『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編2

238.誰も気にしない

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「じゃあ、畑の外に生えている薬草を探していけばいいわけか」
「そうですね」

 続いたムダイの言葉に、雪乃も首肯した。
 後ろで目を丸く見開いて、口をはくはくと動かしている男のことは、誰も気にしない。

「でもそうなると、入り口で教えてもらった栽培場所は、当てにならないね。分担して探すかい?」
「それなら大丈夫です。マンドラゴラたちに協力してもらいますから」

 畑の外で生えている薬草を見つけようと、ムダイは辺りをきょろきょろと見回している。
 対して明るく答えた雪乃は、マンドラゴラたちを呼び出す。ローブの袖や襟元から次々と、マンドラゴラたちが這い出てきた。
 後ろでナイオネルの目玉が飛び出しかけ、あごが落ちているが、雪乃たちは気付かない。
 もはや彼の変顔は、雪乃たちにとっては当たり前すぎて、気にならないのかもしれない。

「さ、マンドラゴラたち。今日も頼みますね」
「わー」
「わー」
「わー」

 小さな冒険者たちは、駆け出していく。

「ちょっと待ってくれたまえ!」

 突然の叫び声に、雪乃はびくりと肩を震わせて後ろを振り向く。

「「「わー?」」」

 マンドラゴラたちも駆け出した足を止めると、根を捻って声の主を見た。
 注目を受けたナイオネルの目は、マンドラゴラたちに釘付けだ。

「そ、それは何だね?」

 指差されたマンドラゴラたちは、顔を見合わせる。それから、はっと気が付いたように、

「わー……」
「わー……」
「わー……」

 と、その場に横たわって動かなくなった。
 雪乃たちは、マンドラゴラたちをじっと見つめる。
 ちらりと、マンドラゴラはナイオネルを窺ったが、すぐに再び真っ直ぐに伸びて転がった。

「ええっと、何をしているのでしょう?」

 マンドラゴラたちの謎の行動はいつものことだが、今回ばかりは、さすがに雪乃も幹を捻らざるを得ない。

「もしかすると、ナイオネルさんが原因かも」

 雪乃は答えたムダイを見上げ、それからナイオネルを見た。
 とつぜん犯人として挙げられたナイオネルは、動揺を隠せず自分を指し示す。
 本人も理解していないようだと察した雪乃は、視線をマンドラゴラへと向けた。雪乃の視線を受けて、マンドラゴラたちは横たわったまま、一斉にこくりと頷く。

「どういうことでしょう? ムダイさん、何があったのですか?」

 マンドラゴラを含む全員の注目を浴びたムダイは、少し戸惑いながらも、カイが雪乃をノムルから救出した後に起こった、マンドラゴラたちの謎行動を話した。

「つまりマンドラゴラたちは、ムダイさんやドインさんの前ではいつもと変わらぬ態度だったのに、ナイオネルさんの前では、死んだ振りをしていたわけですね?」
「わー」
「わー」
「わー」

 いつの間にか足を投げ出して、マンドラゴラたちは座っていた。彼らは雪乃の解釈に揃って頷いている。

「研究材料にされるのではないかと、怖かったのでしょうか?」
「わー」

 理由を推察する雪乃に、マンドラゴラたちは葉を左右に振る。

「違うのですか? ではなぜでしょう?」

 幹を傾げて問えば、一匹のマンドラゴラが、ナイオネルに近付いたかと思うと、すぐに仲間の元へ戻った。
 それから、小芝居が始まった。演目は、『ナイオネルとマンドラゴラたち』で良いだろうか。

 進むにつれて、雪乃は額を押さえ、ムダイは腹を抱えて笑い出し、ナイオネルはがく然としてあごを落としていった。
 カイは真剣な表情で、マンドラゴラたちの小芝居を見物している。

「上手いな。顔も手もなくても、状況や感情が理解できる」

 真面目なカイの感想に、マンドラゴラたちは嬉しそうに跳ねる。ムダイとナイオネルは、驚きを含んだあ然とした表情を、真面目に対応したカイに向けた。
 それはさておき、マンドラゴラたちの小芝居から、ナイオネルをからかうと面白そうだったから、という理由が判明した。

「マンドラゴラたちが失礼しました」

 雪乃は保護者として、丁重に頭を下げて謝罪する。言葉を発することもできないまま、ナイオネルも深くお辞儀を返した。
 それから改めて、雪乃はマンドラゴラたちに向き直る。

「さ、マンドラゴラたち。薬草を探してくれますか?」
「わー」
「わー」
「わー」

 マンドラゴラたちは薬草園の中を駆けていった。

「ドクター・ユキノ、あのマンドラゴラたちも、魔マンドラゴラなのかね?」
「薬師です。普通のマンドラゴラだと思いますが?」

 ぽてりと、雪乃は幹を傾げる。
 最初に会ったマンドラゴラたちも、ずいぶん人懐っこかった。ネタの幅は、共に行動するようになってから増えているが。

「人間に懐くなどとは、聞いたこともない」

 ふむうっと、雪乃は地球時代に見た動物たちを思い浮かべてみる。あまり懐かないと言われる小動物たちも、世話をする人間によっては、犬のように感情豊かになる。
 メダカや金魚といった魚類や、爬虫類、昆虫なども、人によっては懐かれて、コミュニケーションがとれたりする。

「単純に、植物だから意思はないと思い込んで、彼らの感情を汲み取ろうとする努力を怠ったからではないでしょうか? 訴えても無視されれば、相手にしなくなりますから」
「なるほど。それは興味深い考察だ。たしかにドクター・ユキノは、マンドラゴラたちを植物ではなく、友人のように扱っているようだ。よし、私も試してみよう」

 そんな話をしているうちに、早くも二匹のマンドラゴラが戻ってきた。

「わー」
「わー」
「ありがとうございます。何を見つけてくれたのでしょう?」

 雪乃はマンドラゴラに案内されるまま、薬草の元へと向かった。三人の男たちも付いていく。
 ムダイは面白そうに見ていただけだったが、ナイオネルは何度も瞠目したり、はくはくと口を動かして、驚嘆を繰り返した。
 とりあえず、驚きすぎて倒れないことだけを、雪乃は祈った。



 その頃、机に向かって書類の整理をしていたドインは、書類に目を通しながら、部屋の隅に転がっている男に問うた。

「いつまでそうやっているつもりだ?」
「うっせー。おっさんに、娘に嫌われたおとーさんの気持ちが分かるか」

 草色のそれは、力なく毒づく。
 ちらりと横目に映したドインは、小さく息を吐いた。

「守れないなら置いていけ。子供一人くらい、こっちでどうにかしてやる」
「ふざけんな? ユキノちゃんは俺の娘だ。おっさんだろうと」
「だったら」

 反論しようと顔を上げたノムルを遮り、ドインはぎろりと睨む。
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