『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

288.あることはある

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「店の大きさはどのくらいだ? 少し離れた所に空き地があることはある。だがナルツと結婚するんだろう? 新居に近い場所で探したほうがいいんじゃないのか?」

 確かにと頷きかけたローズマリナたちだが、フレックが待ったを掛ける。

「ナルツは男爵を賜るんだろう? 貴族が商売するのは珍しくもないが、夫人自ら店頭に立つのは、いくら男爵でもどうかと思いますよ?」
「それを言うなら、商品の調達は可能なのか?」

 ルッツもまた、疑問を挟んだ。
 ただの冒険者であれば、住居兼店舗であるローズマリナの店で暮らせば済む話だが、貴族となればそういうわけにはいかない。
 身分に応じた邸が必要になるし、夫人となるローズマリナも、商売に掛かり切りというわけにはいかない。

「そうですわね。お店をお任せできるような、信頼できる方の紹介もお願いできますか? 商品に関しては、問題ないと思います。当日仕立ては難しくなりそうですけれど」

 ローズマリナの店で扱っている商品は、全て彼女の手作りだ。
 手芸が趣味であるローズマリナは、公爵家の令嬢として過ごしていたときも、服やアクセサリーを大量に作り上げては、教会や孤児院などに寄付をしていたらしい。
 そして雪乃が最初に作ってもらった、にゃんこローブと狼さんローブは、お茶を飲んでいる間に縫い上げられたのだった。
 旅の間にも、いつの間にか雪乃のローブを数着仕立て上げていたが。
 彼女の裁縫の腕と速度は、際立っている。

「その辺は、ここよりも商業ギルドに行って紹介してもらったほうがいいだろう。女性の扱いに長けていて、冒険者たちを捌けて、信頼が置けて、帳簿付けやらができる人間か……」

 魚を突付きながら、ルッツは条件を確認する。聞いていた冒険者たちは、ぴたりと停止した。
 その目はゆっくりと、一人の男に向かう。

「条件にぴったりです」

 思わず雪乃が声を上げれば、ムダイも同意する。

「女性の扱いに長けていて、信頼も置ける」
「先日も喧嘩騒ぎを起こした冒険者を、義手ながら捌いたらしいな?」

 追加情報をナルツが投下した。
 すっかり義手や義足にも慣れたようだ。さすがはAランク冒険者、鍛え上げられた肉体は伊達ではないと、雪乃は驚きながら感心する。

「帳簿付けなんかは、侯爵家で学んでるだろう? 店番だけなら問題ないんじゃないのか? 家付きなら通う面倒もなくていいだろうし、金銭的にも楽だろう?」

 ルッツも勧める。 
 貴族の嫡男に生まれていたフレックは、領地経営のために様々な知識も詰めも込まれている。
 手足の無い彼は、どうしても行動に制限が掛かる。今は冒険者ギルドの雑用などをして生活費を稼いでいるが、普通の職員よりも給与は少なく設定されていた。
 冒険者として稼いでいた頃の貯蓄を、切り崩しながら生活している状態だ。

 次々と投じられる言葉に面食らっていたフレックだが、ふと表情を引き締めた。

「この体ですから、人並みに働くことは難しいと思います。それでも、ローズマリナさんがよろしければ、雇ってもらえないでしょうか? もちろん、ナルツや俺の怪我に気を使ってだったら不要です」

 申し訳なさそうな、不安そうな、それでいてわずかに期待を込めた目を、フレックはローズマリナに向ける。
 その思いを受け止めるように、真摯に向き合ったローズマリナの瞳が、柔らかく緩む。

「私はこの国には不慣れです。フレックさんとはお会いして少しですけど、信頼に足る方だと思いますわ。何より、ナルツ様がお認めになった方ですもの。報酬などはどの程度お支払できるか分かりませんけれど、お願いできれば助かります」

 朗らかに応じるローズマリナを見つめていたフレックの瞼が、少しの間下がった。きゅっと唇を噛みしめると、目を開けてローズマリナをひたと見つめる。

「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 詳細は後で詰めるとして、いったん話を切り上げる。土地に関しては、昼食の後でルッツが案内してくれる段取りとなった。
 ギルドマスターは意外と暇なのかと思った雪乃だが、急な騒動にも対処できるように、元々余裕を持ったスケジュールとなっているらしい。
 というより、朝から晩まで机にかじりついて仕事をしている人間のほうが、この世界では変わり者として扱われる。
 
 食事を終えた一同は、ルッツが紹介してくれるという土地を見に行くことになった。
 ちなみにルモン大帝国はもちろん、他の国でも、土地は国や領地を持つ貴族の所有物であるため、平民が所有権を得ることはできない。
 建物には所有権が発生するが、空き地に関しては住んだ者勝ちとなる。

 とはいえ、立地の良い場所ならば、住みたいと思う者は大勢出てくる。
 そういうときは、先に住んでいる者に金銭を渡し、譲ってもらうこともある。だから必ずしも無料で土地が手に入るというわけではない。

 また、身許不明の者や、問題行動を起こす者が住み着いた場合は、管理している国や領主から、立ち退きを命じられることもある。
 そういうトラブルを減らす目的もあり、空き地になると領主や各種ギルドなどが管理し、適切な人間に譲渡する場合が多いらしい。

 それはさておき、ルッツが案内したのは、冒険者ギルドからも程近い、四階建てアパートに挟まれた狭い土地だった。
 民家が入り込むだけのスペースは、ぎりぎりある。けれど両脇を高い建物に挟まれているため、圧迫感があり余計に狭く感じてしまう。

「これだけの広さがあれば、充分ですわ」

 土地を見たローズマリナは、満足そうに頷く。
 商業施設がすし詰め状態だった、冒険者ギルド本部前の通りで商っていたローズマリナの店は、幅が狭く奥行きのある構造となっていた。
 この隙間状の土地でも、充分に移せそうだ。

「そうか。だったら使ってくれ。空き地のままだと、若い者が鍛錬に使ったりして苦情が来ていたんだ」

 面倒ごとが一つ減ったとばかりに、ルッツは良い笑顔を見せる。

「でもよく空いてましたね? 帝都で駅も近い。一等地でしょう?」

 ムダイのツッコミに、そうっとルッツが顔を逸らした。高ランク冒険者三人が、見逃すはずはない。

「ギルドマスター? 何かあるのですか?」

 好青年ナルツの顔に陰が差し、威圧が放たれる。
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