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コダイ国編
191.ぴー助がハルクサアキムシを ※
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ノムルの説明を聞いていると、リアがやってきた。困ったように、ノムルに抱きかかられている雪乃を見上げた。
「どうしましたか?」
聞くと、ちらちらと部屋の奥を見ている。
幹をくるりと回して見てみると、ぴー助がハルクサアキムシを食べていた。
「抜け殻は、食べて良い。ハルクサアキムシ、食べるの止めてほしい」
「……」
どうやらぴー助が、本体まで食べてしまっているようだ。ぴー助の周りには、すでにハルクサアキムシの姿がない。
雪乃は青ざめた。いったい、どれだけ食べたのか。
「ぴー助! 戻ってきなさい。それ以上はいけません!」
「ぴー?」
振り向いたぴー助の顔は、不満そうだ。
食べられかけられていたハルクサアキムシが、うごうごと動いている。雪乃は思わず顔を逸らした。
ぴー助の口から逃れたハルクサアキムシは、慌てて逃げていく。よく観察してみると、ハルクサアキムシたちは、ぴー助から必死に距離を取ろうと移動していた。
どうやらぴー助が食べ尽くしたわけではなく、身の危険を感じたハルクサアキムシ達が、逃げていただけらしい。
ほっと安堵の息を吐いた雪乃だが、被害が無かったわけではない。少し齧られてしまったハルクサアキムシがいる。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
ノムルの胸を蹴って腕から脱出した雪乃は、蟻人たちに謝罪した。
「だいじょうぶ。食べられたの、一匹だけ」
「……」
すでに一匹、ぴー助のお腹に収まってしまったらしい。
自分の体よりも大きなハルクサアキムシを食べながら、あまり体型の変わっていないぴー助の構造に、雪乃は幹を捻った。
しかしやっぱりというべきか、蟻人たちは、おおらかな性格をしている。誰も怒る素振りさえない。
お尻を齧られたハルクサアキムシの元へと向かった雪乃は、おそるおそる手を差し出し、治癒魔法を掛ける。
どうやら治癒魔法は、虫にも有効なようだ。
「うう。すみません、うちのぴー助がご迷惑をおかけしました」
怪我の治ったハルクサアキムシにも、ぺこりと謝った。
そんな雪乃を、じいっと見つめていたハルクサアキムシは、気にするなとばかりに、雪乃の体に額を押し付ける。
雪乃の身が強張る。
ハルクサアキムシが、雪乃に好意を寄せてくれていることは分かる。だがしかし、やはり雪乃は虫が苦手なのだ。
撫で返すことも、逃げることもできず、離れていくのをじっと待つ。
ああ、待った。それが、失敗だった。
「うにゃあああーーーっ?!」
雪乃はなんともいえない悲鳴を上げる。
なぜか次々とハルクサアキムシが雪乃に寄ってきて、気付けば身動きさえできなくなっていた。
全身に触れる、温かくて柔らかな感触に、雪乃はふるふると震えた。
涙が出そうだが、樹人に涙を流す器官は存在しない。
「の、ノムルさん……」
震える声で、必死に助けを求める。
冷静に考えれば、こうなるまで彼が放置していたことに、疑問を抱いたかもしれない。だが今の雪乃は、そんな思考回路などとうに寸断されていた。
ノムルからの返答はない。
「の、ノムルさん……」
雪乃はもう一度、助けを求めて声を絞り出す。
「んー? 誰のことー?」
「?!」
雪乃はがく然とした。
この状況で、見捨てられるとは。
何が彼の気に触ったのかと、雪乃は途切れかけの思考回路で必死に考える。
「俺とユキノちゃんって、もう他人じゃないはずだよねー?」
雪乃は気付く。
そして変態ドS魔王に対し、怒りで体をふるふると……震わせようにも、ハルクサアキムシの感触のせいで、違うふるふるしか出てこない。
「お、おとーさん、助けてください」
目があったなら、だばだばと滝のように涙があふれ出ていただろう。
雪乃は恥も外聞もプライドもかなぐり捨てて、ノムルに屈したのだった。
にやりと、それはもう、眩いばかりの輝く笑顔を浮かべたノムルは、杖を揺らす。
「はいはーい。おとーさんが、可愛い娘を助けますよーっと」
ノムルの魔法でハルクサアキムシの群から浮かび上がった雪乃は、そのままノムルの腕の中へと回収された。
ふるふると震えたまま思考が停止して、身動きが取れなくなっている雪乃を、ノムルは存分に抱きしめて、頬擦りして、堪能したのだった。
その後、一向は広場へと戻った。
広場では、すでに宴の準備が始まっていた。
いくつものテーブルが並び、隅の方では大きな鍋や鉄板で料理が作られている。
あちらこちらの家からも、美味しそうな香りが漂っていた。
何とか機能を復活させた雪乃も、ふらふらしつつも興味深そうに広場の様子を見物する。
雪乃たちと一緒にきのこを採りに行った蟻人たちも、料理を作る輪の中に加わっていく。
炒め物や丸焼き、スープや串焼き……。
様々な料理が並んでいるが、どれもきのこと昆虫が使われていた。というより、それ以外の野菜や肉は、ほとんど目に付かない。
デザートとして果物が使われている程度だ。
「あ、これ美味しい。クリーミーで濃厚だよ」
「ぴー」
まだ準備中にもかかわらず、ノムルとぴー助は、遠慮なく食べ始めている。蜂の子っぽい何かを。
「こっちはサクサクだねー」
「ぴー」
歓迎の宴を開いてもらっていることは理解している。そして雪乃は、食べ物への好奇心が旺盛だ。
しかし、しかしだ。
「ユキノちゃーん、どうしたのー? 疲れちゃたのかなー?」
雪乃は広場の隅っこに三角座りして、魂を吐き出していた。
昆虫食が体に良いことは知っていた。栄養は豊富で、味も良いと聞く。牛や豚よりも環境への負荷が少ないと、推進している団体もある。
普通に食品として流通している国だってある。日本だって、地域によっては販売されている。
それは知っている。
しかし、である。
「宴の料理のほぼ全てに使われているというのは、さすがに……。せめて形を残さないでいただきたいです……」
雪乃は沈黙した。自分は食べないのに、わがままだと思いつつも、ついそんな感想を抱いてしまった。
その日、雪乃は早々に草原へと抜け出し、根を張って眠りに就いたのだった。
朝になり、目覚めた雪乃は根元を見回す。
いつもならばそこに横たわっている、一人と一匹の姿はない。
「二人とも、宴会に浮かれすぎです。酒は飲んでも飲まれるなという言葉を知らないのでしょうか?」
勝手に抜け出したのは雪乃である。文句を言うのは筋違いであるが、無意識に不満があふれ出てくる。
雪乃はぷりぷり怒りながら、蟻塚の中へ入っていった。
「どうしましたか?」
聞くと、ちらちらと部屋の奥を見ている。
幹をくるりと回して見てみると、ぴー助がハルクサアキムシを食べていた。
「抜け殻は、食べて良い。ハルクサアキムシ、食べるの止めてほしい」
「……」
どうやらぴー助が、本体まで食べてしまっているようだ。ぴー助の周りには、すでにハルクサアキムシの姿がない。
雪乃は青ざめた。いったい、どれだけ食べたのか。
「ぴー助! 戻ってきなさい。それ以上はいけません!」
「ぴー?」
振り向いたぴー助の顔は、不満そうだ。
食べられかけられていたハルクサアキムシが、うごうごと動いている。雪乃は思わず顔を逸らした。
ぴー助の口から逃れたハルクサアキムシは、慌てて逃げていく。よく観察してみると、ハルクサアキムシたちは、ぴー助から必死に距離を取ろうと移動していた。
どうやらぴー助が食べ尽くしたわけではなく、身の危険を感じたハルクサアキムシ達が、逃げていただけらしい。
ほっと安堵の息を吐いた雪乃だが、被害が無かったわけではない。少し齧られてしまったハルクサアキムシがいる。
「すみません、ご迷惑をおかけしました」
ノムルの胸を蹴って腕から脱出した雪乃は、蟻人たちに謝罪した。
「だいじょうぶ。食べられたの、一匹だけ」
「……」
すでに一匹、ぴー助のお腹に収まってしまったらしい。
自分の体よりも大きなハルクサアキムシを食べながら、あまり体型の変わっていないぴー助の構造に、雪乃は幹を捻った。
しかしやっぱりというべきか、蟻人たちは、おおらかな性格をしている。誰も怒る素振りさえない。
お尻を齧られたハルクサアキムシの元へと向かった雪乃は、おそるおそる手を差し出し、治癒魔法を掛ける。
どうやら治癒魔法は、虫にも有効なようだ。
「うう。すみません、うちのぴー助がご迷惑をおかけしました」
怪我の治ったハルクサアキムシにも、ぺこりと謝った。
そんな雪乃を、じいっと見つめていたハルクサアキムシは、気にするなとばかりに、雪乃の体に額を押し付ける。
雪乃の身が強張る。
ハルクサアキムシが、雪乃に好意を寄せてくれていることは分かる。だがしかし、やはり雪乃は虫が苦手なのだ。
撫で返すことも、逃げることもできず、離れていくのをじっと待つ。
ああ、待った。それが、失敗だった。
「うにゃあああーーーっ?!」
雪乃はなんともいえない悲鳴を上げる。
なぜか次々とハルクサアキムシが雪乃に寄ってきて、気付けば身動きさえできなくなっていた。
全身に触れる、温かくて柔らかな感触に、雪乃はふるふると震えた。
涙が出そうだが、樹人に涙を流す器官は存在しない。
「の、ノムルさん……」
震える声で、必死に助けを求める。
冷静に考えれば、こうなるまで彼が放置していたことに、疑問を抱いたかもしれない。だが今の雪乃は、そんな思考回路などとうに寸断されていた。
ノムルからの返答はない。
「の、ノムルさん……」
雪乃はもう一度、助けを求めて声を絞り出す。
「んー? 誰のことー?」
「?!」
雪乃はがく然とした。
この状況で、見捨てられるとは。
何が彼の気に触ったのかと、雪乃は途切れかけの思考回路で必死に考える。
「俺とユキノちゃんって、もう他人じゃないはずだよねー?」
雪乃は気付く。
そして変態ドS魔王に対し、怒りで体をふるふると……震わせようにも、ハルクサアキムシの感触のせいで、違うふるふるしか出てこない。
「お、おとーさん、助けてください」
目があったなら、だばだばと滝のように涙があふれ出ていただろう。
雪乃は恥も外聞もプライドもかなぐり捨てて、ノムルに屈したのだった。
にやりと、それはもう、眩いばかりの輝く笑顔を浮かべたノムルは、杖を揺らす。
「はいはーい。おとーさんが、可愛い娘を助けますよーっと」
ノムルの魔法でハルクサアキムシの群から浮かび上がった雪乃は、そのままノムルの腕の中へと回収された。
ふるふると震えたまま思考が停止して、身動きが取れなくなっている雪乃を、ノムルは存分に抱きしめて、頬擦りして、堪能したのだった。
その後、一向は広場へと戻った。
広場では、すでに宴の準備が始まっていた。
いくつものテーブルが並び、隅の方では大きな鍋や鉄板で料理が作られている。
あちらこちらの家からも、美味しそうな香りが漂っていた。
何とか機能を復活させた雪乃も、ふらふらしつつも興味深そうに広場の様子を見物する。
雪乃たちと一緒にきのこを採りに行った蟻人たちも、料理を作る輪の中に加わっていく。
炒め物や丸焼き、スープや串焼き……。
様々な料理が並んでいるが、どれもきのこと昆虫が使われていた。というより、それ以外の野菜や肉は、ほとんど目に付かない。
デザートとして果物が使われている程度だ。
「あ、これ美味しい。クリーミーで濃厚だよ」
「ぴー」
まだ準備中にもかかわらず、ノムルとぴー助は、遠慮なく食べ始めている。蜂の子っぽい何かを。
「こっちはサクサクだねー」
「ぴー」
歓迎の宴を開いてもらっていることは理解している。そして雪乃は、食べ物への好奇心が旺盛だ。
しかし、しかしだ。
「ユキノちゃーん、どうしたのー? 疲れちゃたのかなー?」
雪乃は広場の隅っこに三角座りして、魂を吐き出していた。
昆虫食が体に良いことは知っていた。栄養は豊富で、味も良いと聞く。牛や豚よりも環境への負荷が少ないと、推進している団体もある。
普通に食品として流通している国だってある。日本だって、地域によっては販売されている。
それは知っている。
しかし、である。
「宴の料理のほぼ全てに使われているというのは、さすがに……。せめて形を残さないでいただきたいです……」
雪乃は沈黙した。自分は食べないのに、わがままだと思いつつも、ついそんな感想を抱いてしまった。
その日、雪乃は早々に草原へと抜け出し、根を張って眠りに就いたのだった。
朝になり、目覚めた雪乃は根元を見回す。
いつもならばそこに横たわっている、一人と一匹の姿はない。
「二人とも、宴会に浮かれすぎです。酒は飲んでも飲まれるなという言葉を知らないのでしょうか?」
勝手に抜け出したのは雪乃である。文句を言うのは筋違いであるが、無意識に不満があふれ出てくる。
雪乃はぷりぷり怒りながら、蟻塚の中へ入っていった。
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