『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
295 / 385
魔王復活編

347.ぴー助は目の前の大樹が雪乃だと

しおりを挟む
 全速力でエルフ領からルグ国まで往復したノムルは、雪乃の元へ戻るとぴー助を放り出し、大樹の周囲をぐるぐると回って彼女の無事を確認する。
 一切の傷が付いていないことを確かめると、ようやく息を吐いて緊張を解いた。

「ぴー」

 ぴー助の声に、ノムルは視線を動かした。
 戸惑い、雪乃を探すかと予想していたぴー助は、嬉しそうに大樹に体を摺り寄せている。まるで母親に甘える雛のように。
 本能なのか、それとも魔物にのみ認識できる何かがあるのか、ぴー助は目の前の大樹が雪乃だと、確かに認識していた。

「ピースケ」

 空間魔法から取り出した鏡の泉の酒に、ノムルはありったけの魔力を込める。
 ぴー助は目を輝かせて凝視した。涎が滴り、舌なめずりまでしている。ちらちらとノムルを上目遣いに見ては、期待とじれったさに尻尾を地面に打ち付けた。

「飲め」
「ぴー!」

 どんぶりに並々と注がれた酒に、ぴー助は鼻先をつっ込んで豪快に飲んでいく。最後は丼の底まで舐め取って、一滴残らず飲みきった。
 鏡の泉の酒は、竜種にとって何よりの美味である。
 ノムルの魔力がこもった鏡の泉の酒を飲んだぴー助は、どんどん成長していく。その姿は立派な成獣。彼の母竜や火竜のハヤトよりも、ずっと大きく育っていた。

「いいか、ぴー助。俺が戻ってくるまで、ユキノちゃんを護れ。ユキノちゃんに近付こうとするやつらはもちろん、この森に近付くやつ等も殲滅しろ」

 雪乃が聞いていたら、すぐさま取り消しを求める内容だが、彼女のいない今、止められる存在はいない。

「がううー!」

 酒をもらって上機嫌のぴー助は、迷わず了承する。体の成長に合わせて、愛らしかった鳴き声も低く威厳のある声へと変わっていた。

「じゃあ、頼んだぞ?」
「がううーっ!」

 大樹の周囲と森を囲む結界を維持するために杖を残し、ノムルは空へと浮かび上がる。そしてそのまま西の方角に飛んでいった。
 彼の手には、緑頭巾ちゃんの人形が握られている。愛しい娘に似たガラスの人形は、耳障りな男の声で喋っていた。



 その頃、ルモン大帝国帝都ネーデルにあるラトヤ本舗の奥の席では、人目を引く男女合わせて六人が、銘菓カンヨーを味わっていた。

「別にいいんだけど、僕がここにいる意味ってあったのかな?」

 赤い髪の男は、ぽつりとこぼす。
 赤いシャツに真紅のネクタイとズボンという、いつもに比べるとラフな格好だが、やっぱり赤かった。

 同じテーブルに着いている者たちを見回せば、婚約中のナルツとローズマリナがイチャイチャラブラブとしていて、二人の前ではテーブルの上に座ったマンドラゴラのスターベルとティンクルベルが、仲睦まじく身を寄せ合う。
 少し視線を動かせば、男装の麗人ララクールが、手の無いフレックのためにカンヨーを食べさせては頬を朱に染めていた。

 残るもう一人はと隣に目を向ければ、懐かしさを感じさせる黒髪の魔法使いは、テーブルに座らせたマンドラゴラのマーちゃんと、きゃっきゃうふふ状態だ。
 ティンクルベルと共にナルツの下にいたマーちゃんだったが、いつの間にかマグレーンに乗り換えていた。

「ふふ。マーちゃんは本当に可愛くて御利巧ですね」
「わー」

 他のマンドラゴラたちに比べて、このマーちゃんというマンドラゴラは大人しく常識的だった。
 ムダイとフレックの心を弄んだ過去を持つが、落ち込むムダイを心配しただけだったり、相棒を探してフレックを観察していただけだったりと、ちょっと誤解を生みやすい性格なだけで、悪気はないのだ。

「よく見ると、マンドラゴラって少しずつ色が違うんだね?」

 一人寂しく緑茶とカンヨーに舌鼓を打っていたムダイは、ふと気付く。
 マーちゃんは少し紫色をしていて、スターベルはオレンジ、ティンクルベルは色が薄い。

「言われてみればそうですね。気付きませんでした」

 マグレーンはマーちゃんから、スターベルとティンクルベルに視線を移す。

「わー?」
「わー?」
「わー?」

 三匹とも、根を傾げてマグレーンを見上げる。くすりと笑ったマグレーンは、ムダイに顔を向けた。

「そういえば、ムダイさんは魔法ギルドにも登録したんですよね? ノムル様に登録していただいたんですか?」
「いや? 騙されて試しの門を潜らされた」

 紹介者のいない魔法使いが魔法ギルドに登録するためには、登録用の門を一人ずつ潜り、試練を受けなければならない。
 実際は登録のためではなく、ラジン国に危害を加える者を排除するための、囮の門だったのだが。

「あれをクリアしたんですか?」
「ああ」

 門を開けるなり、魔法使いたちから一斉攻撃を受けるという、登録させる気はまったくないだろうと言いたくなるような試練だった。
 マグレーンは眉根を寄せ、ムダイを窺うように見る。

「ギルドカードを見せてもらっても?」
「いいよ」

 ムダイは逆らわず、魔法ギルドのカードを取り出した。確認したマグレーンは、眉間の皺を深める。

「ハッスルさんという方は、お知り合いですか?」

 カンヨーに刺していた楊枝を持つ、ムダイの手が止まる。

「誰それ?」

 聞き覚えの無い名前を耳にして、ムダイは訝しげにマグレーンを見た。

「魔法ギルドは紹介者がいないと登録できない仕組みになっているんですよ。ギルドカードにも、紹介者の名前が刻まれます」

 そう言って指差したのは、ムダイには理解できなかった文字の羅列だ。

「人の名前だったのか」

 どうりで意味が分からなかったわけだと納得したムダイだが、すぐに顔をしかめる。
 なぜ見ず知らずの人間が、自分の紹介者――つまりは保証人のようなものだろう――になっているのか。
 ムダイの疑念を察したマグレーンは、杖を手に防音魔法を展開した。

「門を潜った後、魔法陣に入りましたよね?」
「ああ」

 クリア条件は、ラジン国の国境の町に設置されている魔法陣に入ることだ。

「あの魔法陣、かなり強力な捕獲用の魔法陣なんですよ。竜種でも逃げられないそうです」
「は?」

 ムダイは呆けた声を上げてマグレーンをまじまじと見る。

「解放条件は、魔法ギルドのBランク以上の者に、紹介者として登録してもらうことらしいです。俺はCだったので、詳細は知りませんけど」

 知らぬ間にハッスル氏に助けられていたようだ。了承もなく紹介者に名を連ねられていたわけだが。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...