『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
340 / 385
魔王復活編

392.息はぴったりだ

しおりを挟む
 一同、目を目張った。小さな樹人の代わりに現れたのは、さらさらの長い常磐緑の髪を下ろした、透けるような肌を持つ美しい少女だった。
 新緑を思わせる透き通った瞳、小さな唇、人間よりも長い耳、すらりと細い手足。そして淡く輝く二対四枚の羽。事前の打ち合わせどおり、きちんと服も着ている。
 雪乃はにゃんこローブをと言ったのだがマンドラゴラの反対にあい、以前ローズマリナが雪乃のローブと御揃いで仕立てていた簡易ドレスをまとっていた。

 呆然としている人間たちの前でくるりと回り、雪乃は背中を向ける。

「ほら、こんな」

 雪乃はぱたぱたと淡い羽を動かしてみせた。マンドラゴラたちとの息はぴったりだ。

「ちょっと待て。その姿はエルフではなく、上位の精霊なのではないか? いや、それ以前に城内で幻覚魔法は……」

 アルフレッドから抗議の声が上がったが尻すぼみに消えていき、頭を抱えて蹲ってしまった。他の人間たちも、おおむねアルフレッドと同意見のようだ。困惑しながら雪乃を見ている。

 困った雪乃はカイを見る。いつもならば優しく頭を撫でてくれるカイは、そっと視線を外した。思わぬ態度に、雪乃はショックを隠しきれずに顔を青ざめさせる。
 肩を落としながらも、ふむうっと考えてみたが分からなかったので、再びアルフレッドたちの方へと向き直る。

「精霊さんたちとは姿が違いましたよ? 精霊さんたちは光の玉みたいな姿でしたから。でもエルフさんは、元は精霊だったと仰っていましたね」

 と、知っていることを言ってみた。

「エルフが精霊?」
「精霊の姿が見えるのですか?」

 アルフレッドとリリアンヌが食いついた。他の人間たちも口にはしないだけで、目が獲物を狙うように鋭くなっているが。

「樹人の王のお世話をしたい精霊が、エルフになるそうです。精霊の姿が見えたのは、エルフの森だけですね」

 ラスエルとの会話を思い出しながら、雪乃は答える。

「エルフが仕えるというのは、自発的なものだったのか。しかも元は精霊。ということは……」

 口元に手を当てて考え込むアルフレッド皇太子。きらきらと目を輝かせているのは、リリアンヌ王女とマーク王子だ。
 まだ若い女性であるリリアンヌ王女と、精神年齢が九歳のマーク王子には、精霊の話題は好奇心をくすぐるものだったようだ。
 期待の眼差しで見つめられ続けて、雪乃はそっとカイに身を寄せた。二人の期待に応えられるようなことは、雪乃にはできない。
 身を寄せられたカイは、尻尾の毛を逆立てて、背筋をぴしりと伸ばして固まっている。

 ふうっと、大きく息を吐き出したアルフレッドは、目頭を指で摘まむように揉みながら言葉を紡ぐ。

「会談を行う場所でも試してもらえるだろうか? 可能であれば今の精霊の姿を取ってもらう。樹人の王と言うより精霊王だと紹介したほうが、各国の要人たちも畏敬を示すだろう。それに精霊王が精霊と樹人や魔物たちの関係を説くほうが、人間たちを動かしやすい」

 一理ある、と皆が頷くが、雪乃だけは少し不満だった。

「樹人の人権は、まだまだ認められないのですね」

 はふうっと、肩を落とす。

「わー?」

 マンドラゴラたちが幻覚魔法を解き、雪乃は樹人の姿に戻った。落ち込む雪乃の頭を、安堵したような表情のカイが優しく撫でる。
 人間たちが何とも複雑な表情を浮かべているが、俯いている雪乃には分からなかった。

「ではそういうことで、一度解散しよう。後で案内させるから、試しておいてくれ。また連絡する」
「よろしくお願いします」

 雪乃はぺこりと幹を曲げる。
 立ち上がったアルフレッドがリリアンヌとマークを案内しようとしたが、マークは断りカイの下へやってきた。訝しげに眉を寄せながら、カイもマークに向き合う。

「狼獣人の皇子と聞きました」
「そうだ」

 わずかに瞳を歪めたマークだが、カイの目を正面からひたと見上げる。

「私はドューワ国の王子として生まれました。ドューワ国にあるグレーム森林には昔、狼獣人が住んでいたそうです。しかし彼らは森林に入る人間を脅すために民衆から忌み嫌われ、魔物同様に討伐対象となりました。そして狼獣人たちの村は消え、森林から姿を消したと言われています」

 カイのこめかみが微かに震えた。雪乃は驚いた表情をした後、カイを心配そうに見る。

「狼獣人たちは樹人を護っていたのではないでしょうか? だとしたら、人間を恨んでいるのではありませんか? なぜ手を貸してくれるのですか?」

 真剣な眼差しで見つめてくるマークを、カイも静かに見つめ返す。マーク以外の人間たちも、気まずい雰囲気を浮かべている。
 ゆっくりと瞬いたカイは、口を開いた。

「俺は詳細は聞いていない。けれど同胞たちが樹人を護っていたことは間違いないと思う。人間を憎く思っている獣人がいることは否定しない。だが俺も我が君も、願うのはこの世界の平穏だ。危機が訪れているのならば救うために尽力する。それだけだ」

 雷に打たれたようにマークはカイを見る。彼だけではない、人間たちはみんな、カイを凝視していた。

「情けないな。人間が招いた危機だというのに、人間側は世界の平穏よりもいかに自分たちの利権を守り、有利に立つかを画策している」

 そう言って唇を噛みしめてたのはアルフレッドだった。
 世界の危機が迫っていても、意見はまとまらず調整が続いている。国家間はもちろん、国内でさえ一枚岩にはなれないのだ。

「一人一人考え方が違うのは当たり前だ。無理に同じにする必要はないと思うが? 今はノムル殿を元に……まともな状態に戻すことと、雪乃を護ることだけ考えればいい。人間は余計なことを考えすぎる」

 アルフレッドに返したカイは、再びマークに向き直る。

「ドューワ国の王子に頼みたい。ドューワ国には奴隷として使役されている獣人たちがいる。彼らを解放してほしい」

 カイの真剣な目にマークは気後れしたように一歩退ったが、息を飲んでから大きく頷いた。

「分かりました。父上にご相談し、早急に解放できるように対処します」
「感謝する」

 ふっとカイの目が細まり彼がまとっていた空気が和らいだ。
 マークとリリアンヌはアルフレッドたちと共に、部屋から出ていった。
 王族が退席して肩の力を抜いた雪乃の樹上に影が差す。顔を上げればドインが雪乃の前に立っていた。彼は苦く顔をしかめていたが、がばりと頭を下げた。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...