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魔王復活編
362.人間はどのように生まれる?
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だが日本は争いはあっても、異国に占領されてそれまでの歴史を奪われるということはなかった。天皇家の歴史は世界でも突出して長く、平和な時代も多かった。
海外に目を向ければ、国が滅んだり新しく建ったりと、国自体の歴史が短い。千年に一度、魔王が現れて世界に危機が訪れるというこの世界では、資料が残っていなくても仕方のないことだろう。
「では神話では、人間はどのように生まれる?」
雪乃はカイが誘導しようとしている先に気付いた。
相手によっては怒りを買いかねない。しかしアルフレッドならば、話を聞いてくれるかもしれないと、雪乃はカイに任せることにする。
「神は一人の人間を作り出し、祝福を与えた。最初の人間は多くの子を作り、世界を治めることを許された」
「ではその前は?」
カイの問いに、アルフレッドだけでなく、ナルツやマグレーンも怪訝な表情を浮かべる。
「人間が誕生する前は、この世界はどうだった?」
「それは……。そのような話は聞いたことがない」
重ねて問われ、目をさ迷わせたアルフレッドだったが、すぐに持ち直して答えた。
「予想で良い。どういう世界だったと思う?」
逃れることを許さず、カイは追い込んでいく。
アルフレッドは不快感を顔に浮かべたが、推論を述べる。
「魔物や獣がさ迷う、混沌とした世界だったのではないか? こんなことを聞いてどうなる?」
両の掌を軽く天井に向けると、ソファの背もたれに寄りかかった。
カイは真っ直ぐにアルフレッドを見つめたままだ。
「人にとって千年は長い。だがエルフにとっては、一人の寿命に過ぎない。中には千年を超える命を持つ者もいる」
アルフレッドは目を細める。
カイと雪乃の正体に目星を付けたのだろう。おそらく事前に雪乃の情報を入手していたとすれば、その可能性に行き当たっていたはずだ。
確信を得た彼は、生気を取り戻す。
「なるほど、そういう話か。それでは聞こう、森の民よ。この世界の歴史を教えてくれ」
にやりと、アルフレッドは挑発的に口角を上げた。だがカイはそれもまた受け流す。
「俺はエルフではない。エルフたちとの交流はあるがな」
切っ先をそらされて、アルフレッドは顔をしかめる。アルフレッドの気も削げたところで、カイは話を進めた。
「人間が現れる前の世界に、魔物は存在しなかった。『人』は精霊と共に暮らし、全ての『人』が魔法を操っていたという。今も人間以外の『人』と呼ばれる種族は皆、魔法を扱えるが」
次々と投下された衝撃的内容に、アルフレッドは目を見開き、口も半開きになっている。ナルツとマグレーンも、驚愕の表情をカイに向けた。
異世界からきたムダイだけは驚くことなく、好奇心を抱くに留まっている。
「待て、それは事実か?」
目を泳がせるアルフレッドは、顔色も悪い。
カイがもたらした真実は、人間として許容できない内容だったのだろう。これが事実であれば、常識が大きく覆りかねない。
魔物は古来より存在し、人間が討伐することで世界の平和を守ってきた。そして亜人は人間より劣っており、だからこそ隷属させることが許されるという、人間たちの常識が。
「エルフからはそう聞いている。少なくとも九千年前には、魔物は存在していなかったそうだ」
淡々と述べるカイは、テーブルの上のお茶を手に取り啜る。
「その九千年前というのは、どこから出てきた? なぜ断言できる?」
長命であるエルフでさえ千年ほどの寿命だというのが、人間の常識である。過去には二千年以上生きたエルフもいるのだが、その事実は人間には伝わっていない。
どちらにせよ九千年前となると数代経ているため、確実な情報とは言えないだろう。
「最古の人族には、一万年近く生きる長命の者もいる。エルフは彼らの王に仕えることを喜びとしている」
「気高き森の民と呼ばれるエルフが仕える種族? そのようなものが存在するのか? 世迷いごとではないのか?」
思考の許容量がいっぱいになってきたようだ。アルフレッドはなんだかぶつぶつ言い出した。
「ついでに言うと、俺の一族に伝わる話では、魔王は人間の中から現れているという。あくまで予想になるが、人間たちが作り出した存在なのではないかというのが、現時点での我等の見解だ」
アルフレッドの表情が抜け落ちる。
「有り得ぬ。魔王が現れれば、人間だとて危機にさらされるのだぞ? なぜ人間が魔王を生み出す必要がある?」
土気色の顔で、気色ばんだ。
「それは俺が聞きたい。人間たちは何を考えているのだ?」
対してカイは、冷やかに問い返す。
獣人たちの方こそ、人間たちや彼らが作り出した魔王に一方的に迷惑を掛けられるばかりで、何の得もしていないのだから。
事情を何も知らず、今初めて知らされたアルフレッドたちには、すぐに答えを導き出すことができない。
「その話を私達にして、どうするつもりだ?」
動揺を理性で押さえつけて、アルフレッドはカイを見据える。
「ただの確認だ。貴殿の考えを聞きたい」
「なるほど。返答によって、協力するかどうかを決めるということか」
ようやく納得したように、アルフレッドは息を吐いた。
目的も分からぬまま知らぬ事実を突きつけられ続けていては、混乱は増すばかりだ。
「俺はあなたを知らない。信用できない相手に、全てをさらす愚を冒すつもりはない」
いつもの穏やかなカイとは違う隙のない顔付きを、雪乃はじっと見上げていた。
カイとアルフレッドは、無言のまま視線を交錯させている。緊張に葉がぴりぴりと震えそうだ。居心地の悪さに、雪乃はもぞもぞと動きたくなるが、じっと耐える。
十分ほどして、アルフレッドの吐き出した息と共に、ようやく緊張が緩和された。
「それが真実だというのならば、人間は在り方を考え直さねばならぬだろう。獣人たちへの差別を廃し、その最古の種族とやらにも敬意を表さねばなるまい。魔王についても調査させ、その存在理由を暴くと共に、二度と現れぬようにすべきであろうな」
大陸随一の国家である、ルモン大帝国の次期皇帝となる男が発した言葉だ。非公式といえども、その意味は重い。
カイはまだ視線を緩めない。ひたとアルフレッドの瞳から目を逸らさず、さらに踏み込む。
海外に目を向ければ、国が滅んだり新しく建ったりと、国自体の歴史が短い。千年に一度、魔王が現れて世界に危機が訪れるというこの世界では、資料が残っていなくても仕方のないことだろう。
「では神話では、人間はどのように生まれる?」
雪乃はカイが誘導しようとしている先に気付いた。
相手によっては怒りを買いかねない。しかしアルフレッドならば、話を聞いてくれるかもしれないと、雪乃はカイに任せることにする。
「神は一人の人間を作り出し、祝福を与えた。最初の人間は多くの子を作り、世界を治めることを許された」
「ではその前は?」
カイの問いに、アルフレッドだけでなく、ナルツやマグレーンも怪訝な表情を浮かべる。
「人間が誕生する前は、この世界はどうだった?」
「それは……。そのような話は聞いたことがない」
重ねて問われ、目をさ迷わせたアルフレッドだったが、すぐに持ち直して答えた。
「予想で良い。どういう世界だったと思う?」
逃れることを許さず、カイは追い込んでいく。
アルフレッドは不快感を顔に浮かべたが、推論を述べる。
「魔物や獣がさ迷う、混沌とした世界だったのではないか? こんなことを聞いてどうなる?」
両の掌を軽く天井に向けると、ソファの背もたれに寄りかかった。
カイは真っ直ぐにアルフレッドを見つめたままだ。
「人にとって千年は長い。だがエルフにとっては、一人の寿命に過ぎない。中には千年を超える命を持つ者もいる」
アルフレッドは目を細める。
カイと雪乃の正体に目星を付けたのだろう。おそらく事前に雪乃の情報を入手していたとすれば、その可能性に行き当たっていたはずだ。
確信を得た彼は、生気を取り戻す。
「なるほど、そういう話か。それでは聞こう、森の民よ。この世界の歴史を教えてくれ」
にやりと、アルフレッドは挑発的に口角を上げた。だがカイはそれもまた受け流す。
「俺はエルフではない。エルフたちとの交流はあるがな」
切っ先をそらされて、アルフレッドは顔をしかめる。アルフレッドの気も削げたところで、カイは話を進めた。
「人間が現れる前の世界に、魔物は存在しなかった。『人』は精霊と共に暮らし、全ての『人』が魔法を操っていたという。今も人間以外の『人』と呼ばれる種族は皆、魔法を扱えるが」
次々と投下された衝撃的内容に、アルフレッドは目を見開き、口も半開きになっている。ナルツとマグレーンも、驚愕の表情をカイに向けた。
異世界からきたムダイだけは驚くことなく、好奇心を抱くに留まっている。
「待て、それは事実か?」
目を泳がせるアルフレッドは、顔色も悪い。
カイがもたらした真実は、人間として許容できない内容だったのだろう。これが事実であれば、常識が大きく覆りかねない。
魔物は古来より存在し、人間が討伐することで世界の平和を守ってきた。そして亜人は人間より劣っており、だからこそ隷属させることが許されるという、人間たちの常識が。
「エルフからはそう聞いている。少なくとも九千年前には、魔物は存在していなかったそうだ」
淡々と述べるカイは、テーブルの上のお茶を手に取り啜る。
「その九千年前というのは、どこから出てきた? なぜ断言できる?」
長命であるエルフでさえ千年ほどの寿命だというのが、人間の常識である。過去には二千年以上生きたエルフもいるのだが、その事実は人間には伝わっていない。
どちらにせよ九千年前となると数代経ているため、確実な情報とは言えないだろう。
「最古の人族には、一万年近く生きる長命の者もいる。エルフは彼らの王に仕えることを喜びとしている」
「気高き森の民と呼ばれるエルフが仕える種族? そのようなものが存在するのか? 世迷いごとではないのか?」
思考の許容量がいっぱいになってきたようだ。アルフレッドはなんだかぶつぶつ言い出した。
「ついでに言うと、俺の一族に伝わる話では、魔王は人間の中から現れているという。あくまで予想になるが、人間たちが作り出した存在なのではないかというのが、現時点での我等の見解だ」
アルフレッドの表情が抜け落ちる。
「有り得ぬ。魔王が現れれば、人間だとて危機にさらされるのだぞ? なぜ人間が魔王を生み出す必要がある?」
土気色の顔で、気色ばんだ。
「それは俺が聞きたい。人間たちは何を考えているのだ?」
対してカイは、冷やかに問い返す。
獣人たちの方こそ、人間たちや彼らが作り出した魔王に一方的に迷惑を掛けられるばかりで、何の得もしていないのだから。
事情を何も知らず、今初めて知らされたアルフレッドたちには、すぐに答えを導き出すことができない。
「その話を私達にして、どうするつもりだ?」
動揺を理性で押さえつけて、アルフレッドはカイを見据える。
「ただの確認だ。貴殿の考えを聞きたい」
「なるほど。返答によって、協力するかどうかを決めるということか」
ようやく納得したように、アルフレッドは息を吐いた。
目的も分からぬまま知らぬ事実を突きつけられ続けていては、混乱は増すばかりだ。
「俺はあなたを知らない。信用できない相手に、全てをさらす愚を冒すつもりはない」
いつもの穏やかなカイとは違う隙のない顔付きを、雪乃はじっと見上げていた。
カイとアルフレッドは、無言のまま視線を交錯させている。緊張に葉がぴりぴりと震えそうだ。居心地の悪さに、雪乃はもぞもぞと動きたくなるが、じっと耐える。
十分ほどして、アルフレッドの吐き出した息と共に、ようやく緊張が緩和された。
「それが真実だというのならば、人間は在り方を考え直さねばならぬだろう。獣人たちへの差別を廃し、その最古の種族とやらにも敬意を表さねばなるまい。魔王についても調査させ、その存在理由を暴くと共に、二度と現れぬようにすべきであろうな」
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