者少年の供述は恐川のときと同じだった。

「殴ったり蹴ったりしたが、罰ゲーム」

「ふざけてやったいつもの遊び」

こういう言葉を聞くたびに消してやろうと思う。

しかし、おれはまだ行動できずにいた。つまり、まだ犯人達を消せずにいた。

なぜか…、それは、恐川を消しても少年が死ぬ運命を変えれなかったからだ。

これまで、何人かを消してきた。そして、その人がいない世界は、おおよそ自分の考えた世界になっていた。

当然今回も、主犯である恐川を消せば被害者少年は助かると信じていた。しかし、変えたかった現実は変わらなかった。

(今回の犯人を消して、被害者少年は助かるのか…あの子を助けられるのか…)

確信が持てなかった。その確信が持てない以上、躊躇ってしまう。

もちろん、犯人どもはクズだと思う。こんな奴ら、消えた方が世の中のためだと思う。

ただ、おれが救いたいのは被害者の少年だ。その少年を助けられないなら意味がない。

(もし、この少年が助からないのなら…今さらどうやったってこの少年が死ぬ運命を変えられないのなら…、こいつらを消す意味ってなんだ?)

そう考えてしまい、まだ消せずにいたのだ。

「そういえば、ようこが言ってたっけ」

ようこに言われたことをふと思い出して、呟いていた。

『確かにこの犯人は憎い。でも、もっと、この子だけじゃなくて、憎むべきは違うところにあるんじゃないかな?』

恐川のニュースを見て、おれがこいつさえいなければ事件が起こらないって言った後、確か、そんなことを言っていた。

(ようこなら、被害者を救えなかった理由がわかるかもしれないな)

そんなことを思ったが、もう今は聞くことはできない。

「おれは、田坂智の別人だもんな…」

スマートフォンを出してようこの写真を眺めた。

「ごめんな…あのとき、もっとちゃんと話し合っておけばよかったな…」

そう、ようこの写真に向かって呟いていた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


それから数日後、おれはある決意を持って家に帰った。予想通り、デリートサイトが立ちあがっている。

いつものようにログイン状態になっていたのでメッセージを送ろうとしたが、向こうからメッセージがきた。

「お久しぶりです。田坂さま。待ちくたびれました」

「なんで?」

「いや、てっきり4人の犯人を順番に消していくと思っていたのですが、そうされなかった。やはり田坂さまの変化は私どももまだまだ把握できておりません」

「あんたらでも、そうなんか?」

「はい」

「今日は考えて出した結論があって、人を消す決意をした。まあ、あんたらはデータ取ってておれの考えてることがわかるから、言う必要はないかもしれんけど…」

「田坂さまの言葉で聞かせてください」

あれから、考えた。

今回の4人の犯人を消して、少年を救えるかもしれないが、救えないかもしれない。もし恐川を消したときのように被害者少年が変わらなければ、また違う加害者を出してしまうことになるかもしれない。

そうだとすると、おれは犯罪者にならない予定だった人間を犯罪者にしてしまっているということになるのではないか?

もし恐川がいれば、今回主犯になった少年は健全な少年だったんじゃないのか?

もちろん、それはわからない。わからないが、一つだけ言えることは恐川が主犯のとき、今回の主犯とされている少年の名前は加害者グループになかった。

つまり、恐川が主犯の時の犯行には一切関与していないのだ。その関与のなかった人間が、今回は主犯になっている。

それを考えたとき、恐くなった。おれは、もしかしてとんでもないことをしてしまったのではないか…と。
   
もう、そんなことはしたくない。だから、そうならずに確実に誰かを救える方法を考えた。

おれはやっぱり、人を消すことで誰かを救いたい。今までずっとそうしてきた。それだけは曲げたくなかった。

ただ、被害者少年を救う方法がわからない。誰を消せば被害者少年が死なずにすむかがわからないのだ。

だったらせめて、ニュースで連日涙を流している被害者の父親、そして、ショックで精神を病んでしまい入院してしまった被害者の母親。

この二人に、こんな思いをさせたくない。こんな仕打ちをこの両親が受ける必要などない。

「一つ、確認させてくれ。死んだ人間を消せるか?」

「既に亡くなっている人間ということですよね?問題ありません」

確実に言えること。それはこの両親に子供がいなければ、こんな思いをせずにすんだということ。

「今回の被害者少年を消す」

「ほんとによろしいんですか?この子に、なんの罪もありませんよ」

「いいんだ。もし死んでしまう運命で、おれにそれを変えることができないなら、両親を救う」

「それは、この子のご両親を救うことになるのでしょうか?」

「当たり前だろう。この両親はこの先一生、この悲しみを背負って生きていかないといけない。
それはもし被害者が死刑になったとしても変わらないだろう。その悲しみを取り除くんだ」

「そうでしょうか?このご両親にはこの子がいたからこその思い出もあるでしょう。もしかするとそれらを持って、このご両親は前向きに生きていけるかもしれない。
田坂さま、あなたはそういった可能性も、これまでの思い出と一緒にご両親から奪うのですか?」

「あんた、結構人間くさいところあるじゃないか。初めて人とやり取りしてる気がしたよ」

こいつがこんなことを言ってくるのは意外だった。

「それは、田坂さまと同じ人間ですから」

「同じってことはないと思うけど、もっと冷酷な奴と思ってたよ。あんたに言われて少し、考えさせられた」

「すみません。今日は喋りすぎました。我々は、我々が選んだデリートマンの選択に従って人を消し、データを集め、分析するだけ。それだけです。
今日の私の発言は、確実に上から怒られます」

「でも、たまには今日みたいに喋ってほしい。あんたと話するのは楽しそうやわ」

「いえ、これっきりです」

「はいはい、わかりました。で、やっぱりおれは、被害者少年を消す」

「わかりました」

「たしかにあんたの言う通りかもしれん。けど、何が正解なのかはわからない。だったら、おれは自分が信じた正義に従う」

「それでは、画像ファイルのアップロードをお願いします」

デリートサイトのアップロードボタンから、被害者少年の画像ファイルを選択し、アップロードした。

「ファイルアップロードありがとうございました。それでは、明日の0時に削除致します。次に田坂さまから消える思い出の選択をお願いします」

前回と同じく、現在からみて一番遠い過去の思い出を選択した。

またこれで自分が壊れていくのだろうが、もうそのことにそれほど抵抗はなくなっていた。

「選択ありがとうございます。田坂さま。これで手続きはすべて終了となります。他に何かございますか?」

「ないよ、ありがとう」

「承知しました。では、本日はこれにて失礼致します」

デリートサイトが閉じられた。

(あいつ、あんなこと言うんだな…)

言われたことを思い出した。

『このご両親にはこの子がいたからこその思い出もあるでしょう。もしかするとそれらを持って、このご両親は前向きに生きていけるかもしれない。
田坂さま、あなたはそういった可能性も、これまでの思い出と一緒にご両親から奪うのですか?』

(そうかもしれない。でも…)

ニュースで涙ながらに会見する父親の姿を思い浮かべた。

(そんな悲しい思いはしなくてすむんだ。そっちの方が…はじめから何もない方が…少なくても、父親の涙はなくなるはずだ!)

テレビを見ながら、自分の決断は正しいかったと、自分に言い続けた。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ 


翌朝、朝7時に目覚めた。テレビをつけて、ニュース番組にチャンネルを合わせた。

リビングにあるテレビはグラスを投げつけて壊してしまったので、最近は寝室に置いてあるテレビで朝のニュースを見るのが日課だ。

ここ最近は自分が救えなかった少年のニュースで持ち切りだったので、自然とテレビを見ないようにしていたのだが、もうそんな心配はしなくていい。

寝室を出てリビングに行き、冷蔵庫を開けようとしたとき、背後からニュースキャスターの声が聞こえてきた。

「次のニュースです。3日前に発生しました殺人事件、昨夜、容疑者が逮捕されました。容疑者は未成年ということですが宮川さん、どう思われますか?」

「そうですね。こういった未成年犯罪というのは、非常に難しい側面が…」

(同じ…事件…?)

話を振られたコメンテーターが事件について話している。

未成年による殺人事件。頭が混乱しそうになったが、そんなはずはない。被害者少年は消したのだ、彼が殺害されるはずがない。

「まあ、容疑者が未成年ということでテレビなどでは実名や写真は伏せられますが、今はSNSなどネットで情報が拡散されますので、隠しきれない部分が…」

(違うよな…あいつらじゃ…ないよな)

スマートフォンを手に取り、祈るような気持ちでSNSを確認した。事件に関する情報はすぐに見つかった。そして、容疑者とされる4人を見たとき、スマートフォンを落としそうになった。

(お前ら…鬼畜か…)

SNSで特定されていたのは、前回と同じ4人で主犯も同じだった。

(いったい誰を…)

「こんなに可愛い子が、どうして…」

テレビから女性コメンテーターがすすり鳴く声が聞こえてきた。テレビを見る。画面には被害者である中学1年生の男の子が笑っている写真が映し出されていた。

(おれは…おれが…別の子を…殺したのも同じじゃないか…)

テレビに映されていた被害者少年の顔と名前は、前回殺害された被害者少年と異なっていた。

「なぜ、ウチの子が…、突然のことで今は気持を整理できません…返してもらえませんか?ねえ、ウチの子、返してもらえませんか!」

被害者の父親の会見がテレビで流れていた。

「このお父さんの会見、私、見てられないです」

女性コメンテーターが言うと、スタジオにいる何人かが涙を流した。

(おれは、人を守れたのか…不幸にしたのか…、教えてくれ、何が正解なんだ…もう…わからない)

何も考えられなくなっていた。

(お願いだ…もうデータ取りはいいだろう。教えてくれよ)

ベッドに腰掛ける、目の前の机にノートパソコン。

「教えてくれよ…」

ノートパソコンを立ち上げる。通常起動後、いつもの画面になった。

「おい」

声をかけるがデリートサイトは立ちあがってこない。

「おい!教えろ!!」

キーボードを激しく叩いた。

「もう…無理だよ…」

いつもの画面を見ていると、涙が流れてきた。キーボードに涙が落ちる。

「頼むよ…」

弱い声を口から絞り出した。

すると、その声に応えてくれるかのように、デリートサイトが静かに立ちあがってきた。
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