デリートマン

わいんだーずさかもと

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第29話【デリートマンの決断⑥】

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「おい!何が正解だ?おれはどうすればよかった?」

すぐにメッセージを送る。

「おい!教えてくれよ!」

さっき発した言葉をそのまま打ち込んでいた。

「田坂さま、とりあえず落ち着いてください」

「落ち着けるかよ!おれがやったことで、人殺しを増やした…、そして、被害者も増やしたんだよ、おれが、何もしなければ…」

「田坂さま、それは結果論であり、田坂さまのせいではありません」

「おれのせいだ!おれのせいじゃなければ誰のせいなんだよ!教えてくれ。どうすればよかった?誰を消せばよかった?あんたは正解を知ってるだろ!」

キーボードが壊れるんじゃないかというくらいの強さで、キーを叩いていた。

「それは、わかりません」

「わからない?あんたにも正解がわからないのか?」

「はい。わかりません。今はまだね。なぜなら田坂さま、今はその正解をみつけるために、データを集めているところですから」

「どういうことだ?」

話が見えてこない。

「もう説明しておきましょう。われわれのやろうとしていることを。田坂さまはは記念すべきデリートマン第一号でもありますしね」

「そうだった。そういえばあんた最初、おれにはいつか言ってくれるかもって言ってたな」

「はい。今、このタイミングがいいでしょう。ただ、説明の前に少しこちらから質問させてください。
田坂さま、私はあなたに最初の頃、言いましたよね。
『あなたにはデリートマンとしての素質がある』と。
なぜかわかりましたか?」

そういえば、そんなことを言われた。そして、おれは反論したんだ。あのときは、こいつらのプログラムのバグかと思った。おれを選ぶなどどうかしていると。でも、今ならわかる気がする。

「なんとなくわかるけど、うまく説明する自信がない」

「田坂さま、あなたは最初、
『人なんて絶対に消さない』
と言っていた。でもね、それはあなたの本心ではないのです。あなたがこれまで生きてきて身につけたモラルがそう言わせているにすぎない。そのモラルを取っぱらったあなたの裸の心はね、こうなんですよ。
『不要な人間など消えてしまえばいい』
これがあなたの本心です。
あなたは、世の中には不要な人間が存在して、それらの人間がいなくなれば世の中がよくなると思っているのです。
そしてね、田坂さま、我々も同じ考えなのですよ」

今ならはっきり分かる。おれはそう思っている。もしかしたら消してはいけない人間もいたのかもしれない。
でも、藤木や金城麻里は確実に不要な人間だった。そして、そいつらを消した世の中の方が間違いなく良い世界だと断言できる。

「そうだな。認めるよ。おれは…そうだ。それに、何となくわかったよ。あんた、だからおれの思い出を消していったのか。生きていく中で得た道徳観というかモラルでおれが人を消すのをためらってるとすれば、
それが構築された知識や経験を取り除けば、おれの心は裸に近づくってわけか」

半分は自分に言い聞かせていたが、ここで一つの疑問が出てきた。

「じゃあ、おれは生まれ落ちた瞬間に、育つ環境など関係なく、そういう考え方になると決まっていたのか?」

もしそうなら、できるんじゃないのか。生まれ落ちたその瞬間に、その人間が『必要か不要か』判断することも。

「まだはっきりと言えないのですが、我々はそう考えています。もし田坂さまの育った環境が違っていても、遺伝子レベルで持っている根本的な部分は変わらないと思うのです。人間の性根は変わらないと言いますが、そういうことではないかと考えています。この部分に関しても、いずれデータを集めて、科学的に証明するつもりでおります」

こいつらなら、本当にやるかもしれない。

「なるほどね。なあ、さっきちょっと思ったけど、もしそうなら、生まれた瞬間に不要と判断…」

そこまでキーボードを打って、気付いた。こいつらの目的、やろうとしていることがわかった気がした。

「田坂さま、もし、不要な人間がこの国からまったくいなくなれば、どうなると思いますか?」

「お前ら…消すんだな。この国から、不要な人間を全員。生まれ落ちたその瞬間に、必要か不要かを判断して、不要と判断した人間を、おまえらは…消すんだ」

キーボードを打つ手が震えていた。

「その通りです。そうなるとこの国がね、素晴らしい国になると思いませんか?なにせ、不要な人間が一人もいなくなるのです。会社で使えないとされる人間や、自分の利益しか考えない人間、そして犯罪者など、世の中には不要な人間がゴロゴロいませんか?
そういった誰からも望まれない人間をね、消すんですよ。そうすれば、この国はあらゆる意味で世界のトップになれると思いませんか?」

そうかもしれない。そして、その人間が必要かを不要か判断するために、大量のデータがいるんだ。

「だから、データがいるんだな。『この人間は必要』、『この人間は不要』。そう判断するためのロジックを構築するために、いろんなデータがいるんだ。だから、そいつがいた世界といない世界のデータがいるんだ。
想像もできないけど、いろんな評価をしてるんだろう。わかってきたよ。
そして、この国にいる人間しか消せないっていう仕様も、意味がわかった。だって、この国の人間を評価するんだもんな」

「そう。ご想像の通りです。われわれは田坂さまからいただいたデータ、そして、これからいただくデータ、さらには、田坂さまの次のデリートマンにいただくデータ。
それらのデータを使って様々な評価をしながらロジックを構築していきます。
そして、人間を必要か不要か判断する『人間判定プログラム』を完成させるのです」

「そのプログラムが完成すれば、不要な人間を生まれ落ちた瞬間に消せるってわけだ」

「その通りです。素晴らしい世界ができると思いませんか?」

「そうかもしれないな。優良企業ばかりで、人々は思いやりに満ち溢れてて、犯罪者もいない世界か」

嫌というほど見た、子供を失って泣き叫ぶ親の顔など、見ることはなくなるだろう。

「もっとですよ。今、田坂さまが言われたことはほんの一部にすぎない。我々は世界一の国になる。そのためには、先程申しました『人間判定プログラム』が必要不可欠なのです。そして、必要な人間を不要と判断するような不具合は絶対に許されない。だから、われわれは必死にデータを集めているのです」

こいつらに乗る。

「あと、どれだけいるんだ?データ」

そう決めた。そんな世界ができるなら、おれ一人が壊れるくらいどうってことはない。

「まだまだ足りません。まだまだです」

「消せばいいのか?」

「はい」

「消してやるよ」

片っ端からだ。片っ端から消してやる。

「お願いします」

「必要とされている人間も消してやるよ。そういうデータもいるんだろ?
そしておれが、「こいつは必要、こいつは不要」って判断した基準。なぜそう思ったかっていうデータもいるんだ。それがいるから、あんたらが消さずにおれに消させるんだろ?
わかった。みとけよ。おれの思い出がなくなって、空っぽになるまで消し続けてやる。だから、頼むぞ。ちゃんと完成させてくれ。そのプログラム」

「おまかせください。やはり、田坂さまをデリートマンとして選んだのは、間違いではありませんでした。察しも素晴らしい」

「消してやるからな」

自分の頭の中で、「カチッ」と音を立ててスイッチが入った気がした。
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