『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

279.好物まで

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「私のときと同じですね」
「ああ」

 騎士が退室してから発せられたナルツの言葉に、皇太子夫妻が頷く。
 何があったのか知らない雪乃とローズマリナは、不思議そうにナルツを見た。
 二人の視線に気付くと、ナルツの厳しい目元が和らぐ。けれどすぐに、眉間に皺を寄せた。

「私もあの令嬢に言い寄られたことがあるのですよ。そのとき、私の過去を知っているようなことを言い出し、好物まで言い当てられました。フレックやマグレーンも、同様だったそうです。誰にも話していないことを、次々と言い当てられたと」

 おそらくゲームで見ていたのだろう、と予測した雪乃とは違い、ローズマリナは信じられないとばかりに瞠目していた。
 ナルツの話を聞きながら、雪乃はふと気付く。
 男爵令嬢がゲームの知識で男性たちの経歴や好みを知っていたということは、親しげに話しかけられたムダイもまた、攻略対象者の一人なのではないだろうか?

「ムダイさんはいったい?」

 一人で勇者候補と攻略対象者を掛け持ちしているムダイに、雪乃は同情を禁じえない。
 しかしそんな雪乃もまた、魔王候補である。
 件の『ファーストキッスはルモン味』は、魔王も倒すゲームなのだから、無関係とは言えないだろう。むしろ、ラスボスである。

「つまり……」

 そこに思い当たってしまった雪乃は、ぽふりとソファの背もたれに、横倒しに身を預けた。
 雪乃が予定されていた運命を歩んでいれば、今対談しているだろう男女が、雪乃を倒すのだ。ナルツやフレックたちと共に。
 無意識に、じとりと雪乃はナルツを見ていた。なぜ睨まれているのかわからないナルツは、困惑気味に小さな子供を見る。

「疲れちゃった?」
「大丈夫です。お気遣い無く」

 座りなおした雪乃は大きく息を吐き出して、気持ちを切り替えた。思い切ってアルフレッドに問うてみる。

「もしも魔王が復活したら、どうするのですか?」
「もちろん各国で協力し、討伐を目指す」

 当然の答えなのだろうが、雪乃には辛い答えだ。

「魔王とは、どういう存在なのでしょう?」
「世界に災厄をもたらすと言われている。千年前の争いでは、人間はもちろん、精霊にまで多くの犠牲が出たと聞く。それ以前は今ほど魔物は存在せず、魔法を使える人間が多かったという文献も残っているのだが」

 現在は人里から離れるほどに、魔物が跋扈している。雪乃の周りには魔法を使える人が多いが、実際は魔法を使える人間は一握りなのだという。
 それにしても、さすが皇族というべきか。アルフレッドはノムルには教えてもらえなかったことまで知っていた。

「このタイミングであの女だ。本人は自分を聖女だと言っていたが、むしろ魔王の手先なのではないかと勘ぐる者もいる」

 なんだか巻き込んだような気がして申し訳なく思った雪乃だが、雪乃が唆したわけではないと、湧いて出てきた罪悪感を背負い投げる。
 雪乃だって魔王候補に立候補したのではない。巻き込まれた側なのだ。

「聖女といえば、ルモンの社交界ではローズマリナさんこそ聖女ではないかと、噂されているのよ」
「そんな、私が聖女など、ありえません」

 顔を真っ赤にして、ローズマリナは否定する。ふふっと笑ったフランソワは、畳み掛けるように続ける。

「あらだって、騎士ナルツによれば、『女神のように美しい女性』なのでしょう? 聖女に相応しいわ」
「滅相もございません」

 首まで真っ赤に染まったローズマリナの目が、羞恥と居たたまれなさで潤んでいる。

「ふふ。本当に純粋な方なのね」

 楽しそうに笑っていたフランソワの目が、すっと細くなる。

「それで、該当する令嬢は思い出せたかしら?」
「申し訳ありません。やはりそのような令嬢は、記憶にございません」
「そう。騎士ナルツと同じね。やはりあの娘の虚言かしら?」

 突然の会話に付いていけない雪乃だったが、魔王がゴリン国から現れるという話を思い出し、その目星を付けようとしているのだと思い当たった。
 悩む仕草のフランソワとアルフレッドの視線が、雪乃へと動く。

「ユキノさんはどう思っていて? 魔王について」

 直球の質問に、雪乃はたじろぐ。
 雪乃が魔王候補であることは、ここにいる人達は知らない。当たり障りの無い答えを返せば良いと思いながらも、葉裏がしっとり湿っていく。

「そうですね。私は戦わずに、お話で解決するのが一番だと思っています」

 争いなど、憎しみや悲しみしか生み出さない。対話による解決が一番だ。
 そんな単純な思考で答えたのだが、全員から呆れた眼差しを受けてしまった。

「解せませぬ」

 顔を逸らした雪乃はぽつりと呟くが、全員苦笑を禁じえない。
 小さな子供の考えることだ、仕方が無いのかもしれないがという思いが透けて見える。

「そうね。それが一番ね」

 最初に同意してくれたのは、ローズマリナだった。
 雪乃は葉をきらめかせて顔を上げるが、それは難しいだろうと顔に書いてあることに気付きうつむく。

「ノムル・クラウ殿はどのように考えているか、ご存知か?」
「ノムルさんですか?」
「ああ。世界最強の魔法使いだ。魔王との戦いとなれば、最大の戦力となるはずだからな」

 なるほどと、雪乃は頷く。
 うっかり国を滅ぼしてしまうノムルなら、本気になれば魔王も倒せるだろうと、雪乃は考える。
 彼が魔王の遺跡で障壁を破ることができなかったことを、彼女は知らないのだから。

「以前聞いたときは、考え方次第だと言ってました。千年に一度のお祭に参加できたと思えば、運が良いだろう? と」

 室内を、重い空気が満たした。
 その気持ちを理解した雪乃は、静かに彼らの気持ちが落ち着くのを待つ。

「至高にして孤高の魔法使いには、魔王も然して恐れる存在ではないということか。心強くもあるが……」

 アルフレッドは苦悶に眉を震わせる。
 空気が晴れる前に、扉が叩かれた。ムダイが戻ってきたようだ。

「入れ」
「はっ」

 廊下にいる騎士が扉を開くと、ムダイが入室する。その表情は、あまり芳しくないようだ。
 ソファに腰掛けたムダイの前に、茶と最中らしきものが置かれると、侍女は静かに扉の外に消えた。

「どうであった?」

 扉が閉まると、アルフレッドはさっそくムダイに問いかける。
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