『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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真相編

414.変なやつ

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「今日は見逃してやる。俺の事は誰にも言うな」
「もちろんですよ。私も遅刻して入学式をさぼってしまいましたからね」

 思いだしてしまった雪乃は、しょんぼりとうなだれた。

「変なやつ」

 去り際にノムルの口を突いて出てきた言葉は小さくて、雪乃の耳にまでは届かなかった。
 一人になった雪乃は、退屈しながら入学式が終わるのを待つ。

「現実でもゲームでも、私は入学式に参加できないようです」

 のんびりと空を見上げていると、温かくて眠くなってくる。雪乃は閉じそうになるまぶたをこすり、ふわあっと欠伸をしながら入学式が終わるのを待った。

 まどろむ雪乃を大勢の声が起こす。どうやら式が終わったようだ。
 植え込みから顔を出した雪乃は様子を窺うと、するすると壁沿いに移動してさり気なく集団に混じった。つんと澄まして、平静を装う。
 十メートルほど歩いてから目だけで周囲の生徒の様子を見たが、誰も雪乃に注目していなかった。うまくいったようだと、にんまりと口元に弧を描く。

 教室と呼ぶよりも講堂と呼んだほうが相応しい部屋に、生徒たちは入った。三人ほどが座れる長机と長椅子が、教壇を囲むように扇状に並ぶ。
 席は決まっていないようで、みんな自由に座っている。
 学園に入る前からの知り合いなのであろう。多くの生徒たちは数人ずつに固まっていて、雪乃のように一人で行動している者はあまりいなかった。

 誰も座っていない椅子はすでになく、一人しか座っていない席に相席させてもらおうと教室内を見回すが、あいにく女子生徒一人という席は見つからなかった。
 女子生徒が二人いる席に入れてもらうか、一人で端に座っている男子生徒の椅子に間を空けて座るかの二択である。

 雪乃は後方の窓際に一際大きな集団を見つける。その中央にいたのは、緩く波打つ金色の髪を持つフレックだ。後ろを振り向いた時に、伸びた髪を一つにまとめた赤いリボンが見えた。
 雪乃の知るフレックよりも若い姿の彼はまだ手足も健在で、楽しそうに友人達とふざけあっている。

 次いで窓際に一人で座るマグレーンを発見した。艶やかなまっすぐに伸びた黒髪は、薄い色合いの髪を持つ生徒が多い教室の中では目立っていた。頬杖を突いて窓の外を静かに眺めている。
 男女問わず大勢に囲まれているフレックの近くならば、一人くらい混じっても浮かないかもしれないが、雪乃は足が竦んだ。元より社交的ではない。
 一人でいるマグレーンの所に行ったほうがいいかと判断した雪乃は、歩きだす。

「マグレーンさん、ですよね?」

 声を掛けると、驚いたようにマグレーンは顔を上げた。

「え、ええ、そうですけど」

 戸惑いながら答える。

「雪乃・ロインと言います。ここ、空いていますか?」 
「ええ。だけど……」

 と、何か言い辛そうに、マグレーンは周囲に視線を回らす。雪乃も釣られて視線を動かし、気が付いた。
 一部の生徒から、ちらちらと注目を浴びている。
 なぜだろう? と考えた雪乃は、はっと気付く。

「もしや、マグレーンさんには婚約者さんか彼女さんが? それは失礼しました」

 ぺこりと頭を下げると、踵を返した。だがすぐに、はて? と思い直す。

「しかしマグレーンさんは、マーちゃんとラブラブだったはずです。まさかの浮気だったのでしょうか?」

 ふむうっと独り言を呟きながら、他に空いている席を探そうとしたのだが、

「ちょっと待って! マーちゃんって誰?! 俺は婚約者も恋人もいません。誰と勘違いしているんですか?!」

 なぜかマグレーンに必死の形相で引き止められた。
 不思議そうに振り返った雪乃は、じいっとマグレーンを見つめる。それから、

「そうですね。マーちゃんとマグレーンさんが出会うのは、もっと先の話でした。ご心配には及びません。出会う前の恋愛には、口出しなんてしませんから。将来マーちゃんを幸せにしてくだされば、私はそれで」
「だから、そのマーちゃんって誰のこと?」

 混乱してしまっているマグレーンの声が大きくなっていたため、クラス中の注目を集めているが、二人は気付かない。

「誰って、マンドラゴラのマーちゃんですよ? マグレーンさん、すっかりデレデレのいちゃラブでしたよね?」
「え? マンドラゴラ?」

 マグレーンの口から、驚きを含む呆気に取られたような声がこぼれ落ちる。
 会話に耳を傾けていた生徒たちも、ぽかーんと目と口を開いてマグレーンを凝視した。

「え? あの方って、クープ家のマグレーン様よね?」
「ええ、魔術師団長のご子息よ」
「マンドラゴラって、魔法使いが好む薬草だよな。つまり……」

 生徒たちが近くの生徒たちとささやくように確かめあう。戸惑いは好奇心に、次第にあらぬ方向に進み出した。
 雪乃はむっと顔をしかめる。

「いいじゃないですか。誰かを好きになるのは素敵なことです。マーちゃんとマグレーンさんは幸せそうでした。何の問題があるんですか?」

 教室の中を、雪乃はぐるりと首を回しながら睨みつける。
 静まり返った教室の中、ぷっと噴き出す声がよく響いた。全員の視線がそちらに向かうと、右手で口を、左手で腹を押さえて肩を震わせるフレックがいた。

「わ、悪い! いや、でも、凄っ」

 笑い続けるフレックの目尻には涙が浮かび、酸素の吸入も不足し始めたのか顔が赤い。
 呆気に取られていた生徒たちも、徐々に笑い出す。楽しい笑い声ではない。嘲りを含んだ、不快げな笑いである。
 かっと頬を赤らめたマグレーンは、拳を握り締めて俯いた。

「人間とマンドラゴラってのは駄目だろ?」
「なぜですか?」

 足りない酸素を取り込もうとした肺が収縮を繰り返すのに合わせて上下していたフレックの肩が、ぴたりと止まる。

「人間だって身分によって生き方を決められる。種族が違えば道が重なることはない」

 雪乃に向けられた瞳は冷ややかだ。

「そんなの覚悟次第だと思いますけど。全てを捨ててでも手を伸ばすか、それともどこかで諦めるか、それだけです」

 フレックの目に、侮蔑と憤りがこもる。

「口では何とでも言えるさ。平民出身のご令嬢には分からないだろうけど、貴族の身分ってのはそんな軽いものじゃない。諦めないといけないこともあるんだ」

 歯を剥いて唸る獣のように、フレックは雪乃に敵意を向けた。
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