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ルモン大帝国編
57.右の耳から左の耳へと
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独り言に近い状態のヨイショを、雪乃は遠くを眺めながら右の耳から左の耳へと流していた。いや、耳は付いていないのだが。
左手には山があり、岩が剥き出しになっている。右手には十メートルほど下に、川が流れていた。
川幅は五メートルほどだろうか。澄んだ水が日の光を浴びてキラキラと輝いている。水鳥が羽を休め、餌を採るために水中へと潜った。
「ノムルさんは有名な冒険者さんだったんですか?」
「おや? ご存じないので?」
パーパスの冒険者ギルドの騒ぎや、ヤナの冒険者ギルドでのギルドマスターとの会話で、普通の冒険者とは違うのだとうろは流石に気付いていたが、どの様な立場にいるのかまでは分からなかった。
ノムル自身は何も言わなかったので、雪乃も聞いてはいない。
しかし馬車に乗ってから、ずっとノムルへの賞賛の言葉を聞き続けていると、少しは反応を返さないと悪い気がして、声を掛けてみたのだった。
もし聞かれたくない話であれば、とっくにノムルが制止を掛けているだろうから、聞いても良いのだろうと判断したのもあったが。
「新進気鋭の剣士『竜殺し』、魔法使いのノムル様、情報も商売道具な商人であれば、このお二方のお噂は耳に入っておりますよ。一騎当千、一国の軍事力にも匹敵するほどの、桁外れのお力をお持ちとか」
「へー」
熱く語るラツクに対し、雪乃はお愛想程度に相槌を打つ。
ノムルの魔法は何度も目にし、その強さも知っているが、流石に一国の軍事力に匹敵するとまでは、雪乃は思っていない。
第一、そういう存在は物語の中だけの存在であり、現実に現れるものではない。仮にそんな人間が存在したとしたら、世界中で取り合うか、逆に討伐しようとして躍起になるはずだ。
それが現実はどうだろう?
自由気ままに放浪し、今は口を開けて気持ち良さそうに眠っている。
噂に尾ひれや背びれが付いて、更に巨大化し、妄想が入って空想の人物ができ上がってしまったのだろうと、雪乃は冷静にラツクの話を聞いていた。
「それなのに、ノムル様はなぜかSランクに名を連ねることなく、Aランクに身を置かれている。噂では、冒険者ギルドの裏の仕事をしているとか、冒険者ギルドの真の支配者とも言われていますね」
「へー」
川には無数の光の筋が走り、岩にぶつかりそうになっては左右に分かれ、そして再び出会って流れていく。
小魚を採ろうと首を突っ込んだ水鳥のぷりっけつが、水面に覗いていた。水面に浮かんでいる時は青い姿を見せていたが、今は白く輝く羽毛に日の光を反射させている。
上手く獲物が採れないのか、ぷりっけつが左右に揺れた。きっと石の下に隠れたカニや虫を探しているのだろう。
「……。そういえば昨夜、街の食堂で珍しい料理を作った旅の方がいらっしゃったとか。何でも食欲をそそる香りで、コンメとの相性も良いとか」
「……」
どれほどおべっかを述べても、持ち上げられているはずのノムルも、その娘なのか弟子なのか分からない同行の子供も、一向に関心を向ける様子も気を良くする気配も無い。
そのことにようやく気付いたのか、ラツクはようやく話題を変えた。
しかしその話題もまた、雪乃には何とも反応のしづらい話題であった。
「何でも草色のローブに、つば広のとんがり帽子を被った魔法使い風の旅人と、深緑色のローブを着た幼い子供の二人連れだったそうですよ」
「へー、そうですか」
「どんな料理なのか、ぜひ一度、食べてみたいものですなあ」
「……」
ちらりと向けられた眼差しには、しっかりと期待の色が見えた。
馬車はどんどん進んで行く。
予定では、飛竜の巣より手前で一夜を明かし、日の出前に出発して、明るい内に飛龍の縄張りを抜けるという段取りらしい。
オーレンに着くのは深夜になるかもしれないが、日が暮れだしてから飛竜と遭遇する危険を考えれば、その肯定のほうが安全なのだとラツクは語った。
そしてどうやら今夜の野営において、カレーを食べれないかと期待しているらしい。一泊二日の道程なので、新鮮な肉や野菜も積み込んでいるそうだ。
水もすぐ近くに清流が流れているため、豊富にある。煮炊きに不都合は無いというわけだ。
「でも、飛竜の縄張りの近くなんですよね? 煮炊きをしたら危なくないですか?」
「何を仰いますか。や、ゴホンゲフン、ノムル様がおられるのですから、恐れる必要はないでしょう」
「……」
確かにノムルは強いが、だからといって自ら危険を招き寄せても構わないという考え方には、雪乃は嫌悪感を抱いた。
第一、野営の食事時間と言うことは、早くても夕暮れ時、暗くなるばかりなのである。それがどれほど悪条件であるか、ラツクも分かっているはずだ。
「安全が確認されるまでは、煮炊きはもちろん、特に肉や魚は控えるべきです」
だから雪乃はき然として言った。
小さな子供の正論に、先ほどまで笑顔を浮かべていたラツクの顔が、苦く歪む。
「金魚の糞が偉そうに」
吐き捨てるような呟いた。
荷台で寝ている男の寝息がわずかに乱れたことに、ラツクも雪乃も気付きはしなかった。
まだ空も白さが残る時間に、ラツクは馬車を止めた。
対向車輌と行きかうためだろう、山側に道が深く抉れた場所にすっぽりと隠すように収めると、早々に野営の準備を始める。とはいえ、荷の無い荷台で眠るため、用意するのは夕食だけだ。
ラツクは迷わず薪を下ろして火を熾すと、食料の詰まった包みを開き、すでに切り揃えられている肉や野菜を鍋へと移した。
「水を汲んで来てくれますか?」
言葉遣いは丁寧だが、有無を言わさぬ口調で睨みつけながら、雪乃に水入れを押し付ける。
受け取った雪乃の袖の間から、ひょいっと水入れは引き上げられた。
「ここから沢まで崖だよ? 水を汲んで登ってくるなんて、ユキノちゃんが怪我でもしたらどうしてくれるのさ」
呆れたようにラツクを見下ろしたノムルは、ぽいっと水入れを後ろに放った。
「あ」
と雪乃とラツクが声を上げる間に、水入れは弧を描き、崖下へと落ちていく。ぱしゃんと音が聞こえ、川まで落下したのだと分かった。
ラツクの顔色は、青く染まっていく。
水入れを失ったことはそれほどの問題ではないが、このような態度を取られることが問題だった。
護衛が依頼主の持ち物を粗雑に扱うなど、あってはならない。ましてや放り捨てるなど、契約を破棄され無い行為だ。
それを敢えて行った理由に気付かないほど、ラツクも愚鈍ではない。建物一つを簡単に吹き飛ばしてしまうほどの力を持つ男を、怒らせてしまったのだ。
尻餅を突き、カタカタと震える小太りの男を、ノムルは表情を変えることなくじっと見下ろしている。その姿が、更に恐怖を強める。
左手には山があり、岩が剥き出しになっている。右手には十メートルほど下に、川が流れていた。
川幅は五メートルほどだろうか。澄んだ水が日の光を浴びてキラキラと輝いている。水鳥が羽を休め、餌を採るために水中へと潜った。
「ノムルさんは有名な冒険者さんだったんですか?」
「おや? ご存じないので?」
パーパスの冒険者ギルドの騒ぎや、ヤナの冒険者ギルドでのギルドマスターとの会話で、普通の冒険者とは違うのだとうろは流石に気付いていたが、どの様な立場にいるのかまでは分からなかった。
ノムル自身は何も言わなかったので、雪乃も聞いてはいない。
しかし馬車に乗ってから、ずっとノムルへの賞賛の言葉を聞き続けていると、少しは反応を返さないと悪い気がして、声を掛けてみたのだった。
もし聞かれたくない話であれば、とっくにノムルが制止を掛けているだろうから、聞いても良いのだろうと判断したのもあったが。
「新進気鋭の剣士『竜殺し』、魔法使いのノムル様、情報も商売道具な商人であれば、このお二方のお噂は耳に入っておりますよ。一騎当千、一国の軍事力にも匹敵するほどの、桁外れのお力をお持ちとか」
「へー」
熱く語るラツクに対し、雪乃はお愛想程度に相槌を打つ。
ノムルの魔法は何度も目にし、その強さも知っているが、流石に一国の軍事力に匹敵するとまでは、雪乃は思っていない。
第一、そういう存在は物語の中だけの存在であり、現実に現れるものではない。仮にそんな人間が存在したとしたら、世界中で取り合うか、逆に討伐しようとして躍起になるはずだ。
それが現実はどうだろう?
自由気ままに放浪し、今は口を開けて気持ち良さそうに眠っている。
噂に尾ひれや背びれが付いて、更に巨大化し、妄想が入って空想の人物ができ上がってしまったのだろうと、雪乃は冷静にラツクの話を聞いていた。
「それなのに、ノムル様はなぜかSランクに名を連ねることなく、Aランクに身を置かれている。噂では、冒険者ギルドの裏の仕事をしているとか、冒険者ギルドの真の支配者とも言われていますね」
「へー」
川には無数の光の筋が走り、岩にぶつかりそうになっては左右に分かれ、そして再び出会って流れていく。
小魚を採ろうと首を突っ込んだ水鳥のぷりっけつが、水面に覗いていた。水面に浮かんでいる時は青い姿を見せていたが、今は白く輝く羽毛に日の光を反射させている。
上手く獲物が採れないのか、ぷりっけつが左右に揺れた。きっと石の下に隠れたカニや虫を探しているのだろう。
「……。そういえば昨夜、街の食堂で珍しい料理を作った旅の方がいらっしゃったとか。何でも食欲をそそる香りで、コンメとの相性も良いとか」
「……」
どれほどおべっかを述べても、持ち上げられているはずのノムルも、その娘なのか弟子なのか分からない同行の子供も、一向に関心を向ける様子も気を良くする気配も無い。
そのことにようやく気付いたのか、ラツクはようやく話題を変えた。
しかしその話題もまた、雪乃には何とも反応のしづらい話題であった。
「何でも草色のローブに、つば広のとんがり帽子を被った魔法使い風の旅人と、深緑色のローブを着た幼い子供の二人連れだったそうですよ」
「へー、そうですか」
「どんな料理なのか、ぜひ一度、食べてみたいものですなあ」
「……」
ちらりと向けられた眼差しには、しっかりと期待の色が見えた。
馬車はどんどん進んで行く。
予定では、飛竜の巣より手前で一夜を明かし、日の出前に出発して、明るい内に飛龍の縄張りを抜けるという段取りらしい。
オーレンに着くのは深夜になるかもしれないが、日が暮れだしてから飛竜と遭遇する危険を考えれば、その肯定のほうが安全なのだとラツクは語った。
そしてどうやら今夜の野営において、カレーを食べれないかと期待しているらしい。一泊二日の道程なので、新鮮な肉や野菜も積み込んでいるそうだ。
水もすぐ近くに清流が流れているため、豊富にある。煮炊きに不都合は無いというわけだ。
「でも、飛竜の縄張りの近くなんですよね? 煮炊きをしたら危なくないですか?」
「何を仰いますか。や、ゴホンゲフン、ノムル様がおられるのですから、恐れる必要はないでしょう」
「……」
確かにノムルは強いが、だからといって自ら危険を招き寄せても構わないという考え方には、雪乃は嫌悪感を抱いた。
第一、野営の食事時間と言うことは、早くても夕暮れ時、暗くなるばかりなのである。それがどれほど悪条件であるか、ラツクも分かっているはずだ。
「安全が確認されるまでは、煮炊きはもちろん、特に肉や魚は控えるべきです」
だから雪乃はき然として言った。
小さな子供の正論に、先ほどまで笑顔を浮かべていたラツクの顔が、苦く歪む。
「金魚の糞が偉そうに」
吐き捨てるような呟いた。
荷台で寝ている男の寝息がわずかに乱れたことに、ラツクも雪乃も気付きはしなかった。
まだ空も白さが残る時間に、ラツクは馬車を止めた。
対向車輌と行きかうためだろう、山側に道が深く抉れた場所にすっぽりと隠すように収めると、早々に野営の準備を始める。とはいえ、荷の無い荷台で眠るため、用意するのは夕食だけだ。
ラツクは迷わず薪を下ろして火を熾すと、食料の詰まった包みを開き、すでに切り揃えられている肉や野菜を鍋へと移した。
「水を汲んで来てくれますか?」
言葉遣いは丁寧だが、有無を言わさぬ口調で睨みつけながら、雪乃に水入れを押し付ける。
受け取った雪乃の袖の間から、ひょいっと水入れは引き上げられた。
「ここから沢まで崖だよ? 水を汲んで登ってくるなんて、ユキノちゃんが怪我でもしたらどうしてくれるのさ」
呆れたようにラツクを見下ろしたノムルは、ぽいっと水入れを後ろに放った。
「あ」
と雪乃とラツクが声を上げる間に、水入れは弧を描き、崖下へと落ちていく。ぱしゃんと音が聞こえ、川まで落下したのだと分かった。
ラツクの顔色は、青く染まっていく。
水入れを失ったことはそれほどの問題ではないが、このような態度を取られることが問題だった。
護衛が依頼主の持ち物を粗雑に扱うなど、あってはならない。ましてや放り捨てるなど、契約を破棄され無い行為だ。
それを敢えて行った理由に気付かないほど、ラツクも愚鈍ではない。建物一つを簡単に吹き飛ばしてしまうほどの力を持つ男を、怒らせてしまったのだ。
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