『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

95.兵士達は頬を緩めて

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「……というわけで、冒険者ギルドに問い合わせるから、返事が来るまでここで待機してもらう」
「えー? 何もしてないじゃん。通してよ」
「「「……」」」

 あれだけの騒ぎを起こしてどの口が言うのだと、全員がつっこみを入れたかった。だが口に出せば、さらなる混沌に見舞われることは容易く想像できる。
 全員、必死に飲み込んだ。
 ちなみに雪乃に手を出そうとした男は、しっかり捕まっている。

「駄目だ。疑わしい者に国境を越えさせるわけにはいかない」
「俺のどこが疑わしいって言うのさ? 身分証なら見せただろう?」

 不満をぶつけるノムルをそっちのけに、雪乃は兵士達に、これから向かうドューワ国について聞いていた。
 小さな子供の熱心な問いかけに、兵士達は頬を緩めて答えている。

「って、ユキノちゃん?! なんで俺を無視して、他の人間と楽しそうに話してるのさ?」

 ノムルは唇を尖らして抗議した。

「困った父ちゃんで大変だな。頑張れよ」
「……アリガトウゴザイマス」

 同情した兵士たちに慰められて、雪乃も言葉に詰まる。その通りなのだが、決してノムルは父ではない。

「まあ、うちの娘は可愛いからねー」

 調子に乗ったノムルが、すっかり父親気分で浮かれているが、雪乃は視線も向けずにスルーする。
 見たらさらに調子に乗りそうだ。

「でもまあ、さっさと出国して、次に行きたいんだよね」
「だから何度も説明しているだろう?」

 呆れ果てたように顔をしかめる隊長の目の前に、虹色の金属片が突きつけられた。
 あ然とする隊長に向かい、ノムルはにっこりと笑む。

「んじゃあ、こっちで頼める? これならすぐに出れるよね?」

 隊長の顔が、みるみる青ざめていった。
 目の前の金属片とノムルの顔を、何度も交互に見比べている。

「本物、なのか?」
「偽装できるような品物じゃないでしょう? そして盗むこともできない」

 おそるおそる受けとった虹色の金属片を、隊長は自ら装置にかざして内容を読み取る。その顔が驚愕に染まり、コマ送りのようにゆっくりとノムルへと向かう。
 異変に気付いた兵士が、隊長の傍らに寄って装置を覗き込もうとした。だが素早く察した隊長が、装置から金属片を離し、そこに表示されていた内容を消した。

「失礼いたしました。どうぞお通りください」
「うん、ありがとう」

 両手で差し出された金属片を、指で摘まむように受け取ると、ぽいっと空間魔法に放り込む。
 状況の変化に追いつけない兵士達は、顔を見合い首を捻っている。
 雪乃もきょとんとノムルを見上げたが、彼に関しては気にしたら負けだと認識しているので、気にしない。
 それよりも、

「あのう、私も国境を越えても良いのでしょうか?」

 そっちの方が気になった。
 隊長に差し出した冒険者ギルドの認定証も、結局確認されることなく返されたのだ。

「ああ、もちろんだよ。大変だろうけど、気を付けて」
「はい。ありがとうございます」

 その「大変」が何に掛かっているのか、気付かないのは本人だけだろう。
 小さな子供の今後の苦労を偲び、兵士達は何とも言いがたい気持ちで魔法使いの親子を送り出す。

「ユキノちゃん、遠慮なく『パパ』って呼んでいいよ?」
「お断りします」
「そう? じゃあ『お父さん』でも、『お父様』でもいいよ? 『オヤジ』はちょっと嫌かなー?」
「……。全てお断りします」

 雪乃は丁重に頭を垂れた。ノムルが文句を言っているが、聞こえない振りをして門を潜る。
 振り返れば白く高い重厚な壁。前を見れば、木を伐って縄で括っただけの、簡単な塀。壁と塀の間は、十メートルもない。

「国力の差でしょうか?」
「単純に、ルモンの壁があるから、いらないけどとりあえずって感じなんじゃない?
「なるほど」

 そんな理由があるのだろうかとも思ったが、合理的だとも思ったので、雪乃は逆らわずに同意して、次の列に並ぶ。
 ルモン大帝国を出国した人々は、今度はドューワ国の入国審査を受けなければならない。とは言っても、出国のような長い列に並ぶこともなく、前には数組しかいない。
 反対に、ドューワ国からルモン大帝国に向かう列は行列となっており、壁と堀の間だけでは並びきれずに、団子状態になっていた。
 その原因に思い至り、雪乃はわずかに上向いて視界を閉じる。

(ごめんなさい)

 心の中で、並ぶ人たちに謝罪した。
 列は順調に進み、雪乃たちの番が来る。出国の経験から、雪乃は冒険者ギルドの認定証をすぐに渡せるように、握り締めて待つ。
 そんな雪乃の様子を、ノムルは楽しそうに見ていた。
 何か鋭い視線が飛んできている気もするが、そんな視線に慣れてきた雪乃は、気にせず前を見つめている。
 ついに雪乃の順番が来た。
 問題は無いと思っていても、緊張してくる。

「お願いします」

 認定証を差し出し、ドューワ国の門番に渡した雪乃は、興奮気味の眼差しを向けたのだが、

「は? 冒険者? 特殊B?」

 と、怪訝な声で言うと、認定証から雪乃へ、それからノムルへと視線を動かした。

「ああ、あんたのか」

 どうやら門番は認定証の持ち主をノムルと勘違いしたようだ。その目はノムルを頭の先からつま先まで胡散臭そうに観察する。
 
「あの、それは私のです」
「そうだよ、俺のはこっち」

 躊躇いながらも言った雪乃を後押しするように、ノムルも自分の冒険者ギルドの認定証を差し出そうとしたのだが、

「冒険者ギルドの登録は十二歳以上だろう? 何でこの子供が持ってるんだ? 他人の認定証じゃないのか?」

 と、樹高一メートルほどの雪乃をいぶかしむように、門番はじろじろと凝視する。

「それだけの功績を挙げたから登録の許可が下りたんだよ。Bなら本部も了承済みってことくらい、知ってるだろう?」

 ノムルの声に、少しずつ険が含まれてくる。今度こそは普通に通過できるかと期待していた雪乃は、項垂れた。

「ノムルさん、落ち着いてください」

 草色のローブを握り、嘆願する。
 こんな狭いところで騒ぎを起こしたら、死傷者が出かねない。いや、ギルドのほうが狭かったわけだが。
 とにかく落ち着かせようと、雪乃はローブを引く枝に力を込める。
 門番は警戒を緩めることなく、ノムルと雪乃を睨むように見たままだ。そのうち、他の兵士達も集まってきた。
 国境の狭間にいる人達も、塀の向こうにいる人々も、何事かと覗くように見物している。中には

「早くしろよ」

 と、舌打ちする者もいるようだが。
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