『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
260 / 385
ヒイヅル編

312.巨大チンアーゴ

しおりを挟む
 いつまでも気にしていても仕方のない相手なので、雪乃とカイは、マンドラゴラのことは置いておく。
 気にしなくてはいけない相手は、マンドラゴラではないのだ。目の前にいる、

「大きくなりましたねー。いったい何百年生きれば、これほど大きくなるのでしょうか?」

 巨大チンアナゴであろう。
 海面から首を出した真っ白なチンアナゴは、二階建ての屋根を越える高さだ。滑らかな鱗のつるりとした肌は、日の光を受けて、てらてらと輝いている。
 その頭には、ぴー助が乗っていた。

「雪乃、あれはチンアーゴではないからな?」
「なんと!」

 先ほどの白いチンアナゴは、チンアーゴというらしい。
 雪乃はじいっと、巨大チンアーゴを見上げた。

「立派なチンアーゴです」
「……。あれは水竜だ」

 疲れを見せながら、カイは訂正する。
 二秒ほど硬直した雪乃だが、すぐに再起動を果たす。

「つまり、彼女はシッシーなのですね?」
「知り合いなのか?」
「いいえ。水辺に棲む竜種は、その場所の名前の頭文字を取り、ッシーと呼ぶようなので」

 そういう決まりがあるわけではないはずなのだが、雪乃の中では固定していたようだ。この世界では、まったく通じないだろうが。
 ちなみにシーマー国の海だから、シッシーである。
 カイはそこは指摘せず、代わりに、

「二頭以上いたらどうするんだ?」

 と、疑問を投げかけた。
 思わぬツッコミを受け、雪乃は幹を傾げる。二頭以上など、聞いたことがない。

「シッシー二号?」

 カイは表情を引きつらせたが、何も言わなかった。これ以上は踏み込まないほうが良いと、賢明に判断したようだ。

「そのシッシーは、何と言っているのだ?」

 通訳を頼まれた雪乃は、シッシーの頭上にいるぴー助に視線を向け、それからマンドラゴラたちを見た。
 いつの間にか砂浜に戻ってきていたサーファーたちは、それぞれに砂の椅子を作ってくつろいでいる。

「えーっと、竜種の子供の声が聞こえたので、出てきたそうです。竜種は子煩悩ですから。ただ、今はぴー助よりも、マンドラゴラたちに夢中になっているようですが」
「わー」
「わー」
「わー?」

 雪乃の言葉どおり、頭にぴー助を乗せたシッシーは、首をもたげて頭を低くし、じいっとマンドラゴラたちを観察していた。
 見られていることに気付いたマンドラゴラたちは、慌てて身を寄せ合い、ふるふると震えだす。
 そんなマンドラゴラたちを、じいっと見つめ続けるシッシー。ちらりと視線を上げたマンドラゴラたちは、葉を左右に振ると、興味を無くして椅子に寝転んでいく。
 まるで、

「ノリ悪いなー。つまんねー」

 とでも言いたげだ。

「どうしてあの子たちは、あんなふうに育ってしまったのでしょう? 私の育て方に問題があったのでしょうか?」

 地味に落ち込む雪乃の頭を、カイは慰めるように優しくぽんぽんと叩いた。
 マンドラゴラ観賞を終えたシッシーの首が、雪乃へと動く。

「お騒がせして申し訳ありません。ヒイヅル国を目指していまして、ルグ国行きの船に乗るため、この島に滞在していたのです」

 雪乃はシッシーに、この島にいた理由を答えた。

「きゅおー」
「お気持ちは嬉しいのですが、私は夜は土に根を張らなければ眠れないのです。ここからルグ国までは、途中で上陸できる島もないと聞きましたので、船で行こうと考えています」

 意外と高い声で鳴くシッシーは、どうやら雪乃たちをルグ国まで送ってくれるつもりらしい。
 しかし人魚たちの誘いも断った雪乃たちは、シッシーの誘いも断らなければならない。

「きゅおー」
「なんと! 凄いですね」

 シッシーと雪乃の会話は続いていくが、魔物の言葉が分からないカイは、無言で見つめている。

「シッシーさんならば、ルグ国まで半日あれば着くそうです」

 雪乃の通訳に、カイは少し目を丸くした後、陸側に視線を向けた。
 決定権を持つ魔法使いは、まだ出てこない。勝手に決めて暴れられても面倒だと、カイは困ったように眉をひそめる。
 カイの考えに気付いた雪乃も、困ったように葉を揺らした。

 シッシーはぴー助を砂浜に下ろすと、何度も頭を摺り寄せて堪能している。力加減は苦手なのか、時折こてりとぴー助が倒れているが、お構い無しだ。
 ぴー助が逃げようとすれば、すぐに咥えて引き戻している。
 ようやく目覚めたノムルが欠伸を噛み殺しながら出てくると、足を止めた。眠そうに半分しか開いていない目が、シッシーに向かっている。

「またユキノちゃんのおとーさんの座を狙う不届き者か?! ユキノちゃんはやらんっ!」

 寝ぼけているのか、突然の親ばか発言をかましてきた。雪乃もカイも、半眼でノムルを眺める。

「あー……。ルグ国まで送ってくださるそうです。ちなみに狙っているのは私ではなく、ぴー助のお母さんの座だと思います」

 呆れながらも、暴れられる前に雪乃は訂正しておいた。

「ピースケ? そんな食い意地張った飛竜の親になりたいなんて、変わったやつだな」

 樹人の親になろうとする人間よりも、飛竜の親になりたがる水竜のほうが、常識に沿っているだろうと思った雪乃だが、そっとしておくことにした。

「日が暮れる前に着くなら、良いんじゃないのか?」

 あっさりと許可が下りたところで、遅くならないうちに出発することになった。
 シッシーが砂浜に上陸し、その姿が顕わになる。
 長い首の下には、海に住んでいたといわれる恐竜に似た体がついていた。ウミガメのような大きな足には、一見すると爪もない。よく見れば、小さな爪が皮膚に埋まるように付いているのが見える。
 大きな体の動きに合わせるように、高波が起き、マンドラゴラたちがさらわれていった。

 雪乃はカイに抱き上げられて避難し、小さなサーファーたちは、小さな渦に飲まれて回っている。
 傍から見ると救助が必要な状態だが、マンドラゴラたちから送られてくる感情は、歓喜に満ちていた。絶叫マシーンで遊んでいる感覚なのかもしれない。
 シッシーの頭の上に乗っていたぴー助は、滑り台のように首を滑り降り、背中へと移動した。

「きゅおー」

 首を曲げて背中を示すシッシーに誘われて、雪乃たちは彼女の背中に乗る。準備ができると、シッシーは向きを変えて海へと戻っていった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...