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魔王復活編

360.仲間を集めて魔王を

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「それで、聖剣は回収できたの?」

 落ち着いたところで、ムダイは本題に入る。山の麓では、聖剣が行方不明になったと騒いでいる人たちがいた。頂上はもっと騒ぎになっていることだろう。

「ええ。ぴー助とムダイさんが皆さんの気を逸らしてくださっている間に、カードと共に回収しておきました」

 そう言って、雪乃はポシェットをぽんぽんっと叩く。
 ここで剣を取り出すという愚行は取らない。そんなことをすれば、聖剣の行方を捜している人達に詰め寄られかねないだろう。今も遠巻きながら、ムダイへ疑惑の眼差しが向けられているのだから。

「そう、カードにはなんて?」

 雪乃はカードだけポシェットから取り出して、ムダイに渡す。

『仲間を集めて魔王を倒しましょう。皇子・騎士・魔法使い・その他。各一名以上』
「『その他』って何?」

 問いかけるようにムダイは雪乃を見つめる。

「私に聞かないでください。こういうのはムダイさんのほうがお得意でしょう?」

 眉葉を寄せた雪乃は、口葉を尖らせる。勇者を押し付けられたことを、まだ根に持っているのだ。
 ムダイは肩を竦めると、

「とりあえず、ネーデルに戻ろうか。そこで揃うだろう? ぴー助を下ろす所も、ナルツが用意してくれているだろうから」

 と、提案した。
 皇子も騎士も魔法使いも、ネーデルには雪乃の知っている人物で揃っている。 

「よく分からないが、雪乃に危険はないのだろうな?」

 じとりと、カイはムダイを胡散臭げに見るが、ムダイは笑顔を浮かべたままだ。その嘘っぽい笑顔に、雪乃も葉を引きつらせる。

「ムダイさんがこんな腹黒だったとは。戦闘狂のストーカーでも、普段はまともな人だと思っていたのに。私には人を見る目がなかったようです」
「ひどい言われようだね」

 マンドラゴラたちも抗議の声を上げているが、彼が気にする様子はない。苦笑しながらも、ムダイは一足先にぴー助の背に乗る。

「がうううー」

 ぴー助から不満そうな声が漏れるが、置いていくわけにもいかないので我慢してもらうしかないだろう。
 雪乃とカイも納得していない様子だが、それでもマンドラゴラたちを回収して、ぴー助の背中に上ったのだった。



 マンドラゴラから城へ向かうようにというナルツの伝言を受けた雪乃たちは、ルモン城を目指す。上空から見ると、城壁が迷路のように入り組んでいることがよく分かる。
 城から離れた広場には、数頭の竜種の姿があった。どの竜もまだ若く、ぴー助に比べて一回り以上も小さい。どうやら騎竜たちの休憩所のようだ。
 雪乃はぴー助に指示を出し、竜種たちが集まる場所に下りてもらう。
 ぴー助が着地したところへ、近付いてくる人影があった。

「お久しぶりです、ナルツさん、マグレーンさん」

 十数人の騎士と共に待っていたナルツとマグレーンに、雪乃は挨拶をする。

「久しぶり、ユキノちゃん、カイ君。さっそくだけど、アルフレッド殿下がお待ちだから、一緒に来てくれるかな?」
「はい」

 騎士たちが怪訝な様子でローブに身を包んだ雪乃とカイを見ているが、ナルツは気にせず迎えの車に雪乃たちを誘う。
 ぴー助はこの場で待機だ。大きくなったぴー助は城に入るどころか、城壁の間を進むことも難しいだろう。

「心配しなくても大丈夫だよ? 竜騎士たちもいるから」

 竜騎士は竜種に騎乗して戦う騎士を指す。自分の力できちんと竜種を制御できることが最低条件となるだけに、竜種の扱いはお手のものだ。
 彼らの多くは代々竜騎士という家系で、物心が付く頃には卵を孵し共に成長する。そうして育てた竜種が騎竜として使えるようになるまで、最低でも二十年は掛かる。そのため正規の竜騎士にはあまり若い騎士はいない。 
 中には親や祖父母などから騎竜を譲り受ける騎士もいるが、卵から育てた竜種ほどは巧く操れない場合が多い。

「ぴー助、大人しくして待っていてくださいね」
「がううー」

 鼻先を摺り寄せるぴー助を優しく撫でてから、雪乃は竜騎士たちにぺこりと頭を下げる。

「よろしくお願いします」

 竜騎士たちは他の騎士たちと違って、雪乃に好意的な笑みを向けていた。
 彼らの相棒である騎竜たちよりも、ずっと大きく立派な飛竜を従える雪乃は、子供といえども敬意を表するに値する相手に見えた。
 雪乃はナルツと共に車に乗り込むと、城へと向かう。

 謁見の間へと案内された雪乃たちは、跪いて皇帝と皇太子が現れるのを待つように指示された。
 根が短く跪けない雪乃は、立ったままお辞儀をする。雪乃を間に挟み、ムダイとカイが跪いた。
 ルモン皇帝の入室が告げられると、静寂の中に衣擦れの音が響き、音が止まる。

「その方らが、魔王ノムルの情報を持つ冒険者たちか?」

 低い声はルモン皇帝だろう。

「然様にございます。陛下」

 対応したのは玉座の置かれた壇上のすぐ下に控える、渦巻き口ひげの男だった。

「魔王ノムルの目的は何だ?」
「現在把握している情報では、魔法使いたちを集めると共に、樹人を集めているということでございます。おそらく樹人の杖を量産し、魔法使いたちの力を高めるつもりでしょう」

 再び答えたのは、渦巻き口ひげだった。
 雪乃は内心で首を傾げる。
 樹人で作った杖は、樹人に残る魔力と魔法使いの魔力が反発し、扱い辛いとノムルから教わっていた。だがルモンでは、樹人が魔法使いの杖に有用だと考えられているようだ。

「では魔法使いたちの目的はなんだ? まさか今更、非魔法使いへの復讐などとは言わぬであろうな?」
「畏れながら、ラジン国は未だに魔法を使えぬ人間を差別し、隷属させております。その可能性は高いかと」

 この意見もまた、偏見がある。
 ラジン国の魔法使いたちの中には確かに非魔法使いを嫌っている者もいるが、好んで非魔法使いを隷属させたりはしていない。少なくとも、雪乃はラジン国で奴隷を見たことはなかった。
 幹を曲げて頭を下げていた雪乃だが、この状況に意味はあるのだろうかと、疑問を抱きつつある。人間のときと違いそれほど腰は痛くないのだが、頭が重くて転げそうだった。
 ちらりと視線を左右に向けると、ムダイが雪乃にだけ見えるように苦笑を浮かべ、カイは眉を跳ねて雪乃を気遣った。
 三人の思いなど汲み取られることもなく、

「うむ。他に魔王ノムルに関する情報はあるか?」

 などと話は進んで行く。ルモン皇帝と渦巻き口ひげの間で。
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