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戦い方6
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6本目を開けた頃、さすがの雪音も酔いが回ってきていた。ろくに食事もせず、空きっ腹に速いペースでアルコールを入れれば酔うのは仕方ないことだ。
紅雷はそれをわかっていて止めなかった。少し赤くなり、目が潤んでいる雪音のグラスに雪音が大好きな辛口の白ワインを注ぐ。雪音が酒を選ぶことを趣味としているなら、紅雷はその酒で雪音を酔い落とすことを趣味としている。幸い、雪音はアルコール処理が早い体質のようで、どれほど飲んでも寝て起きればほとんど抜けている。だからこそ、紅雷の悪趣味も加速していくのだが。もちろん、酔い潰れるために日本酒を流し込むようなヤケ酒は紅雷も止めるが。
雪音は注がれたワインに口をつけながら紅雷に寄りかかる。それから顔をあげ、上目遣いで紅雷の顔を見る。その視線に紅雷は雪音の額にキスをすることで答える。
「口にして、」
いつもより少し柔らかくなった声で雪音がささやく。
紅雷の理性は瓦解する一歩手前で押し止まっている状態である。自分で仕掛けておいて情けない話である。
紅雷は一つ息を吸うと、雪音の唇に重ねるだけのキスをした。雪音はグラスをローテーブルに置き、体ごと紅雷に振り向いた。
「違う。もっと、」
紅雷の頬に両手を当てて、雪音から深いキスをした。数十秒後、雪音は満足したのか顔を離した。そのまま、紅雷に背中を向けると紅雷の膝の上に座る。紅雷にとってはここまでが全てスローモーションのように感じられた。
「まだ飲む?」
紅雷はかろうじて浮かんだ言葉を雪音に投げかける。紅雷としてはこれ以上酔わせる必要もないし、早くベッドに行きたい。
「ん。」
雪音は残念ながらまだ飲みたいようだ。自分のグラスに手を伸ばし、また口にする。かなり酔っているはずなのに、挙動は全く自然である。いつもの理性などとっくに死んでしまっているようだが。
酒の力で幼い振る舞いになる雪音を紅雷は抱きしめた。いつもの大人らしい雪音も、幼く素直な雪音も、どちらも愛しくてたまらないのである。
雪音の幼少期の様子を紅雷は全く知らない。しかし確信できる。雪音が素直に無邪気な幼少期を過ごせていなかったということを。今も残る虐待の面影は、幼少期の頃からのものであることが容易に想像できる。当時の慢性的栄養失調の後遺症か、雪音は一日一食、ごくわずかな量しか食事ができない。栄養失調防止のためにサプリを摂取させているが、その量も多すぎると体が受け付けなくなるようだ。右手の小指が曲がらず硬直しているのも、虐待による骨折に適切な処置がされなかったためである。それでも幼い子供は親に気に入られようとする。愛されようとする。その結果、雪音は感情を押し殺し、子供らしい振る舞いをすることができずに来てしまった。
子供の頃にできなかった素直な感情表現を、酔っているときだけ、気を許した紅雷相手にだけ、見せているのかもしれない。そう思うと、紅雷ももう少し自分の欲望を堪えて雪音を抱きしめていようと思えるのだ。
雪音は満足するまで飲むと、紅雷の膝から立ち上がった。グラスをテーブルに置くと、振り向いた。
「優しく抱いて。」
「うん。おいで。」
紅雷は高ぶる気持ちを落ち着けながら、雪音を抱き上げてベッドに運んだ。
「いつもの優しさじゃ足りない?」
ベッドに雪音を横たえて、顔を覗き込む。雪音はまっすぐ紅雷の目を見て言う。
「わからない、でも優しくしてほしいって今思った。」
雪音は自分の感情や気持ちを掴むことが苦手だ。だからよく雪音自身に対する質問に「わからない」と答えるのである。
「そう思えたなら、叶えてあげなきゃだね。」
紅雷は優しく雪音の頬に口づけした。今日くらい、噛まないで終わらせてみようか。紅雷は雪音の要望に喜びを覚えていた。
雪音のネクタイを解く。普段の雪音なら絶対にシャワーを浴びるので、ベッドで行為に及ぶために雪音のネクタイを解くこともシャツのボタンを外すことも珍しいことだ。この珍事を紅雷は楽しんでいた。ゆっくりと服を脱がせ、自分も同じように寝巻きを脱ぎ捨てた。
雪音の首筋にキスをする。雪音のお気に入りの香水の香りと、わずかな鉄と硝煙の匂い。綺麗好きの雪音から仕事のままの香りがするのもまた、珍しいことだ。
いつもと違う雪音を前に、紅雷は早速理性が持つか心配になった。
紅雷はそれをわかっていて止めなかった。少し赤くなり、目が潤んでいる雪音のグラスに雪音が大好きな辛口の白ワインを注ぐ。雪音が酒を選ぶことを趣味としているなら、紅雷はその酒で雪音を酔い落とすことを趣味としている。幸い、雪音はアルコール処理が早い体質のようで、どれほど飲んでも寝て起きればほとんど抜けている。だからこそ、紅雷の悪趣味も加速していくのだが。もちろん、酔い潰れるために日本酒を流し込むようなヤケ酒は紅雷も止めるが。
雪音は注がれたワインに口をつけながら紅雷に寄りかかる。それから顔をあげ、上目遣いで紅雷の顔を見る。その視線に紅雷は雪音の額にキスをすることで答える。
「口にして、」
いつもより少し柔らかくなった声で雪音がささやく。
紅雷の理性は瓦解する一歩手前で押し止まっている状態である。自分で仕掛けておいて情けない話である。
紅雷は一つ息を吸うと、雪音の唇に重ねるだけのキスをした。雪音はグラスをローテーブルに置き、体ごと紅雷に振り向いた。
「違う。もっと、」
紅雷の頬に両手を当てて、雪音から深いキスをした。数十秒後、雪音は満足したのか顔を離した。そのまま、紅雷に背中を向けると紅雷の膝の上に座る。紅雷にとってはここまでが全てスローモーションのように感じられた。
「まだ飲む?」
紅雷はかろうじて浮かんだ言葉を雪音に投げかける。紅雷としてはこれ以上酔わせる必要もないし、早くベッドに行きたい。
「ん。」
雪音は残念ながらまだ飲みたいようだ。自分のグラスに手を伸ばし、また口にする。かなり酔っているはずなのに、挙動は全く自然である。いつもの理性などとっくに死んでしまっているようだが。
酒の力で幼い振る舞いになる雪音を紅雷は抱きしめた。いつもの大人らしい雪音も、幼く素直な雪音も、どちらも愛しくてたまらないのである。
雪音の幼少期の様子を紅雷は全く知らない。しかし確信できる。雪音が素直に無邪気な幼少期を過ごせていなかったということを。今も残る虐待の面影は、幼少期の頃からのものであることが容易に想像できる。当時の慢性的栄養失調の後遺症か、雪音は一日一食、ごくわずかな量しか食事ができない。栄養失調防止のためにサプリを摂取させているが、その量も多すぎると体が受け付けなくなるようだ。右手の小指が曲がらず硬直しているのも、虐待による骨折に適切な処置がされなかったためである。それでも幼い子供は親に気に入られようとする。愛されようとする。その結果、雪音は感情を押し殺し、子供らしい振る舞いをすることができずに来てしまった。
子供の頃にできなかった素直な感情表現を、酔っているときだけ、気を許した紅雷相手にだけ、見せているのかもしれない。そう思うと、紅雷ももう少し自分の欲望を堪えて雪音を抱きしめていようと思えるのだ。
雪音は満足するまで飲むと、紅雷の膝から立ち上がった。グラスをテーブルに置くと、振り向いた。
「優しく抱いて。」
「うん。おいで。」
紅雷は高ぶる気持ちを落ち着けながら、雪音を抱き上げてベッドに運んだ。
「いつもの優しさじゃ足りない?」
ベッドに雪音を横たえて、顔を覗き込む。雪音はまっすぐ紅雷の目を見て言う。
「わからない、でも優しくしてほしいって今思った。」
雪音は自分の感情や気持ちを掴むことが苦手だ。だからよく雪音自身に対する質問に「わからない」と答えるのである。
「そう思えたなら、叶えてあげなきゃだね。」
紅雷は優しく雪音の頬に口づけした。今日くらい、噛まないで終わらせてみようか。紅雷は雪音の要望に喜びを覚えていた。
雪音のネクタイを解く。普段の雪音なら絶対にシャワーを浴びるので、ベッドで行為に及ぶために雪音のネクタイを解くこともシャツのボタンを外すことも珍しいことだ。この珍事を紅雷は楽しんでいた。ゆっくりと服を脱がせ、自分も同じように寝巻きを脱ぎ捨てた。
雪音の首筋にキスをする。雪音のお気に入りの香水の香りと、わずかな鉄と硝煙の匂い。綺麗好きの雪音から仕事のままの香りがするのもまた、珍しいことだ。
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