『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

351.なぜ私はこのようなところに?

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「なんということでしょう。なぜ私はこのようなところに?」

 しきりに首を捻るが、思い出せない。ふむうっと、記憶を手繰り寄せる。

「薬草をコンプリートしたまでは憶えているのですが、それがどうしてこのような?」

 夜空に浮かぶ月灯りだけでは、細かな状況が分からない。周囲に光の玉が浮かんでいるので、花の上で動くには問題ないが。

「とりあえず、人が来る前にここから下りて、服を調達したほうが良いでしょう。まったく、人間の体とは不便ですね」

 ぶつぶつ言いながら、少女は花から這い出す。枝を伝って下りようと考えたようだが、視界に入ったその高さに、ふるりと震えた。

「るー」
「るー」
「るー」

 精霊達が歌いだす。

「おや? 君たちはたしか、精霊さんでしたね。ということは、ここはまだ異世界であっているようですね。初めまして、雪乃と申します」

 少女――雪乃は丁寧に頭を下げて挨拶する。

「るー」
「るー」
「るー」

 精霊たちは楽しそうに雪乃の周りを飛び回る。それから雪乃の後ろへと回り込んだ。
 釣られて背中へと首を回した雪乃は、自分の背中に生えている羽に気付く。

「おお! 私の背中に羽が! これは飛べるのでしょうか?」
「るー」
「るー」
「るー」

 精霊たちは上下に揺れて、肯定を示す。
 精霊たちに教わりながら、雪乃は背中から羽に魔力を流し込んでみる。光の羽が一段と輝きを増し、雪乃の体がふわりと浮かび上がった。

「おお! 人類の夢ですな」

 精霊たちに囲まれたまま、雪乃は地面へと降り立つ。

「がう?」

 満足そうに草むらに立った雪乃だったが、不穏な声に身を強張らせる。そうっと首を回すと、大きな目が雪乃を見ていた。

「私は木。私は木。秋になると美味しい果物を実らせる、緑豊かな広葉樹」

 直立不動となった雪乃は、いつものように擬態のイメージを諳んじる。しかし、

「……今は樹人ではありませんでしたね」

 残念ながら、擬態はできなかった。しかも、

「るー」
「るー」
「るー」

 周囲を飛び交う光の玉。目立ちまくりである。

「まずは話し合いましょう! きっと誤解があるはずです。私は敵ではありません!」

 きりりと眦を上げると、雪乃はその大きな目の持ち主に、平和的な交渉を持ちかける。
 だが相手はもそりと起き上がると、声を発することなく近付いてきた。それはかつて目にした、飛竜の母よりも大きな竜だった。
 樹人であればご飯として認識されなかっただろうが、残念ながら今は肉の付いた人型である。

「これも運命。美味しく頂かれましょう。できましたら、あまり痛くないようにお願いします」

 抗うことなく、雪乃は己の運命を受け入れた。
 飛竜は雪乃に顔を寄せると、鼻を動かし匂いを嗅ぐ。鼻息で、雪乃の髪の毛がなびいた。そして、ぺろりと舐められた。分厚い舌に押されて、雪乃はよろめく。

「味見ですか? お気に召しましたか? できれば美味しくないと捨て置いていただけるとありがたいのですが」

 目をつむり、雪乃は口を山形にして恐怖に絶える。

「がうう」
「ん?」

 雪乃は小首を傾げる。それから目を開けて飛竜に向き直ると、しげしげと彼を見た。
 大きく立派な飛竜には、たしかに見覚えがあった。

「おお! ぴー助ではないですか! 大きくなりましたねえ。立派になりすぎて、誰だが分かりませんでしたよ」
「がうう」

 鼻先を摺り寄せてくるぴー助の顔を、雪乃は両手で撫でてやる。あの小さな子竜が、いつの間にか立派な成竜になっていたようだ。
 成長を喜ぶと同時に、それが意味することに気付き、涙が頬を伝う。

「私はいったい、どれだけの間、眠っていたのでしょうか?」

 ぴー助から体を離した雪乃は、涙を拭うと周囲を見回した。ずっと傍にいると約束した魔法使いの姿は、そこにはなかった。
 幼かった飛竜の子が成獣に育つほどの時が流れたのだ。きっと彼はもう、この世にはいないのだろう。
 ほろほろと流れ落ちる涙を、ぴー助が舐めとる。精霊たちも、なぐさめるように雪乃に身を寄せた。

「ふふ。ありがとうございます。大丈夫ですよ」

 微笑んだ雪乃は、ぎゅっと目をつむって力を込めると、涙を引っ込ませた。

「さて、問題は服ですね。どうしましょう」

 さすがに花びらを巻きつけただけのあられもない姿では、服を買いに行くこともできない。
 悩む雪乃の前に、ぴー助が見慣れたポシェットを差し出した。雪の結晶を模したレースが付いた、若緑色のポシェットだ。

「預かってくれていたのですね。ありがとう、ぴー助」
「がうう」

 ポシェットを受け取った雪乃は、ぴー助の鼻先を優しく撫でてやる。
 だが小さなポシェットでは、体を隠すことはできない。とりあえず、どれだけ手持ちの金があるか確かめようと開けた雪乃は、手を突っ込む。
 すると指先に、布が触れた。

「おお。服があるようです」

 と、取り出したのは、メイド服だった。
 真顔になって無言でしばし見つめた雪乃は、

「ていっ!」

 と、地面に叩きつけた。

「一体全体、何を考えているのでしょう?」

 顔をしかめつつも、懐かしさが込み上げてくる。だからといって、着るつもりは毛頭無いが。

「他にも入っていそうですね」

 気を取り直して、別の服を探してみた。現れたのは、ビキニタイプの踊り子さん衣装だった。

「ていっ!」

 再び地面に叩きつけた。
 三着目、ミニスカナース。四着目、バニーさん。五着目、なんだか良く分からない怪しい服。六着目、縄。

「これは、服? え?」

 目を点にしながらも、放り投げて次を引っ張り出す。
 七着目、ピンクのハート型エプロン。八着目……。
 両手でポシェットを握り締めたまま、雪乃はふるふると震えた。

「どうしてこういう服ばかり選ぶんですか?! というか、どこで手に入れたんですか?! こっちの世界でこんな服見たことないですよ?! あっちのものも混ざっていませんか?!」

 まともな服は、一着もなかった。いや、猫さんローブは入っていた。
 かつての樹人姿よりも大きくなっているユキノだが、枝や根を隠すために、だぶだぶに仕立てられていたので、少し短いが着ることはできた。しかし、である。

「素肌にローブは、樹人だから許されること。人間がやると、露出魔の正装ではありませんか」

 がくりと、雪乃は肩を落とす。お腹もぐうぐうと鳴り出した。
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