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魔王復活編
364.元凶は、
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雪乃はカイの膝から飛び降りると、用意されていた急須にお湯を汲み、蒸らしてから空になっていた湯飲みに注いでいった。ついでに予備のカンヨーも、それぞれの小皿に乗せていく。
お茶汲みが終わるとカイの下に戻り、再び膝に乗せてもらった。
「樹人は魔物ではないのか?」
再起動したアルフレッドが開口一番、樹人への疑問を提起した。他の人間たちも、なんだかとっても気持ちが分かるとばかりに頷いている。
「我が君から教えられた話によると、世界を支配しようと考えた人間たちが樹人を魔物と位置付け、攻撃を仕掛けたらしい」
ついにアルフレッドは組んだ手で顔を覆って項垂れた。
「元凶は、全て人間か……」
呻くような声が指の間からこぼれ落ちる。
「では、樹人以外の魔物は何だ? なぜ人を襲う?」
なんとか絞り出すように、問うた。
「何かは知らん。魔物が人を襲うのは、彼らの領域を侵し、怒りを買ったときだけだ」
「は?!」
新たな事実に、全員がカイへと首を回す。
「ちょっと待て。魔物は好んで人を襲う、危険な生物だろう?」
「ヒイヅルやその周辺の国では、力の強い獣という認識だな。中には知能が高く生活に役立っているいる種族もいるが、基本的な扱いは他の獣と変わらない」
雪乃はルモンを出てからのことを思い出す。
ルグ国ではタンゴムシに乗せてもらい、火竜のハヤトは竜人たちに恐れられることもなく暮らしていた。ヒイヅルでも田畑の耕作に、巨大なミミズのような魔物が活躍していた。
頭を抱え込んでいる人間たちに、カイは提起する。
「それほど気になるのであれば、古老の樹人を探して聞いてみたらどうだ? 俺よりも詳しいと思うぞ?」
確かにそのとおりだと全員同意するが、何かがもやっとしていた。
「あのう、私からもお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
雪乃は右枝を挙げて、話をぶった切る。
邪魔をするのは悪いと思って待っていたのだが、放っておくと、ここに来た目的に辿り着けない気がした。
「あ、ああ。なんだ?」
疲労の色を見せるアルフレッドは、微かな喜びと安堵を浮かべ、縋るように雪乃に顔を向けた。他の人間たちも、程度の差はあれ同じような表情をしている。
雪乃は思わずたじろぎ、身を引いた。
「ええっと、ナルツさんとマグレーンさんに、ご協力をお願いしたいのですが」
カイにしがみ付きながらも、雪乃は言わなければならないことを伝える。
「ナルツとマグレーンに? 何をさせるのだ?」
当然のように、疑問が返ってくる。
雪乃は視線をさ迷わせる。ためらう雪乃を見つめていたアルフレッドは、何かに気付いたように目を細めた。
「魔王討伐の件か」
ずばり、核心を突いてきた。
雪乃がはっとアルフレッドに顔を向けると、アルフレッドは頷いて話を続ける。
「その件に関しては、こちらも協力を頼みたかったのだ。実は魔王が復活したことが確認されてから、勇者となる可能性があると指摘されていた兄上とナルツに、聖剣を抜きに行かせたのだが」
『無題』とは異なるゲーム『ファーストキッスはルモン味』でも、この世界と似た世界が描かれていたのだ。ゲームの内容はヒロインを名乗る男爵令嬢ユリアによって、五冊のノートに書き留められていた。
そのノートによると、魔王が復活した後、ナルツたちや第一皇子レオンハルトを含む五人の男たちの中から、勇者が選出されるということだった。内一人に関しては、未だに特定できていないのだが。
「ナルツが触れると聖剣が反応し輝いたそうだが、抜くまでには至らなかった」
眉間に皺を寄せて残念そうに述べるアルフレッドの後ろで、ナルツが悔しそうに項垂れる。
「あの、アルフレッド殿下は、ノムルさんをどうするおつもりなのでしょう?」
雪乃はおずおずと問いかける。人間たちにとって魔王は恐怖の対象である。
アルフレッドは大きく息を吐き出す。
「討伐する、と言いたいところだが、あのノムル・クラウだ。下手に手を出せば世界が滅ぼされるだろう。聖剣にどれほどの力があるのか分からぬが、できれば対話で収めたい。そのためにも、雪乃嬢の協力が欲しい」
テーブルに両肘を付いて指を組んだアルフレッドは、真剣な眼差しで雪乃を見つめる。彼の視線の先で、小さな樹人はうろたえ始めた。
アルフレッドとナルツ、マグレーンは、歯がゆそうに顔をゆがめる。
いくら魔王が規格外の魔法使いであり、目の前の子供が彼の唯一愛する娘だといっても、まだ幼い雪乃を前線に向かわせることは心が痛んだ。
「なるべく無事に戻れるよう、君の護衛には我が国屈指の騎士達を付ける」
それが気休めだと分かっていても、アルフレッドは雪乃を護るために出来得ることをするつもりだった。
しかし、
「なんということでしょう」
樹人の子供は目に見えて萎れてしまった。
アルフレッドとナルツ、マグレーンは焦り、カイは心配しながら萎れた葉を指で伸ばす。
「ムダイさんにそそのかされました!」
口惜しげに声を荒げながら両小枝で顔を覆って俯いた雪乃を見て、責めるような嫌疑の眼差しがムダイに突き刺さる。
「ムダイ殿? いったい何を?」
「雪乃をそそのかしたのか?」
アルフレッドが咎めるように聞けば、カイは嫌悪を向ける。言葉は発しないが、ナルツとマグレーンからも責めるような視線が投げつけられた。
「誤解です。まず説明を聞いてください」
ムダイの言い訳タイム開幕である。
「つまり、本来の勇者候補はムダイ殿だったが、勇者になることを嫌がり、雪乃嬢に押し付けたと?」
ぐだぐだとしたムダイの言い訳を、アルフレッドが簡潔にまとめた。
「まあ、そんな感じです」
じとりと、男たちはムダイを睨む。
最強の冒険者ムダイだ。勇者に相応しい力を持っているだろう。それはいい。問題は、よりによってどう見ても戦う力を持たない、小さな樹人の子供にその役目を押し付けたことだ。
いくら魔王がノムル・クラウだとしても、むごすぎる。
「言ってくれれば、私が引き受けても構わなかったのに」
残念なものを見るように、ナルツが見下ろしている。
「ムダイさん、さすがにそれは俺も軽蔑します。いくらなんでも他に人はいたでしょう?」
マグレーンからも、容赦のない言葉が振り下ろされた。
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間違えて獣帝国の方をポチしてしまった……。
トップは流れてるから大丈夫だよね?短時間に一人で連投ごめんなさい(汗)
お茶汲みが終わるとカイの下に戻り、再び膝に乗せてもらった。
「樹人は魔物ではないのか?」
再起動したアルフレッドが開口一番、樹人への疑問を提起した。他の人間たちも、なんだかとっても気持ちが分かるとばかりに頷いている。
「我が君から教えられた話によると、世界を支配しようと考えた人間たちが樹人を魔物と位置付け、攻撃を仕掛けたらしい」
ついにアルフレッドは組んだ手で顔を覆って項垂れた。
「元凶は、全て人間か……」
呻くような声が指の間からこぼれ落ちる。
「では、樹人以外の魔物は何だ? なぜ人を襲う?」
なんとか絞り出すように、問うた。
「何かは知らん。魔物が人を襲うのは、彼らの領域を侵し、怒りを買ったときだけだ」
「は?!」
新たな事実に、全員がカイへと首を回す。
「ちょっと待て。魔物は好んで人を襲う、危険な生物だろう?」
「ヒイヅルやその周辺の国では、力の強い獣という認識だな。中には知能が高く生活に役立っているいる種族もいるが、基本的な扱いは他の獣と変わらない」
雪乃はルモンを出てからのことを思い出す。
ルグ国ではタンゴムシに乗せてもらい、火竜のハヤトは竜人たちに恐れられることもなく暮らしていた。ヒイヅルでも田畑の耕作に、巨大なミミズのような魔物が活躍していた。
頭を抱え込んでいる人間たちに、カイは提起する。
「それほど気になるのであれば、古老の樹人を探して聞いてみたらどうだ? 俺よりも詳しいと思うぞ?」
確かにそのとおりだと全員同意するが、何かがもやっとしていた。
「あのう、私からもお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
雪乃は右枝を挙げて、話をぶった切る。
邪魔をするのは悪いと思って待っていたのだが、放っておくと、ここに来た目的に辿り着けない気がした。
「あ、ああ。なんだ?」
疲労の色を見せるアルフレッドは、微かな喜びと安堵を浮かべ、縋るように雪乃に顔を向けた。他の人間たちも、程度の差はあれ同じような表情をしている。
雪乃は思わずたじろぎ、身を引いた。
「ええっと、ナルツさんとマグレーンさんに、ご協力をお願いしたいのですが」
カイにしがみ付きながらも、雪乃は言わなければならないことを伝える。
「ナルツとマグレーンに? 何をさせるのだ?」
当然のように、疑問が返ってくる。
雪乃は視線をさ迷わせる。ためらう雪乃を見つめていたアルフレッドは、何かに気付いたように目を細めた。
「魔王討伐の件か」
ずばり、核心を突いてきた。
雪乃がはっとアルフレッドに顔を向けると、アルフレッドは頷いて話を続ける。
「その件に関しては、こちらも協力を頼みたかったのだ。実は魔王が復活したことが確認されてから、勇者となる可能性があると指摘されていた兄上とナルツに、聖剣を抜きに行かせたのだが」
『無題』とは異なるゲーム『ファーストキッスはルモン味』でも、この世界と似た世界が描かれていたのだ。ゲームの内容はヒロインを名乗る男爵令嬢ユリアによって、五冊のノートに書き留められていた。
そのノートによると、魔王が復活した後、ナルツたちや第一皇子レオンハルトを含む五人の男たちの中から、勇者が選出されるということだった。内一人に関しては、未だに特定できていないのだが。
「ナルツが触れると聖剣が反応し輝いたそうだが、抜くまでには至らなかった」
眉間に皺を寄せて残念そうに述べるアルフレッドの後ろで、ナルツが悔しそうに項垂れる。
「あの、アルフレッド殿下は、ノムルさんをどうするおつもりなのでしょう?」
雪乃はおずおずと問いかける。人間たちにとって魔王は恐怖の対象である。
アルフレッドは大きく息を吐き出す。
「討伐する、と言いたいところだが、あのノムル・クラウだ。下手に手を出せば世界が滅ぼされるだろう。聖剣にどれほどの力があるのか分からぬが、できれば対話で収めたい。そのためにも、雪乃嬢の協力が欲しい」
テーブルに両肘を付いて指を組んだアルフレッドは、真剣な眼差しで雪乃を見つめる。彼の視線の先で、小さな樹人はうろたえ始めた。
アルフレッドとナルツ、マグレーンは、歯がゆそうに顔をゆがめる。
いくら魔王が規格外の魔法使いであり、目の前の子供が彼の唯一愛する娘だといっても、まだ幼い雪乃を前線に向かわせることは心が痛んだ。
「なるべく無事に戻れるよう、君の護衛には我が国屈指の騎士達を付ける」
それが気休めだと分かっていても、アルフレッドは雪乃を護るために出来得ることをするつもりだった。
しかし、
「なんということでしょう」
樹人の子供は目に見えて萎れてしまった。
アルフレッドとナルツ、マグレーンは焦り、カイは心配しながら萎れた葉を指で伸ばす。
「ムダイさんにそそのかされました!」
口惜しげに声を荒げながら両小枝で顔を覆って俯いた雪乃を見て、責めるような嫌疑の眼差しがムダイに突き刺さる。
「ムダイ殿? いったい何を?」
「雪乃をそそのかしたのか?」
アルフレッドが咎めるように聞けば、カイは嫌悪を向ける。言葉は発しないが、ナルツとマグレーンからも責めるような視線が投げつけられた。
「誤解です。まず説明を聞いてください」
ムダイの言い訳タイム開幕である。
「つまり、本来の勇者候補はムダイ殿だったが、勇者になることを嫌がり、雪乃嬢に押し付けたと?」
ぐだぐだとしたムダイの言い訳を、アルフレッドが簡潔にまとめた。
「まあ、そんな感じです」
じとりと、男たちはムダイを睨む。
最強の冒険者ムダイだ。勇者に相応しい力を持っているだろう。それはいい。問題は、よりによってどう見ても戦う力を持たない、小さな樹人の子供にその役目を押し付けたことだ。
いくら魔王がノムル・クラウだとしても、むごすぎる。
「言ってくれれば、私が引き受けても構わなかったのに」
残念なものを見るように、ナルツが見下ろしている。
「ムダイさん、さすがにそれは俺も軽蔑します。いくらなんでも他に人はいたでしょう?」
マグレーンからも、容赦のない言葉が振り下ろされた。
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