『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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真相編

416.お前、あの人の料理を

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「あのドインさんが? 人間離れした戦い方をして、見た目綺麗なのに不思議な謎料理を作る、あのドインさんが?」

 うろたえているうちに、空気が緩む。

「お前、あの人の料理を食べたのか?」
「いいえ。見たことはありますけれど、その当時の私は食べ物を受け付けることのできない身体でしたので、見るだけでした。ぴー助――飛竜の子供が一口食べたとたんに固まって落ちてしまって、驚きました」

 尖っていた空気は、完全に消えた。黒服ノムルは片手で目元を隠すように覆って俯く。

「飛竜まで……。あの人の料理はいったい、何が使われていたんだ?」

 どちらのノムルにとっても、ドイン料理は頭痛の種らしい。そんな黒服ノムルを、雪乃はじいっと眺める。
 彼がノムルだと、雪乃は断言できた。けれど、ノムルではないとも思えた。

「ねえノムルさん」
「なんだ?」
「どうしてノムルさんは、あんな変態になってしまったんですか? どうしたら落ち着いてくれますか?」
「……。」

 ここまでとは言わなくても、この一割でも良いから落ち着いていてくれればと、思わざるを得ない。
 悩むよりも直接聞いてみようと思ったのだが、返ってきたのは沈黙だった。なぜだか両手で頭を抱え込んでいる。

「それは俺じゃないだろう? 想像できない」

 苦悶しながら絞り出された声が降りてきた。

「でも間違いなくノムルさんなんですよ? やっぱり樹人の姿が駄目だったんでしょうか? 人型でしたら、少しは冷静になってくれますか?」
「普通は逆だろう? そいつは本気でどんな変態なんだ?!」
「ノムル・クラウという、親ばかの変態です」

 かさささささ、と木の葉が小さく振動する。苦悶に満ち溢れた空気が、雪乃の頭上を覆っていた。

「でも、どんなに変態でも、世界中を敵に回してしまっても、私の大切なおとーさんなんです」

 小さくこぼれた声が届いたのか、木の葉は音を奏でるのを止めた。


   


 沈黙が走る。
 誰もが目の前の光景が信じられず、見開いた目に映したまま固まっていた。

「駄目ですよ、フレックさん。突然つっこんだりしたら。相手を刺激せずに静かに退散すれば、こんな怪我はしなかったはずですよ? まったく、飛竜と戦う前に手足がもげちゃっても知りませんからね」
「あ、ああ、ありがとう。って、手足がもげる?」

 未だ許容量を超えた現実に脳の処理が追いつかず、フレックは戸惑いながらオウム返しに雪乃の言葉を繰り返した。

「さ、手当ても済みましたし、そろそろ行きますか」
「あ、ああ」

 よろよろと立ち上がり、雪乃の後について歩きだす四人の生徒たち。彼らは今朝からの出来事を振り返る。

 今日は新入生オリエンテーションの日だ。くじで決まった五人一組で、目的地を目指して森の中を進む。
 雪乃のグループには、フレック、マグレーン、フランソワ、そしてなぜかアルフレッド皇子が混じっていた。
 本来ならばレオンハルト皇太子が参加するはずだったのだが、公務が忙しくて参加できない兄に代わり、第二皇子のアルフレッドが人数合わせのために参加している。

 欠員が出た場合は上級生をあてがうのが通例なのだが、王族の勝手で生徒たちに迷惑をかけるわけにはいかないと、アルフレッドが代理を申し出たらしい。
 実際には愛するフランソワを危険な場所に一人で向かわせられない、という理由だろうが。

 森は帝都ネーデルにも近く、出てくる魔物もあまり強いものはいない。精々ヤマイノブタやカマーフラワー程度だといわれていたのだが、雪乃たちの前に出て来たのは、十トントラックほどの大きなヤマイノブタだった。
 ヤマイノブタには違いないので、事前の説明は間違っていない。しかし通常は大きくてもワゴン車ほどにしか育たないはずのヤマイノブタと比べると、迫力はもちろん、強さも桁違いだ。

 騎士を夢見る少年フレックが剣を抜いて立ち向かうも、まったく歯が立たない。硬い毛と皮に弾かれて、軽い切り傷を負わせるだけで精一杯だった。
 アルフレッドも剣を抜いて加わり、マグレーンが魔法で援護するが、怒り狂うヤマイノブタは牙でフレックを突き飛ばしフランソワに襲い掛かる。

「フランソワっ!」

 左腕を怪我してまともに剣も握れなくなっていたアルフレッドだが、すぐに駆け出してヤマイノブタとフランソワの間に割って入った。
 身を呈してフランソワを護るつもりだ。
 
「アルフレッド様っ!」

 悲痛なフランソワの声が森に響き、驚いた鳥たちが飛んでいく。しかしヤマイノブタの攻撃が二人を襲うことはなかった。代わりに、

「ブギイイィーー」

 ヤマイノブタが悲鳴を上げて逃げていった。

「え?」

 きょとんとしてその後ろ姿を見送るアルフレッドとフランソワ。だがはっと気付いて慌てて身を離す。
 フランソワを守ろうとしたアルフレッドは、その腕の中に、がっちりフランソワをホールドしていたのだ。

「ご、ごめんなさい、フランソワ義姉様」
「い、いえ。庇ってくださってありがとうございます」

 二人とも顔が真っ赤である。

「で、ですがアルフレッド様。アルフレッド様は皇族、大切な御身なのです。今後は私のことなどお見捨てください」
「そんなっ! 駄目だよ、フランソワ義姉様。僕はフランソワ義姉様を必ず護るから」
「アルフレッド様……」
「フランソワ……」

 手を取り合い、熱く見つめ合う二人。

「えーっと、どういう状況なの?」

 マグレーンが困惑に顔をゆがめている。

「アルフレッド殿下は、ずっとフランソワ様のことがお好きだったのですよ。でもお兄様の婚約者だし、フランソワ様が皇妃となるために努力しているのを知っていたから、我慢していたのです」

 雪乃はさらりと解説した。
 ぎぎぎっと耳障りな音を立てそうな錆びたネジのように、アルフレッドが雪乃へと首を回す。

「そこの女、なぜそれを知っている? というか、誰がばらせと?」

 アイス国王女リリアンヌにも匹敵しそうな、氷点下の吹雪が吹き荒れた。

「も、申し訳ありませんっ!」

 悲鳴混じりに雪乃は謝罪するが、アルフレッドの怒りに満ちた笑顔は緩みそうにない。

「あ、そうでした。フレックさんを治さないと」

 ヤマイノブタに吹き飛ばされ、地面に転がった状態で忘れ去られているフレックの下に、雪乃はそそくさと移動する。
 怪我をした仲間を見捨てるわけにもいかず、そしてそっと彼の腕に手を添えて小さく首を振るフランソワを見て、アルフレッドは怒りを収めた。
 それからフレックへと視線を向けたところで、冒頭に戻る。
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