『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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真相編

419.お前が変な道へ

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 気付けば周囲にいたはずの教師や生徒たちは姿を消し、森さえも消えていた。
 緊張が高まる中、雪乃だけはその状況を理解し、ゆっくりと立ち上がると前に出る。

「ユキノ、下がれ!」

 フレックが手を伸ばしたが、雪乃はすり抜ける。

「来てくれましたか、ダルクさん」

 闇属性の魔法を使う存在を、雪乃は一人しか知らない。
 名を鍵として、扉が開く。闇の中から現れたのは、褐色の肌を持つ少年。

「お前が変な道へ迷い込むから時間が掛かった」
「私のせいですか?」
「当たり前だ」

 ぷくりと頬を膨らませる雪乃を、ダルクは叱り付ける。その様子は、兄妹喧嘩そのものであった。

「お前達、もう帰っていいぞ」

 そう言ってダルクが手をはらうように動かすと、残っていたアルフレッドたちも消えた。闇の中にいるのは、雪乃とダルクただ二人。 

「行くぞ」
「はい」

 頷いた雪乃を連れて、ダルクは歩きだす。暗闇の中を歩き続けると、小さな光が見えた。

「さ、行け」

 ぽんっと背中を押されて、雪乃は光の中に押し出される。

「お前は枯れるなよ」

 雪乃は悟る。もう、彼には会えないのだと。
 大きく見開かれた目が震え涙が溜まっていく彼女を見て、ダルクは笑った。少しばかり寂しそうで、けれど悔いのない笑顔だった。

「樹人の王の寿命は千年。中には例外もいるが。本体が枯れている俺は、本来ならばもっと早くに命を失うはずだった。母上が残してくれた結界が、俺の命をつなぎ止めてくれた」

 魔王と呼ばれるようになってしまった先代聖女の遺跡に張り巡らされていた、聖女の残滓。それは息子ダルクを守るために、彼女が造り上げたものだった。

「私たちが、遺跡を壊してしまったから?」

 命をつなぐ術を失い、ダルクは消滅してしまうのだろうか? 歪む雪乃の顔を見つめていたダルクは、ゆるゆると首を横に振る。

「もし残っていても、俺はもうあそこには留まらなかっただろう。俺が生き続けたのは、もう一度母上に会いたかったからだ。一度で良い、母上が幸せそうに笑う顔を見たかった」

 愛する人を奪われ、人間たちの敵となり、孤独に生きた先代聖女。魂は時を経て、ローズマリナとして生まれ変わった。
 ナルツと愛を育み幸せそうに笑っていた彼女の姿を見たことで、ダルクの願いは叶えられたのだ。

「じゃあな、妹」
「ありがとう、兄さん」

 本体が枯れても、母と慕う聖女に会いたいがために生き続けた樹人の王ダルクは、残りわずかな力を使って雪乃を迎えにきてくれたのだ。
 ぽろぽろとこぼれる涙の先で、闇は光に包まれ消えた。母を求めた少年の笑顔と共に――。



「――雪乃」

 初めて聞く声、けれどとてもよく知る声に、雪乃は顔を上げる。
 空中に浮かぶ一人の男の子。常磐緑の髪は腰近くまで伸び、新緑の瞳が悪戯っぽく笑っている。人間よりも少し長い耳、そして淡く輝く二対四枚の羽は、彼が精霊たちの王であることを主張していた。
 樹人の王となった雪乃の姿とよく似ている。明確に違うのは、彼が男であるということ。

「あなたは、誰?」

 彼は丸くした目を瞬くと、きゃらきゃらと可笑しそうに笑う。その姿は陽炎のように揺らぎ、姿を変えていった。
 ぽかんと口を開けてあ然としている雪乃に、彼は満足気に根を輝かせる。

「ま、マンドラゴラ……」

 目の前に浮かぶのは、雪乃もよく知る小さな友達マンドラゴラだった。

「もしや黒幕はマンドラゴラ? マンドラゴラとはいったい?」

 脱力して項垂れる雪乃に対して、マンドラゴラは腹を抱えて笑うように、くの字に根を曲げ葉を揺らしている。

「くっ。全てはマンドラゴラの根の上だったのですね」

 悔しそうに拳を握る雪乃を見ていたマンドラゴラの姿が、男の子の姿に戻る。

「ごめんごめん。雪乃の反応があまりにも面白かったから」
「そんな理由、いりません」

 肩を落とす雪乃を見ても、マンドラゴラ少年は楽しそうだ。
 雪乃は心を落ち着かせ、ふらりと立ち上がる。

「それで、どうしてマンドラゴラがここに? いったいあなたは何者なんですか?」

 くすくすとマンドラゴラ少年は笑うと、羽を主張するようにひょこひょこと動かした。

「つまり、過去の樹人の王様なのですね」
「違うよ」

 雪乃の言葉を即座に否定したマンドラゴラ少年は、

「僕は当代樹人の王だ」

 と、答えた。
 雪乃の目が丸くなる。彼女はあの世界で旅をして、樹人の王となったのだ。一体どういうことかと、雪乃はマンドラゴラ少年をひたと見つめる。
 首をすくめたマンドラゴラ少年は、事の次第を語り始めた。

「樹人の王は生まれる時と枯れる時、生涯に二度、時空を超える。僕は生まれるときに、自分の未来を見た」

 発芽して育ち動けるようになった樹人の王は、自分の力となる植物を探すため旅に出た。

「僕は王となる前に、人間によって刈られてしまう。二代続けて樹人の王が育たず、しかも僕は先代と違い完全に消滅してしまった」

 精霊たちは怒り、人間たちに力を貸すことを完全にやめてしまう。人間たちは魔法を使うことができなくなり、日常の生活にさえ支障を来たすようになった。
 魔法使いは少ないとはいえ、人間社会は精霊たちの恩恵を大きく受けていたのだ。

 樹人の王がいない世界で、精霊たちは力を失い消滅するか、生き物に宿って魔物となるかの選択を迫られる。多くの精霊たちが魔物となることを選び、樹人の王を奪った人間たちへの報復を始めた。
 混沌とした状況の中、人々の怨嗟の声により赤玉に封じられていた悪意は一気に増加する。すでに満杯に近かったこともあり、限界を超え暴走を始めた。

「精霊も人間も正気を失い、次々と命が奪われていく。そこに追い討ちをかけるように、災厄が見舞った。地獄もあれほどひどくはないだろう」

 マンドラゴラ少年は悲しげに長いまつげを震わせる。

「見ていられなくて、その時空から逃げ出そうとした時に、穴を見つけたんだ」

 逃れたい一身で、樹人の王はどこに繋がっているのかも分からない、その穴に飛び込んだ。そして『無題』に入り込んだという。

「とても変な世界だった。僕が生まれるはずの世界に似ていたけれど、なんだか歪で。その世界に存在する人は少ない上に、死んでもないのに消えたり現れたりする。本当に、意味が分からない世界だった」
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