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5年前の日の記憶2
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雪音は寝室で髪を乾かしながらため息をついた。左手首から血が流れているのに、シャワーを浴びていて気づいたのだ。自己嫌悪に陥る。
雪音は自分のことが嫌いだ。傷の残る身体は汚いし、自傷行為は自分の弱さを認める行為だとして軽蔑している。未だに無意識に自分を痛めつけている時がある。そのたびに自分を嫌いになる。強くなれない自分に嫌悪する。
雪音は子供の頃親から虐待を受けていた。食事は十分に与えられず、父は仕事に行かず雪音を捕まえては暴行を与え、初潮を迎えた頃から性行為を強要するようにもなった。学校には行っていたが、栄養失調で起きていられなかったし、ノートや鉛筆がなかったので毎日担任に叱られていた。母は父に何も言えない人だった。朝から深夜まで働き、そのお金は父に全部奪われ、雪音を庇えば自分が殴られることを知っていたからか雪音に近づきすらしなかった。いつからか、雪音は自分の首に爪を立てるようになった。血が滲み指先にそれがつくのを見て、快感を覚えた。それと同時にそんなことをしている自分をひどく嫌悪した。死にたいと、そう願っていながら死に切れずいたのは、いつか自分を苦しめた存在の終わりを見たいと思っていたからかもしれない。
いざ、自分の両親が死んだ時、雪音はこの上ない開放感を味わった。自分の目の前で息絶えた二人の姿に、生まれて初めて喜びを感じたのだった。両親が死に、雪音は紅雷に連れ去られた。雪音も殺されるのだと確信してわずかな期待を抱き、紅雷のなすがままに従った。ところが連れ去られた車の中で襲われたのだった。雪音は殺されると思い込んでいたため拍子抜けし、抵抗する気などまるで起きなかった。ずっと落ち着いていたのに、行為が終わって優しく抱き締められた時、雪音はひどく混乱したのを覚えている。自分がなぜこうなっているのか、紅雷が何を考えているのか、これからも今までも全てわからなくなって、そこで気を失った。
気づけば紅雷とともに生活するようになり、同じ組織に入り、紅雷や虎に仕事を教えられ、一人で生きていけるだけのお金も稼げるようになった。それでも紅雷の下にいる自分は弱いからだろうか。雪音は生きることに執着が全くない。それでも仕事をして生きているのは紅雷がそうしろと言ったからだ。紅雷の言葉がなければ、束縛がなければ、雪音は簡単に命を絶ってしまうのだろう。雪音には今の所死ぬ気はない。紅雷に生きろと言われたから、死ねと言われるまで生きていくつもりだ。雪音が強さにこだわるのも「弱いから死ぬ」と言った雪音の発言に紅雷が「強くなればいい」と言ったから。結局、それほどまでに雪音は紅雷に依存している。虎やボスは雪音が紅雷の面倒を見ていると思われているし、実際生活面は雪音が面倒を見ているが、雪音が生きているのは紅雷がいるからだということを誰も知らない。雪音は稼げても生きていけないのだ。それは雪音自身が一番よくわかっているから今も紅雷の下で生活することを選んでいるのかもしれない。
「どうしたの?」
ベッドに腰掛け、うつむいている雪音にシャワーから戻った紅雷は話しかけた。
「なんでもないよ。」
紅雷は雪音が自分の左手首を隠すように握っているのを見た。
「手当てしよう。結構血が出てたでしょ。」
「そんな深くない。大丈夫。」
「じゃぁなんでそんな握りしめてるの。」
「なんとなく。」
雪音はそっぽを向いた。紅雷は無言で近づき、雪音の右手をどかして左手首をつかんだ。傷は確かに深くない。血も止まっている。確かにわざわざガーゼを当てるものでもない。
紅雷は雪音の目の前に膝をつき、雪音を見上げる。
「ねぇ、なんでこんなことしたの?雪音自身が一番嫌がってることでしょ?」
「わからない。」
「なんの夢を見ていたの?眠っている間に手が血だらけになるなんておかしいよ。」
「・・・。」
雪音は目を合わせようとしない。ずっと横を向いている。
「またあの日の夢見たの?」
「・・・。」
「俺が、雪音の両親を殺した夢。」
「・・・。」
紅雷は雪音の顎をつかんで自分の方に向ける。雪音はようやく紅雷と目を合わせた。
「俺を恨むならわかる。自分を傷つける必要はないでしょ。」
「恨んでないよ。」
「じゃぁなんで、」
「わからないんだって!!それ以上聞かれてもわからない!!!」
突然雪音は立ち上がって声をあげた。
ごめんね、と言って紅雷は雪音を座らせた。
紅雷は雪音の頭を片手で撫でながら抱きしめた。雪音は嫌そうにもがくが、紅雷は力を込めて雪音の動きを制限する。
「離して、ねぇ!」
「落ち着いて、俺が悪かったから。」
雪音がヒステリックになるのはこの2年ではなかったが、その前までは比較的よくあった。ここにきてまた再発したのは雪音が不安定になっているということだろう。
紅雷が幹部になる前は雪音より家にいる時間は長く、一緒にいることも多かった。しかしここ最近は雪音が一人になる時間が長かった。
紅雷は雪音を抱きしめながら反省した。
「わからないよね、なのにしつこく聞いてごめん、嫌なこと思い出させてごめん、忘れていいって俺が言ったのにね。」
「・・・ごめん、紅雷は悪くない。」
数分後、雪音はようやく落ち着いた。紅雷は雪音の謝罪を聴きながら、さらに強く抱きしめる。雪音も紅雷の背中に腕を回した。
雪音は自分のことが嫌いだ。傷の残る身体は汚いし、自傷行為は自分の弱さを認める行為だとして軽蔑している。未だに無意識に自分を痛めつけている時がある。そのたびに自分を嫌いになる。強くなれない自分に嫌悪する。
雪音は子供の頃親から虐待を受けていた。食事は十分に与えられず、父は仕事に行かず雪音を捕まえては暴行を与え、初潮を迎えた頃から性行為を強要するようにもなった。学校には行っていたが、栄養失調で起きていられなかったし、ノートや鉛筆がなかったので毎日担任に叱られていた。母は父に何も言えない人だった。朝から深夜まで働き、そのお金は父に全部奪われ、雪音を庇えば自分が殴られることを知っていたからか雪音に近づきすらしなかった。いつからか、雪音は自分の首に爪を立てるようになった。血が滲み指先にそれがつくのを見て、快感を覚えた。それと同時にそんなことをしている自分をひどく嫌悪した。死にたいと、そう願っていながら死に切れずいたのは、いつか自分を苦しめた存在の終わりを見たいと思っていたからかもしれない。
いざ、自分の両親が死んだ時、雪音はこの上ない開放感を味わった。自分の目の前で息絶えた二人の姿に、生まれて初めて喜びを感じたのだった。両親が死に、雪音は紅雷に連れ去られた。雪音も殺されるのだと確信してわずかな期待を抱き、紅雷のなすがままに従った。ところが連れ去られた車の中で襲われたのだった。雪音は殺されると思い込んでいたため拍子抜けし、抵抗する気などまるで起きなかった。ずっと落ち着いていたのに、行為が終わって優しく抱き締められた時、雪音はひどく混乱したのを覚えている。自分がなぜこうなっているのか、紅雷が何を考えているのか、これからも今までも全てわからなくなって、そこで気を失った。
気づけば紅雷とともに生活するようになり、同じ組織に入り、紅雷や虎に仕事を教えられ、一人で生きていけるだけのお金も稼げるようになった。それでも紅雷の下にいる自分は弱いからだろうか。雪音は生きることに執着が全くない。それでも仕事をして生きているのは紅雷がそうしろと言ったからだ。紅雷の言葉がなければ、束縛がなければ、雪音は簡単に命を絶ってしまうのだろう。雪音には今の所死ぬ気はない。紅雷に生きろと言われたから、死ねと言われるまで生きていくつもりだ。雪音が強さにこだわるのも「弱いから死ぬ」と言った雪音の発言に紅雷が「強くなればいい」と言ったから。結局、それほどまでに雪音は紅雷に依存している。虎やボスは雪音が紅雷の面倒を見ていると思われているし、実際生活面は雪音が面倒を見ているが、雪音が生きているのは紅雷がいるからだということを誰も知らない。雪音は稼げても生きていけないのだ。それは雪音自身が一番よくわかっているから今も紅雷の下で生活することを選んでいるのかもしれない。
「どうしたの?」
ベッドに腰掛け、うつむいている雪音にシャワーから戻った紅雷は話しかけた。
「なんでもないよ。」
紅雷は雪音が自分の左手首を隠すように握っているのを見た。
「手当てしよう。結構血が出てたでしょ。」
「そんな深くない。大丈夫。」
「じゃぁなんでそんな握りしめてるの。」
「なんとなく。」
雪音はそっぽを向いた。紅雷は無言で近づき、雪音の右手をどかして左手首をつかんだ。傷は確かに深くない。血も止まっている。確かにわざわざガーゼを当てるものでもない。
紅雷は雪音の目の前に膝をつき、雪音を見上げる。
「ねぇ、なんでこんなことしたの?雪音自身が一番嫌がってることでしょ?」
「わからない。」
「なんの夢を見ていたの?眠っている間に手が血だらけになるなんておかしいよ。」
「・・・。」
雪音は目を合わせようとしない。ずっと横を向いている。
「またあの日の夢見たの?」
「・・・。」
「俺が、雪音の両親を殺した夢。」
「・・・。」
紅雷は雪音の顎をつかんで自分の方に向ける。雪音はようやく紅雷と目を合わせた。
「俺を恨むならわかる。自分を傷つける必要はないでしょ。」
「恨んでないよ。」
「じゃぁなんで、」
「わからないんだって!!それ以上聞かれてもわからない!!!」
突然雪音は立ち上がって声をあげた。
ごめんね、と言って紅雷は雪音を座らせた。
紅雷は雪音の頭を片手で撫でながら抱きしめた。雪音は嫌そうにもがくが、紅雷は力を込めて雪音の動きを制限する。
「離して、ねぇ!」
「落ち着いて、俺が悪かったから。」
雪音がヒステリックになるのはこの2年ではなかったが、その前までは比較的よくあった。ここにきてまた再発したのは雪音が不安定になっているということだろう。
紅雷が幹部になる前は雪音より家にいる時間は長く、一緒にいることも多かった。しかしここ最近は雪音が一人になる時間が長かった。
紅雷は雪音を抱きしめながら反省した。
「わからないよね、なのにしつこく聞いてごめん、嫌なこと思い出させてごめん、忘れていいって俺が言ったのにね。」
「・・・ごめん、紅雷は悪くない。」
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