『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

372.話が違う

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「ダルク様ですか? 城が壊されたと伺いましたから、今はどちらにお住まいか分かりませんわ。立ち話もなんですから、どうぞ中へ」

 重ねて誘われてしまった。というより、あの惨状で生き伸びていたらしきことに、雪乃は驚く。
 後ろを振り返って確認すると、カイはごくりと咽を鳴らして気合を入れてから、雪乃を見る。

「大丈夫だ」

 まったく大丈夫そうな顔色ではないが、彼の脚力ならば、いざとなれば逃げ切れるだろう。
 頷いた雪乃を強く抱きしめたまま、カイは蟻塚へと入る。
 そうして覚悟を決めて蟻塚に入った雪乃たちだったが、そこで目にした光景に呆然としながら目を凝らした。

「雪乃、話が違う」
「ええーっと、私も混乱しています」

 カイは安堵しつつも眉間に皺を寄せ、雪乃は蟻塚の中を眺め回す。

「ふふ。モーブ様ってば、お上手ですわ」
「何を言っている、事実だ。ここは極楽だ!」

 右に向けていた幹を、今度は左に向ける。

「時代は蟻人だ。人間の女など、不要だ!」
「まあ、モーテナイ様ったら」

 上機嫌で酒を飲む、筋肉モリモリの冒険者らしき男を囲む、蟻人の姫と取り巻きの少女たち。なんだか幸せそうだ。
 蟻塚は、夜のお店と化していた。

「こ、これはいったい?」

 雪乃は困惑する。
 以前とのあまりの違いようも然ることながら、まだ若い雪乃には、立ち入ることが躊躇われる状況だ。

「あ、ユキノちゃん、久しぶり」

 食事を運んでいたリアが雪乃に気付き、声を掛けた。

「お久しぶりです、リアちゃん。お元気そうで何よりです。ところで、あの方々は?」

 筋骨隆々のマッチョな方々を視線で示す雪乃に、リアは微笑む。

「姫様たちの、夫。蟻塚も守ってくれる」
「それは何よりです」

 にこにこと笑顔のリアだが、肝心の何がどうなってこうなったのかという部分は分からない。
 雪乃は首を傾げながら、リアと別れて水色姫の部屋に向かった。

「ノムル様のアドバイスを取り入れてみたのです。驚きましたわ。本当に、人間の男は手足をもがなくても使えるのです」

 何が使えるのかは、雪乃もカイも聞かない。聞いてはいけない。
 椅子に座って話を聞いている雪乃は、放心状態だ。乙女な雪乃には、刺激が強すぎた。
 カイは内股をしっかりと引っ付け、膝に乗せている雪乃をぎゅっと引き寄せる。尻尾が大切なところを隠そうと、ローブの下で前へと回り込んでいたが、指摘してはいけない。
 ぷるぷると震えているのは、恐怖からなのか困惑からなのか、逃げ出したい身体を必死に押さえているからなのか、まあ全部だろう。

「他の姫たちにも教えて、妹たちに草原に入った人間の男たちに声を掛け、納得していただいてから連れ帰るように命じたのです。逃げる男が多かったそうですが、ご覧の通り、好ましい男たちを迎え入れることができました」

 力の弱い蟻人たちは、集団で人間の男に声を掛けた。異形の娘たちを見て、逃げる男や悲鳴を上げる男もいたらしいが、マッチョな方々は蟻人たちの話を聞いてくれたそうだ。
 そうして蟻人好みの逞しく強い男が、蟻塚にやってきたらしい。

 始めは警戒していた男たちだが、女性だらけの蟻人たちに囲まれて、すぐに絆されたようだ。とはいえ全てがうまくいったわけではなく、中には食事と茸だけをもらい、事に及ぶ前に逃げ出した人間もいたそうだが。
 しかし蟻人たちを受け入れた男たちは、今では蟻塚に腰を据え、蟻人や彼女たちの栽培する茸を狙ってきた人間たちを追い払ってくれているという。

「お蔭で子ができない問題が解決しただけではなく、奴隷狩りや茸を取るために塚を破壊する人間たちを、恐れずに生活できるようになりました。本当に感謝していますわ」 

 水色姫は嬉しそうだ。
 長年の悩みが解消したせいか、以前に比べて表情が朗らかで、余裕があるように見える。

「それは良かったです」

 雪乃は葉をきらめかせて、蟻人たちの幸せを喜ぶ。
 カイが襲われる危険も低いようなので、一安心だ。

「それで、ダークエルフさんについてなのですが」

 話が一段楽したところで、雪乃は本題に入る。蟻人に会いに来たのは、ダルクの情報を得るためだ。

「そうでしたわね。ダルク様もユキノさんを探しておられましたから、会わせてさしあげたいのは山々なのですけれど、今はどちらにお住まいか、まったく分からないのです」

 水色姫の知るダークエルフは、ダルクしかいないらしい。
 彼は人と関わることを好まず、元々蟻人たちの前にもあまり姿を見せることはなかったそうだ。特に人間を嫌っていたそうで、蟻塚に人間が出入りするようになってからは、水色姫もダルクには会っていないという。

「それは」

 言いかけた雪乃の幹をカイが軽く叩き、それ以上は言わせなかった。
 ダルクが嫌う人間を塚に招きいれて、住まわせているのだ。足が遠退くのも仕方ないだろう。

「どこか彼が向かいそうな場所に、心当たりはありませんか?」

 重ねて問うと、水色姫はうーんっと考え込む。

「そうですわね、御母上様の墓地でしたら、日を空けず通ってらっしゃると思いますよ」
「御母上様のお墓、ですか?」
「ええ」

 雪乃は考える。
 母親がいるという点は問題ない。お亡くなりになっていることは気の毒に思うが、しかしなくなっているのであればすでに母親はこの世にいないということになる。

「なぜダルクさんは私を母上と? やはり彼はエルフ? しかし私だけでなくマンドラゴラも……ん?」

 雪乃は幹を傾げざるを得なかった。
 悩む雪乃の後ろから、カイが口を開く。

「その御母上様の種族を聞いても良いか?」

 古老の樹人によると、魔王に囚われた先代の樹人の王は精霊を生むことはなかったが、代わりに異質なエルフが現れたという。
 雪乃を母と呼んでいたことからも、彼の母親は、

「人間ですよ?」

 樹人の王ではなかったようだ。
 予想外の答えに、雪乃たちは口を半開きにしてラスエルを見つめる。雪乃に口はないのだが、まあ気分だ。

「え? 人間?」
「ええ、人間の女だと聞いています」

 水色姫は何の不思議もないとばかりに平然と答えたが、雪乃たちは困惑気味だ。
 エルフでも樹人の王でも、魔王ですらない。

「いや、魔王が人間だとすると、可能性としてはあるのではないか?」
「そうですね」

 カイは雪乃の耳辺りで囁き、雪乃は獣人だけに聞こえる小さな声で返す。

「ええと、その人間は、魔王と呼ばれていた方でしょうか?」

 蟻人たちがどこまで情報を持っているのか分からないが、念のため問うてみる。
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